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異国の女剣客編
第12部分 介錯してください
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次の日、目が覚めると部屋にはリザしかいなかった。
昨日の酒のせいで少し頭が痛い。喉も焼けていたので井戸に向かった。
「あっ、おはようございます」
そこでアイスさんに会った。
「おはようございます」
普通のアイスさんに戻っていた。
あれ、昨日のこと、覚えていないのか?
まぁ、かなり飲んでいたし、無理もないか。
「髪が濡れてるみたいですけど?」
「沐浴をしていました。丁度良かったです。ハヤテさん、一つ頼まれてくれますか?」
アイスさんは時代劇に出てくるような白い着物を着ていた。
「僕に出来る事ならいいですよ」
「簡単です。これで斬って欲しいのです」
アイスは普段使っている愛刀を渡した。
「切れ味は保証します」
「でも何を斬るんですか? それに俺がやるよりアイスさんがやった方が良いんじゃないんですか?」
「あはは、それは無理です。自分で自分の首は落とせません」
アイスさんは笑いながら、軽い口調で言う。
え? あ?? はい??
「こっちに準備は出来ています」
ん~~~~??????
案内された先に時代劇みたいなセットが用意されていた。
野外に畳が置かれ、畳の上には白い布が敷かれている。
よくこんなもの用意できたな!
あの風呂敷の中に入って入っていたのか?
あの風呂敷は四次元風呂敷なのかよ!
って、一番の突っ込みどころはそこじゃない!!!
「えっと、私がまず腹を横に斬って、その後に縦に斬ります。十文字割が出来たら、首を落としてください。分かりましたか?」
「分かってたまるか!!!」
アイスさんに詰め寄る。
「死なせてください…………」
「はい?」
「あんな恥辱を晒して、生きていけません!! ハヤテさんにも迷惑を掛けました!!」
記憶飛んでなかった~~~~
「…………どれくらい覚えています?」
「調子に乗って飲み過ぎたこと。ハヤテさんの手を借りて部屋に戻ったこと。ほぼ全裸でハヤテさんに馬乗りになったこと。吐いたこと。その後、リザちゃんが服を着せようとしたのに私が暴れて、ハヤテさんが申し訳なさそうに私を捕まえて、その時に…………」
「もういいです!! 要は全部、覚えているんですね!!」
「こんな醜態を晒して、もう生きていけません」
「落ち着いてください。若い時に酒の失敗はありますよ。俺は気にしませんから」
「これでも悩んだんです。切腹するか、ハヤテさんを殺すか」
「おいぃぃぃ! なに物騒な迷い方してんだ! しかもなんで俺だけ!?」
「だって、父上以外の男性の方に裸を見られたのは初めてだったんです。初めてがお酒の勢いなんてふしだらです!」
「変な言い方するな! 裸を見た以外、何もなかったでしょ!?」
「裸を見た以外!? 私からしたら、大問題です」
俺はアイスさんに押し倒れた。
また馬乗りかよ!
「アイスさん、落ち着いてください!」
「ハヤテさんを殺して、私も死にます!」
なんか悪化してる!
「もしくは私を貰ってください、共に生きましょう!」
両極端過ぎる!!
「離れろ、メンヘラ」
リザの声がした。
直後、ゴン、という鈍い音がする。
リザが抜いていない短剣でアイスさんの後頭部を叩いた。
アイスさんが怯んだ隙に逃げ出し、リザの後ろに回る。
情けないことをしている自覚はある。
「少し優しくされただけで惚れるとかヤバい奴だ。ハヤテもそう思うだろ?」
「どっかのハーフエルフは肉をあげたら、懐いた気がするけど…………」
「そのハーフエルフは例外」
自分のことは堂々と棚に上げやがった。
「リザちゃん、どいてくれますか?」
そいつ殺せない、という幻聴が聞こえてきそうだ。
「どいたら、ハヤテの命か、貞操が危ない」
「じゃあ、一戦、申し込みます」
アイスさんはさっきのドタバタで手元に戻した刀を抜刀した。
「上等、返り討ちにする」
リザは弓を構えた。
ちょっと君たち本気!?
「魔法付与の矢(水)『時雨』」
リザの放った矢は水になり、分散する。
「魔導陰流守法ノ三『オウミョウギ』」
リザの放った水の矢をアイスさんは打ち落とした。
何こんなところで大技っぽいので応酬しているの!?
「やりますね」
「リザちゃんも」
二人の戦闘は続く。
「騒がしいと思ったら、鍛錬か」
騒ぎに気が付いた村長さんがやって来た。
「すいません、すぐに止めますから!」
「いやいや、二人とも実に楽しそうだ」
「えっ?」
言われてみると二人とも楽しそうだった。
「青春だね。若い時にしかできないこともある」
思えば、二人は少し年が違うが同世代で、同性だ。しかも多分、同世代に友達と呼べる人はいなかった。素直にうれしいのかもしれない。
「それにハヤテ君も若いな」
「はい?」
俺はアラサーですけど?
「昨日は随分とお楽しみだったようで」
「…………」
村長さん、それ、村長の台詞じゃないから宿屋の店主の台詞だから、多分。実際、あのゲームやってないから元ネタを確認してないんだよな。
「すいません、本当は死ぬつもりはなかったんです」
ある程度満足した二人は戦いを止めた。
そして、アイスさんが俺の前で土下座する。
「朝起きたら、ハヤテさんが何もなかったかのように寝ていて、だから注目してほしくなって…………」
リザのメンヘラっていうのは的を射ていた。
「じゃあ、切腹は冗談だったんですね」
俺は少し安心した。
「内臓を傷付けるつもりはありません。ちょっとお腹に線が入るくらいにするつもりでした。多分、ハヤテさんは斬首しないと思っていましたし」
俺はかなり恐怖した。
そんなリストカット感覚で切腹するな!
「お願いします。見捨てないでください。私、やっと言葉が通じる人に出会えたんです」
アイスさんの気持ちも少し理解できる。知らない土地で頼れる人がいない不安だ。
俺だってリザと出会わなければ、ここまでトントン拍子で物語が進んでいなかった。
「信用できないなら、奴隷にして頂いても構いません。むしろ、奴隷にして頂いたほうが必要とされていることを実感できて、安心できるかもしれません」
なぜ笑いながら、そんなことを言える?
アイスさんの気持ちの大半は理解できない。やっぱり怖いよ、この子。
「ハヤテ、本人が望んでいるから私がされてた奴隷の首輪、アイスにしたら?」
「しないよ。奴隷にする気は全くないから! アイスさんも安心してください。アイスさんは強いですし、俺もこの先、三人でやって行きたいです。その方がクエストも効率よく受注できますから」
「私の強さとか、人数の関係で必要なだけなんですね」
あ~~、またメンヘラが発動してる。
「も、もちろん、一番の理由はアイスさん自身が魅力的だからですよ!」
慌てて付け加えた。
「そんなお世辞を言われても何とも思いませんからね」
アイスさんは顔がにやけていた。
「メンヘラチョロイン」
リザが俺にだけ聞こえるようにボソッと言った。
「はぐれオーガが出現する原因か…………」
朝食の時、村長さんに尋ねてみる。
「はい、今回のオーガは二体だけで、しかも痩せていました。何かの原因があったからだと思うんです」
「考えられるとしたら、ただ群れから逸れてしまったか。オーガでは太刀打ちできない脅威に土地を追われたかだな」
「オーガの脅威になるとしたら、何でしょうか?」
「それは見当がつかない。我々からすれば、脅威だが魔物の中では下位の存在だ。オーガより強い魔物などいくらでもいる。ただ、オーガはある程度、群れで行動する。群れなら、オークなどを襲うほどの戦闘力と凶暴性を持っているんだ」
「なるほど分かりました。一応、今回の件、オーガを倒して終わりでないことだけ伝えておきますね」
「分かったよ。もし、何か異変があったら、すぐにまた、依頼をする。今度は君たちを指名したいね」
「ありがとうございます」
俺は村長に討伐の経緯と可能性を話して、村長の家を後にした。
昨日の酒のせいで少し頭が痛い。喉も焼けていたので井戸に向かった。
「あっ、おはようございます」
そこでアイスさんに会った。
「おはようございます」
普通のアイスさんに戻っていた。
あれ、昨日のこと、覚えていないのか?
