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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -20話-[小憩3]

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「巨人かと一瞬見紛うほどに大きくわかりやすいですね」

 フランザ達がクラン[サモン・ザ・ヒーロー]のリーダーと接触している一方、
 アルシェ達も順調に事を進めて今から拳聖けんせいの下へと到着する直前であった。

「ご自身の種族[レオプィル]の中でも大きい体躯だそうですからね。
 他国に出てくることも稀なので私も含めて初めて目にする方は多いでしょう」
「リッカも拝見するのは初めて?」
「は、はい。
 私も故国と教国しか知りませんので・・・初めてお会い致します」

 トワインの解説に私も頷き、リッカにも話を振ってみる。
 そもそも拳聖けんせいに並ぶ剣聖けんせい、そして賢聖けんせい
 彼ら3人は人種の壁を越えているという実力を持っていて、
 剣聖けんせいはどこぞの山で隠居。
 賢聖けんせいは放浪癖がひどく所在不明ときたものだ。

 会えるだけでも貴重な機会で私も少し緊張してしまいますね。

『我から見ても覇気が周囲の者と違うな。
 水無月宗八みなづきそうはちより数段強いぞ』
『そぉんな強い獣人がマリエルのお世話なんて焼いてくれるのかしらねぇ~』
「アーグエングリンでも少しだけですが兵士を見てくれているらしいですよ。
 なので、そのついで位に見て貰えればなぁって程度なので」

 まぁ見て貰えない時はどうしようかって頭を抱えるだけです。
 お父様やお母様、さらにはギルドマスター各員の伝手を使ってでも徒手空拳の実力者を見繕わなければ。

 今回でお兄さんも結構活躍して多くの人に見られてますからね。
 一度姿を隠して忘却期間を設けたいとか言い出しそう。

『ますたーより強いのかぁ~。
 怖い人じゃないといいねぇ~』
「人格者と聞いてますしリリトーナさんの書状もあるから、
 流石に話を少しも聞いて貰えないということはないと思いますが・・・」

 結局は全部人伝なんですよねぇ。
 せめて会って足がかり程度には友好的な関係を持ちたい。

 っと、そろそろ雑談も終わらないと。

「申し訳ありませんが少々ここでお待ちください」
「わかりました、よろしくお願いします」

 道案内をしてくれた兵士が拳聖けんせいの下へと走っていった。
 この調子ならお昼以降はのんびり出来そう。
 なんなら仮眠をお兄さんのベッドへ忍び込めるかしら?
 いえいえ、ゼノウ達も同じ部屋で眠っているのでしたね。
 アクアちゃんなら行けるでしょうが私は流石に寝られませんか・・・。

「お待たせ致しました。
 拳聖けんせいエゥグーリア=ワグナールがお会いになられるとのことです。
 そのまま奥へどうぞ」
「ありがとうございます」

 案内の兵士さんはここでお別れのご様子。
 さて、第一関門の謁見は叶いました。
 ここからが私の力の見せ所!待っててねマリエル!
 貴女を強くしてくれる人と上手く繋がりを作ってみせますからねっ!

 なんて気合いを入れて歩を進めましたが、
 布で仕切られた広い空間に立つその方を見た瞬間に頭の中は真っ白になっちゃいました。

『(お、おぉ~・・・、おっきいね~)』
「(念話で話せて、私だけの感想じゃないと知れて安心しました。
 それにエルレイニア様の言われていた覇気もここまで近付けば否が応にも・・・)
『(わかるってもんだねぇ~)』」

 その後ろ姿だけで、大きさに圧倒され覇気に圧倒され。
 振り返ったエゥグーリア=ワグナールに圧倒された。
 ひゃ~~~~~~!?

「お初にお目にかかります。
 アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダと申します。
 後ろに控えるは従者と仲間になります」
「ご挨拶痛み入る。
 手前てまえはエゥグーリア=ワグナール。
 未熟ながら拳聖けんせいの立場を賜っております」

 獣人の文化は各氏族ごとに違うそうだけど、
 エゥグーリア様は片膝を着いて尚私を見下ろしながら自己紹介をしてくださった。
 っていうか、膝を折ってくださったのにまだまだ私より大きいんですがっ!?
 ぴゃ~~~~~!?

