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怪しいのは妹だったのに…母が?
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私はイルザ・シュトラウス。21歳の伯爵家長女で、母と共に実家でピアノの教師をしている。
そんな私は現在恋人のマリウス・デューラーと婚約中。
彼は元々子供の頃から成人する手前くらいまでの間、母の教え子だった。
私には妹が2人いて、次女はフローラといい同じくピアノ教師の19歳。そしてもう1人の末の妹はカトリナといい16歳で全寮制の女学校に通っている。
私は母にピアノを習いに来ていたマリウスと同い年で、すぐに仲良くなった。
練習を一緒にしたり、レッスンの後に庭で遊んだり…そして17歳の時に彼の方から告白されて恋人同士になった。
そのまま私たちは大きな喧嘩をすることもなく、周りからは仲睦まじいカップルだと思われていた。
そして、成人した年に彼からプロポーズされ来年結婚式を挙げる予定。
だけど…最近彼の様子がなんだかおかしい気がしている。
私が話しかけても上の空で、キスしようとすると何度かに一回はさりげなく理由をつけて避けられる。
以前はもっと情熱的に求めてくれていたのに、最近は夜の誘いも「疲れている」と言って断られがちだ。
彼も侯爵家の子息でこれといって忙しいことなどない悠々自適な暮らしをしているというのに、何に疲れるの…?
私はそう思っていたけど、なかなか彼に直接聞くことができなかった。
そんなある日、彼が妹と2人でひと気の無い暗がりに入って行き話をしているところを見てしまった。
距離が遠くて、何を話しているかはわからなかった。でも、妹の方が彼に詰め寄っているように見えた。
その後も注意して見ていると、たびたび妹が彼に声をかけて2人でどこかへ消えていくのに気が付いた。
「いったい2人は何をしてるの…?」
私は彼の態度の素っ気なさと合わせて、もしかしたら妹のフローラとマリウスが浮気してるんじゃないかと勘ぐった。
そこで、ある日妹が彼を呼びつけて2人で部屋を出て行った時、こっそり後をつけてみた。
そして彼らが話していることを聞いてゾッとした。
「マリウス、姉をバカにするのももういい加減にして頂戴。こんなこと許されないわよ!」
「わかってる…だけど、やめられないんだ」
「最低な男ね。神が全て見ているのよ!」
「だけど…マルティナが僕を離してくれないんだよ」
ーーーマルティナですって…?
マルティナとは、私の母親の名前だった。一体どういうこと…?
「母は病気なのよ。あなたがしっかりしないでどうするの?ちゃんと別れないなら姉に言うわよ!」
「やめてくれ!それだけはどうか勘弁してくれ。僕はイルザのことを愛してるんだ!」
マリウス…私のことを愛してくれてるのね。だけど、別れるって誰と?
「母との関係をすぐに精算できないなら私は全てイルザ姉様に話すわ。こんな汚らわしい関係はもう終わりにすべきなのよ。自分の婚約者の母親と寝るなんて正気とは思えない!」
「わかってる…わかってるよ。だけど…」
これを聞いて私は声を抑えることが出来なかった。
「ええっ!?」
私の声にマリウスとフローラがこちらを振り返って見た。
「イ、イルザ…なぜここに…」
「お姉様!あ、こ、これは…」
「マリウス!どういうことなの?まさかあなた、私の母と浮気していたというの?」
私はあまりにおぞましいことを聞いて全身がガタガタと震えだした。信じられない…そんなことが…?
「ち、違うんだ!お願いだ、僕を信じてくれ!イルザ!」
「いやよ…近寄らないで!穢らわしい!」
「愛してるのは君なんだ…!待ってくれ!話を聞いて」
「ううっ、母と寝るなんて信じられない…!」
私は顔を両手で覆って泣いた。するとマリウスが話し始めた。
「ごめんよイルザ…マルティナが…君のお母さんが、僕の母の弱みを握って…それで脅されて僕は身体の関係を持ってしまったんだ」
私は顔を上げた。
「なんですって…?」
「実はある時期僕の母が散財し過ぎて、家の金が底をつきそうになっていた。父にそれを隠すため悪徳高利貸しから金を借りてとんでもない利子の返済に追われていたんだ。それを肩代わりしてくれたのが君のお父上だった」
「そんなことが…」
「君のお父上は僕の母の古くからの友人でね。無利子でお金を貸してくれたよ。それを返すのにここ数年の僕は奔走していた…」
それで疲れてるって言っていたの?!
「しかしある日君のお母さんがやってきて、僕に言ったんだ。お金を貸してやってることを僕の父にバラされたくなかったら、自分と身体の関係になれとね」
「まぁ!なんてこと!!」
お母様がマリウスにそんなことを…!?
「実は、昔から…僕が14~15歳くらいの時から君のお母さんに身体を触られたりすることがあったんだ」
「え!?」
私とマリウスが付き合う少し前くらいの事だ。
まさかお母様がそんな破廉恥なことを?!
「僕はなんとかそれをうまくかわして、君との愛を育んできた。それなのに…結局脅しに屈して関係を持ってしまったんだ!本当にすまない、イルザ…!許してくれ!」
私は呆然としてしまった。
マリウスが母と寝たことは許し難い。だけど、そうなった理由は母にある…
フローラが言った。
「お姉様。マリウスはとんでもない過ちを犯したわ。だけど…お姉様を想う気持ちは本物なのよ。だからこそもうやめろと止めていたの」
「そうだったの…」
「お母様は若い男と見ると手を出したくなる色情狂なのよ。だから、お願い許してあげて」
全然知らなかった。父と母はうまくいってるものだとばかり…
「お母様は、お父様がマリウスのお母様のことを昔愛していたのを知って嫉妬に狂ってるの。それで、マリウスを自分のものにしてマリウスのお母様に復讐してるつもりでもあるのよ」
「え?」
「お父様は昔の恋人であるマリウスのお母様にお金を貸した。それが私たちのお母様は気に入らないのよ」
なんてこと…お父様とマリウスのお母様の間にそんな繋がりが?
こうして私たち親子とマリウス親子の関係はぐちゃぐちゃになってしまった。
こじれにこじれた関係は修復が難しく、私とマリウスが結婚すれば双方の家でのゴタゴタが表面化してしまうことになる。
そこで私はマリウスに提案した。
2人の結婚をきっぱり諦めて別れるか、もしくは駆け落ちして家のしがらみから離れてひっそりと2人で暮らすか。
私たちの取った選択肢は、後者だった。
妹のフローラの手引きでまとまったお金を受け取り、私とマリウスは2人きりで家を捨てて旅に出たのである。
そして、生家には二度と帰ることはなかった。
END
そんな私は現在恋人のマリウス・デューラーと婚約中。
彼は元々子供の頃から成人する手前くらいまでの間、母の教え子だった。
私には妹が2人いて、次女はフローラといい同じくピアノ教師の19歳。そしてもう1人の末の妹はカトリナといい16歳で全寮制の女学校に通っている。
私は母にピアノを習いに来ていたマリウスと同い年で、すぐに仲良くなった。
練習を一緒にしたり、レッスンの後に庭で遊んだり…そして17歳の時に彼の方から告白されて恋人同士になった。
そのまま私たちは大きな喧嘩をすることもなく、周りからは仲睦まじいカップルだと思われていた。
そして、成人した年に彼からプロポーズされ来年結婚式を挙げる予定。
だけど…最近彼の様子がなんだかおかしい気がしている。
私が話しかけても上の空で、キスしようとすると何度かに一回はさりげなく理由をつけて避けられる。
以前はもっと情熱的に求めてくれていたのに、最近は夜の誘いも「疲れている」と言って断られがちだ。
彼も侯爵家の子息でこれといって忙しいことなどない悠々自適な暮らしをしているというのに、何に疲れるの…?
私はそう思っていたけど、なかなか彼に直接聞くことができなかった。
そんなある日、彼が妹と2人でひと気の無い暗がりに入って行き話をしているところを見てしまった。
距離が遠くて、何を話しているかはわからなかった。でも、妹の方が彼に詰め寄っているように見えた。
その後も注意して見ていると、たびたび妹が彼に声をかけて2人でどこかへ消えていくのに気が付いた。
「いったい2人は何をしてるの…?」
私は彼の態度の素っ気なさと合わせて、もしかしたら妹のフローラとマリウスが浮気してるんじゃないかと勘ぐった。
そこで、ある日妹が彼を呼びつけて2人で部屋を出て行った時、こっそり後をつけてみた。
そして彼らが話していることを聞いてゾッとした。
「マリウス、姉をバカにするのももういい加減にして頂戴。こんなこと許されないわよ!」
「わかってる…だけど、やめられないんだ」
「最低な男ね。神が全て見ているのよ!」
「だけど…マルティナが僕を離してくれないんだよ」
ーーーマルティナですって…?
