25 / 41
Side-Hanada
プリンタの位置と地位
しおりを挟む
会社での肩書は室長で、席も他の課員に比べれば広い方だった。自分の机から課員が見渡せる、丁度誕生日席のような形のレイアウトなわけだが、他の会社と違っているのは、プリンタが俺の席の近くにあるということだ。室長がウロウロしないための配慮なのかもしれないが、これのおかげでよく社員が用もなく席に歩いてくる。一度だけ一番遠い端の席の女の子が立ち上がったので、トイレ休憩がてらプリンタのトレイの紙を持って行ったら、次の日からパタっと課員が席に近寄らなくなった。その日を境に課員は忖度し、隣の島のプリンタを使い始めたのだ。
「中に出して……ごめん……」
しばらく平宮さんはうつ伏せで荒げた息を隠していた。
「う……うれしい……から……だいじょうぶ……」
細い枝が揺れるように震える平宮さんの体に心がザワつく。汗でぐっしょりとした髪の毛を撫でてそのままゆっくり仰向けにする。なんで彼がことが終わった後うつ伏せになったのか理解した。手で顔を包みキスをしながら、彼のおさまらない熱源に手を伸ばす。
「大丈夫だから……」
唇を離した時に穏やかな顔でそう言われて、また心に小波が立つ。
「先生はいつもドライだけなの……?」
うん、としっかり受け答えをする顔を見て、嘘だとすぐ分かった。ただ、このまま強引に扱いて彼を射精に導ける自信もなかった。
「お風呂一緒に入らない?」
彼の目からなぜか涙が溢れて、それを隠すように反対側に寝返ってしまう。
「もう少しこうしてたいから……入ってきて……」
まだ僅かに震える彼の肩を見て、腰が立たないのだろうと思った。その肩を掴んで再び仰向けにし、脇から腕を差し入れて体を起こす。腕を引っ張り立たせたら案の定フラフラしていたので、彼をそのまま抱き上げた。彼の体は枯れた枝のように軽い。抵抗されるかと思ったが、彼はそのまま俺の首に抱きついて、鼻をすすった。
湯船に入る前に嫌がる彼を押さえつけて、さっき自分が中に出したものを掻き出した。自分の体も軽く洗って、2人で湯船に浸かる。
「順序が逆だと思うんだけど、ご飯一緒に食べない? 俺が作るから」
彼が湯船の反対側で風呂の端に視線を移す。
「花田良太っていうんだ、俺。先生はそのまま俺をリョウって呼んで」
先生の目が泳ぐ。目の動きが止まったと思ったらごめん、と呟いた。腕を掴んで引き寄せて頭を抱く。
「後腐れない売り専に甘えたかったんでしょ? 余計なことしたのは許して」
「リョウかっこいいから……抱いてくれて嬉しかった……ありがとう……」
今生の別れのような言い回しにまた心がザワつく。
「俺隣に住んでるからさ。もう会わないみたいな言い方やめてよ」
俺の胸に這わせていた手がギュッと握られ彼が緊張したのを肌で感じる。
「先生いつから食べてないの?」
しばらく風呂場が無音になったので、俺が手を水面から引き揚げた時、音がやけに響いた。それに肩を竦めた先生が息を吐くように喋り出した。
「最近仕事忙しかったから……集中して食べてなかったんだ……ご飯頂いてもいい?」
諦めに近いような声色で、観念するように食事の誘いにのられたのは初めてだと感動すら覚えた。
「先生下の名前なんていうの?」
またしばらく無音が風呂場を包んだので、教えてもらっても先生って呼ぶから大丈夫、と付け加えた。
「けいいち……」
「どんな字書くの?」
「難しい漢字で……イチは普通の漢数字だよ」
俺は手の平を差し出してそこに書くように促す。先生は頼りない指先でおずおずと自分の名前をそこに書く。
「慧眼の慧だ。いい名前だね」
「ケイガン?」
「物事の本質を見抜く目って意味だよ」
「35年生きてて初めて知った、リョウは漢字得意なの?」
「広告代理店にいるから。入社前はコピーライター志望だったんだけど今はめっきりマーケティングのしかも管理職」
「コピーライター! すごいね、言葉で人を動かす人たちだ」
入社時からモノを作るよりも人を動かす方が儲かる、と出世に寝返ったとは言えない雰囲気になった。だから曖昧に笑って話題を逸らした。
「先生はどんな仕事してるの?」
「フリーランスで……家で仕事してるよ」
職種を聞いているのに、勤務形態を先に話すということは、あまり人に触れ回りたくない職業なのだろうと感じ、これ以上突っ込んで聞くのをやめた。
「じゃあ、また先生抱きたくなったら来てもいい?」
今度は先生が曖昧に笑う。
「先生が俺に興味ないことはわかるんだけどさ、一回抱いたくらいでとかそんな悲しいこと言わないで、俺にチャンスくらいくれよ」
真剣に口説くこともできただろうが、負け戦に乗るほど度胸もなくて、どう転んでも痛くないように冗談めかした。先生はぼんやり俺を見た後、俯いて言葉を絞り出す。
「うん……嬉しい……」
喜びのカケラも感じないその態度に、俺はまた新鮮な感動を覚える。キスをしようと顔を引き寄せたら、意外にも先生は涙を溢していた。興味がないような素振りと、人の情欲を掻き立てる表情があまりにかけ離れていて、それが一つの体に押し込められているのが不思議でならない。
