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異変
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しおりを挟む風花は自室に滑り込むように戻ると、そのままの勢いで服を脱いでバスルームへと突入した。
何も考えずにシャワーを捻りバスタブにお湯を張る。
とりあえず冷静になりたかった。
もこもこと無心で泡を立てて髪の毛を洗い、真っ白で貧弱な体を精霊に手伝ってもらいながらなんとか流した。
するりと逃げるように湯の溜まった浴槽に入ると、風花は耐えかねて声を出した。
「……だれか!」
《どうした同胞》
現れたのは水の精霊だった。
半透明なその体は溶けるようにしてお湯に半ば馴染んでいる。
湯船からのっそりと顔を出した精霊は、人形をとると、その縁に腰をかけた。
「き、す……ってさ、したこと、ある?」
風花が小さく呟いたことで、水面がゆらゆらと波打つ。
風花の脳内では先程ノアハが口に出した言葉がそのままぐるぐると渦巻いていた。
恋愛的な意味で匂わされたのは理解している。
ただ、自分とは無縁だと思っていた概念を突然出されて動揺している、それだけだ。
《キス……ああ、祝福のことか?》
しばらく思案した精霊は、風花にとって最良の答えを齎した。
「祝福!」
精霊が契約者や愛し子に対して贈る最大限の信頼の証。
それを祝福と呼ぶことを風花は精霊の言葉で思い出した。
たしかに、祝福を送るときに口付けを交わすことはある。
それを見ることは稀であるが、風花は知識としてそれは知っていた。
《吾はまだ祝福を与えたことはないが……同胞は与えようとしているのか?》
「俺がしても、祝福にはならないでしょ」
祝福は精霊と人間の間でのみ成り立つものだ。
いくら風花が精霊にほど近い存在といえども、ライルにキスをしたからと言って祝福が与えられるものではない。
ふと、するりと抵抗なくライルとのキスを想像した自分に、風花は頬を染めて湯船に頭を沈めた。
いや、祝福を与えたい、与えたいとしたらライルなんだけど! なんで!
そもそも祝福は口付けである必要はない。
そしてそこに恥ずかしがる要素など一つもないはずだった。
首を傾げる精霊を前に、謎が深まるばかりの風花は一度思考からこの問題を追い出すことにした。
赤くなった顔は、のぼせたせいだ。
そうに違いない。
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