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雌伏編

第73部分 三人の訪問者③

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 夜、酒場にて。

「どーも、ハヤテハーレムの新しい加入者の皆さん!」

 俺のところにナターシャさんたち三人を送った張本人がそんなことを言った。
 そして、リスネさん、そんなハーレムは存在しない!

「ナターシャさん、サリファ、ルイス、君たちの歓迎会だから好きなものを食べてくれ」

「そんな、私たちは残ったもので大丈夫です」

 ナターシャさんが言う。

「そういう遠慮はいいですから」

「じゃあ肉が食いたい!」
 言ったのはリザだった。
 君には聞いてないよ。

「リスネさん、リザには新鮮な大盛サラダをお願いします」
「ハヤテ!?」とリザは悲鳴を上げる。

「えっと、私は何か魚がいいです」とナターシャさんが答える。

「二人はどうする?」
 サリファとルイスに尋ねる。

「ごめんなさい、分からないです。食べたい物が分からないです……」
 ルイスが言うとサリファも頷いた。

 それは多分「今食べたい物が分からない」ということじゃないだろう。
 ここにあるメニューを見ても味が想像できないのだ。

「……分かった。何種類か注文するから気に入ったものがあったら、追加で頼んでくれ」

 焦る必要はない。
 ゆっくり慣れていってもらおう。
 今までの生活が酷かったことを分かってもらおう。
 これからの生活が当たり前だと安心してもらおう。

 サリファとルイスは初め、恐る恐る運ばれてきた料理を口にする。

「これ美味しいです」とサリファ。
「私これ好き」とルイス。

 やがて二人は好きなものを見つけたようだった。
 種類は違うが、二人が気に入ったのは濃い味の肉料理だ。

 リザも含めて、これくらいの年の子は肉料理が好きらしい。
 それはどの世界も共通のようだ。
 笑顔で料理を口に運ぶ姿を見ると普通の子供のように見える。

「ハヤテ、保護者の眼をしていますね」と香が言う。

「そうかな?」
 うん、そうかもしれない。
 子供が好きとか嫌いとかあまり考えたことはなかったけど、少なくても嫌いじゃないな。
 賑やかで気分が良い。
 酒が進むなぁ。

「ハヤテはいいお父さんになりそうですね。いっそ、今日、子供を作りますか?」

「んっ……!?」

 俺は飲んでいた酒を吹き出しそうになった。

 俺は今日、ナターシャさんたちに気を遣うあまり問題児を一名、野放しにしていた。
 問題児かおりは怪我明けで久しぶりのお酒だった。

「お酒、最高です!」

 なんで香は反省しないんだろう。
 明日、後悔するのは分かっているはずなのに……いや、忘れているのか。
 馬鹿だから。

「ハヤテ~~、また失礼なことを考えていますね~~」

 酔っても勘は鋭いままだから質が悪い。

「考えていないよ。それとリスネさん、水を持ってきて!」

「は~~い、あとこれ、追加の料理」

「ありがとう…………!?」

 料理の皿を受け取った俺は落としそうになった。

「危ないのぉ」と言いながら、アイラが皿を支えた。

「儂がせっかく頼んだのに床にぶちまけるところじゃった」
「アイラの仕業か! お前、なんでこんな…………」
「んっ、丸々太って旨そうではないか。青年もどうじゃ? ほれ、あ~~ん、じゃ」

 アイラはフォークに刺したを近づける。
 アイラはいつの間にか芋虫の素揚げを注文していた。

「や、やめてくれ! リスネさん、なんでこんなものが!?」

 俺はリスネさんに苦情を言った。

「こんなもの、って酷いわね。結構人気なのよ」

 昆虫食は知っている。
 だけど、元の世界ですら、見たことがなかった物をここで拝むことになるとは思わなかった。

「まったくハーフエルフに好き嫌いは駄目とか言っておいて、示しがつかんの…………うむ、初めて口にしたが結構いけるの。酒が進むぞ」

 初めてかよ!
 よく注文する気になったな!

「美味しそうですね」と言いながら、ナターシャさんが芋虫を口に運んだ。

 マジかよ……。

「ナターシャさん、それ、虫ですよ……」

「ハヤテさん、奴隷、舐めちゃいけませんよ。私たち動くものなら大体食べ物だと思ってます」

 ナターシャさんは笑いながら言うが、中々重いことを言っている。
 てか、あなたも酔ってますよね。
 若干、口調が変わってますよ。

「んっ、調理された虫って美味しいんですね。サリファ、ルイス、食べてみなさい」

 ナターシャさんはサリファとルイスにも昆虫料理を勧めた。
 二人は躊躇うことなく、食べ、「美味しい」と言った。

 おいおい、マジかよ。

「ハ、ヤ、テ」
 リザの声がした。
 とても嫌な予感がする。

「私に散々、好き嫌いは良くないって言ったよな?」

 うわー、すごい良い笑顔だ。

「リザ、落ち着け。昆虫食は違うだろ!」
「んっ? 虫は普通に食べるぞ」

 リザも芋虫の素揚げを食べる。
 なんで野菜をあれだけ嫌って、虫は大丈夫なんだよ!

「か、香さんは虫を食べるなんて文化、無いよね?」

 最後の望みをかけて、香に同意を求めるが、

「ん~~、虫ですか~~? イナゴの佃煮って美味しいですよね~~」

 あっ、もう駄目だ。
 おしまいだ。
 味方がいない。

「ハヤテ、私が食べさせてやろう。ほら、あ~~ん」

 ……分かったよ。食べればいいんだろ!

「………………」

 初めて食べた昆虫食、それは意外においしかった。
 悔しいけど酒のつまみになる。
 見た目以外はね!

「なんだ、意外とつまらない反応だな」
 
 リザは残念そうだった。
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