まぁ、かなり飲んでいたし、無理もないか。
「髪が濡れてるみたいですけど?」
「沐浴をしていました。丁度良かったです。ハヤテさん、一つ頼まれてくれますか?」
アイスさんは時代劇に出てくるような白い着物を着ていた。
「僕に出来る事ならいいですよ」
「簡単です。これで斬って欲しいのです」
アイスは普段使っている愛刀を渡した。
「切れ味は保証します」
「でも何を斬るんですか? それに俺がやるよりアイスさんがやった方が良いんじゃないんですか?」
「あはは、それは無理です。自分で自分の首は落とせません」
アイスさんは笑いながら、軽い口調で言う。
え? あ?? はい??
「こっちに準備は出来ています」
ん~~~~??????
案内された先に時代劇みたいなセットが用意されていた。
野外に畳が置かれ、畳の上には白い布が敷かれている。
よくこんなもの用意できたな!
あの風呂敷の中に入って入っていたのか?
あの風呂敷は四次元風呂敷なのかよ!
って、一番の突っ込みどころはそこじゃない!!!
「えっと、私がまず腹を横に斬って、その後に縦に斬ります。十文字割が出来たら、首を落としてください。分かりましたか?」
「分かってたまるか!!!」
アイスさんに詰め寄る。
「死なせてください…………」
「はい?」
「あんな恥辱を晒して、生きていけません!! ハヤテさんにも迷惑を掛けました!!」
記憶飛んでなかった~~~~
「…………どれくらい覚えています?」
「調子に乗って飲み過ぎたこと。ハヤテさんの手を借りて部屋に戻ったこと。ほぼ全裸でハヤテさんに馬乗りになったこと。吐いたこと。その後、リザちゃんが服を着せようとしたのに私が暴れて、ハヤテさんが申し訳なさそうに私を捕まえて、その時に…………」
「もういいです!! 要は全部、覚えているんですね!!」
「こんな醜態を晒して、もう生きていけません」
「落ち着いてください。若い時に酒の失敗はありますよ。俺は気にしませんから」
「これでも悩んだんです。切腹するか、ハヤテさんを殺すか」
「おいぃぃぃ! なに物騒な迷い方してんだ! しかもなんで俺だけ!?」
「だって、父上以外の男性の方に裸を見られたのは初めてだったんです。初めてがお酒の勢いなんてふしだらです!」
「変な言い方するな! 裸を見た以外、何もなかったでしょ!?」
「裸を見た以外!? 私からしたら、大問題です」
俺はアイスさんに押し倒れた。
また馬乗りかよ!
「アイスさん、落ち着いてください!」
「ハヤテさんを殺して、私も死にます!」
なんか悪化してる!
「もしくは私を貰ってください、共に生きましょう!」
両極端過ぎる!!
「離れろ、メンヘラ」
リザの声がした。
直後、ゴン、という鈍い音がする。
リザが抜いていない短剣でアイスさんの後頭部を叩いた。
アイスさんが怯んだ隙に逃げ出し、リザの後ろに回る。
情けないことをしている自覚はある。
「少し優しくされただけで惚れるとかヤバい奴だ。ハヤテもそう思うだろ?」
「どっかのハーフエルフは肉をあげたら、懐いた気がするけど…………」
「そのハーフエルフは例外」
自分のことは堂々と棚に上げやがった。
「リザちゃん、どいてくれますか?」
そいつ殺せない、という幻聴が聞こえてきそうだ。
「どいたら、ハヤテの命か、貞操が危ない」
「じゃあ、一戦、申し込みます」
アイスさんはさっきのドタバタで手元に戻した刀を抜刀した。
「上等、返り討ちにする」
リザは弓を構えた。
ちょっと君たち本気!?
「魔法付与の矢(水)『時雨』」
リザの放った矢は水になり、分散する。
「魔導陰流守法ノ三『オウミョウギ』」
リザの放った水の矢をアイスさんは打ち落とした。
何こんなところで大技っぽいので応酬しているの!?
「やりますね」
「リザちゃんも」
二人の戦闘は続く。
「騒がしいと思ったら、鍛錬か」
騒ぎに気が付いた村長さんがやって来た。
「すいません、すぐに止めますから!」
「いやいや、二人とも実に楽しそうだ」
「えっ?」
言われてみると二人とも楽しそうだった。
「青春だね。若い時にしかできないこともある」
思えば、二人は少し年が違うが同世代で、同性だ。しかも多分、同世代に友達と呼べる人はいなかった。素直にうれしいのかもしれない。
「それにハヤテ君も若いな」
「はい?」
俺はアラサーですけど?
「昨日は随分とお楽しみだったようで」
「…………」
村長さん、それ、村長の台詞じゃないから宿屋の店主の台詞だから、多分。実際、あのゲームやってないから元ネタを確認してないんだよな。
「すいません、本当は死ぬつもりはなかったんです」
ある程度満足した二人は戦いを止めた。
そして、アイスさんが俺の前で土下座する。
「朝起きたら、ハヤテさんが何もなかったかのように寝ていて、だから注目してほしくなって…………」
リザのメンヘラっていうのは的を射ていた。
「じゃあ、切腹は冗談だったんですね」
俺は少し安心した。
「内臓を傷付けるつもりはありません。ちょっとお腹に線が入るくらいにするつもりでした。多分、ハヤテさんは斬首しないと思っていましたし」
俺はかなり恐怖した。
そんなリストカット感覚で切腹するな!
「お願いします。見捨てないでください。私、やっと言葉が通じる人に出会えたんです」
アイスさんの気持ちも少し理解できる。知らない土地で頼れる人がいない不安だ。
俺だってリザと出会わなければ、ここまでトントン拍子で物語が進んでいなかった。
「信用できないなら、奴隷にして頂いても構いません。むしろ、奴隷にして頂いたほうが必要とされていることを実感できて、安心できるかもしれません」
なぜ笑いながら、そんなことを言える?
アイスさんの気持ちの大半は理解できない。やっぱり怖いよ、この子。
「ハヤテ、本人が望んでいるから私がされてた奴隷の首輪、アイスにしたら?」
「しないよ。奴隷にする気は全くないから! アイスさんも安心してください。アイスさんは強いですし、俺もこの先、三人でやって行きたいです。その方がクエストも効率よく受注できますから」
「私の強さとか、人数の関係で必要なだけなんですね」
あ~~、またメンヘラが発動してる。
「も、もちろん、一番の理由はアイスさん自身が魅力的だからですよ!」
慌てて付け加えた。
「そんなお世辞を言われても何とも思いませんからね」
アイスさんは顔がにやけていた。
「メンヘラチョロイン」
リザが俺にだけ聞こえるようにボソッと言った。
「はぐれオーガが出現する原因か…………」
朝食の時、村長さんに尋ねてみる。
「はい、今回のオーガは二体だけで、しかも痩せていました。何かの原因があったからだと思うんです」
「考えられるとしたら、ただ群れから逸れてしまったか。オーガでは太刀打ちできない脅威に土地を追われたかだな」
「オーガの脅威になるとしたら、何でしょうか?」
「それは見当がつかない。我々からすれば、脅威だが魔物の中では下位の存在だ。オーガより強い魔物などいくらでもいる。ただ、オーガはある程度、群れで行動する。群れなら、オークなどを襲うほどの戦闘力と凶暴性を持っているんだ」
「なるほど分かりました。一応、今回の件、オーガを倒して終わりでないことだけ伝えておきますね」
「分かったよ。もし、何か異変があったら、すぐにまた、依頼をする。今度は君たちを指名したいね」
「ありがとうございます」
俺は村長に討伐の経緯と可能性を話して、村長の家を後にした。
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