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奪還編

第48部分 北の塔

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 俺たちは『北の塔』呼ばれる場所を探す。

 こんな広い城だ。
 探すのは苦労すると思った。
 
 しかし、それっぽい建物はすぐに発見できた。

 城の北の部分に目立つ建物があった。
 それを見て俺は「バベルの塔みたいだ」と呟く。

 王女様の居場所の見当がついた俺たちは一旦、地下の拠点まで戻る。

「なぜだ。すぐにでもシャルロッテ様を救いに行かないと…………!」

「気持ちは分かります。でも、万全の用意で行きたいんです」

 俺は召喚盤を見せた。

 掘削や探索にソウルポイントを使い、今は2900しかない。

「ここの数字は最大で6000まで回復します。俺はこのポイントを使ってモンスターを召喚しているんです。このポイントは自然回復でしか元に戻りません。時間が必要なんです」

 レリアーナさんはまじまじ召喚盤を見る。

「そんな制限があったのか…………ハヤテ君の力は本当に特殊だな。…………回復までにはどれぐらいかかる?」

「完全に回復するのは真昼間でしょう。しかし、忍び込むなら、夜の方が良いです。奪還作戦は明日の夜決行します」

「…………分かった。焦ってすまない」
「良いんです。早く助けたい気持ちは分かります」
「作戦の決行は明日だな、なら、体を休めるべきだろう」
 レリアーナさんの言葉は最もだ。
 だとしても、こんな地下だと少し気が滅入る。
 空気の流れも悪い。

 俺はカード化していた魔具のいくつかを取り出した。
 毒を無効化する為に購入した空間浄化の魔具。
 光を放つ変わった石『輝石』。

 それに食料も取り出す。

「食べて、休んで、夜を待ちましょう」
 俺たちは交代で休息をとり、夜を待つ。


 そして、夜。

「行きますか」

 俺たちは穴から出て目的の場所を目指す。

「さて、やるか…………」

 見張りが二人いるだけだった。

「『幻惑スライム』頼んだぞ」

 夜の闇に紛れて『幻惑スライム』が見張りのリザードマンに近づく。

『幻惑スライム』は二体に分裂して、リザードマンに襲い掛かった。

 それを確認して、俺たちは塔へと近づく。
 リザードマンたちは催眠状態になっていた。

「質問をするよ。ここは北の塔か?」

「北の塔だ…………」

「この中にロキア王国の王女様はいるか?」

「どこの国か分からないが、王女はいる…………」

 リザードマンの答えに、レリアーナさんは塔を見上げた。

「シャルロッテ様、必ずお救いします…………」

 涙を浮かべていた。

「いいかい、君たちは何も見ていない。異常は何も起こってない」

「俺たちは何も見ていない…………異常は何も起こっていない…………」

 二人のリザードマンが復唱する。

『幻惑スライム』をデッキに戻す。
 ソウルポイントは100の消費。

 いざという時に『リントブルム』を召喚できるようにしたい。
 だから、ソウルポイントを5100確保する必要がある。 
 
 俺たちは北の塔の中に入った。

 塔の内部は真ん中が空洞だった。
 塔の側面に作られた螺旋階段が上まで続いていた。

「『ゴブリントレジャーズ』を召喚」

 ソウルポイントは貴重だ。
 だからって、全く使わないわけにはいかない。


 ゴブリントレジャーズ
 レベル①属性(地) 召喚コスト500
 攻撃力100 体力500
『ロマンを追い求めるゴブリンたちは今日もダンジョンを探検し、攻略する』

 本当ならもっときちんとして罠探索モンスターを召喚したいけど、召喚に使ったソウルポイントを全損なんてことになったら、詰む。

 トレジャーズっていうんだから、罠にも耐性があるでしょ?
 など、と希望的観測を含み、召喚した。

「行きましょう」

『ゴブリントレジャーズ』を先頭に螺旋階段をを上っていく。

 途中に部屋は無さそうだ。
 随分と変わった造りだが、余計な部屋がないのは助かる。

 俺たちは最上階まで一気に到達した。

「はぁ…………ちょっと待って…………」

 さすがにこの階段数を一気に登ったせいで息が切れた。

「ハヤテ、ちょっと運動不足過ぎませんか?」

 香が涼しい顔で言う。
 見るとリザやレリアーナさんもほとんど消耗していなかった。
 俺だって前世より身体能力は強化されているはずなのに…………

 この世界の人たちの運動能力が高いんだろうか。
 それとも俺の周りの女の子たちの運動能力が高いだろうか。

 息を整えて、扉を開ける。

 内部は豪勢な作りの部屋だった。
 
 部屋の中央にベッドがあり、誰かが寝ている。

「シャルロッテ様!」

 レリアーナさんが駆け寄った。

 特に罠は無さそうだ。
 さすがに拍子抜けする。
 本当に見張りが二人いるだけで、他は罠も障害も何もなかった。

「ロ、ローラン!? これは夢かしら?」

 王女様はいきなりな起こされ、驚いていた。

「夢などではありません。お救いに参りました。あの日、何もできなかった情けない私をお許しください」

「そうですか。来てしまったのですね…………」

 王女様は悲しそうな表情になった。

「シャルロッテ様は何も知らないと思いますが、戦争がはじまります」

 王女様は口を両手で覆った。

「申し上げにくいのですが、ロキア王国軍も参加します」
「それは私の命を諦めたということですか?」
「………………」

 レリアーナさんは返答できなかった。

「すいません、王女様、ここで色々と話す時間はありません」

 王女様の視線が俺の方に向く。
「あなたは?」
「冒険者のユウキ・ハヤテと言います。今回の救出の依頼をレリアーナさんから受けました。早く脱出しましょう」

「そうなのですね。…………脱出するならいい方法があります」
「良い方法ですか?」

 王女様は部屋の隅に移動した。
 少し明るいところに移動したので、王女様の姿が良く分かった。

 俺は勝手に王女様はもっと年齢が上、レリアーナさんくらいだと思っていた。
 実際は恐らく十代後半くらいだった。

 動きやすい服、そして、少しボサボサしている髪を後ろに縛っている。
 高価な装飾品もなければ、化粧すらしていない。
 それでもこの人が街中にいたら浮くと思う。
 こういうのを高貴な雰囲気と言うのだろうか。
 

「ここには空間移動の魔法陣が組み込まれています。それを起動させれば、飛ぶことが出来ます」

 王女様に言われて、俺たちも部屋の隅に移動する。

「飛びますね」と言い、王女様は魔法陣を起動させた。

 言われた通りにしたが、空間移動魔法は初めてだ。
 どうなるのだろう、と少しだけ不安だったが、一瞬だけ体が浮いたと思ったら、もう移動していた。
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