八尾比丘尼の花嫁

天羽ヒフミ

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第6話 願いの使者

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坂田志穂は落胆していた。
 雫の姉に、『2人には恋愛感情はない。好きにすればいい』とその言葉に惑わされしまった。
 それくらい、モデルの烏丸遼という男に惚れ込んでいた。
雫の姉とは連絡先も交換しており、どうなったのか報告をしてほしいと言われていた。
 そう言われた時に気がつくべきだったのだ。
自分が駒として使われてしまっているということに。
 気がついていれば、こんな呆気なく縁が切れることもなかった。
志穂は後悔していた。
 雫のことは大好きだ。
烏丸遼の婚約者だと聞いた時は嫉妬でどうにかなってしまいそうだったが、大切な親友だった。
 それなのに、自分はその大切な親友をいじめて、傷つけた。
そして行動さえ示さずに更に雫を傷つけてしまう結果になってしまった。

(媚薬なんて入れるんじゃなかった…。)

スマートフォンを取り出し、メッセージアプリを志穂は開く。
 雫からはブロックをされていた。
電話番号は引越しをしてから変わったらしいので連絡手段はこれしかない。

もう、親友ではなくなってしまった──

自身の軽はずみな行動が、決裂の結果をもたらした。

あんな冷えた瞳を見たのは初めてだった。
 陰陽師としての彼女ではなく、きっと今まで一般人である自分に見せなかった一面。
 あれもきっと雫なのだ。
そう思うと志穂は辛くなった。
 何がきっかけで同い年であんな瞳をすることができるのかということ思うと、辛かった。

私は、雫のことを何も知らなかったんだ。

中学の時に親友となった人物のことを、志穂は何も知らなかった。
 何でも知った気でいたのだ。
それがこんな事態を招いてしまった。

(もう本当に私は雫と親友に戻れないのかな…。)

ベットにゴロンと横になり、スマートフォンを眺める。
 待ち受けは烏丸遼だったが変えようと志穂は決めた。
媚薬を入れたのがバレた瞬間のあの殺気が忘れられない。
 雫がいなければ本当に殺されていたんじゃないかという殺気の鋭さ。
あれが鬼天狗と呼ばれる妖の頂点。
 あれも、モデル烏丸遼の一部。
その一部を知ってしまった今は好きでいられるかと問われれば、志穂には難しかった。
 ぼんやりとスマートフォンを眺め続けていると、電話がかかってきた。
非通知だったが、誰だろうかと志穂は電話に出る。

「もしもし。どちら様ですか。」
『ねぇ、貴女の願いは何?』
「え?」
『貴女の願いは何?』

女性とも男性とも分からない中性的な独特な声だった。
 志穂は聞きなれない声と言葉に思わず首を傾げる。
それからが恐怖の始まりだった。

『貴女の願いは何?』
『貴女の願いは何?』

壊れた機械のようにその声は志穂に問いかけてくる。
 電話を切ろうとも思ったが、怖くて出来ない。
一体こんなことをしてくるのは何者なのか。
 『貴女の願い』とは何を指しているのか。
志穂には理解が追いつかなかった。
 それよりも恐怖が勝っている。
感情のない機械のような声。
 まだ感情が籠もっていた方が恐怖心は少なかった。

何回聞いたのかわからなくなってから志穂はスマートフォンの通話ボタンを消した。
 電源も消した。
これでもう電話は来ないはずだ。
 いや、来れないはず。
そう思い、充電するために起き上がって机に向かう。

だが。


 『貴女の願い、叶えてあげる。』


確かにそう、スマートフォンから聞こえてきた。
 静かにヒッと思わず声が出る。
恐る恐るスマートフォンに目をやるが、電源はしっかりと切れていた。
 確かに志穂は切ったのだ。
それなのにあの声はここから聞こえた。
 志穂は心霊現象だろうかと再び恐怖心に飲まれる。
だが、持ち前の明るさできっと気のせいだと言い聞かせた。

