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魔王の卵
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しおりを挟む「な……っ」
その光景に目を疑って、声を上げたのはライルだけではなかった。
風花がライルの腕の中で小さく駄目、駄目、と呟いている。
目の前に突如現れた獅子。
燃える鬣が神聖さを伴って、その場を支配する。
脳に直接響くこの声は、この獅子の声なのか。
契約もしていない精霊の声が聞こえる事実に、ライルはぞわりと背中を震わせた。
《幼な子よ。血迷ったか。まだ、理を知らぬか》
《》
ユナの契約精霊は、獅子の言葉に床に這いつくばって体を震わせていた。
皆に聞こえているのは、獅子の声だけである。
異常な事態に適応出来ず、その場の空気は一気に膠着した。
「えっ精霊王?!」
契約精霊の声を聞いたのか、ユナが驚愕の声を上げる。
精霊王。
それが意味するところは。
《如何にも。炎の精霊王である》
獅子はゆるりと炎を巻いて、ぐぐっとその形を変えた。
脚だけが獣の形をした、人の姿である。
炎を孕みうねる長い髪に、炎の衣服。
二足で降り立ったその偉丈夫は、荘厳以外の何者でもない。
「お願い、許してあげて」
その精霊の王に語りかけるのは、腕の中の風花である。
風花は悔しげに唇を噛んで、人外の王に懇願していた。
《同胞よ。看過できぬ。我が眷属は過ちを犯した》
「でも……っまだその子は」
《出来ぬ。その身に対した害はないとて、秩序は秩序である》
当然のように会話を始めた風花と精霊王に、割り込めるほど、ライルは無茶ではなかった。
《》
また何かをユナの契約精霊が叫び、潰れるほどにその場に伏せた。
《幼な子よ。そなたは禁を犯した。ゆえに、還らねばならぬ》
「な、なんだよ! 禁って!」
《人の身には関係ない。これは、精霊の理》
騒ぎ立てるユナを一瞥し、精霊王は腕を小さく一振りした。
すっと、何事もなかったかのようにユナの契約精霊が空気に溶ける。
その炎の残滓は、精霊王の身に纏う炎の一つとなり、その場から消えた。
「ああ……っ」
悲痛な声を上げたのは風花だった。
その場の皆、何が起きたのか理解すら出来ずに、ただ沈黙する。
ユナだけはきょろきょろと辺りを見渡し、契約精霊の姿を探していた。
「な、なんで消えた?! 契約が……っ契約がない……っ」
《幼な子は炎に還した。二度と同じものは生まれぬ》
「そんな……」
その言葉に全てを理解する。
あの契約精霊は、風花を攻撃した。
故に、精霊王の手で、消されたのだと。
「まだ、生まれたばっかりだったのに……っ」
《同胞よ、そなたは優しすぎる。王とは、秩序を守るものぞ》
「でも……っ」
《その身に何かあれば、秩序が乱れるのだ。忘れるな》
そうして啜り泣く風花を残して、精霊王は跡形もなく空気に溶けた。
ライルは風花を抱きしめて、その存在を腕で確かめて、そっとその場を後にした。
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