「本大戦へのご参加にアスペラルダを代表し感謝を申し上げます」
「修行の一環で参加しただけですのでお気になさらず。
 想像していたよりは手応えがありませんが、なかなか楽しく戦えております」

 あはは・・・、流石は拳聖けんせい
 剣聖けんせい賢聖けんせいに違わず変わったお方です・・・。

「魔神族は見られましたか?」
「空中戦など考えたこともなかったので、
 勇者やそちらの戦力に譲りましたが機会があれば戦いたいです」
「心強いです。
 何か感じられたことはありませんか?どんな些細なことでも良いのですが・・・」

 拳聖けんせいは獣人。
 つまり魔法の類いは種族柄扱えない。
 しかし、獣人は他の感覚が敏感で、
 特に勘は種族によっては予知と比類される為何か感じ取った情報があればいいなと思って伺ってみた。

「手前としては雷使いの実力は手前に近いと感じていました。
 ですが、実際何段も劣る御仁に敗北しています。
 故に枷のような物があるのではと・・・勘ですが」

 キタ!勘!
 枷、枷かぁ~・・・、
 体力の量とか叢風むらかぜのメルケルスが討ち取られたらとか。
 う~ん、実力を出す前にお兄さんが押さえ込めて良かったです。
 ひとまずこの件はお兄さんと相談ですね。

「他に3人魔神族は居ましたが、その方たちについては?」
「風使いも雷使いとほとんど実力は変わらないだろう。
 時空使い、あれは手前でも勝てるか・・・底が見えない。
 最後に闇使いだが、強くは無いだろう。
 今の勇者でも勝てる程度の実力しか有していないが、
 だからこそ警戒が必要・・・だと思う」
「情報提供助かります。
 やはりまだまだ実力に差があるのですね・・・」

 私は素直な気持ちで感謝を告げた。
 しかし、逆に拳聖けんせいは頬をポリポリと掻いて私をチラチラ自信なさげな瞳で見下ろしてくる。

 あれ?何故にですか?

「所詮は勘。正しい情報ではない」
苛刻かこくのシュティーナと戦うには拳聖けんせいより強くならないといけない。
 彼らの強さの指標が立ったのはすごく大きいんです。
 彼らの不味さは判られてますか?」
「然り。
 手前の実力は手前が良く知っている故に、
 今のままでは太刀打ち出来ないのであろう」

 拳聖けんせいの瞳が変わった気がする。
 気の所為かもしれないけれど、話の真剣味が増して空気に緊張感が張っている。

 私は頷き、話を進める。

「今は私も含めて力を蓄えている状態です。
 実際にまだまだ戦うには時期尚早だと判断もしておりますが、
 魔神族は待ってくれませんので今回ぶつかる事と相成りました」

 今度は拳聖けんせいが頷き先を促す。

「実力を付けるには相応の実力者と戦える環境が必要です」
「手前は拳でしか戦えませんぞ」
「拳で結構です。
 エゥグーリア様が腰を据えて人を育てていない事は伺っておりますが、
 よろしければ私共の力を引き出して頂けませんでしょうか」
「本日お見えになられたのは、なるほど。そちらが本題か・・・」
「騙すような顔合わせ、申し訳ございません。
 ですが自分本位で勝手ながら、
 先の情報は確実に我々の指針として重要になります」

 見抜かれたというより、
 この話をすれば誰でも察することが出来るでしょう。
 しかし、ここまで話を進めるまで拳聖けんせいが謁見を切り上げなかった。
 それは彼の勘が私たちを危険分子と判断しなかったという事ではないか?

 そこが私からすれば、拳聖けんせいは信用出来るのではと思うわけです。

「手前は言葉で伝える事は不得手です。
 だから時折気が向いて訓練に付き合っても怪我をさせるばかりでして・・・」

 武人っぽいもんね。
 ポシェントも言葉で教えるのとか苦手だから良く打ち合っているから判りますよ。

「時間があるときにでもアーグエングリンへ来てください。
 打ち合って光る物、もしくは面白いと思える物がある人物なら私も合力しましょう。
 もちろん実力がある程度無ければ打ち合うことも拒否します」
「その条件で十分です。
 では、時間が出来ましたらアーグエングリンでお会いしましょう。
 途中までは私の部下が送る事になりますが、以降は行軍してのお帰りでしょう?
 だいたいどのくらいなら落ち着いていますか?」
「そうですね、火の月初旬には落ち着いているでしょう」
「では、その時期に訪国出来るように頑張ります」
「この戦場に入っていくつか期待出来る気配はありました。
 そのいずれかがアルカンシェ様の身内であることを願っていますよ」

