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第1章
決断しないといけない
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鳴動し、部分的に崩落を始めた古代遺跡群の上空を、俺たちはリンドの背に乗って飛んでいた。眼下では、地面に亀裂が走り、いくつかの建造物が不気味な光を放ち、そして森の方角へ逃げていく騎士団兵たちの混乱した姿が見える。夕暮れの赤い光が遺跡を染め上げ、まるで世界が終わる前触れのような、壮絶で不吉な光景だった。
「リンド、もう少しだ! あそこの丘の上まで!」
リンドは左翼に負った深手を堪えながら、必死に翼を動かし、俺が指示した遺跡外周部にある小高い丘を目指す。そこには、以前偵察した際に確認しておいた、比較的しっかりした構造の古い見張り台の廃墟があった。
なんとか丘の上にたどり着き、リンドは荒い息をつきながら着陸した。俺はすぐにリンドの背から飛び降り、プルと共に彼の治療を開始する。
『すまない……主よ……少し、力を使いすぎたようだ……』
テレパシーで送られてくるリンドの声は弱々しい。氷刃の一撃と、覚醒の反動、そして無理な飛行が重なり、彼の消耗は限界に近かった。
「喋るな、リンド! 今、治すから!」
俺は【収納∞】から最高級ポーションと、ボルガン親方に分けてもらっていたドワーフ秘伝の傷薬を取り出し、リンドの翼の傷口に惜しみなく注ぎ込む。プルも隣で、小さな体から精一杯の回復魔力を送り続けていた。幸い、覚醒したリンドの生命力は驚異的で、出血は止まり、傷口もゆっくりとだが塞がり始めていた。
リンドの治療に集中しながらも、俺はこの遺跡の異変について考えていた。一体、何が起こっているんだ? リンドの覚醒が引き金になったのか? それとも、中央神殿の封印そのものに異常が? 騎士団が何か余計なことをした可能性も捨てきれない。
(守人は、この事態を予期していたのか……?)
考え込んでいると、まるでその思考に応えるかのように、音もなく、遺跡の守人が俺たちの前に姿を現した。彼は鳴動する遺跡にも全く動じていない様子で、静かに俺たち、特に治療を受けているリンドを見つめていた。
「……やはり、目覚めは始まったか。古き竜の力が、この遺跡そのものを揺り動かし始めたのやもしれぬな」
守人は独り言のように呟いた。
「守人さん! これは一体どういうことなんですか!? この遺跡は崩壊してしまうんじゃ…?」
俺が問い詰めると、守人はゆっくりと首を振った。
「崩壊ではない。……これは、変革の兆しだ。長き眠りについていた遺跡の力が、若き竜の覚醒に呼応し、活性化を始めたのやもしれぬ。あるいは……中央神殿の封印が、限界を迎えつつあるのかもしれん」
「封印の限界……!?」
「うむ。あの封印は、古代の竜が自らの魂と引き換えに施したもの。だが、永遠ではない。ましてや、外の世界で『星霜の結晶』の力…すなわち竜の力の欠片が悪用されれば、封印のバランスは崩れる。今回の『鉄の者たち』の侵入と、若き竜の覚醒が、その引き金を引いてしまったのかもしれぬ」
守人の言葉は衝撃的だった。この遺跡の異変は、俺たちだけの問題ではなく、中央神殿の封印、ひいては世界の危機に直結している可能性があるということか。
「では、俺たちはどうすれば……」
「道は二つ」
守人は静かに言った。
「一つは、この危険な遺跡から速やかに立ち去ることだ。封印がどうなろうと、世界の危機が訪れようと、己の身の安全を優先する道」
それは、ある意味で最も合理的な選択かもしれない。だが……。
「もう一つは、この遺跡に留まり、変革に立ち向かう道だ。若き竜を真に覚醒させ、その力をもって封印を安定させるか、あるいは……来るべき厄災に備えるか。それは、世界の運命を左右するかもしれぬ、茨の道となるだろう」
守人は俺の目をじっと見つめた。その瞳には、試すような色が浮かんでいる。
「若き竜とその主よ、そなたたちはどちらの道を選ぶ?」
選択を迫られた。逃げるか、立ち向かうか。
俺は、傷つきながらも懸命に回復に努めるリンドを見た。心配そうに俺を見上げるプルを見た。そして、アッシュ村で、ドワーダルで出会った人々の顔を思い浮かべた。追放され、全てを失った俺に、新たな居場所と仲間を与えてくれた、この世界。
