4 / 15
第4話 すれ違い
しおりを挟む
「雫、元気がないね?」
遼に雫は寝る直前に部屋に訪ねられてそう言われた。
そんなことはない、と強気な姿勢で居たい。
そう思っていたが人間とは上手くいかない生き物だ。
弱々しい姿でポツリと少女はこう言った。
「叶わない夢を見せられて、うんざりしただけ。」
「叶わない夢?」
「…普通に家族と話して、笑って、泣いて、時には喧嘩もして、そんな当たり前の話をたくさん聞かされたから嫌になったんだ。私にはだってないから。」
「…雫。」
「どうしようもないよ。過去は変えられない。生きている人間に変えられるのは現在と未来だけなんだから。分かってる。分かっていてもね。」
──夢を見ていた時期があったんだ。
その言葉は飲み込んで。
誰でもない、あの家族でその当たり前を実現する夢を見ていた時期があった。
ほんの少しの時期だけど忘れることのできない時期。
確かにあったのだ。
そう俯いていると優しく抱きしめられた。
独りではないのだというように、抱きしめられた。
遼の気遣いは嬉しい。
でも、と叶わぬ夢を見せられた少女は思う。
──どこまで行っても私は独りだ。
八尾比丘尼の娘として生まれた運命故なのか。
雫は諦めていた。
未来で幸せな家庭を作るということも諦めていた。
だって普通の家庭を経験していないくせに幸せなど作れるはずがない。
そして現実というものはとても残酷に出来ているから。
そっと目を閉じて自身の心を持ち直した。
まるで怪我の治りが早い特異体質のように。
いつもの強気な彼女に戻っていた。
「別に大丈夫だよ。あの家を出られただけ幸運なんだから。」
そう言って笑顔を見せた。
遼にはその笑顔が泣いているように見えた。
翌日。
「行ってきます。」
昨日のことなど何もなかったかのように雫は学校に向かった。
いつも通りの三つ編みをして向かう。
お手伝いの久美子に髪型を変えさせて欲しいと言われたが、それは丁重にお断りしておいた。
居場所が変わったとしてもいつも通りの自分でいたかったのだ。
毎日、志穂と合流している地点に彼女は居なかった。
前を見れば、随分と距離が空けて問題の人物が歩いている。
(もう、私たちは親友じゃないの?)
そっと心で語りかけてみる。
この言葉が直接伝われば良いのにと雫は思った。
学校に1人辿り着くと、下駄箱に靴を入れようとした。
すると上履きには大量の画鋲が入っていた。
(いじめ…志穂。貴女に見せなかった私の一面、見せてあげる。)
雫の瞳に力が入る。
こんなこと、慣れっこだった。
上履きを履かないまま彼女は教室に向かう。
周りからの視線などお構いなしだった。
教室に入ると自身の机にも大量の落書きがされていた。
『死ね』『居なくなれ』『ブス』など散々ありとあらゆる悪口が書かれていた。
(くだらない。)
そう一蹴すると式神を使い、机を拭かせた。
綺麗になったのを確認するとクスクスと先程からその様子を見て笑っていた友人たちの前に立った。
凛とした表情に戸惑う女子たち。
そして自身の上履きに入れられた大量の画鋲をその女子たちの前で床にばら撒いた。
「こんな幼稚なことをしたのあんた達?式神を使えばいくらでも証拠なんて掴めるの忘れないでよね。」
陰陽師としての雫を知る者はこの場には居ない。
それくらいの冷静さと冷酷さを秘めて、かの陰陽師は告げる。
「次、ないから。」
底冷えする程の殺気を込めた声が響き渡った。
式神を使った声だというのに殺気がこもっていた。
やがてチャイムが鳴ると、そう言った彼女は自分の席に着く。
いじめ行為をされたのはどうやら机の落書きだけだったようだ。
椅子や教科書までやられていた面倒だと考えるだけだった。
担任の教師に大量の画鋲が落ちていることを指摘されたが、式神には何も喋らさずに無視をした。
自分のしたことくらいには責任を持たないと。
早くも自立した考えを持っている雫はそう思っていた。
お昼。
もちろんいつもの場所に志穂は居ない。
先程の女子たちと一緒にいるところを目撃した。
一瞥しただけでいじめられているはずの彼女は凛としたままで、1人いつもの場所に向かった。
(いただきます。)
綺麗に手を合わせて1人で食べるお弁当。
お弁当を作ってもらうという行為だけで幸福を感じていたので、別に寂しくもなんともなかった。
今日も雫が好きだと言ったおかずがたくさん入っている。
