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色付く日常
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しおりを挟む空が晴れていようと、雲が泳いでいようと。
そこに雨が降っていようとも関係なく、《悪意》は現れ、そして本の中へと還っていく。
組織としてのストーリーテラーの活動は、昼夜問わず世界にはみ出した《躾られた悪意》を討伐することである。
そのため、隊員たちは、日常的に行われる訓練とは別に、見回りと称した実地戦闘を行なっている。
一人の隊員に付き、週に一回から二回ほどのペースで割り当てられる見回りは、《継承者》一人に、数人の一般隊員で作られた即席チームで行われる。
見回りの最中に《悪意》と当たるか否かは運であるが、少なくとも一ヶ月に一回は誰しもが討伐というものを経験していた。
イスミの今月のシフトは、木曜日と土曜日が見回りに割り当てられていた。
毎月変わるシフトは、学生に配慮して週休2日となっている。
イスミの学外の予定は、月曜日水曜日、そして日曜日が集団訓練で、火曜日金曜日は休みであった。
そして、本日木曜日。
今週最初の見回りである。
「イスミくん、なんか今日いつもと雰囲気違くない?」
そうイスミに告げたのは、同じ見回りチームのサジル・ユカハラだった。
ストーリー名《透明な善意》
第一支部所属の《継承者》である。
サジルは、三十代に差し掛かる年齢のベテランであるが、第一支部で爪弾きにされるイスミを継続して一般隊員の指名枠に入れ続ける《継承者》の一人だった。
そこまで強力な能力ではないが、さわやかな見た目に、面倒見の良さを持つサジルは、第一支部でも付き合いやすい《継承者》として認知されている。
周囲への警戒を続けなからも、サジルは愛嬌のある細い目を見開いて、イスミを観察していた。
「いつもと同じだと思いますが……」
一般隊員の集団から唯一外れた位置にいたイスミは、隣のサジルに目線を向けながら首を傾げた。
「雰囲気? んー? 髪型?」
お互いに首を傾けながらの会話をしつつ、サジルはイスミの頭髪に視線を固定した。
「ああ、よく気がつきましたね、確かに髪型は違います」
確かに今日のイスミの髪型はいつもと異なっていた。
異なるといっても、前髪の分け目か左右違うだけであるが。
イスミ自体も忘れていた違いに気付いたサジルに、イスミは頷きを返した。
「イメチェン?」
「イメチェンっていうか……」
イスミはこの場に来るまでのことを脳裏に描いた。
もっとも、思い返すほどのことではない。
支部に立ち寄った際に箱庭に顔を出したところ、ヤタマルに先日の始末書のお礼がてら頭を撫で回され、それをキジトが整え直しただけである。
悪戯半分で変えられた分け目であるが、こだわりのないイスミには至極どうでもいいことであった。
ゆえに、忘れていた。
「いや、最近妙な人と知り合って。その人たちにいじられました」
「たち? お友達がたくさん増えたんだね、良かった」
イスミが組織内に友人が少ないことを知るサジルは、自分のことのように喜んで頬を緩めた。
特になんの感慨もないイスミは、ありのままを語っただけである。
そしてまた、ありのままをサジルに告げた。
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