答えは、もう決まっていた。
「俺たちは……」
俺は守人に向き直り、覚悟を決めた声で、口を開こうとした――。
「リンド、もう少しだ! あそこの丘の上まで!」
リンドは左翼に負った深手を堪えながら、必死に翼を動かし、俺が指示した遺跡外周部にある小高い丘を目指す。そこには、以前偵察した際に確認しておいた、比較的しっかりした構造の古い見張り台の廃墟があった。
なんとか丘の上にたどり着き、リンドは荒い息をつきながら着陸した。俺はすぐにリンドの背から飛び降り、プルと共に彼の治療を開始する。
『すまない……主よ……少し、力を使いすぎたようだ……』
テレパシーで送られてくるリンドの声は弱々しい。氷刃の一撃と、覚醒の反動、そして無理な飛行が重なり、彼の消耗は限界に近かった。
「喋るな、リンド! 今、治すから!」
俺は【収納∞】から最高級ポーションと、ボルガン親方に分けてもらっていたドワーフ秘伝の傷薬を取り出し、リンドの翼の傷口に惜しみなく注ぎ込む。プルも隣で、小さな体から精一杯の回復魔力を送り続けていた。幸い、覚醒したリンドの生命力は驚異的で、出血は止まり、傷口もゆっくりとだが塞がり始めていた。
リンドの治療に集中しながらも、俺はこの遺跡の異変について考えていた。一体、何が起こっているんだ? リンドの覚醒が引き金になったのか? それとも、中央神殿の封印そのものに異常が? 騎士団が何か余計なことをした可能性も捨てきれない。
(守人は、この事態を予期していたのか……?)
考え込んでいると、まるでその思考に応えるかのように、音もなく、遺跡の守人が俺たちの前に姿を現した。彼は鳴動する遺跡にも全く動じていない様子で、静かに俺たち、特に治療を受けているリンドを見つめていた。
「……やはり、目覚めは始まったか。古き竜の力が、この遺跡そのものを揺り動かし始めたのやもしれぬな」
守人は独り言のように呟いた。
「守人さん! これは一体どういうことなんですか!? この遺跡は崩壊してしまうんじゃ…?」
俺が問い詰めると、守人はゆっくりと首を振った。
「崩壊ではない。……これは、変革の兆しだ。長き眠りについていた遺跡の力が、若き竜の覚醒に呼応し、活性化を始めたのやもしれぬ。あるいは……中央神殿の封印が、限界を迎えつつあるのかもしれん」
「封印の限界……!?」
「うむ。あの封印は、古代の竜が自らの魂と引き換えに施したもの。だが、永遠ではない。ましてや、外の世界で『星霜の結晶』の力…すなわち竜の力の欠片が悪用されれば、封印のバランスは崩れる。今回の『鉄の者たち』の侵入と、若き竜の覚醒が、その引き金を引いてしまったのかもしれぬ」
守人の言葉は衝撃的だった。この遺跡の異変は、俺たちだけの問題ではなく、中央神殿の封印、ひいては世界の危機に直結している可能性があるということか。
「では、俺たちはどうすれば……」
「道は二つ」
守人は静かに言った。
「一つは、この危険な遺跡から速やかに立ち去ることだ。封印がどうなろうと、世界の危機が訪れようと、己の身の安全を優先する道」
それは、ある意味で最も合理的な選択かもしれない。だが……。
「もう一つは、この遺跡に留まり、変革に立ち向かう道だ。若き竜を真に覚醒させ、その力をもって封印を安定させるか、あるいは……来るべき厄災に備えるか。それは、世界の運命を左右するかもしれぬ、茨の道となるだろう」
守人は俺の目をじっと見つめた。その瞳には、試すような色が浮かんでいる。
「若き竜とその主よ、そなたたちはどちらの道を選ぶ?」
選択を迫られた。逃げるか、立ち向かうか。
俺は、傷つきながらも懸命に回復に努めるリンドを見た。心配そうに俺を見上げるプルを見た。そして、アッシュ村で、ドワーダルで出会った人々の顔を思い浮かべた。追放され、全てを失った俺に、新たな居場所と仲間を与えてくれた、この世界。
答えは、もう決まっていた。
「俺たちは……」
俺は守人に向き直り、覚悟を決めた声で、口を開こうとした――。
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