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第9話 魔女の過去
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食事が終わると、円華ちゃんと真下さんはガールズトークしながら買い物に行きたいと事務所を飛び出していった。久遠さんもついて行くと食い下がったが、真下さんはともかく円華ちゃんにまで怒鳴られて、さっきから窓際でシュンとしていた。その哀愁に涙を禁じ得ず、僕はお茶を持っていってもてなした。久遠さんはお礼を言って、綺麗な所作でお茶を飲み始める。
「真下になんか変なことされてませんか?」
本気で心配そうな顔で聞かれたが、心あたりがあるので曖昧に返事をして話題を変えた。
「久遠さんは真下さんの学生時代のお友達なんですか?」
「はい、正確にいうと児童養護施設で一緒だったんです」
唐突な言葉に僕は黙り込んでしまう。そういえば久遠さんも円華ちゃんも養子だとさっき言っていた。
「魔法使いは児童養護施設出身が多いんですよ。なのでそんなに気にしないでください」
話が続かなくて息苦しくなる。僕がここ最近すんなり喋れるのは、真下さんが優しいからだと思い知る。
「真下は昔からあんななので、一度里親に引き取ってもらったんですけど、施設に戻ってきたんです」
「あんな?」
この時、久遠さんは言っていいのか迷う素振りを見せた。それは僕が真下さんを女性だと勘違いしている可能性を憂慮しているからだと雰囲気でわかった。
「あの、真下さんが男性で……その……男性が好きだということも知っています。入社した次の日に現場を見たので」
久遠さんは眉を下げて安心したようにお茶を飲む。
「真下さんは昔から……女装をされてたんですか?」
久遠さんはまた言ってもいいか悩んだ素振りを見せた。僕は踏み込みすぎたと感じ、俯く。
「世良さんは真下のありのままを受け止めてくれてるんですね」
思ってもみなかった言葉に思わず顔を上げる。
「昔は女装していませんでした。児童養護施設でそんなことをするのは難しいですし。何が原因でそんな拗らせたのかまではわからないのですが、少なくとも昔はただのゲイでした」
久遠さんたちは夕食も作ってくれて、夜まで滞在してくれた。名残惜しそうな真下さんにまた会えるんだから、と円華ちゃんが次の約束をして今日の食事会はお開きになった。
真下さんはベッドの中で、何度も何度もスカーフリングを見つめている。さっき久遠さんにあんな質問をしてしまったが、隣で喜ぶ真下さんを見たら女装は性別なんて関係ないのかもしれないと感じた。
「今日は楽しかったですね。久遠さんも円華ちゃんも美男美女でびっくりしました」
「円華はかわいい」
「久遠さんだってかっこいいですよ」
「ノブはあいつの昔を知らないからだ。あんな雑食な輩は人生であいつしか見たことがないぞ。散々女性を食い散らかした挙句、最後にあんなかわいい娘と結ばれるなんておかしいと思わないか?」
久遠さんのことになると真下さんは饒舌になる。今日のあの激しい喧嘩も旧友だからこそなんだろう、そう思った矢先にふと思い立った。
「でもそのお話だと、昔の久遠さんは真下さんのタイプなんじゃないですか?」
その言葉に真下さんが黙ったので隣を見やった。
「そういえばそうだな」
否定されるかと思ったので壁から手がすり抜けたような感覚を味わう。真下さんは僕とは反対側に寝返りを打った。
「そのこと今まで気がつかなかったんですか?」
聞こえていないのか、もう寝てしまったのかと思うくらいの沈黙のあと、真下さんが呟いた。
「要の心に安寧をもたらしたのは円華だ。だから要が抱くのは円華だよ」
真下さんの言葉にまた違和感を覚える。前にも同じように感じたことがあった気がするがパッと思い出せなかった。今の話の流れでなぜ久遠さんが円華ちゃんを抱く話になるのだろうか。昔の久遠さんが好みであれば、真下さんが彼を抱くのではないのか?