「舌出して、先生」
瞑った目から溢れる涙をそのままに素直に舌を出すその顔に、心の隅がチリチリと焼かれるようだ。そのまま先生の舌を存分に味わい、また唇が腫れ上がるほど夢中で口を犯した。
「中に出して……ごめん……」
しばらく平宮さんはうつ伏せで荒げた息を隠していた。
「う……うれしい……から……だいじょうぶ……」
細い枝が揺れるように震える平宮さんの体に心がザワつく。汗でぐっしょりとした髪の毛を撫でてそのままゆっくり仰向けにする。なんで彼がことが終わった後うつ伏せになったのか理解した。手で顔を包みキスをしながら、彼のおさまらない熱源に手を伸ばす。
「大丈夫だから……」
唇を離した時に穏やかな顔でそう言われて、また心に小波が立つ。
「先生はいつもドライだけなの……?」
うん、としっかり受け答えをする顔を見て、嘘だとすぐ分かった。ただ、このまま強引に扱いて彼を射精に導ける自信もなかった。
「お風呂一緒に入らない?」
彼の目からなぜか涙が溢れて、それを隠すように反対側に寝返ってしまう。
「もう少しこうしてたいから……入ってきて……」
まだ僅かに震える彼の肩を見て、腰が立たないのだろうと思った。その肩を掴んで再び仰向けにし、脇から腕を差し入れて体を起こす。腕を引っ張り立たせたら案の定フラフラしていたので、彼をそのまま抱き上げた。彼の体は枯れた枝のように軽い。抵抗されるかと思ったが、彼はそのまま俺の首に抱きついて、鼻をすすった。
湯船に入る前に嫌がる彼を押さえつけて、さっき自分が中に出したものを掻き出した。自分の体も軽く洗って、2人で湯船に浸かる。
「順序が逆だと思うんだけど、ご飯一緒に食べない? 俺が作るから」
彼が湯船の反対側で風呂の端に視線を移す。
「花田良太っていうんだ、俺。先生はそのまま俺をリョウって呼んで」
先生の目が泳ぐ。目の動きが止まったと思ったらごめん、と呟いた。腕を掴んで引き寄せて頭を抱く。
「後腐れない売り専に甘えたかったんでしょ? 余計なことしたのは許して」
「リョウかっこいいから……抱いてくれて嬉しかった……ありがとう……」
今生の別れのような言い回しにまた心がザワつく。
「俺隣に住んでるからさ。もう会わないみたいな言い方やめてよ」
俺の胸に這わせていた手がギュッと握られ彼が緊張したのを肌で感じる。
「先生いつから食べてないの?」
しばらく風呂場が無音になったので、俺が手を水面から引き揚げた時、音がやけに響いた。それに肩を竦めた先生が息を吐くように喋り出した。
「最近仕事忙しかったから……集中して食べてなかったんだ……ご飯頂いてもいい?」
諦めに近いような声色で、観念するように食事の誘いにのられたのは初めてだと感動すら覚えた。
「先生下の名前なんていうの?」
またしばらく無音が風呂場を包んだので、教えてもらっても先生って呼ぶから大丈夫、と付け加えた。
「けいいち……」
「どんな字書くの?」
「難しい漢字で……イチは普通の漢数字だよ」
俺は手の平を差し出してそこに書くように促す。先生は頼りない指先でおずおずと自分の名前をそこに書く。
「慧眼の慧だ。いい名前だね」
「ケイガン?」
「物事の本質を見抜く目って意味だよ」
「35年生きてて初めて知った、リョウは漢字得意なの?」
「広告代理店にいるから。入社前はコピーライター志望だったんだけど今はめっきりマーケティングのしかも管理職」
「コピーライター! すごいね、言葉で人を動かす人たちだ」
入社時からモノを作るよりも人を動かす方が儲かる、と出世に寝返ったとは言えない雰囲気になった。だから曖昧に笑って話題を逸らした。
「先生はどんな仕事してるの?」
「フリーランスで……家で仕事してるよ」
職種を聞いているのに、勤務形態を先に話すということは、あまり人に触れ回りたくない職業なのだろうと感じ、これ以上突っ込んで聞くのをやめた。
「じゃあ、また先生抱きたくなったら来てもいい?」
今度は先生が曖昧に笑う。
「先生が俺に興味ないことはわかるんだけどさ、一回抱いたくらいでとかそんな悲しいこと言わないで、俺にチャンスくらいくれよ」
真剣に口説くこともできただろうが、負け戦に乗るほど度胸もなくて、どう転んでも痛くないように冗談めかした。先生はぼんやり俺を見た後、俯いて言葉を絞り出す。
「うん……嬉しい……」
喜びのカケラも感じないその態度に、俺はまた新鮮な感動を覚える。キスをしようと顔を引き寄せたら、意外にも先生は涙を溢していた。興味がないような素振りと、人の情欲を掻き立てる表情があまりにかけ離れていて、それが一つの体に押し込められているのが不思議でならない。
「舌出して、先生」
瞑った目から溢れる涙をそのままに素直に舌を出すその顔に、心の隅がチリチリと焼かれるようだ。そのまま先生の舌を存分に味わい、また唇が腫れ上がるほど夢中で口を犯した。
0
あなたにおすすめの小説
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる