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第二十九章
別れ
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騎士様がナディを連れていった宿はかなり立派なものだった。『海の門亭』と言う看板は大きな青銅板だったし、出入りする人間の身なりもいい。ナディの感覚でも宿代はかなり高額ではないかと思われる。
「あの。カーリャ様」
まさかここに泊まる気ではないだろうかとナディは困る。
「ここに泊まられるのですか? あちらは手紙で『訪問した際にはうちに泊まって』と書いていましたし、そのつもりでしたが」
「……ああ、なるほど」
ナディの方を見ないで騎士様はうなずく。
「だが構いません。ナディ殿の身支度に部屋を使わせてもらうだけですから」
「カーリャ様もあちらに是非御一緒に」
友にもこの素敵な騎士様を紹介したい。
「それはナディ殿の体面に関わります」
きっぱりと断られた。声が強すぎたので、驚く。何故、体面に? とナディにもわからない。
「ここはわたしの友人から聞いていた宿で信用がおけます。わたしはこちらに泊まります。ナディ殿はすぐに身支度を」
叔母が持たせてくれた荷物には外行きのドレス一式はあるからそれに着替えればいいのだろうが。
「……湯浴みも出来ますから」
騎士様の説明はちょっと遠慮がちに聞こえる。こんな真っ昼間からお湯を使えるのかとナディは感心したが、何故、今、そんな事をこの騎士様が勧めるのかと気づいて
「……え?」
そう言えば昨日から身体を洗っていない。庶民はもちろん貴族でも一日入らないくらいそう珍しくはないはずだが、ナディは汗もかいたし、大酒も飲んだ。
「あ、あのカーリャ様」
早朝の泉での騎士の水浴びの光景をつい思い出して頬がまた熱くなったが、いやそれより
「に、匂うんですか? わたし」
思い出した。二日酔いでこの騎士様の前で無様に吐いたりしたのだ。馬を走らせる間はぴったりと身体もくっつけられていた。ずっとナディの顔の前にこの騎士様の頭があって――
「いいえ。決して」
騎士様はきっぱりと、だが顔を背けたままで言ったのだった。
「やっぱり臭いんですねえ!」
うわあああああとナディは頭を抱えて唸った。恥ずかしい。臭かったんだ。朝からずっと酒と嘔吐と汗の匂いで。それに気づかず、この綺麗な騎士様にたっぷりと……全裸を見られるくらいに恥ずかしい。
「カーリャ様の意地悪!」
八つ当たりである。騎士様は聞こえない顔で宿にナディを連れていく。
それ以上は特に言わなかった。
申込はすぐにすんだ。対応した番頭に騎士様が常連らしい友人の名を告げ、さらに気前良く銀貨を渡したからだ。早速、湯を沸かし、ナディの入浴と身繕いの為の部屋を提供してくれた。手伝いのメイドも二人貸してくれた。
「さあ、ナディ殿」
「カーリャ様の意地悪」
まだ拗ねているナディを宿に任せて騎士様は相手先への先触れに向かうのだ。ナディから手紙を預かる。
「……これを図書館の人に見せて下さい。それでわたしからだとわかるはずです」
赤い頬をちょっぴり膨らせながらのナディに渡されたそれを騎士様は固まって注視する。高価な羊皮紙に蝋で封印されている。さらに蝋には印もあり、まるで公の正式文書のようだった。
「これは……かなり高位のお方のものでは?」
「まあそこそこは」
ナディもそうだが、この時代の司書とは知識の専門職である。限られた存在であり、同時に平民が簡単に成れる様な職業ではない。
「その印についてはわたしでも知らないのですが」
文書への蝋印については家ごとに決まっているのと個人ごとに決められているものとの二種類がある。後者についてはサインのようなもので、ナディの文通相手は常にこの意匠の印を使っていた。
「わかりました。わたしにお任せあれ。一命を賭してでもナディ殿のお相手にこの証をお届けしましょう」
