風に凪ぐ花

みん

文字の大きさ
46 / 52
魔王の卵

4

しおりを挟む


「な……っ」

 その光景に目を疑って、声を上げたのはライルだけではなかった。
 風花がライルの腕の中で小さく駄目、駄目、と呟いている。

 目の前に突如現れた獅子。
 燃える鬣が神聖さを伴って、その場を支配する。
 脳に直接響くこの声は、この獅子の声なのか。
 契約もしていない精霊の声が聞こえる事実に、ライルはぞわりと背中を震わせた。

《幼な子よ。血迷ったか。まだ、理を知らぬか》
《》

 ユナの契約精霊は、獅子の言葉に床に這いつくばって体を震わせていた。
 皆に聞こえているのは、獅子の声だけである。
 異常な事態に適応出来ず、その場の空気は一気に膠着した。

「えっ精霊王?!」

 契約精霊の声を聞いたのか、ユナが驚愕の声を上げる。
 精霊王。
 それが意味するところは。

《如何にも。炎の精霊王である》

 獅子はゆるりと炎を巻いて、ぐぐっとその形を変えた。
 脚だけが獣の形をした、人の姿である。
 炎を孕みうねる長い髪に、炎の衣服。
 二足で降り立ったその偉丈夫は、荘厳以外の何者でもない。

「お願い、許してあげて」

 その精霊の王に語りかけるのは、腕の中の風花である。
 風花は悔しげに唇を噛んで、人外の王に懇願していた。

《同胞よ。看過できぬ。我が眷属は過ちを犯した》
「でも……っまだその子は」
《出来ぬ。その身に対した害はないとて、秩序は秩序である》

 当然のように会話を始めた風花と精霊王に、割り込めるほど、ライルは無茶ではなかった。

《》

 また何かをユナの契約精霊が叫び、潰れるほどにその場に伏せた。

《幼な子よ。そなたは禁を犯した。ゆえに、還らねばならぬ》
「な、なんだよ! 禁って!」
《人の身には関係ない。これは、精霊の理》

 騒ぎ立てるユナを一瞥し、精霊王は腕を小さく一振りした。
 すっと、何事もなかったかのようにユナの契約精霊が空気に溶ける。
 その炎の残滓は、精霊王の身に纏う炎の一つとなり、その場から消えた。

「ああ……っ」

 悲痛な声を上げたのは風花だった。
 その場の皆、何が起きたのか理解すら出来ずに、ただ沈黙する。
 ユナだけはきょろきょろと辺りを見渡し、契約精霊の姿を探していた。

「な、なんで消えた?! 契約が……っ契約がない……っ」
《幼な子は炎に還した。二度と同じものは生まれぬ》
「そんな……」

 その言葉に全てを理解する。
 あの契約精霊は、風花を攻撃した。
 故に、精霊王の手で、消されたのだと。

「まだ、生まれたばっかりだったのに……っ」
《同胞よ、そなたは優しすぎる。王とは、秩序を守るものぞ》
「でも……っ」
《その身に何かあれば、秩序が乱れるのだ。忘れるな》

 そうして啜り泣く風花を残して、精霊王は跡形もなく空気に溶けた。
 ライルは風花を抱きしめて、その存在を腕で確かめて、そっとその場を後にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

透けるほどうすい/溶けるほどあつい

鴻上縞
BL
 日々何をするでもなく適当に生きていた真柴久志が知人の紹介で入った会社で真柴の教育係になった堂前哲は、仕事は出来るが口調は荒く乱暴で無愛想な取っ付きづらい男だった。しかし歓迎会の席で明かされた哲の驚くべき過去は、真柴の若い好奇心を掻き立てた。  歓迎会の後、真柴は好奇心を抑えきれず、酔に任せて哲に手を出してしまう。  一夜明けて酔いが覚め、気まずさを抱え一応謝罪をしたものの、哲の態度が負けず嫌いな真柴に火を付けて────。  足場鳶職人達の、身体から始まる軽薄で微かに純情な恋物語。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)
BL
たとえ、君が覚えていなくても。たとえ、僕がすべてを忘れてしまっても。それでもまた、君に会いに行こう。きっと、きっと…… 帯刀を許された武士である弥生は宴の席で美しい面差しを持ちながら人形のようである〝ゆきや〟に出会い、彼を自分の屋敷へ引き取った。 生きる事、愛されること、あらゆる感情を教え込んだ時、雪也は弥生の屋敷から出て小さな庵に住まうことになる。 そこに集まったのは、雪也と同じ人の愛情に餓えた者たちだった。 そして彼らを見守る弥生たちにも、時代の変化は襲い掛かり……。 もう一度会いに行こう。時を超え、時代を超えて。 「男子大学生たちの愉快なルームシェア」に出てくる彼らの過去のお話です。詳しくはタグをご覧くださいませ!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...