特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第16章 -勇者 VS 魔王-

†第16章† -00話-[魔族領の異変]

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 ——魔界最奥の土地。魔王城前。

 魔族の各部族が兵士を集めて、とある魔王城前の荒野に集っていた。魔王城の名は[グラディオウス城]。
 八百年前に魔族を率いて人族に戦争を仕掛けた魔王が根城にしていた伝説的な魔王城であり、現在はその後に頭角を現した新魔王が拠点にしている。
 彼らの主たる魔王の名は[オーティス]。
 ついに人族領へ戦争を仕掛ける事を宣言した魔王の指示で集まった武装した魔族の数は五十万を超えていた。荒廃した広い土地ならいくらでもある魔族領だからこそ一か所にここまでの数を揃える事が出来ていた。
「お前、オーティス様を見た事あるか?」
 集められた兵士の一人が隣の別部族の青年兵士に問いかける。
「いいや、見たことは無いし声も聞いたことが無い。でも、部族長が参加するって決めたんだ。俺に拒否権はねぇよ」
 鍛えられた肉体に双剣を腰に装備した青年の額には声を掛けた男と同じく黒い角が生えている。
 人族と魔族は元は同じ人間であった。しかし、魔族領は人族領に比べて魔力濃度が高く、そんな環境で長い年月を掛けて適用し続けた結果。魔族に額には多種多様な一本角が生えるようになったのだ。身体に吸収される魔力濃度への適正も高くなったとはいえ過剰分の排出の為に生えた角は髪や爪と同じ成分と魔力が合わさって形成された人類の進化の証だ。

 当然、この場に集まった全員の額から角が生えている。
 魔族領での生活は額の角以外にも肉体に影響を及ぼし、魔力適正の高い悪魔の羽根や尻尾が生える悪魔族、竜に変身する竜魔族、肉弾戦に適正の高い天使の羽根を生やす天魔族、喋れない代わりに打撃が利かない軟体魔族、手の平サイズの遊魔族など多種多様な特性や肉体を持つ魔族が生まれた。
 ——という種族歴観を多くの魔族は持っているが事実は異なっていた。
 その事実を知るのは今や魔王オーティスぐらいなものだ。

「最近、変な思想の連中が各地で活動しているの知ってるか?」
 魔王が現れるまでまだ時間がある。兵士は尚も会話を続け青年兵も応える。
「八百年以上前にも人族領で活動していたと噂の集団だな。それがどうした」
「なんでも、何かヤバイ奴を召喚しようとしているって話なんだよ。どう思う?」
 青年兵は兵士に対して怪しい奴を見る視線を向けて溜息を吐きつつ返答した。
「……だから? そのヤバイ奴の情報が何も無いのにどう思うも無いだろうが……。それより前を向け。王の御成りだ」
 兵士が気付かぬうちに式典は進み、遥か彼方の魔王城のバルコニーに確かに魔王らしき人物が現れていた。
 魔王城の敷地内の城門前にも兵士は集まっているがそちらは魔王城に勤務する精鋭部隊のみで、今回招集された他部族の面々の多くは荒野に集まっていたので普通なら魔王の姿も声も聞こえない。出撃式が終わるのを待ち、終われば人族領に向けて出発するだけだ。
「ここからよく気付けたな」
「遠くまで見通せるのが千里眼を持つ俺達眼魔族だからな。これくらいはわけもない」
 先ほどまで普通に眼が二つしかなかった青年兵の額に三つ目の瞳が開いていた。もともとの視力でも遠見の能力を有しており、更に遠くを見通す場合は第三の眼を開眼させる部族の出身だったようだ。
「まぁ、どちらにしろ何を言っているのかはわからないか……」
 兵士の呟きに青年兵は何も答えなかった。事実、魔王城から荒野までは数十kmの距離がある。聞こえるとすれば聴く事に特化した魔族だけだろう。
 しばらく演説があったのちに魔王は城内に戻って行った。

 ——パンッ!パンパンッ!
 城の近辺から荒野まで等間隔に設置された砲塔から空に向けて軽い炸裂音が順々に響き始めた。どうやら出発が始まったらしい。
 式典の流れは事前に各部族にも伝えられており、荒野組の間を城から出発する精鋭組が通った後を付いていけば良いとのお達しだったので各部族がこれから始まる戦争に興奮し恐怖した。

 ——パンッ!パンパンッ!
 音が近づいて来る。精鋭組の移動に合わせて打ち上がる砲の弾は空で小さく爆発するも何か白い粉の様なの物を撒き散らすだけで豪華な感じはしない。戦争への見送りと言えばもっと豪勢なのではないか?城下町がある魔王城なら多くの魔族からの見送りもあっただろうに……と兵士は思っていた。

 ——パンッ!パンパンッ!
 精鋭組が荒野に辿り着いた頃合いに不意に空から雪が降り始めた。
「は?」
「なんだこれ!?」
 荒野の各所でザワツキが起こる。当然だ。冬まで間もなくとはいえ季節は秋なのに雪が降り始めれば驚くのは無理もない。
 いつの間にか晴れていた空は曇り雲に覆われ雪が広範囲に降り続ける。そんな中でも精鋭組は足を止めずに進み、荒野組も戸惑いながらも精鋭組の後方に位置取って出発した。

 ——パンッ!パンパンッ!
「この雪、おかしくないか?」
 誰かが呟いた。
 声が聞こえた者たちは雪を手にして感触を確かめると確かにおかしかった。冷たくないし、水も残さず消えるのだ。溶けるというよりは吸収した様に見え、本当に雪なのかと不安が広がる。

「うっ!ぐぅぅぅぅぅっ!」
「おい!どうした!? ぐっ!ああああああああっ!」

 精鋭組の数人が突如苦しみ始めた事で事態は急変する。
 戦争が始まった事で不安定な精神状態だった魔族たちは、秋の降雪と雪の消え方の不可思議さに不安を煽られている状態の中で、先導する立場の精鋭組が苦しみ始めた様子から更に混沌と化し混乱が広がる中。戦争を前線で指揮する軍団長の魔族は叫ぶ。

「——大魔王オーティス様に栄光あれっ!!」

「がああああああアアアアアアッ!」
「うわああアアアアアアアアアッ!」
「ぐうぅゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」
「グラアアアアアアアアアアッ!」

 次々と精鋭組が叫び散らしバタバタと倒れていく。
 死屍累々の状況だが荒野組にも苦しみ出す者が現れ徐々に蔓延していった。最終的に戦争へと出発した魔族約五十万人が出発間もなくの道中で倒れ命を落とす結果となった。見送る者も無く、誰にも知られぬままに死体となった軍団。事情を知るのは軍団長だけだろう。
 ——ドクンッ!
 脈動に合わせて身体が屍がピクリと動く。心臓を再起動させる様に行われる複数回の脈動に屍は何度も動いた。
 やがて、適度な感覚の脈動が止まる個体が現れ、その個体はむくりと身体を起こし立ち上がった……。

「………ヴ」
 立ち上がった魔族は、すでに元の人格を宿していない。
 瞳は夜行性の生物の様に怪しく光り、いつの間にか胸から広がった皮膜は全身に及び岩の様に防御力を高める。もちろん本当に岩程度しか防御力が無いわけではない。
「ヴヴ……」
 次々と起き上がる屍は皆同じ様相を呈しており、全員が人とも思えぬ呻き声をあげ歩き出す。
 どこを目的地としているのか誰にもわからないが少なくとも出発地点の魔王城に向かう者は一人たりとも居なかった。
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