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3部 王のピアノと風見鶏
第20話 拷問の日々
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王は部屋に入るなり、布団をひん剥き、俺の足を弄った。動かないが感覚はある。
「ノア、ちょうどいいからお前が重しになれ。胸に座ってろ」
よくわからないやりとりが終わり、ノアは渋々といった様子で俺の胸に乗った。次の瞬間、死ぬ間際に感じた激痛が足から腰にかけて走り抜ける。神経を刺激されて勝手に腰や胸が激しく痙攣する。ノアがドシドシと何度も浮いては落ちた。色んな痛みが走り抜け、息が弾み、呼吸困難になる。
「王様」
「案外、庸人というのは辛抱強いんだな」
「いいえ、いいえ。リアムは背中も刺されていました。きっと声が出せないのだと思います」
「意識がない時の方が楽だったかもしれんな。どうだ、リアム。少々引きずるかもしれないが歩いてみろ。ノア、浮かせてやれ」
「はい!」
俺は最初にあった時、ノアの不思議な力で天井に打ちつけられたことを思い出して、俺は目を見開く。それに気付いたノアは恥ずかしそうに笑って、俺の胸に抱きつき体を起こした。
「なにをやっているのだ? ベタベタと触るんじゃない」
「王様、後で右肩だけお願いします。こっちの方が怪我も軽いので」
「なぜだ?」
「そうしたら1人で起き上がることができます」
王は何も言わず、ノアを押し退けた。そうして俺の脇に腕を突っ込み、抱き寄せる。
「ここから立つことはできるか?」
王がそう聞くので、俺は息を吐き出しながら、足に力を入れる。さっきから立てる予感はあった。牢獄の鉄格子が少し開いた気がしたのだ。だからそのまま勢いに任せて立ち上がる。それに合わせて王が体をずらしたから、すんなり立ち上がることができた。
「ああ、立てたな。偉いぞリアム。じゃあ今度は肩だな」
またあの痛みに耐えなければならないのか、と絶望している間、王はずっと俺を抱きしめ頭を撫で回していた。拷問の後の神経はささくれだっていて、少しの刺激でも不思議な昂りが襲ってくる。
さっきノアがかけてくれた布が王と俺の間にパサッと落ちた。
「ノア、リアムを風呂に入れてやりたい。ノアにやらせたらアシュレイに殺されるだろうから、お前は塔に戻っていろ」
「はい。リアム、アシュレイからスプーンとフォークを大切に持っていると聞きました。まだ料理は食べさせてあげられないけど、いつか必ず作るから、楽しみにしていてね」
その言葉に、あの日の幸せな思い出が蘇る。ポトフと、スコーン、それに紅茶。顔が緩んでいるのが自分でもわかる。少し王が腕を緩めて俺の顔を覗き見た。
「ヤギは食べ物の話になるとすぐにこれだ。ノア、リアムが喜んでいるぞ」
「ぼ、僕も嬉しいよ!」
「いいから早く帰れ!」
はいっ、と慌ててノアは部屋を出て行った。だけど王は抱きしめる腕を緩めない。
「着るものがまだ用意できていなくてな。生活がしやすい服で言うと、ノアの着ているようなものがいいと思うがどうだ? 女のようで嫌か?」
王は裸の俺を気遣って、ノアを部屋から追いやったのか。至って普通の王の対応に、言葉にできない感情が腹の中をグルグル巡る。王が心配そうに顔を覗くから、俺はコクリと頷いた。
「嫌なのか? ああ、質問の仕方が悪いのか。服はノアと一緒でいいか?」
慌てふためく王が新鮮で、顔を綻ばせながら頷いた。しばらく王はなにか思いつめたように黙り込み、そして言いづらそうに質問をした。
「風呂に入りたいか?」
