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雌伏編

第80部分 リスネちゃん②

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 俺は子供のように泣きじゃくるリスネさんを、どうにかあやした。

 そして、こんな時の為の『アイラ=王女様の角通信』。

『なんだかそっちは退屈しなさそうですね』

 王女様は羨ましそうだった。

「俺は平穏に暮らしたいんですけどね!」

『そこに幼児化したリスネがいるのか?』

 レリアーナさんの声がした。

「あ~~、レリアーナお姉ちゃんだ!」

 リスネさんは無邪気な声で言う。

『……今からそっちに行っていいか? 直接見てみたい!』
 
 レリアーナさんの声のトーンが一段階上がった。

「レリアーナさん、面白がらないでください。これはどういうことなんですか? リスネさんが幼児退行して、しかも記憶はそのままなんですよ」

『それに関しては私の方から説明しよう』

 エルメックさんの声がした。

『それは自白用に試作された魔具だ。本人の記憶を持ったまま、精神だけ子供にする』

「自白用の魔具?」

 それはまた物騒なものだ。

「でも、なんでそれが幼児退行なんですか?」

『幼児化させて拷問にかければ、簡単に自白すると思ったらしい』

 あ~~、今すっごい闇を聞いたな~~。

『だが、もっと強力な自白の方法が出来たので、結局は試作品で終わった』

 罪人を疑似的とはいえ、子供にして拷問って、発想がヤバイ気がする。
 エルメックさんの奥さんはサイコパスじゃないだろうか?

「それでいつ戻るんですか?」

『寝れば、元に戻る』

 なんだ、それは簡単じゃないか。
 前回の手錠もそうだが、解決方法が複雑じゃないのは助かる。


 王女様たちとの通信を切った後に

「リスネさん、一回、寝ましょうか?」
と提案した。

 これで全てが解決…………

「やだ、リスネ、眠くない!」
 しなかった。

「今日はお休みなの。ハヤテお兄ちゃん、遊ぼ!」

 なんだろ、俺は今一体、何を試されているんだ!?
 無邪気に、子供のようにリスネさんは俺に抱き着いてくる。
 しかし、リスネさんの体は大人だ。
 色々と柔らかいものが当たっている。
 
 天衣無縫の破壊力が凄いんだけど!

「リスネ、ハヤテから離れろ!」

 リザが強引にリスネを引っ張った。

「うえ~~ん、リザお姉ちゃんの意地悪~~」

 リスネさん、いや、リスネちゃんはまた泣き出してしまった。

「えっ、あっ、その……」

 リザは戸惑う。
 この状況はさすがにリザもやりづらいようだ。
 
「これこれ、泣くでない。泣き止んだら、これをやるぞ」

 アイラはいつの間にか貯め込んでいた自分のお菓子を取り出して、リスネちゃんに渡す。
 するとリスネちゃんは泣き止み、笑顔になった。


「うぁーー、ありがとう、アイラお婆ちゃん」

 お婆ちゃんって…………いや、年齢から考えれば、その表現は間違ってないんだけどさ。

「おーーよしよし、可愛いのぉ。ほれ、もう一つお食べ」

 アイラはまたお菓子をリスネに渡す。

「リスネちゃんはまだ眠くないかの?」
「うん、元気!」
「そうか、そうか」

 目を閉じて、声だけ聴くと孫とお婆ちゃんのやり取りに聞こえる。

 しかし、現実は成人女性が子供の口調で、見た目が子供のアイラにお菓子をもらって喜んでいる。
 中々にカオスだ。
 少し頭痛がしてきた……
 
「ハヤテ、これ、どうするんですか?」

 香が耳打ちする。
 どうする、って俺が聞きたいよ。

「遊び疲れて、寝かせるのが良いんじゃないの?」

 ナターシャが提案してくれた。

 確かにそれが一番、手っ取り早そうだ。

 これには全員が同意し、協力してくれることになった。

 でも、どんな遊びを提案すればいい?
 ここにいる半数(リザ・香・アイラ・リスネちゃん)は身体能力が常人じゃない。
 手加減してくれ、と言ったところで上手く調整をしてくれるとも思えない。

 特に今のリスネちゃんは能力は大人、精神は子供だ。
 禁止しても魔法を使うかもしれない。
 力を存分に使われたら、どうなるか分からない。

 俺たち一般人(俺・ナターシャ、サリファ・ルイス)と化け物能力組が対等に戦える種目は…………

 俺は身体能力の関係ない古き良き遊びを思い出した。
 
「さて、みんなでかくれんぼをしようか」
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