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あなたに愛されなくても良いのでもう来てくださらなくて結構です
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「アレクサンドル殿下、もう私の元へ来てくれなくて結構ですわよ」
「なんだって?」
皇太子殿下の形の良い眉がピクッと動いた。
「ですから、もうここへはお越しにならなくて結構と申し上げたのです」
「なぜだ!?」
殿下のまなじりは釣り上がり、般若のような恐ろしい顔で詰め寄られた。
「なぜって…殿下は他の美しい姫君たちの元へ毎夜通われるのにお忙しいではありませんか?」
「いや…それは…」
「ですから、正妻なのにお気に召さない私ごときの元へ通っていただく必要は無いと申し上げたのです」
私は威厳を持って宣言した。内心は悔しさと惨めさでいっぱいだったがせめてそれを悟られたくはなかった。
「エカチェリーナ、違うんだ。これにはわけがあってだな」
「取り繕っていただく必要はありません。面倒は省きましょう。それでは今宵も遠慮なくお帰りになってくださいませ」
「………ならぬ!そのように俺を拒絶することは許さぬぞ、エカチェリーナ!」
私は殿下が慌てて声を荒げたのでびっくりした。いつも淡々として冷徹な殿下がどうしたというの?
「お前は誤解をしている。俺はお前を気に入らないなどと思ったことは一度たりとも無い」
「ええ?でも結婚して2年間、ほとんど私の元へは通わずに他の側室の元へばかり通われていたではありませんか」
「ええい、違うのだ。俺は…美しいお前の元にばかり通ってはお前に鬱陶しがられやしないかと思ったのだ。お前は昔から他国にまでその美貌で知れ渡るほどの女だ。俺はお前の気を引きたくて…他の女の元にあえて通っていた。少しくらい嫉妬してくれるんじゃないかと思ってな」
「殿下…」
何というお馬鹿さんなのかしら。
「しかし嫉妬どころか、お前は俺にもう来るなと言うのだな。俺の負けだ、お前が俺の元を去りたいと言うなら止めるまい」
「はあ、全く何をおっしゃっているのかしら。可愛らしいお馬鹿さん。私は最初から殿下のことを愛していますわ」
「なに!?」
「そうでなければここに嫁いできていないでしょう?なぜ私の愛をお疑いになったのです?」
「侍女のイネッサが言ったのだ。あまり正妻の元へ通いすぎると嫌われるからなるべく側室の元へ通うと良いと…」
ああ、あの女は側室のポリーナに可愛がられている侍女だったわね。さしずめポリーナに言われて殿下に入れ知恵したというところだろう。
「殿下、侍女の話を聞くよりもまずは正妻の私の話を聞いていただきたかったわ」
「申し訳ない…」
その後側室の数名に話を聞いたところ、殿下はどの側室の所でも夜の営みは行わずにお喋りをして夜更かししていたそうだ。
「殿下はエカチェリーナ様のことばかりお話でしたよ。いかに美しくて聡明かってね。私たちは耳にタコが出来るくらいエカチェリーナ様のことを聞かされたせいで、奥様の黒子の数と位置まで覚えてしまったくらいですよ」
こうして殿下の愛が証明されたのであった。
END
「なんだって?」
皇太子殿下の形の良い眉がピクッと動いた。
「ですから、もうここへはお越しにならなくて結構と申し上げたのです」
「なぜだ!?」
殿下のまなじりは釣り上がり、般若のような恐ろしい顔で詰め寄られた。
「なぜって…殿下は他の美しい姫君たちの元へ毎夜通われるのにお忙しいではありませんか?」
「いや…それは…」
「ですから、正妻なのにお気に召さない私ごときの元へ通っていただく必要は無いと申し上げたのです」
私は威厳を持って宣言した。内心は悔しさと惨めさでいっぱいだったがせめてそれを悟られたくはなかった。
「エカチェリーナ、違うんだ。これにはわけがあってだな」
「取り繕っていただく必要はありません。面倒は省きましょう。それでは今宵も遠慮なくお帰りになってくださいませ」
「………ならぬ!そのように俺を拒絶することは許さぬぞ、エカチェリーナ!」
私は殿下が慌てて声を荒げたのでびっくりした。いつも淡々として冷徹な殿下がどうしたというの?
「お前は誤解をしている。俺はお前を気に入らないなどと思ったことは一度たりとも無い」
「ええ?でも結婚して2年間、ほとんど私の元へは通わずに他の側室の元へばかり通われていたではありませんか」
「ええい、違うのだ。俺は…美しいお前の元にばかり通ってはお前に鬱陶しがられやしないかと思ったのだ。お前は昔から他国にまでその美貌で知れ渡るほどの女だ。俺はお前の気を引きたくて…他の女の元にあえて通っていた。少しくらい嫉妬してくれるんじゃないかと思ってな」
「殿下…」
何というお馬鹿さんなのかしら。
「しかし嫉妬どころか、お前は俺にもう来るなと言うのだな。俺の負けだ、お前が俺の元を去りたいと言うなら止めるまい」
「はあ、全く何をおっしゃっているのかしら。可愛らしいお馬鹿さん。私は最初から殿下のことを愛していますわ」
「なに!?」
「そうでなければここに嫁いできていないでしょう?なぜ私の愛をお疑いになったのです?」
「侍女のイネッサが言ったのだ。あまり正妻の元へ通いすぎると嫌われるからなるべく側室の元へ通うと良いと…」
ああ、あの女は側室のポリーナに可愛がられている侍女だったわね。さしずめポリーナに言われて殿下に入れ知恵したというところだろう。
「殿下、侍女の話を聞くよりもまずは正妻の私の話を聞いていただきたかったわ」
「申し訳ない…」
その後側室の数名に話を聞いたところ、殿下はどの側室の所でも夜の営みは行わずにお喋りをして夜更かししていたそうだ。
「殿下はエカチェリーナ様のことばかりお話でしたよ。いかに美しくて聡明かってね。私たちは耳にタコが出来るくらいエカチェリーナ様のことを聞かされたせいで、奥様の黒子の数と位置まで覚えてしまったくらいですよ」
こうして殿下の愛が証明されたのであった。
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