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暗黒神ザナファ討伐編
087話 異世界で最も美しい土下座
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-アビスダンジョン 50階層-
美しい草原の風景の一部に崩れたオベリスクの残骸と、隕石で出来たクレーターの荒れ果てたフィールドが戦いの凄まじさを物語る。
遥か上空に見える空は紫色に見える。
基本的にこのフィールドは紫色の雪が降っているのでそれが普通の状態なのだ。
1番日の当たる場所で腰を下ろし、久々のギルド集会が始まろうとしていた。
凛とした雰囲気。
長いストレートの金髪が装備エフェクトの効果も相まってキラキラと輝き靡く。
切れ長の睫毛が薄く透き通る様な顔立ちの美しさを際立てている。
外国人モデルを思わせるスタイルは誰もが振り返る様な理想の女性像を感じさせる。
これも男性の理想の1つの形なんだろう。
改めて皆の姿を見渡す。
この美女全員の中身が男性と言う事実に溜息が出る。
女性限定ギルド「深紅の薔薇」ギルドマスター、ミカエル=アルファ:職業ロード。
ギルド「深紅の薔薇」はゲームSMO全盛期ではギルドメンバー総人数52名と大手とは呼べない中堅クラスのギルドだがミカエル=アルファは有名プレイヤー上位に入る程、知名度が高かった。
3ヶ月に1度行われるPVP武闘大会で常に上位に入賞し、モンスター討伐系の期間限定イベントも常に上位に名を連ねる程の強プレイヤーだ。
つい先程知った驚愕の事実。
最強プレイヤーの一角を担うキャラクターの実態は「ネカマ」だったのだ。
当然ギルドメンバー全員驚いたのだが、ミカさんもギルドメンバーが私を除いて全員男性だった事に驚いている。
ネカマ連中は全員下を向き項垂れながら座っている。
そして重い沈黙が周囲を包んでいた。
何この状況、私はどうしたら良いの?
そもそもギルドマスター自らがギルド規約を破っていたのは、どうなのだろうか?
皆もツッコミたい所だがブーメランが自分に突き刺さるのが目に見えているのでお互い喋り出せないでいるのだろう。
良い年齢の男共がウジウジと相手の出方を伺っている状況を私が打開しなければならないのか?
魔人アルラトの頬を弄りながら今の状況の打開策を考えているとサクラが口を開いた。
「えーと、ミカエル殿。この世界はゲームシステムをそのまま現実にした世界でござる。ゲームで選択した声優機能はOFFのままで、ここに居る全員がリアル世界の声を反映させられているのでござる。・・・この意味理解出来るでござるね。」
「う、うむ。そのようですね。」
サクラの質問に答えながらもお互い目を合わせようとしない。
「ぶっちゃけバグでは無く、それが素の声でござるね?」
「そ、そうとも言いますね。」
相変わらず2人は目を合わせようとしない。
その姿はとても滑稽で開いた口が塞がらない。
「えーと、拙者や他の皆は実は全員男だったでござる。あ、シノブ殿は違うでござるけど。」
「そ、その様ですね。」
なんか回り諄い。
そしてミカさんは超煮え切らない。
他の3人は・・・何やらヒソヒソと作戦会議をしている。
咲耶と暗黒神ハーデスはおもむろに立ち上がりミカさんに向かってにじり寄る。
「な、何でしょう?咲耶、ハーデス。」
殺気に似た気配を感じたのかミカさんは咄嗟に立ち上がり身構える。
背後から別の気配が近付いて来ていた。
一瞬の隙を付いて防具の特殊技能【不可視化】で気配を消して忍び寄ったDOSに羽交い絞めにされミカさんが驚く。
咲耶と暗黒神ハーデスは、いやらしい笑みを浮かべながら両手の指をワキワキと蠢かせながらミカさんに近付いていく。
「えっ!?な、何なのですか?止めなさい咲耶!ハーデス!」
ミカさんには珍しく恐怖の表情が伺える。
「ぎゃっはっはっは!や、止めなさい!あはっ!あひゃひゃひゃひゃっ!」
DOSに羽交い絞めされて抵抗の出来ないミカさんは2人に脇の下を擽られ美しい顔がだらしなく歪む。
その光景を見たサクラもニヤリと笑い2人の擽り攻撃に加わる。
3人に擽られて笑い転げながら呼吸困難に近い状態で息を切らせ、「止めて!止めて!」とせがむミカさんを見て私は3人を止めに入る。
ミカさんは先の戦いであまりダメージを喰らって無いにも関わらず体力レッドゲージの様な状態になっていた。
「ミカエル、我々は仲間です。嘘や偽りはもう止めましょう。」
「そうでござる。この世界で見栄を張っても意味が無いでござる。」
「まったくです。男性と認めて前に進むべきです。」
「姿を偽ろうと魂までは偽れなかったと言う事だ。貴様も我々もな。」
DOSは腕を緩めミカさんを地面に寝かせる。
3人も擽るのを止めて改めて地面に腰を下ろす。
ミカさんは仰向けで空を眺め、Fカップ以上は有る胸を大きく上下しながら呼吸を整える。
「ハァハァハァ・・・・・皆・・・・すまない。私は今まで性別を隠して女性を演じていました。」
「ふむ、良く出来ました。」
男性陣はミカさんが自分を男性と認めた事を受けて皆で大笑いをしながらお互いを許し合っていた。
・・・何だろう、この状況は。
私だけ少し納得いかない気分だ。
女性限定と言う規約を抱えたギルドに所属しているメンバー全員が女性キャラクターを使用していた男性だったのだから。
唯一の心の癒しが魔人アルラトだ、しかし【擬態】を使える彼女は男性になる事も余裕だろう。
この場合は無性と考えるべきなのだろうか?