それだけで満足出来ていた。
案外、単純な人間なのかもしれないと独りぼっちの彼女は自分のことを思った。
昼ごはんを食べ終わると教室に戻る。
机には何もされていなかった。
どうやら朝の言葉が効いたらしい。
単純なのはいじめる側もなのかもしれないと感じていた。
放課後。
今日も陰陽寮の仕事がある日だ。
早足で1人、帰り道を進んで行った。
いつもは隣に志穂が居て、他にも友人だった人物たちも居て楽しく話していた。
でもそれも昨日までらしい。
雫は諦めだけは一人前に早かった。
だが、今日は用事がある日なので話をしてゆっくりしている時間はない。
ちょうどいいか、と思っているところだった。
「おかえり。」
「ただいま。」
モデル業と当主の仕事で忙しいはずの遼が家に辿り着くと出迎えてくれた。
今日は淡い青色の着物を着ている。
仕事はどうしているのだろうかと疑問に思う。
「兄ちゃん、仕事は?」
「そんなものもうとっくに済ませせてるよ。こう見えて僕、天才だから。」
「…そういえばそうだったね。」
何事も要領よくかつ頭が良いのが烏丸遼という男だった。
雫は要領よく出来ないなと自身の力不足を感じる。
百済の一族が纏め上げる陰陽寮。
正直、もう関わり合いを持ちたくはない。
だが人生経験として仕事は成人になるまでは続けるべきなのではと考えた。
「陰陽寮に行くの?」
「行くよ。私は陰陽師だもん。」
「そっか。なら、僕も着いていこうかなぁ。」
「いや、いいよ。人混み苦手じゃん。」
「雫の為ならなんとか我慢できる。」
「我慢しなくて良いから。」
(なぜこんなところで根性を見せようとするのか、この男は。)
カッコつけたいから?
男心は雫にはよくわからない。
「絶対行く。」
「…好きにしなよ。」
もうどうにでもなれと考え始めていた。
陰陽寮は五月蝿くなるだろうなと言うことだけは予想できた。
自室で巫女服に着替える。
腰には妖刀を帯刀し、お札も懐に何枚か忍ばせておく。
髪型はこのままでいいか、と鏡を見て自身の姿を確認した。
用意が出来て部屋を出ると遼が洋服に着替えて待っていた。
(流石モデル。服着替えるの速い。)
モデルが服の着替えの速さに関係しているかどうかはわからないが、服のセンスはいいなと雫は思った。
準備完了の旨を伝える。
すると、当たり前のように彼女を抱き上げて夕焼けでオレンジ色に染まる空に向けて大きな両翼を広げて飛び上がった。
太陽が眩しいと感じた。
目を思わず閉じる。
その姿を遼は愛しい者を見る優しい瞳で見ていた。
つい最近もそう感じていたけれど、こんな風になるとは思わなかったと雫は考えていた。
まるでどこぞの漫画のようだ。
幼馴染と婚約するだなんて。
少し冷たくなった風を感じながら少女はそう思った。
一方、下校途中の志穂は罪悪感に囚われていた。
(どうしよう。雫を、本当にいじめちゃった…。)
今日の雫の様子はいつものごく普通の女子高生のものではなかった。
とても凛としていて。
何をされようとやられっぱなしなんてしてやらない、という気迫が伝わってきた。
あれが陰陽師としての彼女。
どこか冷たくて、とても冷静な、そんな雰囲気を携えている本物。
(あれが、陰陽師としての雫…。雫は美人だし、烏丸遼とも釣り合ってる。それがとても悔しかった。だから、だから私は。)
家の前で立ち止まる志穂。
こんなことをしたことなんて今まで1度もなかった。
それは傷の治りが早くたって不気味にも思わなかったし、声が出ないのは不便だろうなと思うくらいだったからだ。
ずっと仲が良かった。
喧嘩もしたこともなかった。お互いを尊重していたから。
なのに。
自分から壊してしまった。
「貴女が坂田志穂さん?」
家の前で立ち止まっていると、後ろから声を掛けられた。
知らない女性の声だった。
不審者だろうか、と怯えながら志穂は振り向く。
すると今の現代には珍しく着物を着ているお団子頭の髪型をした若い女性がたおやかな笑みを浮かべて立っていた。
「うちの妹がお世話になっているそうね。ごめんなさいね。私は百済雫の姉の舞と言うの。」
「雫の…お姉さん?」
「ええ。あまり似ていないかもしれないけれど。」
変わらない笑顔のままで舞と名乗った女性は怯えている少女に話を続ける。
「貴女、親友だそうね。あの子の話を聞きたいの。是非家に来てくれないかしら。」
舞は指を鳴らすと巨大な鳥の式神を出現させる。
(この人も陰陽師…!)