 予定の約束は取り次げた。
 魔神族の戦力の指標も見えて手土産も十分。
 最後に別れの握手をしようかと思ったけれど、
 自分の掌を見つめた後に拳聖けんせいの手を見ると大きさが違いすぎて・・・。
 下手したら私の手がそのまま握り潰されるかもしれない。

 握手は諦めた。

「それでは、失礼します。
 また数度この機会に顔を合わせる事もあるでしょう。
 その際はよろしくおねがいします」
「こちらこそ。
 手が必要なら連絡をいれてください。
 こちらの戦況次第ですが手を貸すことも出来るでしょう」
「わかりました」

 やっぱり良い人でした。
 ハルカナムの守護者しゅごしゃが瘴気禍津核まがつかくモンスターとして出現したら助っ人に来て貰えるかもしれません。

 お兄さん、マリエル!
 私頑張りましたよ!


 * * * * *
「うわ・・・マジかよ」
『いつの間にかここまで接近していたのだな』
「デカイ・・・」

 城下町から離れて飛び散った瘴気の掃除に出て来てみれば、
 やたらと地面が揺れて怪しいって事でここまで出向いて来てみれば・・・。

「セーバー、あれが聖獣なんですか?」
「いやぁ、俺だって見るのは初めてだからなぁ・・・。
 まぁ、流石にあそこまでデカくて白いなら聖獣だろ」

 森の向こうの少しだけ丘になっているところ。
 そこに白い猪が微動だにせずに城下町を見据えている。
 側の木から考えて体高2mほどか?

『あれは隠れているつもりなのだろうか?』
「さぁな・・・」

 ポシェントの言うとおりおそらく隠れている、つもりなんだろうが。
 丘の上に生える木は幹が大きくても立地的に数は少ない。
 上半身は樹木で上手く隠れていても下半身は他の角度からは丸見えだった。

 宗八そうはちと姫さんは言っていた。
 強くSランク冒険者でも相手をすることが出来ない聖獣は、
 人型に変身出来る為対話は可能。
 しかし、カエル⇔人型が出来るマリエルカエル妖精と同じ事が出来ても所詮は魔物。

 馬鹿だと言っていた。

「なるほど、納得だ」
『馬鹿ですわねぇ~、こっちにも気付いて居ませんわよぉ~』

 視覚でも俺達は聖獣を確認しているけれど、
 俺の契約精霊は風精である。
 宗八そうはちが情報収集時に好んで扱う[エコー]の魔法をリュースライアに使わせて彼らの動向を探っている。

「視界良好!目的地まで推定・・・結構あるのだ!
 人の姿・・・まだまだ先っぽいのだ!」

 なるほど、ちゃんと喋れているけど確かに馬鹿っぽい。
 一応ブルププクなどの小型の猪は視力がそれほどでは無かったはず。
 大体100m先が見えるか見えないかだったかな?
 だが視野は300°近い。

「進むのだ!」

 そう宣言して意気揚々と前足を進めた白い大猪だったが・・・。

「っ!?んっ!?!?」

 丘という事を理解していなかったのか、
 それとも身体が大きすぎて足下が見えていなかったのか。
 その足は中空へと進み出でて・・・。

「うわぁああああああああ~!!なのだ~~~!!!」

 丘の先は崖だ。
 短く可動域の少ない猪の前足ではリカバーは出来ないだろう。
 というか、そのまま崖から落ちて行くのを俺達はしっかりと目撃してしまっている。

「待て、同胞よ!!」
「え!?」
「なに!?」
「どうしっ!?うわあああああっ!!!」
「牙ぁ!牙が刺さらないようにぃぃぃぃ!!」
「危ないのだあああああああっ!!」
「うっ!!」

 落ちた聖獣の言葉を信じて後方の森から姿を表した仲間たち。
 少し体格が小さく見える仲間達は疑うこと無く、そして足下に注意を払うわけも無く。
 ただただ先頭を行く仲間の言葉を信じて足を進めた結果、大惨事が発生していた。

 転がり落ちた先から慌てて立ち上がり離れる者。
 上手くバランスを取り滑り落ちる者。
 落下の恐怖からぬいぐるみの様に微動だにせず転がっていく者。
 様々な落下を見せる聖獣だったが、
 最終的には互いの尻を合わせて全方位を警戒する動きを見せた。