なんか大袈裟。さすが騎士様だわとちょっと呆れるナディを置いて騎士様は一人で目的地に向かったのだった。
一刻ほどナディは二人のメイドによって綺麗に洗い上げられていた。
「……あの、匂います?」
最初に恐る恐る聞くナディをメイドは笑顔で無視して、ナディが着ている乗馬服を全部剥ぎ取り、用意された湯船に素っ裸で叩き込んだ。カーリャの渡した多めの銀貨の支払いが効いたのだろう。やる気満々だった。
この二人に身体を上から下まで、髪までもきっちり洗い、しっかり全部拭われ、香水を適度に振りかけられ、持ってきたドレスを着せら終えた頃には、もうナディは洗濯物の気分でふらふらになっていた。
「まあ、お似合いですわ。お嬢様」
そのふらふらのままで鏡の前に立たされる。メイドの称賛の声もあながちお世辞ではない。
「うわあ……」
ナディ本人が口を開けて見入ってしまった。確かにお淑やかに見える令嬢がそこに映っている。
「これがわたし?」
気になる左顔の痣は上手く前髪を垂らして隠してある。ドレスは叔母が気合いを入れたのか、王都での人気の意匠で、細身やや長身のナディにはぴったり似合っていた。本当に知的で清楚な本物の淑女のようだ。言うなれば『高貴な方に仕えるうら若き女家庭教師』
「これならお相手の殿方も喜ばれましょう」
自信作にメイドらもうんうんと自賛している。殿方? とナディはどきりとする。誰の事だろう。やはりあの麗しい騎士様……
「戻って参りました」
ちょうどよくその騎士様が宿に帰ってきた。すぐナディの元に来る。ナディは恥ずかしさとかなりのどきどきとで頬を紅く染めて迎えた。
「お、おかしくないでしょうか」
こんな台詞を男性に言うなんて初めての気がするし、こんなに胸が高ぶる自分にも驚いている。
「あ、ああ。お似合いですね」
なのに騎士様は素っ気なかった。反応はこれだけである。
「それより相手様よりすぐにお会いしたいとの返答です。急がれて下さい」
え? とナディは首を傾げた。期待外れにふくれなかったのは騎士様が不快げに見えたからである。
「あ、あの。カーリャ様?」
珍しい。いや、カーリャのこの表情は初めてだった。何か怒らせる様な事をしたのかしら? とナディですら不安になった程に。
「さあ、お早く。わたしが最後まで責任を持ってお連れしますから」
そのままナディは慌ただしく宿を連れ出されたのであった。
移動には馬だが、ドレス姿なので鞍にまたがる事は出来ない。横座りである。王都で淑女が騎乗する際にはたいていはこうだ。
「え~~と」
不安なのは轡を取ってくれる騎士様の態度である。急に言葉数が少なくなってしまった。顔も前を向いてナディを見てくれない。
「な、なにか先ほど宿の人に聞いておられたみたいですが」
このドレスが気に入らないのだろうか。似合わないと思っているのか。ナディは悪い方にどきどきする。胸が痛い。この綺麗な騎士様は自分の何にご不快を感じているのか――聞きたいけど聞くのが怖い。
「どこかの地名ですか?」
だから関係ない話題をふってみる。とにかく喋ってもらいたい一心で。
「ええ。アルドバインの郊外だそうです」
カーリャは前を向いたままで答えた。やっぱり声が硬い。
「な、なんと言う所ですか?」
「イガゴーの丘とかで」
「その丘が何か」
「旧知の者に呼ばれまして」
そこまで言って騎士様は黙ってしまった。横座りの鞍から見える表情が硬い。旧知? アルドバインには初めて着たはずなのに? とナディは気づくが、さらに問うには騎士様の声が怖かった。
それからは騎士様から話しかける事はなかったし、ナディが無理して何か言っても会話が続かない。宿から市街地を抜け領主である侯爵家の居城の門に到着するほとんどが不自然な沈黙になる。
「着きました」
城門の前で馬は止まった。ナディは騎士様に抱き抱えられる様に鞍から下ろしてもらう。その手つきが優しく丁寧だったので、ほんのちょっぴりほっとした。
「カーリャ様! 銃です。銃を持っていますよ!」
