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異国の女剣客編
第9部分 初クエストに出発
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クエスト内容
オーガの二体討伐
報酬50万メダ
期限三日
条件三人以上のパーティで銀階級の冒険者がパーティにいること。
クエスト内容はこんな感じだった。
ギルドに入ったばかりで報酬の相場はよく分かっていないが、三人で割れば一人15万メダ以上、それが三日で手に入るのだから効率がいい。
「ハヤテは勘違いしている」とリザに指摘された。
「期限っていうのは、クエストが張り出されてから無効になるまでのこと。それと報酬は信用がない限り、後払いだからクエストに失敗したら、何日費やしても報酬はゼロ。クエスト中に怪我をしたり、死亡したりしても手当ては出ない」
「厳しい世界だな。それに旅費は実費だし」
「ハヤテの世界が充実しすぎていただけ」
正門前で待っているとアイスさんがやって来た。
「お待たせして、すいません」
「俺たちも今来たところです。それよりも防具は着けないんですか?」
アイスさんはギルドで会った時と同じ着物姿だった。
荷物も風呂敷を一つ、それに長さ違いの刀を二本持っているだけだった。
「この服は蚕の糸で編まれているんです」
「えっとどういうことですか?」
アイスさんの言いたいことが分からずに俺はキョトンとしてしまった。
蚕なら知っている。
その糸から衣服が作れることも、子供の頃に行った製糸場で聞いたことがある。
「そうでしたね、こっちの人は蚕の糸を知りませんよね。この服は優れた防御性能を持ているんです。その辺の剣じゃ斬れませんし、矢だって通りません。各魔法攻撃の耐性もあります」
…………それ、俺の知っている蚕の糸と違う。
「たぶん、蚕の糸に魔法が編み込まれている」
俺の疑問をリザが説明する。
「東方同盟は武具の製造技術が高い。特にアイスのいた島国の民は優秀だって聞いたことがある」
「リザちゃんは、詳しいですね」
「別に詳しくない。全部聞いた話、実物を見るのは初めて」
そういう物もあるのか。
普段着としても使えて、それでいて防御性能も高いというのは魅力的だ。
鎧は重いし、ガチャガチャという音が結構気になる。
余裕が出来たら、俺も欲しいな。
「その着物が防具みたいなものだということは分かりました。それじゃ、クエストに出発しますか」
俺が歩き始めると、
「待ってください。歩いて依頼のあった村まで行くつもりですか? 一日以上かかりますよ。お金なら私が出しますから、行商人に頼みましょう」
「えっと、歩くのは最初だけです。その後は考えがあります」
「考え? 聞いてもいいですか?」
「多分、見ないと信じてもらえません。でも、ここは街が近いから避けたいんです」
こんな街の近くでワイバーンを召喚したら、大騒ぎになるだろう。
「…………何か考えがあるのは分かりました。信頼するのも仲間には必要ですよね」
「理解してくれてありがとうございます」
俺は心配そうなアイスさんを連れて、街を離れた。
「さて、この辺までくればいいかな、召喚盤を展開、そしてカードを二枚ドロー。リザをリンク! ワイバーンを召喚!」
ワイバーンを見たアイスさんは咄嗟に刀に手をかけていた。
俺は慌てて、
「大丈夫です。こいつは俺のしもべですから!」
俺がワイバーンの頭を撫でるとアイスさんは警戒を解いた。
「驚きました。ハヤテさんはあまり強そうに見えなかったので心配だったのですけど、魔物使いだったんですね」
なんかさらっと失礼なことを言われた気がする。
「魔物使いとは違うんだけど、モンスターを使役して戦うところは同じですかね」
「それにしてもワイバーンですか。低級とはいえ、ドラゴン、最強種の一角を従えるなんて凄いです。魔法陣が見当たらないのですけど、それが召喚に使った魔具ですか?」
アイスさんは召喚盤を覗き込んだ。
「んっ? ワイバーンの絵の札ともう一枚、リザちゃんの書かれた札が置かれています」