(こんなことで怯えてちゃダメ…雫を傷つけた私にそんな資格なんてないんだから。)

雫とはまた違う強さを志穂は持っていた。
 明日も休日だが、勉強を今日はしていない。
志穂は明日の準備をするために早めに就寝することにした。


──それが事態の悪化に繋がるとは知らずに。


1ヶ月後。

雫は陰陽寮にて斉藤から研修期間が終了した旨を聞かされた。
 もう教えてもらうことはないのだろうかと思ったが、斉藤が言うのならもうないのだろう。
 あとは経験を積み重ねるだけ。
礼を斉藤に言うと、気恥ずかしそうにされた。
 こんな一面もあるのかと雫は少し暖かな気持ちになった。

(良い先輩に指導をしてもらったなぁ。)

帰り道、例によって妖術を使って待っていた遼の元へ向かいながら陰陽寮の新米陰陽師は思う。

「お疲れ。今日で研修期間終わりだっけ?よく頑張ったね。」
「いや、多分頑張ったの斉藤さん。指導者の方が大変でしょ。」
「まぁ、それは言えてるかもねぇ。でも雫も頑張ったよ。さ、帰ろう。」
「うん。ありがとう。」

もはや恒例となっているお姫様抱っこ。
 正直、やめてほしいというのが彼女の本音だがこの体勢でなくては飛ぶことは出来ない。
 疲れも少し溜まっていたので雫は遠慮なく体重を預けた。
それに遼は気がついて抱きしめてくる力が強くなる。

「どうしたの?雫にしては珍しいね。」
「単に疲れただけだよ。学校帰りにする仕事じゃないよ。」
「本当にね。辞めて良いんだよ?」
「社会経験になるし、成人するまでは少なくとも辞めないでおくよ。」
「雫がそう決めたのなら止めはしないけど。いつ辞めても僕は構わないからね?」
「うん。分かってる。」

今日も夜空は綺麗だ。
 どこか遠く感じていた星々がいつしか近いように雫は感じていた。
百済の屋敷を出てひと月以上経った。
 それから穏やかな気持ちで烏丸の屋敷には世話になっている。
あの荒れ果てていた気持ちは一体どこにいってしまったのか。
 暗い気持ちはどこへいってしまったのか。
彼女には認識することが出来ない。
 遼がこれでもかと大切にしてくれるからだろうかと雫は思っていた。
学校から帰宅すれば必ず出迎えてくれる。
 陰陽寮からの帰り道も遅い為に苦手な人混みを我慢して待っていてくれる。
そんな気遣いが雫の心を溶かしていったのだろう。
 ほんの少しの変化だが、傷つけられてきた少女にとっては大きな変化だった。

烏丸の屋敷に戻れば専属のお手伝いの久美子が出迎えてくれる。
 帰宅すれば誰かが当たり前のように「お帰りなさい」と言ってくれることが雫にとってはとても嬉しいことだった。
 それはそれだけずっと孤独に過ごしてきたという証拠で。
あまり考えたくないことだった。

「ただいま帰りました。」

過去を捨てるべきではないけれど、今は前を向く努力をしてみよう。

ここひと月の暮らしの温かさでそう雫は思えるようになってきていた。
 以前の彼女なら絶対に思えなかったことである。
遼の愛情と烏丸一族の温かさが孤独だった少女に変化をもたらしたのだ。

「今日のご飯は僕が作ってみたよー!」
「え。兄ちゃん当主じゃん。」
「未来のお嫁さんの胃袋掴むのにそんなこと言ってられない。」
「いや、それ多分女性側のセリフ…。」

未来の夫となる妖は雫に好きになってもらおうと必死である。
烏丸遼という男は仕事完璧妖というだけでなく、料理も得意だった。

(うわ、家庭の料理って感じのばかり用意してる…しかもクオリティが私より高い気がするんだけど。)

これって女として負けていないか?と並べられた料理を見て雫は思う。
いや。
と未来の花嫁は思い直す。

(私だって負けてないと思う!この屋敷で料理教えて貰ってたし!)

