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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第48話 王の告白(アシュレイ視点)
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王の話す国の歴史は魔人にとって、耳の痛い話ばかりだろう。しかし俺は庸人から魔人になった身。どちらにも共感できずに、なぜ自分は塔にも入らずに魔人になったのだろうとぼんやりと疑問を抱いていた。
「ヴェルナーは、重い病からクラウディアを救うため、その力を全てお前の母に注いできた。能力を使わなければ子種を失うこともなかったのに、クラウディアが子を望んでいても、彼女の病を治すことを優先した。だから、自然発生で魔人になったお前を養子に迎え入れるよう提言したのだ」
王の言葉に顔をあげた。
「7賢者オットーの判断だ。塔の研究中もそうした自然発生で魔人になった庸人を研究材料にしていたと言い伝えられている。そうした者は、塔に入り魔力を供給しない分、器が大きくなる傾向にある。なにより庸人だった者が魔人になるということは今の社会では迫害につながりやすい。だから、子を望んでいたバーンスタイン家に身を隠してもらったのだ」
王の言葉で、父や母の温かい食卓が一気に思い出される。あれは父の望んだ食卓ではなかったのだろうか、と足元が冷えた。
「アシュレイ、ヴェルナーは確かに越えてはいけない境を超えて、クラウディアを生きながらえさせた。しかし、これは恋慕や偏愛といったものではない。お前にはまだ母親が必要だと思ったからだ。お前があの家に迎え入れられた瞬間から、2人はお前が中心だった。アシュレイという自慢の息子が、2人の夢を叶えたのだ。よく見ていた私が言うのだ。間違いはない」
王は言葉とは裏腹に、悲しい表情を隠した。その時に思い出された顔は、父が亡くなった夜、非公式で訪れたあの日の顔だった。
「陛下も、父を救うために子種を失ったのですか?」
「いいや、とっくの昔に無い。そんな予定もないから構わん。それよりノアだ」
ついと顔を背ける王はどこか子どもじみていて、より一層王の気持ちが鮮明になった。王は父を愛していたのだ。しばらく王を見つめていたが、その奥でルークが心配そうにこちらを窺っていた。だから決意を手短に言った。
「陛下、あの時父に決意した通りです。俺はバーンスタイン当主としてノアを迎え入れる。男にしては小さすぎるのが玉に瑕ですが、聡明で優しく美しい。だけどバーンスタインの家名も捨てない。父さんと母さんの愛を残したい。適当に養子でももらいます。ノア、さっきも答えてくれなかったが、俺の決意は揺るがない。応じてくれるな?」
ノアは両手を胸の前で握り、あわあわと変な声を出していた。
「ノア」
「はい! 謹んでお受けいたします!」
ノアの頭のてっぺんに祝福を落とし、前でうろうろしていた両手を握って抱き寄せた。これで王の父への愛に応えることができただろうか。心配だったが王は急に話題を変えた。
「さて、ブラウアー兄弟よ。お前のところにいる死に損ないのハンスも7賢者だ」
「ええ!?」
ルークもジルも腹の底から声をあげる。
「ルイスはわかっていたようだな。やはりハンスの言うように賢い」
「オットーさんに情報を持たされた時、おじいちゃんの名前も出ました。その時そう思いました」
「王都で庸人がまともに働けるのは使用人くらいだからな。ハンスたっての希望で7賢者の後継者にルイスの名が上がっている。ちょうど塔の管理もしているし、確かに適任だ」
「7賢者は……危険なことはないのでしょうか……」
ルークが恐れ多くもといった声色で王に問う。
「お前らみたいな屈強な兄がいたら危険もクソもないだろ。どうせもう知られてはならない情報にルイスの命がかかっているのだ。生涯弟を守り抜け」
王が面倒そうに言う。その言葉にルークとジルは顔を見合わせて苦笑した。
「このろくでもない魔人などどうでもいい。ルイス。お前はどうだ」
「ヴェルナーは、重い病からクラウディアを救うため、その力を全てお前の母に注いできた。能力を使わなければ子種を失うこともなかったのに、クラウディアが子を望んでいても、彼女の病を治すことを優先した。だから、自然発生で魔人になったお前を養子に迎え入れるよう提言したのだ」
王の言葉に顔をあげた。
「7賢者オットーの判断だ。塔の研究中もそうした自然発生で魔人になった庸人を研究材料にしていたと言い伝えられている。そうした者は、塔に入り魔力を供給しない分、器が大きくなる傾向にある。なにより庸人だった者が魔人になるということは今の社会では迫害につながりやすい。だから、子を望んでいたバーンスタイン家に身を隠してもらったのだ」
王の言葉で、父や母の温かい食卓が一気に思い出される。あれは父の望んだ食卓ではなかったのだろうか、と足元が冷えた。
「アシュレイ、ヴェルナーは確かに越えてはいけない境を超えて、クラウディアを生きながらえさせた。しかし、これは恋慕や偏愛といったものではない。お前にはまだ母親が必要だと思ったからだ。お前があの家に迎え入れられた瞬間から、2人はお前が中心だった。アシュレイという自慢の息子が、2人の夢を叶えたのだ。よく見ていた私が言うのだ。間違いはない」
王は言葉とは裏腹に、悲しい表情を隠した。その時に思い出された顔は、父が亡くなった夜、非公式で訪れたあの日の顔だった。
「陛下も、父を救うために子種を失ったのですか?」
「いいや、とっくの昔に無い。そんな予定もないから構わん。それよりノアだ」
ついと顔を背ける王はどこか子どもじみていて、より一層王の気持ちが鮮明になった。王は父を愛していたのだ。しばらく王を見つめていたが、その奥でルークが心配そうにこちらを窺っていた。だから決意を手短に言った。
「陛下、あの時父に決意した通りです。俺はバーンスタイン当主としてノアを迎え入れる。男にしては小さすぎるのが玉に瑕ですが、聡明で優しく美しい。だけどバーンスタインの家名も捨てない。父さんと母さんの愛を残したい。適当に養子でももらいます。ノア、さっきも答えてくれなかったが、俺の決意は揺るがない。応じてくれるな?」
ノアは両手を胸の前で握り、あわあわと変な声を出していた。
「ノア」
「はい! 謹んでお受けいたします!」
ノアの頭のてっぺんに祝福を落とし、前でうろうろしていた両手を握って抱き寄せた。これで王の父への愛に応えることができただろうか。心配だったが王は急に話題を変えた。
「さて、ブラウアー兄弟よ。お前のところにいる死に損ないのハンスも7賢者だ」
「ええ!?」
ルークもジルも腹の底から声をあげる。
「ルイスはわかっていたようだな。やはりハンスの言うように賢い」
「オットーさんに情報を持たされた時、おじいちゃんの名前も出ました。その時そう思いました」
「王都で庸人がまともに働けるのは使用人くらいだからな。ハンスたっての希望で7賢者の後継者にルイスの名が上がっている。ちょうど塔の管理もしているし、確かに適任だ」
「7賢者は……危険なことはないのでしょうか……」
ルークが恐れ多くもといった声色で王に問う。
「お前らみたいな屈強な兄がいたら危険もクソもないだろ。どうせもう知られてはならない情報にルイスの命がかかっているのだ。生涯弟を守り抜け」
王が面倒そうに言う。その言葉にルークとジルは顔を見合わせて苦笑した。
「このろくでもない魔人などどうでもいい。ルイス。お前はどうだ」
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