今朝の雫を彷彿させてさらにに志穂は怯えてしまう。
『次、ないから』のあの声が思い出してしまう。
あんな冷たい声を聞いたことがなかった為に、そして、目の前の女性の顔に怯えは恐怖心に変わろうとしていた。
陰陽師とはそういうものだと誤解している。
「そう怯えないで。貴女には何もしないわ。」
そう言った彼女の笑みはたおやかさなどなくなっていたのだ。
それが恐怖心に変わりつつある理由の1つであるとも本人は知る由もない。
いつも雫に見せていた邪悪な笑みにへと変化していたのだから。
そんなことになってるとも知らずに雫は今日もパソコンと格闘をしていた。
仕事そのものは終わっている。後は報告書の作成のみだ。
斉藤は根気よく教えている。
その根気強さがきちんと報われるようにとパソコンに負けじと頑張っていた。
(やっぱり陰陽寮辞めるということは止めておこう。いい人はいるんだ。)
カタカタとキーボードを叩く音が陰陽寮に広がっていた。
「お疲れさま。雫ちゃん、覚えるの早いわね。若さ故かしら。」
「斉藤さんが教えるのが上手なだけですよ。」
無事に報告書を提出した雫は、斉藤と共に片づけて退勤の準備をする。
片づけ終わると2人で外で待っている遼の元へ向かった。
すると、陰陽寮の前が沢山の女性でごった返していた。
何事かと2人は驚く。
その中心には笑顔の仮面を付けた烏丸遼が女性たちの相手をしていた。
どうやらモデルの烏丸遼だと気がつかれてしまったらしい。
妖術を使って姿を化かして待っているはずなのにおかしい、と雫は考えた。
気配を辿ってみる。
(この気配、百済の気配だ…。)
何をしようとしている?
気配がする方を睨みつけるかつての百済の少女。
ようやく家を出られたというのに、百済の一族は未来の鬼天狗の妻のささやかな願いさえぶち壊そうとしていた。
数分後。
もっと強い妖術で化けた後に逃げるようにして婚約者の元へ遼は駆け寄ってきた。
「参った…人が当てられない程度の妖術使ったら百済にやられたよ。」
「でしょうね。気配が私にもした。」
「じゃあね、お2人とも。お邪魔虫は失礼するわね。」
「斉藤さん、お疲れ様でした。」
「お疲れ~。」
女性が散り散りになってから斉藤は陰陽寮を離れた。
どうやら斉藤は百済が雫をどう扱っていたのか知らないらしい。
そうでなくてはあんな軽い反応をするとは思えなかった。
いや、でも。
陰陽師としての彼女は考え直す。
──所詮は他人事だもんね。関わりないとは決めつけるのは早計だ。
まだ会って2日。
先輩までも疑わなくちゃならないのかとため息をついた。
相手は百済の一族。
娘を娘とも思わなかった人達の集まり。
何を仕掛けてきたとしてもおかしくはなかった。
「あの斉藤って人、怪しいのかい?」
「兄ちゃん、それは早計だよ。」
「そうかな。百済なら手段なんて選ばないだろう?」
「否定できないところが残念だよ。」
陰陽寮の前に人が完全に居なくなってから遼は雫を抱き上げる。
そして自身の背中に生えている大きな両翼を広げた。
「とにかく帰ろう。僕の屋敷に居れば安全さ。」
「それはどうだろうね。油断できないよ。」
「…例えそうだとしても君を守るよ。」
「ありがとう。」
夜空に向かって遼は両翼を羽ばたかせた。
冷たい風が人魚姫のように声が出ない少女に当たる。
だが思考を熱くしていたその少女にとってはちょうど良い寒さだった。
今日も夜空には星が沢山輝いている。
──私がかつて願った夢のように遠い。なんて遠い輝きなんだろう。
何億光年とも言われている星の輝きのように遠過ぎた1人の陰陽師の夢。
普通に家族として扱われたい、あの人たちで。
でもそれはとてもとても叶うことのない夢で。
いつしか諦めてしまった夢。
未来で作ることさえ諦めてしまった夢で。
(兄ちゃんが本当に私を愛しているかどうかも、わからないんだから。)
何かを期待することを辞めてしまった百済雫という少女はそう覚悟していた。
翌日。
いつものように雫は遼に見送られて学校に向かう。
もう鉢合わせることはないだろう親友を思いながらいつものように歩く。
しかし、その考えは見事に打ち砕かれた。
「お、おはよう。雫。」
「……。」
「私、どうかしてた。謝っても許されないことをしたことはわかってる!でももう1度チャンスが欲しいんだ。どうかお願い!」
もう親友ではなくなったと思っていた坂田志穂という少女はそう言って頭を下げてきた。
さて、どう返すべきかと考える言われた本人。
そう簡単に許すべきだろうかと考える。
いや、と即断することができた。
「あれだけのことをしておいて虫が良過ぎない?」
「雫…本当にごめんなさい。どうか許して。」
「言霊って知ってる?言った言葉は本当なるってこと。それと同じようにやってしまったことに対して謝罪をするから許してほしいってさ、おかしな話だと思わない?」
「お願い雫…!」
涙を流しながら懇願する志穂。
登校中の生徒たちは何事かと2人を見るが、そんなこと本人たちは知ったことではない。
「…次はない、って言葉は本当だから。陰陽師の私は言葉の恐ろしさを知ってる。」
それだけ言って今度は雫が志穂を置いて歩いて行った。
いくら何でもあんなことをしておいた相手が親友だとしても朝を共にするのは嫌だったのだ。
それだけ、裏切られたことに腹を立てていたという自分に凛とした陰陽師は今更ながら気がつく。
後ろから恐る恐るといった雰囲気で志穂が距離をとって近づいて歩いているのが式神で確認することができた。
(まるで私がいじめたみたいな雰囲気。志穂、どうしちゃったのよ。)
恋というものは盲目だから?