百済の屋敷ではそんなことはあり得ないことだが、この屋敷に遊びにきては料理なども教わっていた過去がある。
多分負けてはいないはずだ、と強気で雫は思った。

「いただきます。」
「どうぞ。おかわり、いくらでもあるからね。」

なんだかさっきからセリフが反対なような…と夫となるはずの妖に向けて考える。
 まずはおかずを一口。
温かくて百済の屋敷で食べていたのとはまるで違うと感じていた。
 そして白米。
ホカホカに炊かれており、とても美味しく感じた。
 あんなにもあそこの屋敷では美味しいと感じたことがなかったご飯がこの屋敷に来てから美味しく感じるようになっている。
 それもまたとても大きな変化で、幸せな変化だと雫は思っていた。

「どうかな?おいしい?」
「悔しいけど美味しいよ。」
「本当?やったー!」

ガッツポーズを取る遼。
そんな平和な光景を雫はクスクスと笑いながら見ていた。

(兄ちゃん…本当に私のことが好きなのかな。こんなことまでしてくれて。それだけがわからない。)

今まで愛されてこなかった少女はそれだけは分からずにいた。

翌日。

(え…?霊障の気配だ。)

雫はいつも通りの道を歩いていると、強い霊の気配がした。
 霊障とは霊的障害のことを指す。
烏丸の屋敷の付近で感じることはもちろんなかったが、かつての親友と合流していた地点辺りから強く感じることが出来た。
 縁を切った日から1ヶ月は経っている。
スマートフォンからも連絡先を全て消していた。
 まさか、と思い雫は早足で合流地点まで行きそのまま登校する。
すると数メートル先にかつての親友が悪霊を取り憑いたまま歩いていた。

(かなり厄介なの憑いてるな…寿命を削る系か。)

後ろから歩いて悪霊を分析する。
 何故憑くような事態になったのかは分からない。
だが確かに言えることは1つだけあった。
 雫は陰陽師として親友だった少女を助けてなくてはならないということだった。

坂田志穂はあの謎の電話があってから体調が悪くなるようになった。
 何をしようにしても怠くて、動くことが難しいのだ。
最初は熱を疑った。
 だが平熱のままで、風邪ということではないと判明した。
背中に誰かが背中にくっ付いているようなそんな感覚がやがてするようになった。
 この何とも言えない感覚を親に言う訳にはいかない。
理解なんかされるはずがないからだ。
 その気持ちで今日も志穂は登校していた。
いつも、親友でいてくれた百済雫と合流していた場所で思わず立ち止まる。

 もしも、もしも、また親友に戻ることが出来たなら。

そう考えている時だけ不思議と背中が軽くなっているような気がした。

重い身体を何とか動かして志穂は歩く。
遅刻をする訳にはいかなかった。

(気分も悪くなってきた気がする。どうしよう。)

そう悩んでいるときだった。

ヒラリと1枚のお札が風に舞って志穂の元へやってきた。
 何事かと驚いていると、ボウッといきなり空中で燃え始めた。
こんなことが出来るのは1人しか、いや2人しか知らない。
 また自分は何かしてしまったんだろうか、と志穂はビクビクしながら振り返る。

 ──陰陽師、百済雫がそこにはいた。

雫と目が合ったが、彼女に変化はない。
代わりにお札がもう1枚同じようにこちらへと舞ってきた。


「放課後、屋上で待っています。」


お札にはそう書かれている。
 仲をやり直すためというわけではなさそうだということは分かった。
その陰陽師は立ち止まっている志穂を追い抜かして、そのまま学校に向かっていたからだ。

(あれ?身体が軽い…少しだけだけど、気分も良くなった。)

もしかしてあの炎は何かしら助けてくれたんだろうか。
縁を切ると言ったのはあっちからだけど、それでも助けてくれたんだろうか。
陰陽師だからなのだろうか。
それでも、それでも。
それでもなんて──。

なんて優しい親友なんだろう。

あんなに傷つけたというのに、もし自分を助けようとしてくれたのなら。
もし自分をこれから助けてくれようとしているなら。

本当に強い女の子だったんだ。

志穂は雫の義務という名の優しさに泣きそうになっていた。

放課後。
 雫は志穂の到着を屋上で待っていた。
今朝、わざわざ札を飛ばしたのは霊障があまりにも身体に影響していたのが見えたので、炎で一時的に浄化をしたのだ。
 あれで志穂も身体が一時的に楽になったはず。
対処療法でしかないが、陰陽師の義務として彼女は果たしていた。
 それを優しさと取れるかはされた本人だけだ。

「雫、お待たせ…。」
「そこまで待っていませんよ。坂田さん。」
「…もう名前で呼んでくれないんだね。」
「私は今、陰陽師として話をしています。私情は挟みません。」

そこに居るのは陰陽寮所属、陰陽師・百済雫という完成された少女だった。
 志穂と同じ制服を着ていたとしても立ち振る舞いがまるで違う。
弱点なんてないじゃないんだろうか、と思わせる品格ある佇まい。
 そして元々、髪型を変えてしまえば雰囲気も変わる美少女のためその佇まいだけでとても美しかった。

「それで、何の用かな…体調が悪いんだ。本当に。」
「そうでしょうね。貴女は悪霊に取り憑かれている。」
「え?」
「気がつかなくて当然です。貴女は一般人なのですから。私は今朝、それを発見したからお願いをしてここまで来て貰ったのです。」
「あ、悪霊?」
「その身体では辛いでしょう。まず、陰陽寮にて専門家に意見を伺います。」

そう言うと、パチンと雫は指を鳴らした。
 巨大な鳥の式神が現れる。
その姿に雫の姉のことを志穂は思い出してしまった。
 あの美しい顔が歪められた邪悪な笑み。
忘れたくても忘れられない笑みだった。

「どうしました。何もしませんよ。陰陽寮に移動するだけです。」
「何でもないの。うん、行こう…。」

そのことを志穂は雫に言おうとは思えなかった。
 雫はそんな笑みを浮かべてはいなかったが、あまりにも他人行儀すぎて。
言う勇気なんてどこにも残されていなかった。

陰陽寮に着くと、雫はパチンと再び指を鳴らした。
 仕事着である巫女服に着替えたのだ。
大きな鳥の式神も同時に消した。
 随分と器用なことが出来るんだな、と志穂は素人ながら感心してしまった。
そして巫女服を着ている少女陰陽師を思わず見惚れてしまう。
 長い黒髪に白い肌、巫女服がとても似合っていてそしてどこか冷静さを感じさせる落ち着きぶりがただの少女ではなく『陰陽師』としてしか見えなくさせる。
 
「肩を貸しましょう。その身体で移動は辛いでしょうから。」
「ありがとう…。」

志穂は雫の肩を借りながらゆっくりと歩いていく。
 周りにいると陰陽師と思われる人物たちが2人の方を振り返って見ていた。
志穂は自分の背中辺りに本当に悪霊が取り憑いているということが陰陽師たちの視線で嫌というほど分かった。

 霊障課という部署にやがて辿り着いた。
名の通り、霊障を専門に扱う部署のところだ。
 そこに居る部署の陰陽師たちは志穂を見るなり、慌て出す。

「百済くん、その子は…。」
「同級生です。私が退治すべきなのは分かっているのですが、寿命形は初めてでして。最初に専門家の意見を伺いたかったのです。」
「まずはその子を寝かせよう。お香を持って来い!」
「はい!」

