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第二章『黒猫と炎龍』

冒険者査定 7

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不意を突かれてしまったが、邪魔なインプは全て片付けた。

肩に刺さった矢を引き抜くと血が噴き出るが、半竜の体にとってこの程度はかすり傷と同じで、実際、矢尻は皮膚を貫いただけで筋肉にすら届いていない。


引き抜いた矢を体に纏う火で燃やし尽くし、俺はスケルトンに向かって走り出す。

飽きもせず突進してくる亀を躱しながら、降り注ぐ矢の雨を武器で蹴散らし、そのままの勢いで狼狽え出したスケルトンの群れに突っ込んだ。



「『火竜薙尾かりゅうていび』!!!」



骨すら一瞬で灰燼へと変える程の高温の炎を大剣に纏わせ、敵陣の中心で体の周りをぐるりと薙ぐように振り回せば、炎熱が輪のように大きく広がり、周囲の一切を纏めて焼き払う。

スケルトンは全て音もなく灰になって消し飛んだ。残りはまたもや突進を繰り出して来ている亀か。


力を込めると、技を放って炎を吐き出しきった大剣の刀身はは再び赤い炎に包まれ、俺はまっすぐ突進して来た亀を見据えつつ、高く跳んだ。



「『 火竜襲爪かりゅうしゅうそう』!!!」



全力を剣に込め、重力も味方につけて真下に来た亀の甲羅へ思い切り叩きつける。

この亀の甲羅は並の武器ならば逆に折られてしまうぐらいの硬度だろうが、俺のアーティファクトはそんなヤワなものではない。

高火力の炎と、重力と、剣の重みと、俺の渾身の力によって亀は甲羅ごと縦に両断され……


……る寸前に突然手応えが消え去り、ドゴォ!!!という爆音と共に競技エリアの地面に大きな凹みを作り出した。

土で出来た地面が裂け、地面の下にも張り巡らされている結界が見える。

と、競技エリアを包んでいた結界が解けるように消え、ユカがやって来て言った。



「時間切れです」

「マジかよ……ぜってー次行けたと思ったのに」

「非常に惜しかったですね。素晴らしい戦いでした。結果は後日、ギルド窓口にて通達があります」

「了解。ありがとよ」



ユカは無表情のまま、こくりと頷いた。

淡々とした雰囲気はシロに似たものがあるが、どうにも彼女には近寄り難い堅苦しい雰囲気がある。



「あんた、多分笑ったらすげぇ可愛いのにな……あ、悪ィ」

「な……!?」



うっかり思っていたことが口から滑り落ちてしまい、慌てて口を押さえ、謝罪したが、しっかり聞いてしまったらしいユカは頬を赤らめて驚いた顔を見せた。

なんだ、人間らしい顔もするじゃねーか。

と謎に安堵した時、突如何かに背中をポンポンと叩かれた。

振り返るとシロが少し困ったような顔で立っていた。



「レオン、女性に対して今の言葉は一歩間違えるとセクシャル・ハラスメントという行為に該当してしまうかもしれないよ。だめだよ」

「し、シロ……そうだよな。思ったこと言っちまうのは俺の悪い癖だ。ごめんなユカ」

「あの……いえ、気にしてませんし……可愛い……ですか、私」

「まーーーた女の子困らせてるの?」



いつの間にか後ろに立って俺を諌めるシロに続いて、アイリスが近づいて来て俺を茶化し始めた。



「シロっていう唯一無二が居ながら、他の可愛い女の子引っ掛けるなんてサイテー」

「アホ!そんなつもりじゃねー!俺にはシロだ……け……ぐぅ……何でもねぇ!!!」

「うん、そうだね。僕以外って僕じゃないよ。ふふ、僕が他にも居たらドッペルゲンガーかも」



アホアイリスのおかげでまた余計な事をうっかり口走ってしまったが、シロが全く意味を理解していない様子で安心した。

というか、どっぺるげんがーって何なんだ?

そんなことを考えながらもユカの方を見ると、彼女は赤い顔で少しムスッとしていた。



「はぁ……もういいです。レオンさんがシロさん命なのはギルドの全員が知ってる事なので。私は予想外の言葉に少し驚いただけです。あと個人的にはお二人のこと応援していますし眺めている方が楽しいです。でもあんまりあのような言葉を依頼者様の元などで口にしたりしないようにして下さい。苦情や問い合わせが来たりしたら事務員の余計な仕事が増えますから」

「ご、ごめんなさい」

「レオンがこんな風に謝ってるの初めて見た」

「ユカさんとはいいお酒が飲めそう。後で一杯やりましょ」



そんなこんなで、全員分の査定が無事終了し、気がつけばすっかり夜中になっていた。

その後、俺たちは訓練場から出て各々好きに時間を過ごした後、ギルドの二階に借りている自室へ戻って行った。
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