不服そうな表情の私に気が付いたのか、DOSが男性陣を集め私と魔人アルラトの前に整列する。
何事かと思った瞬間に、全員で一斉に土下座をした。
それはもうビシッと整ったキレの有る動きで額を地面に擦り付ける見事な土下座だ。
ある意味芸術と言っても過言では無いとテレビに出演する様な評論家は評価するだろう。
「「「「「申し訳ありませんでした!」」」」」
「あははははっ!シノ!シノ!これなーに?なんか馬鹿っぽい!」
確かに馬鹿っぽい、むしろ茶番臭い。
先程転移して来たミカさんは別として、他の4人は何処かでコッソリ練習していたんじゃないかと思う位綺麗に揃った土下座のタイミングだった。
・・・・私はどうすれば良いのか?そもそも許す選択肢以外有るのか?
「ハァ・・・分かりましたよ。許せば良いんでしょう。てかザナファ倒したけど、元の世界には戻れ無さそうですが、これからどうするんですか?」
皆が重大な事に気が付いた表情でハッと顔を上げる。
「深紅の薔薇」のギルドメンバー全員が揃ったのは嬉しい。
そして全員が男性だった事を水に流すとは言え、今後どうすれば現実に戻れるのか?
・・・羅針盤が壊れて暗礁に乗り上げた様な気分だ。
恐らく皆も似た様な気分だろう。
アビスダンジョンの遥か上空を眺めると空の色が黒ずんだ赤色から変化している。
暗黒神ザナファを倒した後のフィールドに戻っているのは間違いない。
私達はとりあえずアビスダンジョンを登り機械都市ギュノス国へ帰還する事にした。
美しい草原の風景の一部に崩れたオベリスクの残骸と、隕石で出来たクレーターの荒れ果てたフィールドが戦いの凄まじさを物語る。
遥か上空に見える空は紫色に見える。
基本的にこのフィールドは紫色の雪が降っているのでそれが普通の状態なのだ。
1番日の当たる場所で腰を下ろし、久々のギルド集会が始まろうとしていた。
凛とした雰囲気。
長いストレートの金髪が装備エフェクトの効果も相まってキラキラと輝き靡く。
切れ長の睫毛が薄く透き通る様な顔立ちの美しさを際立てている。
外国人モデルを思わせるスタイルは誰もが振り返る様な理想の女性像を感じさせる。
これも男性の理想の1つの形なんだろう。
改めて皆の姿を見渡す。
この美女全員の中身が男性と言う事実に溜息が出る。
女性限定ギルド「深紅の薔薇」ギルドマスター、ミカエル=アルファ:職業ロード。
ギルド「深紅の薔薇」はゲームSMO全盛期ではギルドメンバー総人数52名と大手とは呼べない中堅クラスのギルドだがミカエル=アルファは有名プレイヤー上位に入る程、知名度が高かった。
3ヶ月に1度行われるPVP武闘大会で常に上位に入賞し、モンスター討伐系の期間限定イベントも常に上位に名を連ねる程の強プレイヤーだ。
つい先程知った驚愕の事実。
最強プレイヤーの一角を担うキャラクターの実態は「ネカマ」だったのだ。
当然ギルドメンバー全員驚いたのだが、ミカさんもギルドメンバーが私を除いて全員男性だった事に驚いている。
ネカマ連中は全員下を向き項垂れながら座っている。
そして重い沈黙が周囲を包んでいた。
何この状況、私はどうしたら良いの?
そもそもギルドマスター自らがギルド規約を破っていたのは、どうなのだろうか?
皆もツッコミたい所だがブーメランが自分に突き刺さるのが目に見えているのでお互い喋り出せないでいるのだろう。
良い年齢の男共がウジウジと相手の出方を伺っている状況を私が打開しなければならないのか?
魔人アルラトの頬を弄りながら今の状況の打開策を考えているとサクラが口を開いた。
「えーと、ミカエル殿。この世界はゲームシステムをそのまま現実にした世界でござる。ゲームで選択した声優機能はOFFのままで、ここに居る全員がリアル世界の声を反映させられているのでござる。・・・この意味理解出来るでござるね。」
「う、うむ。そのようですね。」
サクラの質問に答えながらもお互い目を合わせようとしない。
「ぶっちゃけバグでは無く、それが素の声でござるね?」
「そ、そうとも言いますね。」
相変わらず2人は目を合わせようとしない。
その姿はとても滑稽で開いた口が塞がらない。
「えーと、拙者や他の皆は実は全員男だったでござる。あ、シノブ殿は違うでござるけど。」
「そ、その様ですね。」
なんか回り諄い。
そしてミカさんは超煮え切らない。
他の3人は・・・何やらヒソヒソと作戦会議をしている。
咲耶と暗黒神ハーデスはおもむろに立ち上がりミカさんに向かってにじり寄る。
「な、何でしょう?咲耶、ハーデス。」
殺気に似た気配を感じたのかミカさんは咄嗟に立ち上がり身構える。
背後から別の気配が近付いて来ていた。
一瞬の隙を付いて防具の特殊技能【不可視化】で気配を消して忍び寄ったDOSに羽交い絞めにされミカさんが驚く。
咲耶と暗黒神ハーデスは、いやらしい笑みを浮かべながら両手の指をワキワキと蠢かせながらミカさんに近付いていく。
「えっ!?な、何なのですか?止めなさい咲耶!ハーデス!」
ミカさんには珍しく恐怖の表情が伺える。
「ぎゃっはっはっは!や、止めなさい!あはっ!あひゃひゃひゃひゃっ!」
DOSに羽交い絞めされて抵抗の出来ないミカさんは2人に脇の下を擽られ美しい顔がだらしなく歪む。
その光景を見たサクラもニヤリと笑い2人の擽り攻撃に加わる。
3人に擽られて笑い転げながら呼吸困難に近い状態で息を切らせ、「止めて!止めて!」とせがむミカさんを見て私は3人を止めに入る。
ミカさんは先の戦いであまりダメージを喰らって無いにも関わらず体力レッドゲージの様な状態になっていた。
「ミカエル、我々は仲間です。嘘や偽りはもう止めましょう。」
「そうでござる。この世界で見栄を張っても意味が無いでござる。」
「まったくです。男性と認めて前に進むべきです。」
「姿を偽ろうと魂までは偽れなかったと言う事だ。貴様も我々もな。」
DOSは腕を緩めミカさんを地面に寝かせる。
3人も擽るのを止めて改めて地面に腰を下ろす。
ミカさんは仰向けで空を眺め、Fカップ以上は有る胸を大きく上下しながら呼吸を整える。
「ハァハァハァ・・・・・皆・・・・すまない。私は今まで性別を隠して女性を演じていました。」
「ふむ、良く出来ました。」
男性陣はミカさんが自分を男性と認めた事を受けて皆で大笑いをしながらお互いを許し合っていた。
・・・何だろう、この状況は。
私だけ少し納得いかない気分だ。
女性限定と言う規約を抱えたギルドに所属しているメンバー全員が女性キャラクターを使用していた男性だったのだから。
唯一の心の癒しが魔人アルラトだ、しかし【擬態】を使える彼女は男性になる事も余裕だろう。
この場合は無性と考えるべきなのだろうか?
不服そうな表情の私に気が付いたのか、DOSが男性陣を集め私と魔人アルラトの前に整列する。
何事かと思った瞬間に、全員で一斉に土下座をした。
それはもうビシッと整ったキレの有る動きで額を地面に擦り付ける見事な土下座だ。
ある意味芸術と言っても過言では無いとテレビに出演する様な評論家は評価するだろう。
「「「「「申し訳ありませんでした!」」」」」
「あははははっ!シノ!シノ!これなーに?なんか馬鹿っぽい!」
確かに馬鹿っぽい、むしろ茶番臭い。
先程転移して来たミカさんは別として、他の4人は何処かでコッソリ練習していたんじゃないかと思う位綺麗に揃った土下座のタイミングだった。
・・・・私はどうすれば良いのか?そもそも許す選択肢以外有るのか?
「ハァ・・・分かりましたよ。許せば良いんでしょう。てかザナファ倒したけど、元の世界には戻れ無さそうですが、これからどうするんですか?」
皆が重大な事に気が付いた表情でハッと顔を上げる。
「深紅の薔薇」のギルドメンバー全員が揃ったのは嬉しい。
そして全員が男性だった事を水に流すとは言え、今後どうすれば現実に戻れるのか?
・・・羅針盤が壊れて暗礁に乗り上げた様な気分だ。
恐らく皆も似た様な気分だろう。
アビスダンジョンの遥か上空を眺めると空の色が黒ずんだ赤色から変化している。
暗黒神ザナファを倒した後のフィールドに戻っているのは間違いない。
私達はとりあえずアビスダンジョンを登り機械都市ギュノス国へ帰還する事にした。
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