「叫んじゃったのだ、叫んじゃったのだ!」
「何で崖になってるって言わないのだっ!?」
「誰かの牙が当たったところが痛いのだ・・・」

 それぞれがごちゃごちゃと言いながらすり足で後ろに下がる動作を行っている。
 おそらく威嚇や警戒をしながら本来は現場を離れる動きなんだろうけど、
 今は尻を突き合わせている状態だ。
 どんなに下がろうとしても互いが邪魔になって結局同じ所に留まり続けている。

『群れではないのでしょうか~?』
「合計10匹ですね。セーバー、もっと後方も見に行きますか?」
「いや、視線は感じるから後方に本隊が居るには居るんだろう。
 あっちは俺達に気付いてるっぽいから若い世代を冒険させてるって所かもしれん」

 それなりに安全マージンを考えて離れてはいるが、
 このままだと見つかって不用意な接触をしてしまうか・・・。

「全員しゃがめ。リュースィは風を操って匂いで悟られないようにしろ」
『かしこまりましたわ~』

 岩陰に身を潜めて若い聖獣が先に進むのを待つ。
 少なくとも実際に見た感想は、
 野生の猪と同じく基本は臆病なのだろう。

 俺達を察して恐慌状態に陥り余計な事をする事も考えられる。
 そんな事態になって親たちが戦場に雪崩れ込む事にでもなれば、
 宗八そうはちや姫さんに申し訳も立たない。

「身体が大きいから強そうでしたけど、
 実際どのくらいのレベルなんでしょうね」
『おおよそ人間で言えば40~50程度だな。
 ただし、戦闘態勢になれば読みは外れるかも知れない』

 魔獣は平時と戦闘態勢で脅威度合いが変わる。
 先ほどの周囲を注意しつつ、
 でも雑談を挟みながら程度なら俺もポシェントと同じで40程度と見ていた。
 まぁ聖獣だし普通の魔獣とはその落差も広がるだろう。

 やはり、手は出さないに限るな。

「よし・・・、もう少し待つか」
「え?もう結構ここで待機してますよ?」
『次は大人が動き始めた。
 妙な動きを見せれば蹂躙されるぞ』

 大声を出さなかったもののディテウスがいい加減焦れているのは判っていた。
 俺も動けるならいい加減動きたい。
 しかし、若い聖獣と違って大人の聖獣はこの場に着いた時点で気付かれていた。

 やがて、本物の聖獣が森から姿を現した。

「・・・・・・・・・っ」

 デカイ。
 いやいやいや、デカすぎねぇか!?
 森の樹木なんかじゃ紛れきれないその巨体をいったいどこに隠していた!?

 ざっと見て体高4mほどの化け物白猪を俺は絶句して見つめる事しか出来ない。
 ディテウスはもちろん、風精リュースィも、
 頼りにしていたポシェントも全員仲良く言葉もなく息を忘れる。

 これは勝てる気がしない。
 本当に息をするという行為が聖獣の機嫌を損ねるかもと思ってしまうほどに圧倒的な存在だ。

 先頭で進む超大型白猪が群れのボスだろうか。
 後ろから続けて出てくる白猪は先の若い衆とそこまで差はない。
 ボスらしき聖獣は俺達の存在に気付いていながらも堂々と見晴らしの良い所まで進み出てきた。

「(下がるか?)」

 目線とハンドシグナルでポシェントへと確認する。

『(こちらへ注意は向いたままだが戦闘意思はなさそうだ。
 距離もあるし動かない方がいい)』

 この緊張感が続くのか・・・。
 俺やポシェントが参っているならディテウスは・・・。

 ディテウスは腕を噛んで歯が鳴らないようにしていた。
 戦場の経験値が低いディテウスでもこの怖がりようか・・・。
 悪いな、もうちょっと我慢してくれ。

『セーバー、仲間に何かを伝えていますわ~』
「聞こえなかったぞ。集音出来なかったのか?」
『とっても小さかったですし、フレミグルド語ではありませんでしたわ~』

 リュースィにも聞こえないレベルで行われた密談に緊張が走る。
 人間の言葉を若い衆が喋っていたから頭から外れていたけど、
 もともと魔獣なんだから野生の動物と同じ意思疎通方法があるんだろう。

 耳打ちされた白猪が俺達の側まで進み出てきた。
 よく見れば耳飾りをしていてどことなく賢そうな感覚を覚える。

「そこに隠れる者よ。
 危害は加えませんから藪から出て来てください。
 我々は聞きたいことがあります」

 馬鹿だと思われていた聖獣が、
 流暢な言葉で隠れている藪に向かって語りかけてきた事で俺達は慌てた。
 再びポシェントへと視線を向けるが、
 彼も予測していたのか顔を振り出た方が良いと判断している。