だから簡単にあんなことすることができたというのだろうか。
恋というものをしたことがなかった雫にはそのことは分からない。
(まぁ、昼まで様子見ってところだな。再犯させないためだ。)
時には厳しくするべきなのも親友だからこそだとそう彼女は思っていた。
学校に到着する。
靴箱を確認してみると今度は画鋲ではなく、1枚の紙が置かれていた。
メモの用紙のようで文字が書いていた。
『雫、本当にごめん!』
昨日、いじめてきた実行犯の友人たちの名前も書かれていた。
志穂は涙を流しながらも謝ってきた。
だがこの友人達は言葉を交わして謝罪をしようとはしないらしい。
そんな友人など必要だろうか。
これも様子見だな、と雫は考えて上履きを履いた。
教室に入るなり昨日の友人たちが一斉に雫の元へ駆け寄ってきた。
「雫!本当にごめん。」
「ごめん!もう2度としないから。」
「本当にごめん…。」
謝って済む問題だろうか。
冷静にいじめられていた少女は考える。
1度裏切られた人を信用するという行為はとても難しいものだ。
この少女たちには少し、恐怖というものを味わってもらう必要だなと考えた彼女は問題の少女たちが靴箱の中に置いた紙を見せる。
「こんな紙切れ1枚で許されると思った?」
ボウッと炎で紙が燃やされる。
術で燃やしただけなのだが、陰陽師の瞳があまりにも感情のない瞳も伴い少女たちは怯えていた。
なんて脆い生き物なんだろうと冷たく思う。
「誠意を見せるなら玄関前で私を待っていればよかったのに。まぁ、いいよ。信用回復頑張ってね。後ろでビクビクしてる志穂も。」
あくまでも冷静なままで雫は自分の席に着いた。
地味めな彼女であったが元々が美少女である彼女はこの日から男子の好感度が上がっていることなど知る由もない。
お昼。
「雫。お弁当、一緒に食べよう?」
「…いいよ。」
志穂と共にいつも昼食をとっている場所へと陰陽師の顔を崩さない彼女は向かう。
終始彼女は無言。
特別話すことがないのだろう。
志穂はまだ怒っているのだと勘違いをしていた。
雫はもう怒ってもいない。
恐怖という名の制裁も加えたし、怒る理由はもうなかったのだ。
単に陰陽師の一面を見せていなかったというだけの話。
彼女にとってこの態度はとても自然なことだった。
今回のことで志穂のことに配慮していたことがバカバカしくなっただけだ。
「今日も美味しそうだね。」
「不味かったらお手伝いさんなんてできないでしょ。」
「そ、そうだね。」
制裁はきちんと効いているらしい。
あれだけのことをしたのだ。
当然の末路と言えた。
雫は全く気にも止めていなかったが、志穂は内心まだビクビクさせながらお昼の時間は終わった。
今日もお弁当は美味しくて幸せだったというくらい何も気にしていなかった。
放課後。
「雫、一緒に帰ろう!」
「うん。」
志穂といつもの友人たちと含めて雫は一緒に帰ることになった。
今日も陰陽寮にて仕事がある。
あまり楽しく話をしている時間はなかった。
声が出ない彼女は大抵は聞き手役というのが多い。
式神を通して感情的に声を出すことは可能だが、性格的にも聞き手役の方が雫には合っていた。
でも、とふと思う時はあった。
自身の声で自分の気持ちや言葉を伝えられたらどんなに良いかと。
自分の声を出すってどんな感覚なのだろうと。
けれど人魚に呪われてしまった女の呪いを受け継いでしまった少女は、諦めが早いためにそのことを何とも思ってはいなかった。
声が出ないから何だというのだとバカにしてきた人物たちには思っていた。
わかれ道が見えてくる。
雫は急ぎ足になりながら友人たちに告げる。
「私、仕事があるから急ぐね。じゃあまた明日。」
「うん。またね。」
「またねー!」
それぞれ別れの言葉を言ってくる。
その言葉に怯えはもう含まれているようには感じなかった。
また明日から普通に学校生活を送れるのだろうか。
期待することを辞めてしまった少女はあくまでも冷静に思っていた。
遼に雫は寝る直前に部屋に訪ねられてそう言われた。
そんなことはない、と強気な姿勢で居たい。
そう思っていたが人間とは上手くいかない生き物だ。
弱々しい姿でポツリと少女はこう言った。
「叶わない夢を見せられて、うんざりしただけ。」
