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奪還編

第62部分 リスネの追及

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「そこまで!!」


 通りによく通る声が響いた。
 声のした方を見るとリスネさんがいた。

「一体何の騒ぎ!?」

 リスネさんの後ろには王女様、エルメックさん、それから衛兵が数名が控えていた。

 それを見たドミードの表情が変わった。

「てめー、この街のギルド嬢か!? この街の冒険者はどうなっていやがる! 俺たちが歩いていたら、いきなり襲ってきたぞ」

 ドミードは平然とそんなことを言った。

 リスネさんと目が合った。
 その表情から察するに、ドミードが虚言を言っていることを見抜いているようだ。
 その上で「また面倒を起こして」と言いたげな顔だった。

 俺は申し訳ないと思って、苦笑する。

「違う、あの男がハヤテさんに絡んでいるのを見たぞ!」

 思わぬところから助けが入った。

「カーラー君か」

 以前、オーガに襲われていたのを助けた青年たちが証言する。

「なんでガキがでしゃばる…………俺は自分の奴隷を取り返しに来ただけだ!」

「さっきはハヤテさんが絡んできたって言ってなかったかしら? 言っていることが滅茶苦茶ね。…………えーっと、あなたはドミードさんで間違いないですか?」

「そうだ、金階級Ⅰのドミードだ」
「階級は別に聞いてないんですけど…………あなたには嫌疑が掛けられています」

「嫌疑だと?」

「はい、『奴隷雇用規約違反』の嫌疑が掛けられています」

 なんだそれ?

 俺はレリアーナさんに近づき、『奴隷雇用規約違反』について聞く。

「一応、奴隷の殺害・暴行などを禁止している決まりがある」

 レリアーナさんがと言ったあたり、その取り決めが形骸化していることが分かる。

「そんな決まりを守っている奴がいるか!?」

 俺の思っていたことは当たっていたようで、ドミードは叫んだ。

「決まりは決まりです。規則により、あなたの奴隷の所持放棄、今後の奴隷の所持を禁止します」

「ギルド嬢如きが何を偉そうに…………」
「私が決めたわけではありません。これは西方連合が正式に発行した証明書です」

 リスネさんが一枚の紙をドミードに見せた。

「こんなもの…………」

「それとあなた、その金階級Ⅰってどこで認定を受けましたか?」

「は?」

「冒険者登録番号も聞いてよろしいですか?」

「そんなの今、関係ないだろ!」

 ドミードは明らかに焦っていた。

「言えないですよね? だって、ドミードという名前の冒険者は二人、そして二人とも銀階級で別人であることが分かっています。金階級のドミードという人物は存在しません」

「それはギルドの登録に不備があったんじゃないのか!?」

「その可能性は低いと思うんですけど…………それからギルドに金階級のドミードという人物がクエストを行った履歴もないんですよね」

「それがどうした? 俺は金階級Ⅰなんだ。ギルドなんかに頼まなくても仕事が来るんだよ!」

「冒険者が急に来て魔物を退治したから報酬を寄こせ、っといった苦情がギルドに寄せられていたんですよね。その冒険者が金階級を自慢していたとか」

「それが俺だって証拠でもあるのか!?」

 どうもリスネさんは確信を持っているらしい。

 まぁ、リザが「あいつがギルドでクエストを受けているところを見たことない」って情報をリスネさんに渡したから当然だ。

 後は自白させればいい。
 俺が『幻惑スライムを』を召喚しようか考えていると

「特に酷いのが、ある村では要求した金額より低い金銭しかも貰いなかったからといって、村人を数人殺して、強盗までしたそうですね?」

「殺人? 強盗? 俺はそこまでやったことは…………」

 間抜けが口を滑らせ、リスネさんはニコッと笑った。

「そこまではしていないんですね? じゃあ、したことを聞いてもいいですか? 小悪党さん」

「このクソアマ!」

 ドミードは動けるようになったようでリスネさんに斬りかかる。
 
 香が間に入ろうとするが、レリアーナさんが止める。

「あいつは私より強いから心配するな」



「そんな剣捌きで金階級Ⅰ、ですか?」

 リスネさんはドミードの振る剣を簡単に避け、その剣を手刀で叩き落とした。
 そして、腕を掴み、投げ飛ばす。
 地面に叩きつけられ、ドミードは泡を吹いて、気を失った。

「私が査定するなら銅階級Ⅲですね」

 俺、酒に酔ってもリスネさんには過剰に絡まないようにしよ。
 あんな風に投げ飛ばされたら、俺、死ぬ。

「どこに行くつもりですか?」

 リスネさんは逃げようとしていたラーグの前に立った。

「い、いえ、どうも私には誤解があったみたいなので失礼します」
 アイラに外された右肩を押さえながら、逃げようとする。
 リスネさんはその右肩を掴んだ。

 ラーグは悲鳴を上げる。

「ラーグさん、あなたには奴隷の件で誘拐の容疑が掛かっていますよ。そっちは私の管轄じゃないので、連合政府にあなたを引き渡しますね」

「あっ、あぁ…………」
 
 ラーグは崩れ落ちる。
 その様子を見る限り、リスネさんの言葉は真実らしい。

 エルメックさんが連れて来た衛兵に引きずられる形でラーグは連れていかれた。

 ドミードと仲間二名はギルドの人たちが連れて行く。

「これで一件落着ね」

 笑顔のリスネさんを見て、俺は若干引いた。

「なに、その顔は? 一週間でこれだけのことを調べて、ロキア王国の後ろ盾を貰って、リザちゃんを守るだけの材料を揃えた私を労ってくれないかしら?」

「あ、ありがとう」

 この人は絶対、敵に回しちゃいけない…………。

「まだ表情が硬いわよ。まぁいいけど。さて、リザちゃんの自称ご主人様も、リザちゃんを売った奴隷商人もいなくなったし、これは無効で良いわね」

 リスネさんは地面に落ちていた『奴隷の証明書』を拾い上げ、ビリビリに破った。

「ありがたいけど、かなり強引だね」
「優秀、と言って欲しいわね。私はギルドに利益が出るように動いただけよ。というわけで、ハヤテさん、ジンブには逃がさないわよ。また私を助けてね」

「出来る限りならね」

「残念です。せっかくハヤテやリザちゃんをジンブに招待しようと思っていたのに…………それはまたの機会にしますね」
 香は嬉しそうに言う。

「ハヤテ!」とリザが抱きつく。

「私、ハヤテと一緒にいていいんだな! 逃げなくていいんだな! 堂々と暮らせるんだな!」
「そうみたいだね」
 リザの頭を撫でる。

 顔をあげたリザは瞳を潤ませながら、笑っていた。
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