きっと王は今までの言動で俺が信用していないとでも思っているのであろう。眉の端を下げ困ったように聞く姿を見れば、変な気持ちがないことはよくわかった。だから頷くと、王はそうか、そうかと嬉しそうに俺を担ぎあげた。
「ノア、ちょうどいいからお前が重しになれ。胸に座ってろ」
よくわからないやりとりが終わり、ノアは渋々といった様子で俺の胸に乗った。次の瞬間、死ぬ間際に感じた激痛が足から腰にかけて走り抜ける。神経を刺激されて勝手に腰や胸が激しく痙攣する。ノアがドシドシと何度も浮いては落ちた。色んな痛みが走り抜け、息が弾み、呼吸困難になる。
「王様」
「案外、庸人というのは辛抱強いんだな」
「いいえ、いいえ。リアムは背中も刺されていました。きっと声が出せないのだと思います」
「意識がない時の方が楽だったかもしれんな。どうだ、リアム。少々引きずるかもしれないが歩いてみろ。ノア、浮かせてやれ」
「はい!」
俺は最初にあった時、ノアの不思議な力で天井に打ちつけられたことを思い出して、俺は目を見開く。それに気付いたノアは恥ずかしそうに笑って、俺の胸に抱きつき体を起こした。
「なにをやっているのだ? ベタベタと触るんじゃない」
「王様、後で右肩だけお願いします。こっちの方が怪我も軽いので」
「なぜだ?」
「そうしたら1人で起き上がることができます」
王は何も言わず、ノアを押し退けた。そうして俺の脇に腕を突っ込み、抱き寄せる。
「ここから立つことはできるか?」
王がそう聞くので、俺は息を吐き出しながら、足に力を入れる。さっきから立てる予感はあった。牢獄の鉄格子が少し開いた気がしたのだ。だからそのまま勢いに任せて立ち上がる。それに合わせて王が体をずらしたから、すんなり立ち上がることができた。
「ああ、立てたな。偉いぞリアム。じゃあ今度は肩だな」
またあの痛みに耐えなければならないのか、と絶望している間、王はずっと俺を抱きしめ頭を撫で回していた。拷問の後の神経はささくれだっていて、少しの刺激でも不思議な昂りが襲ってくる。
さっきノアがかけてくれた布が王と俺の間にパサッと落ちた。
「ノア、リアムを風呂に入れてやりたい。ノアにやらせたらアシュレイに殺されるだろうから、お前は塔に戻っていろ」
「はい。リアム、アシュレイからスプーンとフォークを大切に持っていると聞きました。まだ料理は食べさせてあげられないけど、いつか必ず作るから、楽しみにしていてね」
その言葉に、あの日の幸せな思い出が蘇る。ポトフと、スコーン、それに紅茶。顔が緩んでいるのが自分でもわかる。少し王が腕を緩めて俺の顔を覗き見た。
「ヤギは食べ物の話になるとすぐにこれだ。ノア、リアムが喜んでいるぞ」
「ぼ、僕も嬉しいよ!」
「いいから早く帰れ!」
はいっ、と慌ててノアは部屋を出て行った。だけど王は抱きしめる腕を緩めない。
「着るものがまだ用意できていなくてな。生活がしやすい服で言うと、ノアの着ているようなものがいいと思うがどうだ? 女のようで嫌か?」
王は裸の俺を気遣って、ノアを部屋から追いやったのか。至って普通の王の対応に、言葉にできない感情が腹の中をグルグル巡る。王が心配そうに顔を覗くから、俺はコクリと頷いた。
「嫌なのか? ああ、質問の仕方が悪いのか。服はノアと一緒でいいか?」
慌てふためく王が新鮮で、顔を綻ばせながら頷いた。しばらく王はなにか思いつめたように黙り込み、そして言いづらそうに質問をした。
「風呂に入りたいか?」
きっと王は今までの言動で俺が信用していないとでも思っているのであろう。眉の端を下げ困ったように聞く姿を見れば、変な気持ちがないことはよくわかった。だから頷くと、王はそうか、そうかと嬉しそうに俺を担ぎあげた。
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