 これは諦めた方が良さそうだ。
 賢そうな白猪の向こうでは威風堂々とした態度で彼らの王が睥睨している。

「出るぞ」
「は、はい!」
『ドキドキですわ~』

 ディテウスの背中をポンと叩いて硬直を解いて立たせる。
 俺の言葉に続いてリュースィもフワリと魔法で浮かび上がり、
 ポシェントは無言で槍に力を入れている。

 ガサガサと藪から出る際に枝や背の高い草を腕で払いながら出てくると、
 目に前には王と称される白猪とそのお付きが。

「・・・へ?」

 居なかった。
 ディテウスが間抜けな声を発しても仕方ないだろう。

 目の前に居たのは頭から白猪の毛皮を被り、
 立派な牙が揉み上げ横から飛び出ている。
 王は立派な大男だし背中には大戦斧を括り付け、
 賢そうな方は野性味が若干残りつつも美人な女性へと変貌を遂げていた。

変化へんげか・・・」
「そのくらいは知られていると思っておりましたが?」
「情報はあっても実際に目で見るのは初めてだからな。
 さぁ、俺達も役目があるからな。手早く行こう」

 王者の風格にビビってばかりも居られない。
 話も出来る聖獣が間に入ってくれるのならこれ以上にない状況か?

「そう恐れないでください。
 我らが王は戦いこそ好きですが無闇矢鱈と暴れる獣ではありませんよ。
 ちょっと加減が色々と出来ないってだけですから、
 近寄らなければ大丈夫です」

 ディテウスは今度こそ真っ青な顔になった。
 頭の中では小突かれただけで頭が吹き飛ぶようなイメージを浮かばせているんだろう。

 俺も怖くなるからその顔を止めてくれ。

 っていうか取り持ってくれる配慮が出来るなら、
 そういう相手が怖がることも言わないで欲しいもんだぜ。
 後ろの王様の覇気は本物なんだよ。

「我らが王は汚れた空気が流れてきた理由を求めています。
 貴方たちは何をしているのですか?」
「俺達は人の領域に発生した瘴気の対処。
 ならびに原因と思われる魔神族の討伐、もしくは撃退を目的に戦闘中だ」
「瘴気?」

 特徴的な丸っこい眉を動かし呟いたのは、
 まさかの大将だった。
 アンタが反応を返すなら交渉役のこの娘はいらんだろうがっ!

「瘴気ってこの汚れた空気のことなのだ?」
「もうっ!
 王は喋らないで立っているだけでいいと!
 いつも伝えているではありませんかっ!
 なんでそんな簡単なことも出来ないのですかっ!!」
「そ、そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないのだ・・・。
 悪かった・・・全部任せるのだ・・・」

 王は戻っていった。
 しょぼくれた顔で再び同じ方向を向いて腕を組んで格好を付けている。本性を知ってしまえば裸の王様。
 お世話役なのか教育係なのか、乳母なのか。

 ともかく賢そうなお付きの女性には頭が上がらんらしい。

「申し訳ありません。
 我が王は強いだけであまり頭が良くありませんので・・・、
 というか私だけが賢いと言うべきか・・・」

「いや、話がまともに通じるだけで助かるから気にしてない。
 一応、瘴気とはあの街の中に充満している黒い空気のことだ」

「瘴気の匂いが方々に存在するのは何故ですか?」

「中央で大きな竜巻が発生していたのを見ていたか?
 あれが弾けたときに飛び散ったんだよ」

「あの渦の事ですか・・・」

 眉を潜め竜巻を思い出している様子のお付き猪。
 先の大将とお付きの掛け合いが割と面白くて緊張状態は完全に解れていた。
 あの歯を鳴らしていたディテウスもそれなりに落ち着いている位だ。

「貴方は精霊使いですか?」

 視線が肩車をしているリュースィから俺の顔に止まり質問が来た。
 まさか聖獣まで精霊使いに言及してくるとは思わなかったな・・・。

「そうだが?」

「貴方はそちらの風精だけと契約しているのですか?」

「・・・そうだが。
 もしかしてだけど、7属性と契約している精霊使いを探しているのか?」

「いえ、そこまでは希望しませんが、
 妖精族が精霊使いの元で活躍しているという噂を聞きまして・・・。
 王が我が部族もご相伴に預かりたいとのことで・・・」

 流石に頭が痛くなり片手を額に当ててしまった。
 リュースィも俺の頭を撫でてくれる。
 脳裏に浮かぶあいつはまた荷物を背負うことになりそうだ。
 横のポシェントも俺と同じような苦い顔をしている。

「じゃあ、その噂の精霊使いに会いに来たのか?」

「まぁ、我が部族は引き籠もりですからね。
 ほぼ毎日泥に塗れて寝てばかりいますし。
 遠目に見て物怖じして巣に帰るのがオチですよ、ハハッ!」

 お付き猪は遠い目をして乾いた笑いを発した。
 長らくこの王様や同胞の行動にかなりヤキモキしてストレスも貯まっていそうだ。

「世界もおかしいようですし、汚れた空気も流れてきました。
 偵察にまだマシな同胞を偵察に出してみれば大きな戦があるとわかったので、
 様子見と噂の妖精関係者でもいないかなぁ~と・・・」

 まだ見つけていないらしい。
 これならまだ間に合うな。
 隣のポシェントも瞳に力を取り戻しコクリと頷いてくれる。
 これでも年上だからな、ちゃんとお前を苦労の種から守ってやるぜ!

「さっきの子達はその妖精と精霊使いを探しに出したんです。
 多少の事では我々、死にませんからね。ハハッ!」

 足止め失敗してんじゃん!
 こっちじゃなくてあっちを止めなきゃならなかったのかっ!!
 ってか、若い世代でも聖獣は聖獣ってか!
 乾いた笑いからも本当になかなか死なないんだろうなって感想しか沸かねぇ!

「あ~、もしもの話だが。
 探している妖精や精霊使いを見つけた場合はどうする予定なんだ?」

「我らは200程度しか人数が居ません。
 その程度ならお世話になれませんかね?」

 なれねぇよ。
 化け物みたいに強い聖獣を200も制御出来るかっ!
 もし暴走でもしてみろ。
 流石に国も崩れるわっ!!

「アドバイスだが、妖精も部族から1人のようだし、
 もし世話になるなら肝いりの1人をお願いした方が良いぞ」

「そうですか、所詮は人間。小さいですね」

 おめぇらが大きいんだよ!
 なんだよ白猪の時の大きさはよぉ!!

「ですが、アドバイスとしては受け取っておきましょう。
 もし我が同胞を全て受け入れることが出来ないと言われた場合も考えて王と相談しておきましょう」

 ホッと一息。
 これでとりあえずかなりマシだよな。
 あいつも200を世話するより1人の方が楽だろ?

「そうしてくれ。
 じゃあ、もう俺達も時間が無いし行っても良いか?」

「はい、ご協力に感謝します。
 王!この者達は解放しますよ!よろしいですね!」

「う、うむ。ちゃんと聞き出せたのだ?
 お前が大丈夫なら大丈夫なのだ」

 なんか・・・お爺ちゃんに話しかける人みたいだ。
 王ももっと威厳を持ってくれ。
 聖獣というだけでビビっていた俺達が本当に情けない奴みたいになるからさ。

「では、先を急ぎますので」

 そう言うと、
 俺の瞬きと同時に一瞬で白猪の姿へと戻った2人は、
 先を行く若い猪を追っていった。
 さらにその後ろを十数匹の仲間がぞろぞろと続く。
 森の中で話が終わるのをずっと待っていたらしい。

「あ!おぉ~~~~~い!!
 あと数日もすれば落ち着くと思うから少し待った方が多分いいぞぉ~~~!!」

 一応声かけはしたけど、所詮は猪。
 おそらく意味は全くないんだろうなぁ・・・。
 さて、これがどう影響してくるやら。

「ふぅ~・・・、セーバーが対応してくれて助かりました」

「馬鹿、俺だって怖いもんは怖いんだぞ。
 とりあえず忠告はしたけどあの様子じゃあまり効果はなさそうだ」

『明日まで持つといいですわね~』

『決戦は日中に行うと聞いている。
 その時は宗八そうはちもマリエルも城下町だろう』

 城へ突入するのは勇者PTで、
 相手が闇属性の可能性が濃厚だから明るいうちに討伐を予定している。その時までに姫さんと宗八そうはちは同じ時間に起きていられる様に調整をするらしい。

 逆に俺達が夜に起きて行動出来るように調整が入る。
 今日から夕方に仮眠へ入って夜には行動開始だ。

「城下町の浄化も進めなきゃならんだろうに、
 生きた爆弾の処理までとは・・・」

 俺に出来る事は多分やった!
 後は任せるぞ、宗八そうはち
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