「ああ、これは…………」
正直に話すか迷っていると隣でリザが
「ここに私のカードが置かれている時、ハヤテと私は繋がっている。ハヤテのモンスターの召喚にはそれが必要。つまりハヤテと私は一心同体」
リザはドヤ顔をしていた。なんでここでマウントを取りに来たんだよ。
「それってこの札がある限り、ハヤテさんがリザを所有しているみたいじゃないですか?」
アイスさんは俺を睨んでくる。
あっ、多分ヤバイ。
「私はあまりこちらの文化に異を唱えたくありませんが、奴隷という制度は如何なものかと思います。私の母国、ジンブでは人間も亜人も平等に暮らしています。全ての偏見がないとは言いません。しかし、西方連合に比べれば、マシです」
それを言われると言い返せない。
俺がリザを一方的に使役しているのは事実だ。
「アイス、それは言い過ぎ。私が怒る」
「リザちゃん?」
「ハヤテは奴隷だった私を解放してくれた。武器をくれた。居場所をくれた。私はハヤテを理解しているし、ハヤテは私を理解している。だから、私は望んでカードを差し出した」
「それはリザちゃんがそういう生き方しか知らないからじゃないですか?」
「違う。アイスが思っている以上に、私は理解している。その上で私はハヤテを選んだ。今日、出会ったばかりのアイスが口出しするのが間違い」
「………………」
リザは敵意を剝き出しにする。
「リ、リザさん、そろそろ止まってくれるかな!? これからクエストなのに喧嘩をする気か!」
「望むところ」
望むな!
「………………いえ、私が悪いです。偏見で物事を言い過ぎました。もっとお二人を見てから、話すべきでした」
アイスさんが頭を下げる。温厚かつ、柔軟な人で助かった。
「アイスさん、これだけは信じてほしい。俺はリザをモノ扱いしません。大切な仲間だと思っています」
「分かりました」とアイスさんは笑う。
喧嘩にならなくて本当によかった。
「じゃあ、改めて行きましょう。そういえば、高いところは大丈夫ですか?」
「問題ありません」
俺たちはワイバーンに乗って、クエスト依頼のあった村に向かった。
オーガの二体討伐
報酬50万メダ
期限三日
条件三人以上のパーティで銀階級の冒険者がパーティにいること。
クエスト内容はこんな感じだった。
ギルドに入ったばかりで報酬の相場はよく分かっていないが、三人で割れば一人15万メダ以上、それが三日で手に入るのだから効率がいい。
「ハヤテは勘違いしている」とリザに指摘された。
「期限っていうのは、クエストが張り出されてから無効になるまでのこと。それと報酬は信用がない限り、後払いだからクエストに失敗したら、何日費やしても報酬はゼロ。クエスト中に怪我をしたり、死亡したりしても手当ては出ない」
「厳しい世界だな。それに旅費は実費だし」
「ハヤテの世界が充実しすぎていただけ」
正門前で待っているとアイスさんがやって来た。
「お待たせして、すいません」
「俺たちも今来たところです。それよりも防具は着けないんですか?」
アイスさんはギルドで会った時と同じ着物姿だった。
荷物も風呂敷を一つ、それに長さ違いの刀を二本持っているだけだった。
「この服は蚕の糸で編まれているんです」
「えっとどういうことですか?」
アイスさんの言いたいことが分からずに俺はキョトンとしてしまった。
蚕なら知っている。
その糸から衣服が作れることも、子供の頃に行った製糸場で聞いたことがある。
「そうでしたね、こっちの人は蚕の糸を知りませんよね。この服は優れた防御性能を持ているんです。その辺の剣じゃ斬れませんし、矢だって通りません。各魔法攻撃の耐性もあります」
…………それ、俺の知っている蚕の糸と違う。
「たぶん、蚕の糸に魔法が編み込まれている」
俺の疑問をリザが説明する。
「東方同盟は武具の製造技術が高い。特にアイスのいた島国の民は優秀だって聞いたことがある」
「リザちゃんは、詳しいですね」
「別に詳しくない。全部聞いた話、実物を見るのは初めて」
そういう物もあるのか。