マルティナとは、私の母親の名前だった。一体どういうこと…?
「母は病気なのよ。あなたがしっかりしないでどうするの?ちゃんと別れないなら姉に言うわよ!」
「やめてくれ!それだけはどうか勘弁してくれ。僕はイルザのことを愛してるんだ!」
マリウス…私のことを愛してくれてるのね。だけど、別れるって誰と?
「母との関係をすぐに精算できないなら私は全てイルザ姉様に話すわ。こんな汚らわしい関係はもう終わりにすべきなのよ。自分の婚約者の母親と寝るなんて正気とは思えない!」
「わかってる…わかってるよ。だけど…」
これを聞いて私は声を抑えることが出来なかった。
「ええっ!?」
私の声にマリウスとフローラがこちらを振り返って見た。
「イ、イルザ…なぜここに…」
「お姉様!あ、こ、これは…」
「マリウス!どういうことなの?まさかあなた、私の母と浮気していたというの?」
私はあまりにおぞましいことを聞いて全身がガタガタと震えだした。信じられない…そんなことが…?
「ち、違うんだ!お願いだ、僕を信じてくれ!イルザ!」
「いやよ…近寄らないで!穢らわしい!」
「愛してるのは君なんだ…!待ってくれ!話を聞いて」
「ううっ、母と寝るなんて信じられない…!」
私は顔を両手で覆って泣いた。するとマリウスが話し始めた。
「ごめんよイルザ…マルティナが…君のお母さんが、僕の母の弱みを握って…それで脅されて僕は身体の関係を持ってしまったんだ」
私は顔を上げた。
「なんですって…?」
「実はある時期僕の母が散財し過ぎて、家の金が底をつきそうになっていた。父にそれを隠すため悪徳高利貸しから金を借りてとんでもない利子の返済に追われていたんだ。それを肩代わりしてくれたのが君のお父上だった」
「そんなことが…」
「君のお父上は僕の母の古くからの友人でね。無利子でお金を貸してくれたよ。それを返すのにここ数年の僕は奔走していた…」
それで疲れてるって言っていたの?!
「しかしある日君のお母さんがやってきて、僕に言ったんだ。お金を貸してやってることを僕の父にバラされたくなかったら、自分と身体の関係になれとね」
「まぁ!なんてこと!!」
お母様がマリウスにそんなことを…!?
「実は、昔から…僕が14~15歳くらいの時から君のお母さんに身体を触られたりすることがあったんだ」
「え!?」
私とマリウスが付き合う少し前くらいの事だ。
まさかお母様がそんな破廉恥なことを?!
「僕はなんとかそれをうまくかわして、君との愛を育んできた。それなのに…結局脅しに屈して関係を持ってしまったんだ!本当にすまない、イルザ…!許してくれ!」
私は呆然としてしまった。
マリウスが母と寝たことは許し難い。だけど、そうなった理由は母にある…
フローラが言った。
「お姉様。マリウスはとんでもない過ちを犯したわ。だけど…お姉様を想う気持ちは本物なのよ。だからこそもうやめろと止めていたの」
「そうだったの…」
「お母様は若い男と見ると手を出したくなる色情狂なのよ。だから、お願い許してあげて」
全然知らなかった。父と母はうまくいってるものだとばかり…
「お母様は、お父様がマリウスのお母様のことを昔愛していたのを知って嫉妬に狂ってるの。それで、マリウスを自分のものにしてマリウスのお母様に復讐してるつもりでもあるのよ」
「え?」
「お父様は昔の恋人であるマリウスのお母様にお金を貸した。それが私たちのお母様は気に入らないのよ」
なんてこと…お父様とマリウスのお母様の間にそんな繋がりが?
こうして私たち親子とマリウス親子の関係はぐちゃぐちゃになってしまった。
こじれにこじれた関係は修復が難しく、私とマリウスが結婚すれば双方の家でのゴタゴタが表面化してしまうことになる。
そこで私はマリウスに提案した。
2人の結婚をきっぱり諦めて別れるか、もしくは駆け落ちして家のしがらみから離れてひっそりと2人で暮らすか。
私たちの取った選択肢は、後者だった。
妹のフローラの手引きでまとまったお金を受け取り、私とマリウスは2人きりで家を捨てて旅に出たのである。
そして、生家には二度と帰ることはなかった。
END
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