難しいので眠気に身を任せて瞼を閉じた瞬間、僕は同じ違和感を覚えた日を思い出した。彼女が学生時代の僕に処女を捧げたいと言った時だ。
「真下さんの初めての人ってどんな人だったんですか?」
こんな不躾な質問をしてもいいのだろうかと考えるより先に口をついて出てしまっていた。
「要に何か吹き込まれたのか?」
その険のある口ぶりで真下さんの逆鱗に触れたことを悟る。
「いえ……すみませんでした……」
聞いたところで何になるというのだ。こんなに親切にしてくれる真下さんに、これ以上何を求めているんだ。僕には人を好きになる資格なんてないのに。そう思うと頭の中がごちゃごちゃして胸が痛くなる。真下さんは事件のことを思い出して胸を痛めている時には必ず魔法を使ってくれた。真下さんはもうわかっているんだ。そして自分でもよくわかっている。この痛みは感じることさえ許されない痛みなんだ。
「真下になんか変なことされてませんか?」
本気で心配そうな顔で聞かれたが、心あたりがあるので曖昧に返事をして話題を変えた。
「久遠さんは真下さんの学生時代のお友達なんですか?」
「はい、正確にいうと児童養護施設で一緒だったんです」
唐突な言葉に僕は黙り込んでしまう。そういえば久遠さんも円華ちゃんも養子だとさっき言っていた。
「魔法使いは児童養護施設出身が多いんですよ。なのでそんなに気にしないでください」
話が続かなくて息苦しくなる。僕がここ最近すんなり喋れるのは、真下さんが優しいからだと思い知る。
「真下は昔からあんななので、一度里親に引き取ってもらったんですけど、施設に戻ってきたんです」
「あんな?」
この時、久遠さんは言っていいのか迷う素振りを見せた。それは僕が真下さんを女性だと勘違いしている可能性を憂慮しているからだと雰囲気でわかった。
「あの、真下さんが男性で……その……男性が好きだということも知っています。入社した次の日に現場を見たので」
久遠さんは眉を下げて安心したようにお茶を飲む。
「真下さんは昔から……女装をされてたんですか?」
久遠さんはまた言ってもいいか悩んだ素振りを見せた。僕は踏み込みすぎたと感じ、俯く。
「世良さんは真下のありのままを受け止めてくれてるんですね」
思ってもみなかった言葉に思わず顔を上げる。
「昔は女装していませんでした。児童養護施設でそんなことをするのは難しいですし。何が原因でそんな拗らせたのかまではわからないのですが、少なくとも昔はただのゲイでした」
久遠さんたちは夕食も作ってくれて、夜まで滞在してくれた。名残惜しそうな真下さんにまた会えるんだから、と円華ちゃんが次の約束をして今日の食事会はお開きになった。
真下さんはベッドの中で、何度も何度もスカーフリングを見つめている。さっき久遠さんにあんな質問をしてしまったが、隣で喜ぶ真下さんを見たら女装は性別なんて関係ないのかもしれないと感じた。
「今日は楽しかったですね。久遠さんも円華ちゃんも美男美女でびっくりしました」
「円華はかわいい」
「久遠さんだってかっこいいですよ」
「ノブはあいつの昔を知らないからだ。あんな雑食な輩は人生であいつしか見たことがないぞ。散々女性を食い散らかした挙句、最後にあんなかわいい娘と結ばれるなんておかしいと思わないか?」
久遠さんのことになると真下さんは饒舌になる。今日のあの激しい喧嘩も旧友だからこそなんだろう、そう思った矢先にふと思い立った。
「でもそのお話だと、昔の久遠さんは真下さんのタイプなんじゃないですか?」
その言葉に真下さんが黙ったので隣を見やった。
「そういえばそうだな」
否定されるかと思ったので壁から手がすり抜けたような感覚を味わう。真下さんは僕とは反対側に寝返りを打った。
「そのこと今まで気がつかなかったんですか?」
聞こえていないのか、もう寝てしまったのかと思うくらいの沈黙のあと、真下さんが呟いた。
「要の心に安寧をもたらしたのは円華だ。だから要が抱くのは円華だよ」
真下さんの言葉にまた違和感を覚える。前にも同じように感じたことがあった気がするがパッと思い出せなかった。今の話の流れでなぜ久遠さんが円華ちゃんを抱く話になるのだろうか。昔の久遠さんが好みであれば、真下さんが彼を抱くのではないのか?
難しいので眠気に身を任せて瞼を閉じた瞬間、僕は同じ違和感を覚えた日を思い出した。彼女が学生時代の僕に処女を捧げたいと言った時だ。
「真下さんの初めての人ってどんな人だったんですか?」
こんな不躾な質問をしてもいいのだろうかと考えるより先に口をついて出てしまっていた。
「要に何か吹き込まれたのか?」
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「いえ……すみませんでした……」
聞いたところで何になるというのだ。こんなに親切にしてくれる真下さんに、これ以上何を求めているんだ。僕には人を好きになる資格なんてないのに。そう思うと頭の中がごちゃごちゃして胸が痛くなる。真下さんは事件のことを思い出して胸を痛めている時には必ず魔法を使ってくれた。真下さんはもうわかっているんだ。そして自分でもよくわかっている。この痛みは感じることさえ許されない痛みなんだ。
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