普段着としても使えて、それでいて防御性能も高いというのは魅力的だ。
鎧は重いし、ガチャガチャという音が結構気になる。
余裕が出来たら、俺も欲しいな。
「その着物が防具みたいなものだということは分かりました。それじゃ、クエストに出発しますか」
俺が歩き始めると、
「待ってください。歩いて依頼のあった村まで行くつもりですか? 一日以上かかりますよ。お金なら私が出しますから、行商人に頼みましょう」
「えっと、歩くのは最初だけです。その後は考えがあります」
「考え? 聞いてもいいですか?」
「多分、見ないと信じてもらえません。でも、ここは街が近いから避けたいんです」
こんな街の近くでワイバーンを召喚したら、大騒ぎになるだろう。
「…………何か考えがあるのは分かりました。信頼するのも仲間には必要ですよね」
「理解してくれてありがとうございます」
俺は心配そうなアイスさんを連れて、街を離れた。
「さて、この辺までくればいいかな、召喚盤を展開、そしてカードを二枚ドロー。リザをリンク! ワイバーンを召喚!」
ワイバーンを見たアイスさんは咄嗟に刀に手をかけていた。
俺は慌てて、
「大丈夫です。こいつは俺のしもべですから!」
俺がワイバーンの頭を撫でるとアイスさんは警戒を解いた。
「驚きました。ハヤテさんはあまり強そうに見えなかったので心配だったのですけど、魔物使いだったんですね」
なんかさらっと失礼なことを言われた気がする。
「魔物使いとは違うんだけど、モンスターを使役して戦うところは同じですかね」
「それにしてもワイバーンですか。低級とはいえ、ドラゴン、最強種の一角を従えるなんて凄いです。魔法陣が見当たらないのですけど、それが召喚に使った魔具ですか?」
アイスさんは召喚盤を覗き込んだ。
「んっ? ワイバーンの絵の札ともう一枚、リザちゃんの書かれた札が置かれています」
「ああ、これは…………」
正直に話すか迷っていると隣でリザが
「ここに私のカードが置かれている時、ハヤテと私は繋がっている。ハヤテのモンスターの召喚にはそれが必要。つまりハヤテと私は一心同体」
リザはドヤ顔をしていた。なんでここでマウントを取りに来たんだよ。
「それってこの札がある限り、ハヤテさんがリザを所有しているみたいじゃないですか?」
アイスさんは俺を睨んでくる。
あっ、多分ヤバイ。
「私はあまりこちらの文化に異を唱えたくありませんが、奴隷という制度は如何なものかと思います。私の母国、ジンブでは人間も亜人も平等に暮らしています。全ての偏見がないとは言いません。しかし、西方連合に比べれば、マシです」
それを言われると言い返せない。
俺がリザを一方的に使役しているのは事実だ。
「アイス、それは言い過ぎ。私が怒る」
「リザちゃん?」
「ハヤテは奴隷だった私を解放してくれた。武器をくれた。居場所をくれた。私はハヤテを理解しているし、ハヤテは私を理解している。だから、私は望んでカードを差し出した」
「それはリザちゃんがそういう生き方しか知らないからじゃないですか?」
「違う。アイスが思っている以上に、私は理解している。その上で私はハヤテを選んだ。今日、出会ったばかりのアイスが口出しするのが間違い」
「………………」
リザは敵意を剝き出しにする。
「リ、リザさん、そろそろ止まってくれるかな!? これからクエストなのに喧嘩をする気か!」
「望むところ」
望むな!
「………………いえ、私が悪いです。偏見で物事を言い過ぎました。もっとお二人を見てから、話すべきでした」
アイスさんが頭を下げる。温厚かつ、柔軟な人で助かった。
「アイスさん、これだけは信じてほしい。俺はリザをモノ扱いしません。大切な仲間だと思っています」
「分かりました」とアイスさんは笑う。
喧嘩にならなくて本当によかった。
「じゃあ、改めて行きましょう。そういえば、高いところは大丈夫ですか?」
「問題ありません」
俺たちはワイバーンに乗って、クエスト依頼のあった村に向かった。
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