「叶わない夢?」
「…普通に家族と話して、笑って、泣いて、時には喧嘩もして、そんな当たり前の話をたくさん聞かされたから嫌になったんだ。私にはだってないから。」
「…雫。」
「どうしようもないよ。過去は変えられない。生きている人間に変えられるのは現在と未来だけなんだから。分かってる。分かっていてもね。」
──夢を見ていた時期があったんだ。
その言葉は飲み込んで。
誰でもない、あの家族でその当たり前を実現する夢を見ていた時期があった。
ほんの少しの時期だけど忘れることのできない時期。
確かにあったのだ。
そう俯いていると優しく抱きしめられた。
独りではないのだというように、抱きしめられた。
遼の気遣いは嬉しい。
でも、と叶わぬ夢を見せられた少女は思う。
──どこまで行っても私は独りだ。
八尾比丘尼の娘として生まれた運命故なのか。
雫は諦めていた。
未来で幸せな家庭を作るということも諦めていた。
だって普通の家庭を経験していないくせに幸せなど作れるはずがない。
そして現実というものはとても残酷に出来ているから。
そっと目を閉じて自身の心を持ち直した。
まるで怪我の治りが早い特異体質のように。
いつもの強気な彼女に戻っていた。
「別に大丈夫だよ。あの家を出られただけ幸運なんだから。」
そう言って笑顔を見せた。
遼にはその笑顔が泣いているように見えた。
翌日。
「行ってきます。」
昨日のことなど何もなかったかのように雫は学校に向かった。
いつも通りの三つ編みをして向かう。
お手伝いの久美子に髪型を変えさせて欲しいと言われたが、それは丁重にお断りしておいた。
居場所が変わったとしてもいつも通りの自分でいたかったのだ。
毎日、志穂と合流している地点に彼女は居なかった。
前を見れば、随分と距離が空けて問題の人物が歩いている。
(もう、私たちは親友じゃないの?)
そっと心で語りかけてみる。
この言葉が直接伝われば良いのにと雫は思った。
学校に1人辿り着くと、下駄箱に靴を入れようとした。
すると上履きには大量の画鋲が入っていた。
(いじめ…志穂。貴女に見せなかった私の一面、見せてあげる。)
雫の瞳に力が入る。
こんなこと、慣れっこだった。
上履きを履かないまま彼女は教室に向かう。
周りからの視線などお構いなしだった。
教室に入ると自身の机にも大量の落書きがされていた。
『死ね』『居なくなれ』『ブス』など散々ありとあらゆる悪口が書かれていた。
(くだらない。)
そう一蹴すると式神を使い、机を拭かせた。
綺麗になったのを確認するとクスクスと先程からその様子を見て笑っていた友人たちの前に立った。
凛とした表情に戸惑う女子たち。
そして自身の上履きに入れられた大量の画鋲をその女子たちの前で床にばら撒いた。
「こんな幼稚なことをしたのあんた達?式神を使えばいくらでも証拠なんて掴めるの忘れないでよね。」
陰陽師としての雫を知る者はこの場には居ない。
それくらいの冷静さと冷酷さを秘めて、かの陰陽師は告げる。
「次、ないから。」
底冷えする程の殺気を込めた声が響き渡った。
式神を使った声だというのに殺気がこもっていた。
やがてチャイムが鳴ると、そう言った彼女は自分の席に着く。
いじめ行為をされたのはどうやら机の落書きだけだったようだ。
椅子や教科書までやられていた面倒だと考えるだけだった。
担任の教師に大量の画鋲が落ちていることを指摘されたが、式神には何も喋らさずに無視をした。
自分のしたことくらいには責任を持たないと。
早くも自立した考えを持っている雫はそう思っていた。
お昼。
もちろんいつもの場所に志穂は居ない。
先程の女子たちと一緒にいるところを目撃した。
一瞥しただけでいじめられているはずの彼女は凛としたままで、1人いつもの場所に向かった。
(いただきます。)
綺麗に手を合わせて1人で食べるお弁当。
お弁当を作ってもらうという行為だけで幸福を感じていたので、別に寂しくもなんともなかった。
今日も雫が好きだと言ったおかずがたくさん入っている。
それだけで満足出来ていた。
案外、単純な人間なのかもしれないと独りぼっちの彼女は自分のことを思った。
昼ごはんを食べ終わると教室に戻る。
机には何もされていなかった。
