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雌伏編

第71部分 三人の訪問者①

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 香との騒動があった次の日、屋敷の入口の扉を誰かが叩いた。
 それで俺は目を覚ます。

 三人はまだ眠っていた。

 
「リスネさんの言っていた贈り物か…………」


 半分眠った状態で屋敷の入口に向かう。
 扉を開けると三名の女性が立っていた。

「すいません、リスネ様に言われてここに来たのですけど…………」

 一番年長の女性が前に出る。
 あれ、この人、どっかで見たことがある。
 でもどこだっけ?

「なんだ、ハヤテ~、新聞の勧誘か? それとも宗教? ○○○の集金ならテレビはないって言って追い返せ」

 リザもやって来た。
 眠そうな声で言う。
 君はいつ日本転生したんだい?
 新聞も宗教も○○○も来るはずないだろ。

 すると女性の視線がリザに向いた。

「本当にここにいたんですね、エルフちゃん」

 女性はリザを見て泣きそうになった。

 あっ、この人は…………

「えっ、ナターシャ?」

 リザが驚き、目を丸くした。

 この人はナターシャ。
 ドミードの奴隷だった人だ。



 俺たちは客間に三人を案内する。

「ナターシャ、生きていたんだ、良かった」
「それはこっちの台詞です、エルフちゃん」

 リザが昔の、唯一の友人と再会できたことは嬉しいことだ。
 でも…………

「なんでここに?」

 俺が疑問を投げかけるとナターシャさんが緊張した表情で、

「ギルドのリスネ様から、こちらにいるハヤテ様を頼るように言われてきました」

「えっ、リスネさんが?」  

「はい、ハヤテ様を新しいご主人様として頼るようにと」

 ん~~~~?

 そういえば、三人とも奴隷の首輪をしていた。
 これは事情を聞く必要がありそうだ。



 早朝のギルドにて、
「リスネさん、あれはどういうこと!?」

 開いたばかりのギルドに俺は駆けつけた。

「あら、こんなに早く来るとは思わなかったわ。じゃあ、奴隷さんたちは無事に着いたのね」

「奴隷……」

 それはリザの記憶から察していたが、言葉にされるとなんだか…………

「私たち奴隷を雇うつもりはないんですけど!?」

 香が言った。 
 ちなみに今ついてきたのは香だけだ。

 リザとアイラには残ってもらっている。

「香の言う通りです。俺たちは奴隷を雇うつもりも、買うつもりはありません」

「あら、あの子たちはタダよ。それに養うくらいのお金ならあるでしょ?」

「人間をタダっていう表現、私は嫌いです」
 香がリスネさんに敵意を向ける。

 リスネさんはそれを気にせず、「じゃあ、あの子たちは路頭に迷うわね」と言う。

「どういうこと?」

「ハヤテさん、あの子たち、えっとナターシャさん以外の二人に傷跡があったのは分かるかしら?」

「はい、腕に火傷の跡があること、額に何かで切られたような傷ですよね?」

 ドミードの奴隷だったなら、どれだけ酷い目に遭っていたかを想像するのは簡単だ。

「一度は買われた奴隷で、傷物、それだと売り物にならないのよ」

「売り物って……」

 また香が食ってかかりそうになるのをリスネさんは遮り、

「奇麗ごとばかり言っていられないわ。あの子たちの境遇は可哀そうだと思う。でも、だからって無条件に救ってあげられるほど、この世界は優しくないのよ。あの子たちに残っている道は三つ、新しいご主人様の元で奴隷を続けるか、僅かな金銭を手に入れる為に体を売るか」

「三つめは?」

「自らで、人生に終止符を打つか、よ。残酷かもしれないけど、それが現実よ。身分も、魔法適正もない人間にとってこの世界はとても厳しいのよ」


「一つ聞いてもいいかな?」

「なにかしら?」

「使用人の給料の相場を教えてほしい」

「えっ?」とリスネさんは目を丸くした。

「奴隷は要らない。でもあの屋敷は広すぎて、俺たちじゃ管理が大変だ。これから先クエストで屋敷を空けることもあると思う。彼女たちには屋敷の管理をしてもらう」

 それを聞くとリスネさんは笑った。

「やっぱりハヤテさんに託して正解だったわ。そうね、経験のない使用人ってことなら、日給で五千メダ前後じゃないかしら?」

「分かった。ありがとう」

「ちなみに性的なことの相場は一万~十万メダで判断が難しいわね。ハヤテさんが実際にしてから、値段を付けたらいいんじゃないかしら?」

「そっちの相場は聞いていない!」

 静かなギルドに俺の声が響いた。

 とにかく俺は三人の使用人を雇うことになったらしい。

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