神々のストーリーテラー

みん

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変わる日常

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 いくら多対一と言っても、相手はヤタマルである。
 一般隊員とは戦闘経験に差がありすぎた。

 イスミは作戦時間と割り当てられた時間の中で、自分が指揮するメンバーの特性を頭に叩き込んだ。

 地形も、ヤタマルの戦い方も、イスミには理解できている。
 先程自分を指揮した男の思考も、ある程度は把握済みだった。
 だとしたら自分が出来ることは。

「前衛二人に、後衛が一人。地形は背の高い建物が多く、中央には学校。ルールは司令塔を討ち取れば、勝ち」

 自分に与えられた駒を脳内に配置して、イスミは最初の指示を出した。

 そして、戦闘は、イスミたちの勝利で終わることとなる。




「なんでだよ!」

 悔しそうに膝を折る少年を見下ろして、イスミは淡々とその表情を見つめていた。

 稚拙。
 その一言に尽きた。
 ヤタマルという最強の手駒を得ただけの少年は、圧倒的に戦略に欠けていた。
 敗因は、ただそれだけである。


 イスミが取った作戦は、少年がするであろう指示を明確に想定した上でなされたものだった。

 開始直後に目立つ高層ビルに陣取った少年を、身を潜めて動いていた前衛の二人が落とす。
 ヤタマルに目の前の敵を斬ることのみの指示を出しただろう少年に対し、イスミは後衛にヤタマルを誘導するように都度指示を出した。

 ヤタマルの射線に入らず、一撃ごとに建物に身を潜め、そして別の入り口から外に出て、ヤタマルを威嚇射撃せよ。
 イスミが後衛に出した大雑把な指示はそれだけである。

 少年が地の利を生かし、後衛が身を顰めた建物の位置をヤタマルへ指示したとて、イスミは脳内に精密に描かれた立体地図でその死角を割り出し、終始意表を突いた。

 ヤタマルは、出された指示通りに目の前にちらつく後衛の隊員を追い、フリーになった司令塔を前衛二人で陰から強襲した。


 ものの数分で終わった戦闘。
 自分が敗北したこともわからず喚く少年に、何かを教えてやるほどイスミの感情は動かされない。

 悔しげに罵声を吐き出してその場を去った少年の背中を視線で追い、イスミは待合のイスに座るヤタマルに向き合った。

「あの、庇っていただいてありがとうございます」
「べっつに~? 俺はやりたいことやっただけだし」

 騒つくフロアなど意に介さない様子のヤタマルに、イスミはふんわりと笑顔を作った。
 きっとこれが正解だ。

 ヤタマルはイスミの笑顔にきょとんとした表情を向けると、頭をかきながら立ち上がった。

「お前ってなんか不思議なやつだな」
「……よく言われます」

 はは、と破顔したヤタマルの手が、イスミの頭部に乗せられる。

「わっ」
「今度は見回りで俺を指揮しろよ」

 ヤタマルはイスミの髪を掻き乱してその場を後にした。
 満足げなヤタマルに対し、イスミの感情は凪いだまま。

 イスミは、これから更に変わってしまうだろう日常に、しばらく頭を悩ませてから何も残さずに立ち去った。

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