男性が部下に人物にテキパキと指示を出していた。
 雫は彼の名前を知らない。
責任者という立場しか認識をしていなかった。
 志穂は霊障課の人たちに身体を預けられ、ベッドに運ばれた。
ベッドの近くには悪霊に効くお香が置かれている。
 その様子を玲瓏とした陰陽師はただ眺めていた。
これから先、自分の力でも出来るようにならなければならないとそのことを考えていた。
 かつての親友の体調のことはあまり心配していなかった。
何故なら、もう親友ではないからだ。
 雫から縁を切ったのだからそれは当然といえば当然のことだった。

「…百済くん、彼女の名前は?」
「坂田志穂さんです。」
「そうか。ありがとう。坂田さん、これから言うことをよく聞いてください。」

課長と思われる男性は落ち着いた声で話を続けた。

「貴女はとても厄介な悪霊に取り憑かれています。何でも良いです。きっかけはありましたか?」
「電話が…電話がかかってきたんです。」

志穂は弱々しくあの日の出来事をポツリポツリと話し始めた。
 男性は話を聞いていくうちにどんどん顔が険しくなる。
取り憑かれている彼女の話が終わると、男性は雫の方を向いた。

「我々だけの手では負えないほどになっている。坂田さん、とにかくその願いを絶対に叶えてはいけません。叶えれば対価として命を奪われる。」
「そ、そんな…私、死にたくないです。」
「我々が全力を尽くします。もちろん、ここに居る百済も。」
「はい。そのために連れてきましたから。」

凛とした表情で少女は答える。
坂田志穂という同級生を助ける。これに嘘はなかった。

「神楽を舞えるかい?」
「はい。舞えます。」
「その巫女服だけでは不十分だな。衣装を貸そう。」
「ありがとうございます。」

霊障課の人も舞えるだろうが、経験を新人に積ませようとしているのだろう。
だからこそあえて霊障課の者ではなく百済雫に任せることにした。

ベッドを浄化されている広い畳の部屋にへと移動させる。
 雫はその間に千早を上に着せられ、長い三つ編みを解かれて後ろで1つにまとめられていた。
 そして神楽鈴を渡された。
準備が完了すると、志穂が運ばれた部屋へ向かう。
 そこにはお香が四隅に置かれており、独特な匂いが漂っていた。

「祝詞は私たちが唱えます。貴女は舞ってください。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
「それでは始めましょう。」

シャン…

神楽を持った少女は百済の屋敷で見ただけで覚えた舞を専門家の前で舞い始めた。
その姿を薄目で志穂は見つめている。

──なんて美しい舞なのだろうか。

天女が舞い降りたかのような、そんな動き。
一切の無駄など無く少女は舞い続けていた。
霊障課の人間はその少女の美しさに思わず見惚れてしまっていた。
その美しい動きに合わせて祝詞が紡がれていく。

──その姿を少女の未来の夫もひっそりと眺めていた。

メッセージアプリで遅くなる旨を知っていたのだ。
 おそらく神楽を見れるだろうと考えた妖の頂点に君臨する男は、わざわざ陰陽寮までやってきていた。
 霊障課の人間同様、雫の美しさに見惚れていた。
本人は知らない自分の魅力。
 ただ舞うだけならここまで見惚れさせることが出来ない。
少女自身の容姿、陰陽師としての矜持、本人の強さ、それらが合わさって美しく見えている。

(多分、志穂って子の願いは…。)

鬼天狗だけ、正しく坂田志穂の『願い』を見抜いていた。

舞と祝詞はやがて終わり、志穂に取り憑いていた悪霊はただの霊にへと変化していた。
 無事に浄化完了である。
あとは成仏させるのみだった。
 疲れを見せず雫は霊の元へ向かった。

「随分と面倒なことをさせてくれたね。」
「それは願いが貴女に向けての物だったから。親友と仲直りしたいって。それに私も──。」

雫が目を見開く。

「貴女と同じ、八尾比丘尼の娘だったのよ。」

長い髪を靡かせた女の幽霊は確かにそう言った。

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