どうやら朝の言葉が効いたらしい。
単純なのはいじめる側もなのかもしれないと感じていた。
放課後。
今日も陰陽寮の仕事がある日だ。
早足で1人、帰り道を進んで行った。
いつもは隣に志穂が居て、他にも友人だった人物たちも居て楽しく話していた。
でもそれも昨日までらしい。
雫は諦めだけは一人前に早かった。
だが、今日は用事がある日なので話をしてゆっくりしている時間はない。
ちょうどいいか、と思っているところだった。
「おかえり。」
「ただいま。」
モデル業と当主の仕事で忙しいはずの遼が家に辿り着くと出迎えてくれた。
今日は淡い青色の着物を着ている。
仕事はどうしているのだろうかと疑問に思う。
「兄ちゃん、仕事は?」
「そんなものもうとっくに済ませせてるよ。こう見えて僕、天才だから。」
「…そういえばそうだったね。」
何事も要領よくかつ頭が良いのが烏丸遼という男だった。
雫は要領よく出来ないなと自身の力不足を感じる。
百済の一族が纏め上げる陰陽寮。
正直、もう関わり合いを持ちたくはない。
だが人生経験として仕事は成人になるまでは続けるべきなのではと考えた。
「陰陽寮に行くの?」
「行くよ。私は陰陽師だもん。」
「そっか。なら、僕も着いていこうかなぁ。」
「いや、いいよ。人混み苦手じゃん。」
「雫の為ならなんとか我慢できる。」
「我慢しなくて良いから。」
(なぜこんなところで根性を見せようとするのか、この男は。)
カッコつけたいから?
男心は雫にはよくわからない。
「絶対行く。」
「…好きにしなよ。」
もうどうにでもなれと考え始めていた。
陰陽寮は五月蝿くなるだろうなと言うことだけは予想できた。
自室で巫女服に着替える。
腰には妖刀を帯刀し、お札も懐に何枚か忍ばせておく。
髪型はこのままでいいか、と鏡を見て自身の姿を確認した。
用意が出来て部屋を出ると遼が洋服に着替えて待っていた。
(流石モデル。服着替えるの速い。)
モデルが服の着替えの速さに関係しているかどうかはわからないが、服のセンスはいいなと雫は思った。
準備完了の旨を伝える。
すると、当たり前のように彼女を抱き上げて夕焼けでオレンジ色に染まる空に向けて大きな両翼を広げて飛び上がった。
太陽が眩しいと感じた。
目を思わず閉じる。
その姿を遼は愛しい者を見る優しい瞳で見ていた。
つい最近もそう感じていたけれど、こんな風になるとは思わなかったと雫は考えていた。
まるでどこぞの漫画のようだ。
幼馴染と婚約するだなんて。
少し冷たくなった風を感じながら少女はそう思った。
一方、下校途中の志穂は罪悪感に囚われていた。
(どうしよう。雫を、本当にいじめちゃった…。)
今日の雫の様子はいつものごく普通の女子高生のものではなかった。
とても凛としていて。
何をされようとやられっぱなしなんてしてやらない、という気迫が伝わってきた。
あれが陰陽師としての彼女。
どこか冷たくて、とても冷静な、そんな雰囲気を携えている本物。
(あれが、陰陽師としての雫…。雫は美人だし、烏丸遼とも釣り合ってる。それがとても悔しかった。だから、だから私は。)
家の前で立ち止まる志穂。
こんなことをしたことなんて今まで1度もなかった。
それは傷の治りが早くたって不気味にも思わなかったし、声が出ないのは不便だろうなと思うくらいだったからだ。
ずっと仲が良かった。
喧嘩もしたこともなかった。お互いを尊重していたから。
なのに。
自分から壊してしまった。
「貴女が坂田志穂さん?」
家の前で立ち止まっていると、後ろから声を掛けられた。
知らない女性の声だった。
不審者だろうか、と怯えながら志穂は振り向く。
すると今の現代には珍しく着物を着ているお団子頭の髪型をした若い女性がたおやかな笑みを浮かべて立っていた。
「うちの妹がお世話になっているそうね。ごめんなさいね。私は百済雫の姉の舞と言うの。」
「雫の…お姉さん?」
「ええ。あまり似ていないかもしれないけれど。」
変わらない笑顔のままで舞と名乗った女性は怯えている少女に話を続ける。
「貴女、親友だそうね。あの子の話を聞きたいの。是非家に来てくれないかしら。」
舞は指を鳴らすと巨大な鳥の式神を出現させる。
(この人も陰陽師…!)
今朝の雫を彷彿させてさらにに志穂は怯えてしまう。
『次、ないから』のあの声が思い出してしまう。
あんな冷たい声を聞いたことがなかった為に、そして、目の前の女性の顔に怯えは恐怖心に変わろうとしていた。
陰陽師とはそういうものだと誤解している。
「そう怯えないで。貴女には何もしないわ。」
そう言った彼女の笑みはたおやかさなどなくなっていたのだ。
それが恐怖心に変わりつつある理由の1つであるとも本人は知る由もない。
いつも雫に見せていた邪悪な笑みにへと変化していたのだから。
そんなことになってるとも知らずに雫は今日もパソコンと格闘をしていた。
仕事そのものは終わっている。後は報告書の作成のみだ。
斉藤は根気よく教えている。
その根気強さがきちんと報われるようにとパソコンに負けじと頑張っていた。
(やっぱり陰陽寮辞めるということは止めておこう。いい人はいるんだ。)
カタカタとキーボードを叩く音が陰陽寮に広がっていた。
「お疲れさま。雫ちゃん、覚えるの早いわね。若さ故かしら。」
「斉藤さんが教えるのが上手なだけですよ。」
無事に報告書を提出した雫は、斉藤と共に片づけて退勤の準備をする。
片づけ終わると2人で外で待っている遼の元へ向かった。
すると、陰陽寮の前が沢山の女性でごった返していた。
何事かと2人は驚く。
その中心には笑顔の仮面を付けた烏丸遼が女性たちの相手をしていた。
どうやらモデルの烏丸遼だと気がつかれてしまったらしい。
妖術を使って姿を化かして待っているはずなのにおかしい、と雫は考えた。
気配を辿ってみる。
(この気配、百済の気配だ…。)
何をしようとしている?
気配がする方を睨みつけるかつての百済の少女。
ようやく家を出られたというのに、百済の一族は未来の鬼天狗の妻のささやかな願いさえぶち壊そうとしていた。
数分後。
もっと強い妖術で化けた後に逃げるようにして婚約者の元へ遼は駆け寄ってきた。
「参った…人が当てられない程度の妖術使ったら百済にやられたよ。」
「でしょうね。気配が私にもした。」
「じゃあね、お2人とも。お邪魔虫は失礼するわね。」
「斉藤さん、お疲れ様でした。」
「お疲れ~。」
女性が散り散りになってから斉藤は陰陽寮を離れた。
どうやら斉藤は百済が雫をどう扱っていたのか知らないらしい。
そうでなくてはあんな軽い反応をするとは思えなかった。
いや、でも。
陰陽師としての彼女は考え直す。
──所詮は他人事だもんね。関わりないとは決めつけるのは早計だ。
まだ会って2日。
先輩までも疑わなくちゃならないのかとため息をついた。
相手は百済の一族。
娘を娘とも思わなかった人達の集まり。
何を仕掛けてきたとしてもおかしくはなかった。
「あの斉藤って人、怪しいのかい?」
「兄ちゃん、それは早計だよ。」
「そうかな。百済なら手段なんて選ばないだろう?」
「否定できないところが残念だよ。」
陰陽寮の前に人が完全に居なくなってから遼は雫を抱き上げる。
そして自身の背中に生えている大きな両翼を広げた。
「とにかく帰ろう。僕の屋敷に居れば安全さ。」
「それはどうだろうね。油断できないよ。」
「…例えそうだとしても君を守るよ。」
「ありがとう。」
夜空に向かって遼は両翼を羽ばたかせた。
冷たい風が人魚姫のように声が出ない少女に当たる。
だが思考を熱くしていたその少女にとってはちょうど良い寒さだった。
今日も夜空には星が沢山輝いている。
──私がかつて願った夢のように遠い。なんて遠い輝きなんだろう。
何億光年とも言われている星の輝きのように遠過ぎた1人の陰陽師の夢。
普通に家族として扱われたい、あの人たちで。
でもそれはとてもとても叶うことのない夢で。
いつしか諦めてしまった夢。
未来で作ることさえ諦めてしまった夢で。
(兄ちゃんが本当に私を愛しているかどうかも、わからないんだから。)
何かを期待することを辞めてしまった百済雫という少女はそう覚悟していた。
翌日。
いつものように雫は遼に見送られて学校に向かう。
もう鉢合わせることはないだろう親友を思いながらいつものように歩く。
しかし、その考えは見事に打ち砕かれた。
「お、おはよう。雫。」
「……。」
「私、どうかしてた。謝っても許されないことをしたことはわかってる!でももう1度チャンスが欲しいんだ。どうかお願い!」
もう親友ではなくなったと思っていた坂田志穂という少女はそう言って頭を下げてきた。
さて、どう返すべきかと考える言われた本人。
そう簡単に許すべきだろうかと考える。
いや、と即断することができた。
「あれだけのことをしておいて虫が良過ぎない?」
「雫…本当にごめんなさい。どうか許して。」
「言霊って知ってる?言った言葉は本当なるってこと。それと同じようにやってしまったことに対して謝罪をするから許してほしいってさ、おかしな話だと思わない?」
「お願い雫…!」
涙を流しながら懇願する志穂。
登校中の生徒たちは何事かと2人を見るが、そんなこと本人たちは知ったことではない。
「…次はない、って言葉は本当だから。陰陽師の私は言葉の恐ろしさを知ってる。」
それだけ言って今度は雫が志穂を置いて歩いて行った。
いくら何でもあんなことをしておいた相手が親友だとしても朝を共にするのは嫌だったのだ。
それだけ、裏切られたことに腹を立てていたという自分に凛とした陰陽師は今更ながら気がつく。
後ろから恐る恐るといった雰囲気で志穂が距離をとって近づいて歩いているのが式神で確認することができた。
(まるで私がいじめたみたいな雰囲気。志穂、どうしちゃったのよ。)
恋というものは盲目だから?
だから簡単にあんなことすることができたというのだろうか。
恋というものをしたことがなかった雫にはそのことは分からない。
(まぁ、昼まで様子見ってところだな。再犯させないためだ。)
時には厳しくするべきなのも親友だからこそだとそう彼女は思っていた。
学校に到着する。
靴箱を確認してみると今度は画鋲ではなく、1枚の紙が置かれていた。
メモの用紙のようで文字が書いていた。
『雫、本当にごめん!』
昨日、いじめてきた実行犯の友人たちの名前も書かれていた。
志穂は涙を流しながらも謝ってきた。
だがこの友人達は言葉を交わして謝罪をしようとはしないらしい。
そんな友人など必要だろうか。
これも様子見だな、と雫は考えて上履きを履いた。
教室に入るなり昨日の友人たちが一斉に雫の元へ駆け寄ってきた。
「雫!本当にごめん。」
「ごめん!もう2度としないから。」
「本当にごめん…。」
謝って済む問題だろうか。
冷静にいじめられていた少女は考える。
1度裏切られた人を信用するという行為はとても難しいものだ。
この少女たちには少し、恐怖というものを味わってもらう必要だなと考えた彼女は問題の少女たちが靴箱の中に置いた紙を見せる。
「こんな紙切れ1枚で許されると思った?」
ボウッと炎で紙が燃やされる。
術で燃やしただけなのだが、陰陽師の瞳があまりにも感情のない瞳も伴い少女たちは怯えていた。
なんて脆い生き物なんだろうと冷たく思う。
「誠意を見せるなら玄関前で私を待っていればよかったのに。まぁ、いいよ。信用回復頑張ってね。後ろでビクビクしてる志穂も。」
あくまでも冷静なままで雫は自分の席に着いた。
地味めな彼女であったが元々が美少女である彼女はこの日から男子の好感度が上がっていることなど知る由もない。
お昼。
「雫。お弁当、一緒に食べよう?」
「…いいよ。」
志穂と共にいつも昼食をとっている場所へと陰陽師の顔を崩さない彼女は向かう。
終始彼女は無言。
特別話すことがないのだろう。
志穂はまだ怒っているのだと勘違いをしていた。
雫はもう怒ってもいない。
恐怖という名の制裁も加えたし、怒る理由はもうなかったのだ。
単に陰陽師の一面を見せていなかったというだけの話。
彼女にとってこの態度はとても自然なことだった。
今回のことで志穂のことに配慮していたことがバカバカしくなっただけだ。
「今日も美味しそうだね。」
「不味かったらお手伝いさんなんてできないでしょ。」
「そ、そうだね。」
制裁はきちんと効いているらしい。
あれだけのことをしたのだ。
当然の末路と言えた。
雫は全く気にも止めていなかったが、志穂は内心まだビクビクさせながらお昼の時間は終わった。
今日もお弁当は美味しくて幸せだったというくらい何も気にしていなかった。
放課後。
「雫、一緒に帰ろう!」
「うん。」
志穂といつもの友人たちと含めて雫は一緒に帰ることになった。
今日も陰陽寮にて仕事がある。
あまり楽しく話をしている時間はなかった。
声が出ない彼女は大抵は聞き手役というのが多い。
式神を通して感情的に声を出すことは可能だが、性格的にも聞き手役の方が雫には合っていた。
でも、とふと思う時はあった。
自身の声で自分の気持ちや言葉を伝えられたらどんなに良いかと。
自分の声を出すってどんな感覚なのだろうと。
けれど人魚に呪われてしまった女の呪いを受け継いでしまった少女は、諦めが早いためにそのことを何とも思ってはいなかった。
声が出ないから何だというのだとバカにしてきた人物たちには思っていた。
わかれ道が見えてくる。
雫は急ぎ足になりながら友人たちに告げる。
「私、仕事があるから急ぐね。じゃあまた明日。」
「うん。またね。」
「またねー!」
それぞれ別れの言葉を言ってくる。
その言葉に怯えはもう含まれているようには感じなかった。
また明日から普通に学校生活を送れるのだろうか。
期待することを辞めてしまった少女はあくまでも冷静に思っていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる