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奪還編
第64部分 贈り物
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「あの、どこへ向かっているんですか?」
俺たちはエルメックさんたちに付いて行く。
レイドアでもまだ足を踏み入れていない区画にいた。
ここは富裕層の住居が密集している場所である。
「ここだ」
エルメックさんは古い屋敷の前で足を止めた。
「この屋敷がどうしたんですか?」
「ハヤテ殿に譲渡する」
「は?」
今なんて言った?
「えっと、一部屋、貸して頂けるということですか?」
うん、そういうことだろう。
「屋敷ごと譲渡する」
エルメックさんがさらっと言った。
「え? いや、待って……待って! 待ってください! 俺は建物とか土地の相場は分かりませんけど、これは明らかにやり過ぎですよ!」
部屋、いくつあるんだ?
明らかに四人で住むには広すぎる。
「気にしなくていい。これは私が以前、建てた屋敷だが、今はロキア王国の本国の方へいることが主になり、使わなくなってしまった。このままだと痛むばかりだから、管理してもらいたい」
「は、はぁ……」
あまりのことに思考が停止する。
「言っとくけど、中は埃っぽくて住めたもんじゃないわよ。ベッドとかは湿気で駄目になっていたから、新しく買った方が良いわね」
「リスネさん、随分詳しいね」
「昨日、屋敷内を確認したもの。基礎はしっかりしているから、修繕はハヤテさんの方で任せてもいいかしら?」
「わ、分かったよ」
「じゃあ、これを渡すわね。権利の譲渡証明書」
なんだか、ここ最近、証明書を良く見せられるな。
「さてと、これでやっと明日から通常業務に戻れるわ」
リスネさんは伸びをする。
「私たちは一度、ロキア王国に戻ります。アイラ、悪いことをしちゃ駄目ですよ」
「衣食住を全部、青年が負担してくれるのじゃ。こんな素晴らしい無職生活を手放すものか」
王女様とアイラが握手をした。
衣食住の約束をした覚えはないぞ。
まぁ、面倒は見るつもりだけど………
「ハヤテ君、今回の件は本当にありがとう。今度は私が君のことを助けられるように精進するよ」
「レリアーナさんもお元気で。あんまり真面目過ぎると疲れますよ。少し力を抜いてください」
「そうだな」とレリアーナさんは笑う。
解散し、俺、リザ、香、アイラが残った。
「さて、中はどんなものなのかな?」
屋敷の中に入ると確かに長年使われていないのが分かるほど荒れていた。
埃っぽくてカビ臭い。
いたるところにクモの巣が張られている。
「これは一日二日で掃除できそうじゃないな」
屋敷を回り比較的、マシな部屋を探して、大雑把に掃除をした。
とりあえず、今日眠るところだけは確保しないといけない。
けど、寝具が部屋にない。
なので、寝袋を取り出した。
「あっ、寝袋三つしかないんだった」
アイラのことを考えてなかった。
「そういうことなら、しょうがないな」とリザが嬉しそうに言う。
「ちょっと待ってください、リザちゃん、まさかハヤテと同じ寝袋で寝ようとしてますか?」
「だってしょうがないだろ。香はお尻がでかいから、ハヤテと一緒には寝ないだろ?」
「そうですね。私はリザちゃんと違って胸が大きいからハヤテとは一緒に寝れないですね」
リザは頬をピクピクさせた。
「…………それはあれか? 宣戦布告か?」
「最初に喧嘩を売ったのはリザちゃんです。それに体が鈍っていたのでちょうどいいですね」
「やめなさい」と二人の頭をコツン、とした。
「愉快な奴らじゃの。ここは間を取って、儂が青年と一緒に寝るかの」
「なんでそうなる!」
リザと香が声を揃えた。
「いや、三人とも一つずつ寝袋を使っていいから」
「じゃあ、ハヤテはどうするんだ?」
すっかり忘れていたが、これがあった。
「あっ、それ、懐かしいな」
リザが言う。
俺が取り出したのは、リザと初めて出会った森にいた時に使っていた毛皮だ。
「あの頃は二人で肌を寄せ合って寝ていたな」
「肌を合わせた記憶なんてない!」
「でも、この二人で使うには小さい毛皮を敷いて、二人で寝ていたのは事実だ」
「一日だけな! すぐにリザ用の毛皮も用意しただろ! って、なんで香は短刀を抜いているんだ!?」
「あっ、ごめんなさい。つい…………」
つい、で俺に短刀を向けるな!
「そうだ。初心を取り戻すために二人で…………」
「待ちなさい」
「なんだ、香?」
「なんだ、じゃありません。なんでハヤテと一緒に寝ようとしているんですか? リザちゃんは寝袋で寝なさい」
「香、私、色々あって心細くなったんだ。人肌が恋しいんだ…………」
うわー、久しぶりにそのあざとい演技見たなぁ。
「そ、その言い方と表情は反則です!」
香は基本的にお人好しだ。
リザが演技だと分かっていても口調が弱くなった。
「なら、儂も心細いのぉ……こんなところに連れてこられて、力も制限され……」
アイラは泣いたふりをするが、明らかに笑いを堪えていた。
「お前まで入ってきたら、訳が分からなくなるだろ!」
リザが叫ぶ。
「元はリザちゃんが…………!」
一人増えて、今まで以上に騒がしくなった。
こういう風に騒がしくて、楽しい日々を与えてくれた駄女神に対して、たまには感謝をしても良いかもしれない。
「ハヤテ、まだ話は終わってないぞ! 寝ようとするな!」
ちょっと騒がしすぎる気もするけどね…………
そういえば、王女様にカードのことを言い忘れていた。
まぁ、王女様の口調だとまた会えそうだったから、その時に言おうか。
まだ気になることがあるけど、とりあえず一番の問題は解決した。
今日は気持ちよく寝れそうだ。
俺たちはエルメックさんたちに付いて行く。
レイドアでもまだ足を踏み入れていない区画にいた。
ここは富裕層の住居が密集している場所である。
「ここだ」
エルメックさんは古い屋敷の前で足を止めた。
「この屋敷がどうしたんですか?」
「ハヤテ殿に譲渡する」
「は?」
今なんて言った?
「えっと、一部屋、貸して頂けるということですか?」
うん、そういうことだろう。
「屋敷ごと譲渡する」
エルメックさんがさらっと言った。
「え? いや、待って……待って! 待ってください! 俺は建物とか土地の相場は分かりませんけど、これは明らかにやり過ぎですよ!」
部屋、いくつあるんだ?
明らかに四人で住むには広すぎる。
「気にしなくていい。これは私が以前、建てた屋敷だが、今はロキア王国の本国の方へいることが主になり、使わなくなってしまった。このままだと痛むばかりだから、管理してもらいたい」
「は、はぁ……」
あまりのことに思考が停止する。
「言っとくけど、中は埃っぽくて住めたもんじゃないわよ。ベッドとかは湿気で駄目になっていたから、新しく買った方が良いわね」
「リスネさん、随分詳しいね」
「昨日、屋敷内を確認したもの。基礎はしっかりしているから、修繕はハヤテさんの方で任せてもいいかしら?」
「わ、分かったよ」
「じゃあ、これを渡すわね。権利の譲渡証明書」
なんだか、ここ最近、証明書を良く見せられるな。
「さてと、これでやっと明日から通常業務に戻れるわ」
リスネさんは伸びをする。
「私たちは一度、ロキア王国に戻ります。アイラ、悪いことをしちゃ駄目ですよ」
「衣食住を全部、青年が負担してくれるのじゃ。こんな素晴らしい無職生活を手放すものか」
王女様とアイラが握手をした。
衣食住の約束をした覚えはないぞ。
まぁ、面倒は見るつもりだけど………
「ハヤテ君、今回の件は本当にありがとう。今度は私が君のことを助けられるように精進するよ」
「レリアーナさんもお元気で。あんまり真面目過ぎると疲れますよ。少し力を抜いてください」
「そうだな」とレリアーナさんは笑う。
解散し、俺、リザ、香、アイラが残った。
「さて、中はどんなものなのかな?」
屋敷の中に入ると確かに長年使われていないのが分かるほど荒れていた。
埃っぽくてカビ臭い。
いたるところにクモの巣が張られている。
「これは一日二日で掃除できそうじゃないな」
屋敷を回り比較的、マシな部屋を探して、大雑把に掃除をした。
とりあえず、今日眠るところだけは確保しないといけない。
けど、寝具が部屋にない。
なので、寝袋を取り出した。
「あっ、寝袋三つしかないんだった」
アイラのことを考えてなかった。
「そういうことなら、しょうがないな」とリザが嬉しそうに言う。
「ちょっと待ってください、リザちゃん、まさかハヤテと同じ寝袋で寝ようとしてますか?」
「だってしょうがないだろ。香はお尻がでかいから、ハヤテと一緒には寝ないだろ?」
「そうですね。私はリザちゃんと違って胸が大きいからハヤテとは一緒に寝れないですね」
リザは頬をピクピクさせた。
「…………それはあれか? 宣戦布告か?」
「最初に喧嘩を売ったのはリザちゃんです。それに体が鈍っていたのでちょうどいいですね」
「やめなさい」と二人の頭をコツン、とした。
「愉快な奴らじゃの。ここは間を取って、儂が青年と一緒に寝るかの」
「なんでそうなる!」
リザと香が声を揃えた。
「いや、三人とも一つずつ寝袋を使っていいから」
「じゃあ、ハヤテはどうするんだ?」
すっかり忘れていたが、これがあった。
「あっ、それ、懐かしいな」
リザが言う。
俺が取り出したのは、リザと初めて出会った森にいた時に使っていた毛皮だ。
「あの頃は二人で肌を寄せ合って寝ていたな」
「肌を合わせた記憶なんてない!」
「でも、この二人で使うには小さい毛皮を敷いて、二人で寝ていたのは事実だ」
「一日だけな! すぐにリザ用の毛皮も用意しただろ! って、なんで香は短刀を抜いているんだ!?」
「あっ、ごめんなさい。つい…………」
つい、で俺に短刀を向けるな!
「そうだ。初心を取り戻すために二人で…………」
「待ちなさい」
「なんだ、香?」
「なんだ、じゃありません。なんでハヤテと一緒に寝ようとしているんですか? リザちゃんは寝袋で寝なさい」
「香、私、色々あって心細くなったんだ。人肌が恋しいんだ…………」
うわー、久しぶりにそのあざとい演技見たなぁ。
「そ、その言い方と表情は反則です!」
香は基本的にお人好しだ。
リザが演技だと分かっていても口調が弱くなった。
「なら、儂も心細いのぉ……こんなところに連れてこられて、力も制限され……」
アイラは泣いたふりをするが、明らかに笑いを堪えていた。
「お前まで入ってきたら、訳が分からなくなるだろ!」
リザが叫ぶ。
「元はリザちゃんが…………!」
一人増えて、今まで以上に騒がしくなった。
こういう風に騒がしくて、楽しい日々を与えてくれた駄女神に対して、たまには感謝をしても良いかもしれない。
「ハヤテ、まだ話は終わってないぞ! 寝ようとするな!」
ちょっと騒がしすぎる気もするけどね…………
そういえば、王女様にカードのことを言い忘れていた。
まぁ、王女様の口調だとまた会えそうだったから、その時に言おうか。
まだ気になることがあるけど、とりあえず一番の問題は解決した。
今日は気持ちよく寝れそうだ。
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