罪と魔女

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
11 / 16

第11話 旧友との旅

しおりを挟む
 終業時刻前に久遠さんは事務所にやってきた。

「今日は円華はいないのか?」

 開口一番真下さんが意外な質問をした。僕はてっきり今日は久遠さんだけが来ると思い込んでいたが彼女は違ったらしい。

「お前に借りを返すために来たんだ。円華を連れてくるとややこしくなるだろ。それに今日は円華がいなくても大丈夫だろ」

「そっか……」

 明かにがっかりする真下さんを車に押し込んで3人現場仕事に向かった。現場仕事とはなんなのかよくわからなかったが、随分と車を走らせるので、不安になってどこまで行くのか久遠さんに聞いた。

「着いたら大体わかりますよ、もう少しですが、眠くなったら寝ておいてくださいね」

 運転席の久遠さんがバックミラー越しに僕に微笑んだ。それを見た助手席の真下さんが食いつく。

「今更そんな好青年を気取っても無駄だぞ。ノブはお前の過去を知っているんだからな」

「お前もなかなか無神経だな」

 冷酷な久遠さんの声で、真下さんは黙る。そんな真下さんを初めて見た。そして久遠さんが過去を暴露されることについて、本気で怒ることにもびっくりする。

「お前だってノブに私の過去を吹聴したくせに!」

「なんの話だ?」

 久遠さんの言葉にまた真下さんは黙る。

「いつから女装してるのかってことしか聞かれてないぞ。俺も知らないし。そういやなんでお前、女装するようになったんだ?」

 僕は眠ったフリをした方がいいのだろうか、そう思えるくらい長い沈黙が横たわった。

「女性の格好をしていると、傲慢でプライドの高い男が釣れるからだ」

「そんなわけあるか。タチのくせにそんな騙すようなことして。よっぽどそういう男に恨みがあるんだな」

 また真下さんは黙った。多分図星だったのだろう。久遠さんもまさか言い当てるとは思っていなかったような雰囲気を出している。

「お前がどんな性癖だろうと構わねーけど、お前が言ったんだぞ。そういうわだかまりが人生の道筋を作るんだって。人のことなんて気にしてねーでちゃんと自分のこと見つめ直せよ」

 真下さんの心中を察すると僕まで胸が痛んだ。愛する人にこれを言われるのは相当きつい。しかし道路の案内板を見て、僕は別の意味で胸が苦しくなった。かつての地元に近づいてきたからだ。事件後、僕は生まれ育った街を飛び出した。それから転々と日雇いのバイトを求めて移り住み、真下さんの事務所までたどり着いた。今走ってきた道は僕が逃げ出して通ってきた軌跡そのものだった。
 これからこの2人は何をしようというのか、恐ろしさで心臓が激しく鼓動する。思わずバックミラーで2人の顔を見る。

「世良さん、そんなに怖がらないでください」

 久遠さんの優しい笑顔が唐突に欺瞞に満ちたように見える。怖がらないでとなだめるのは、僕の地元だと知っているからだ。そしてさっき急に怒り出したことにも合点がいく。僕が婦女暴行の罪で執行猶予期間だと知っているから、真下さんを無神経だと叱責したんだ。
 ただならぬ恐怖を感じる僕をよそに、車は地元でも全く知らない場所に停車した。そして真下さんは準備してくる、と言って車を降りてどこかへ消える。久遠さんと2人の車内で、一体何をするつもりかと聞き出したくとも聞けず、心臓に悪い沈黙が充満する。

「なんか色々すみません」

 久遠さんが心底申し訳なさそうに言う。

「自分が路頭に迷ってる時には気がつかないものなんですね。今の真下を見ていてそう思いました。私もああだったんだって」

「これから何をするんですか?」

 極端な怯えから声がうわずる。久遠さんは息を漏らし頭を抱えた。

「真下にやめろって言われていたことを強行していたことがあったんです。でも誰にやめろって言われても自分が納得できるまでやめられなかった。目を背けている事実に向き合えるまで止めることができなかったんです」

「な……何を!」

「今私が言ってること、理解できないと思うんです。でも……」

 久遠さんが言葉を切ったので僕は固唾を飲んで次の言葉を待った。しかし久遠さんが次に落としたものは全く理解しがたい言葉だった。

「真下を見捨てないでください」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...