城門には数名の衛兵がいたが、その一人が長い両手持ちの銃を持っていたのだ。ナディは騎士様との話題にことさらに騒いで見せた。
「ええ。侯爵様はなかなかに開明的なお方のようですね」
この話題には騎士様も乗ってくれた。ナディはほっとして、すぐに嬉しくなった。
「そうですよね! まだ王都でも滅多に見ないのに!」
「ですがあれは鋳物の安作りです。弾はまっすぐ飛びませんし、何より銃身が脆く、火薬もそうは詰められません」
だがなんか反応が冷たい。それでもナディは笑顔を作って話を続けようとする。
「脆い、ですか?」
「やはり銃は鍛鉄でないと。鋳物で強度を持たすと重くなって取り扱いが――あ、来られましたよ」
また会話が切れた。もう来たってのは誰よ! とナディは叫びそうになるが、こっちも無視も出来ない。
「え? あの?」
何年も会いたかった文通相手だ。女でありながら司書と言う同じ夢を持ち語った友人なのだ。その為にアルドバイン迄来たのに。
なのに今のナディは前の城門より傍らの騎士様の方に惹かれている。
「あの人が?」
騎士様に示され無理にナディが向けた視線の先で城門が開けらていた。黒と白の意匠の人影が現れる。スカートだ。あの人が? いや、長い髪が黒い。違う。衛兵らが急いで敬礼している。偉い人?
「先程、会話させて頂きました。あの女性が案内してくれます」
騎士様の声が言う。それに押される酔うにナディの脚がそちらへ向く。
「ナディ殿」
なのに後ろからそう声をかけられ、ナディは全力で振り返った。
「は、はあぁいっ!」
「ありがとうございました」
綺麗な騎士様は深々と礼をしていた。距離も離れている。
「え? あの」
「短い旅でしたが楽しゅうございました。特にナディ殿の叡智に触れた事は一生の思い出になります」
なんなのだろう。この言い方は。
「想い人殿とお幸せになられて下さい。不肖、カーリャ・リィフェルト。ナディ殿の御多幸をいつまでもお祈りさせていただきます」
何故なのだろう。この最後の挨拶みたいな会話と表情は。
「では」
理解できない状況に唖然として動けないナディの目の前で、騎士様――カーリャは馬に飛び乗ると、後は振り向きもせずに立ち去っていったのだった。
「あの。カーリャ様」
まさかここに泊まる気ではないだろうかとナディは困る。
「ここに泊まられるのですか? あちらは手紙で『訪問した際にはうちに泊まって』と書いていましたし、そのつもりでしたが」
「……ああ、なるほど」
ナディの方を見ないで騎士様はうなずく。
「だが構いません。ナディ殿の身支度に部屋を使わせてもらうだけですから」
「カーリャ様もあちらに是非御一緒に」
友にもこの素敵な騎士様を紹介したい。
「それはナディ殿の体面に関わります」
きっぱりと断られた。声が強すぎたので、驚く。何故、体面に? とナディにもわからない。
「ここはわたしの友人から聞いていた宿で信用がおけます。わたしはこちらに泊まります。ナディ殿はすぐに身支度を」
叔母が持たせてくれた荷物には外行きのドレス一式はあるからそれに着替えればいいのだろうが。
「……湯浴みも出来ますから」
騎士様の説明はちょっと遠慮がちに聞こえる。こんな真っ昼間からお湯を使えるのかとナディは感心したが、何故、今、そんな事をこの騎士様が勧めるのかと気づいて
「……え?」
そう言えば昨日から身体を洗っていない。庶民はもちろん貴族でも一日入らないくらいそう珍しくはないはずだが、ナディは汗もかいたし、大酒も飲んだ。
「あ、あのカーリャ様」
早朝の泉での騎士の水浴びの光景をつい思い出して頬がまた熱くなったが、いやそれより
「に、匂うんですか? わたし」
思い出した。二日酔いでこの騎士様の前で無様に吐いたりしたのだ。馬を走らせる間はぴったりと身体もくっつけられていた。ずっとナディの顔の前にこの騎士様の頭があって――
「いいえ。決して」
騎士様はきっぱりと、だが顔を背けたままで言ったのだった。
「やっぱり臭いんですねえ!」
うわあああああとナディは頭を抱えて唸った。恥ずかしい。臭かったんだ。朝からずっと酒と嘔吐と汗の匂いで。それに気づかず、この綺麗な騎士様にたっぷりと……全裸を見られるくらいに恥ずかしい。
「カーリャ様の意地悪!」
八つ当たりである。騎士様は聞こえない顔で宿にナディを連れていく。
それ以上は特に言わなかった。
申込はすぐにすんだ。対応した番頭に騎士様が常連らしい友人の名を告げ、さらに気前良く銀貨を渡したからだ。早速、湯を沸かし、ナディの入浴と身繕いの為の部屋を提供してくれた。手伝いのメイドも二人貸してくれた。
「さあ、ナディ殿」
「カーリャ様の意地悪」
まだ拗ねているナディを宿に任せて騎士様は相手先への先触れに向かうのだ。ナディから手紙を預かる。
「……これを図書館の人に見せて下さい。それでわたしからだとわかるはずです」
赤い頬をちょっぴり膨らせながらのナディに渡されたそれを騎士様は固まって注視する。高価な羊皮紙に蝋で封印されている。さらに蝋には印もあり、まるで公の正式文書のようだった。
「これは……かなり高位のお方のものでは?」
「まあそこそこは」
ナディもそうだが、この時代の司書とは知識の専門職である。限られた存在であり、同時に平民が簡単に成れる様な職業ではない。
「その印についてはわたしでも知らないのですが」
文書への蝋印については家ごとに決まっているのと個人ごとに決められているものとの二種類がある。後者についてはサインのようなもので、ナディの文通相手は常にこの意匠の印を使っていた。
「わかりました。わたしにお任せあれ。一命を賭してでもナディ殿のお相手にこの証をお届けしましょう」
なんか大袈裟。さすが騎士様だわとちょっと呆れるナディを置いて騎士様は一人で目的地に向かったのだった。
一刻ほどナディは二人のメイドによって綺麗に洗い上げられていた。
「……あの、匂います?」
最初に恐る恐る聞くナディをメイドは笑顔で無視して、ナディが着ている乗馬服を全部剥ぎ取り、用意された湯船に素っ裸で叩き込んだ。カーリャの渡した多めの銀貨の支払いが効いたのだろう。やる気満々だった。
この二人に身体を上から下まで、髪までもきっちり洗い、しっかり全部拭われ、香水を適度に振りかけられ、持ってきたドレスを着せら終えた頃には、もうナディは洗濯物の気分でふらふらになっていた。
「まあ、お似合いですわ。お嬢様」
そのふらふらのままで鏡の前に立たされる。メイドの称賛の声もあながちお世辞ではない。
「うわあ……」
ナディ本人が口を開けて見入ってしまった。確かにお淑やかに見える令嬢がそこに映っている。
「これがわたし?」
気になる左顔の痣は上手く前髪を垂らして隠してある。ドレスは叔母が気合いを入れたのか、王都での人気の意匠で、細身やや長身のナディにはぴったり似合っていた。本当に知的で清楚な本物の淑女のようだ。言うなれば『高貴な方に仕えるうら若き女家庭教師』
「これならお相手の殿方も喜ばれましょう」
自信作にメイドらもうんうんと自賛している。殿方? とナディはどきりとする。誰の事だろう。やはりあの麗しい騎士様……
「戻って参りました」
ちょうどよくその騎士様が宿に帰ってきた。すぐナディの元に来る。ナディは恥ずかしさとかなりのどきどきとで頬を紅く染めて迎えた。
「お、おかしくないでしょうか」
こんな台詞を男性に言うなんて初めての気がするし、こんなに胸が高ぶる自分にも驚いている。
「あ、ああ。お似合いですね」
なのに騎士様は素っ気なかった。反応はこれだけである。
「それより相手様よりすぐにお会いしたいとの返答です。急がれて下さい」
え? とナディは首を傾げた。期待外れにふくれなかったのは騎士様が不快げに見えたからである。
「あ、あの。カーリャ様?」
珍しい。いや、カーリャのこの表情は初めてだった。何か怒らせる様な事をしたのかしら? とナディですら不安になった程に。
「さあ、お早く。わたしが最後まで責任を持ってお連れしますから」
そのままナディは慌ただしく宿を連れ出されたのであった。
移動には馬だが、ドレス姿なので鞍にまたがる事は出来ない。横座りである。王都で淑女が騎乗する際にはたいていはこうだ。
「え~~と」
不安なのは轡を取ってくれる騎士様の態度である。急に言葉数が少なくなってしまった。顔も前を向いてナディを見てくれない。
「な、なにか先ほど宿の人に聞いておられたみたいですが」
このドレスが気に入らないのだろうか。似合わないと思っているのか。ナディは悪い方にどきどきする。胸が痛い。この綺麗な騎士様は自分の何にご不快を感じているのか――聞きたいけど聞くのが怖い。
「どこかの地名ですか?」
だから関係ない話題をふってみる。とにかく喋ってもらいたい一心で。
「ええ。アルドバインの郊外だそうです」
カーリャは前を向いたままで答えた。やっぱり声が硬い。
「な、なんと言う所ですか?」
「イガゴーの丘とかで」
「その丘が何か」
「旧知の者に呼ばれまして」
そこまで言って騎士様は黙ってしまった。横座りの鞍から見える表情が硬い。旧知? アルドバインには初めて着たはずなのに? とナディは気づくが、さらに問うには騎士様の声が怖かった。
それからは騎士様から話しかける事はなかったし、ナディが無理して何か言っても会話が続かない。宿から市街地を抜け領主である侯爵家の居城の門に到着するほとんどが不自然な沈黙になる。
「着きました」
城門の前で馬は止まった。ナディは騎士様に抱き抱えられる様に鞍から下ろしてもらう。その手つきが優しく丁寧だったので、ほんのちょっぴりほっとした。
「カーリャ様! 銃です。銃を持っていますよ!」
城門には数名の衛兵がいたが、その一人が長い両手持ちの銃を持っていたのだ。ナディは騎士様との話題にことさらに騒いで見せた。
「ええ。侯爵様はなかなかに開明的なお方のようですね」
この話題には騎士様も乗ってくれた。ナディはほっとして、すぐに嬉しくなった。
「そうですよね! まだ王都でも滅多に見ないのに!」
「ですがあれは鋳物の安作りです。弾はまっすぐ飛びませんし、何より銃身が脆く、火薬もそうは詰められません」
だがなんか反応が冷たい。それでもナディは笑顔を作って話を続けようとする。
「脆い、ですか?」
「やはり銃は鍛鉄でないと。鋳物で強度を持たすと重くなって取り扱いが――あ、来られましたよ」
また会話が切れた。もう来たってのは誰よ! とナディは叫びそうになるが、こっちも無視も出来ない。
「え? あの?」
何年も会いたかった文通相手だ。女でありながら司書と言う同じ夢を持ち語った友人なのだ。その為にアルドバイン迄来たのに。
なのに今のナディは前の城門より傍らの騎士様の方に惹かれている。
「あの人が?」
騎士様に示され無理にナディが向けた視線の先で城門が開けらていた。黒と白の意匠の人影が現れる。スカートだ。あの人が? いや、長い髪が黒い。違う。衛兵らが急いで敬礼している。偉い人?
「先程、会話させて頂きました。あの女性が案内してくれます」
騎士様の声が言う。それに押される酔うにナディの脚がそちらへ向く。
「ナディ殿」
なのに後ろからそう声をかけられ、ナディは全力で振り返った。
「は、はあぁいっ!」
「ありがとうございました」
綺麗な騎士様は深々と礼をしていた。距離も離れている。
「え? あの」
「短い旅でしたが楽しゅうございました。特にナディ殿の叡智に触れた事は一生の思い出になります」
なんなのだろう。この言い方は。
「想い人殿とお幸せになられて下さい。不肖、カーリャ・リィフェルト。ナディ殿の御多幸をいつまでもお祈りさせていただきます」
何故なのだろう。この最後の挨拶みたいな会話と表情は。
「では」
理解できない状況に唖然として動けないナディの目の前で、騎士様――カーリャは馬に飛び乗ると、後は振り向きもせずに立ち去っていったのだった。
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