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雌伏編

第102部分 事件の真実と落ち込むアイラ

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「ハヤテ、朝食が出来ているよ」

「ありがとう。でも、その前にやることが出来たよ」

 俺は食堂に向かった。

「ちょっといいかな?」

 俺は香に声を掛けた。

「な、何ですか?」

「これに関して何か言うことはあるかい?」

 俺は香の前に木箱を置いた。
 香は視線を逸らす。

 黙秘。

 自供するつもりはないらしい。

「そうかい。残念だよ」

 俺は召喚盤を展開し、香のカードを引いた。

「ちょっと、待って……」

 香は俺を止めようとするが、リザが香を抑え込んだ。

「なんか分かんないけど、こうするのが正解な気がした」

「ありがとう、リザ。さてと……」

 俺は香のカードを召喚盤にセットした。

「やっぱり」

 香は額に脂汗が光る。

「ハヤテ、一人で納得していないで、私にも教えてくれ」

「そうだね」と言い、リザと香を『同調シンクロ』させた。

「なるほどな……」
 リザは体を震わせる。

「あの、リザちゃん……」
 香は真っ青だった。

「この大馬鹿! なんで、入浴剤をお風呂にブチ撒けた時点でみんなに言わなかった!?」

「えっ?」とローランとリスネさんが顔を上げた。

「どういうことなんだ?」とローランが言う。

「香がうっかり風呂に入浴剤を木箱、落としたんだよ。で、中身が全部溶けたんだ」

 俺は木箱を開ける。

 中身は空だった。

「なるほど、香がお風呂に入りたがらなかったわけだ。一番初めに木箱を持って浴場に行ったはずなのに」

 ローランは少し呆れていた。

「ローランが私を強引にお風呂に入れるから私まで……」

「香さん」

 リスネさんが香の肩を叩いた。
 凄い笑顔だ。
 めちゃくちゃ怖い!

「み、皆さん、落ち着きましょう。は、話せば分かります」

 香は涙目だった。

「そうだな。どんな刑に処すか。話さないといけない」
 リザが言う。

「ハ、ハヤテ、た、助けてください!」

 香は懇願するような目で俺を見た。

「香、さすがに弁護できないから、素直に罪を受け入れなよ」

「そ、そんな……」

「あとは私の部屋でやろうか」
 リザが香の首根っこを掴んだ。

「じゃあ、私は魔具倉庫に行ってくるわ。何か面白そうな拷問器具はないかしらね」

「リスネさん、ギルドの人間が冒険者にそれはどうなんですか!?」
 香は叫んだが、リスネさんは気にしていないようだった。

「二人とも少しは手加減をしろ。後遺症が残ったら大変だ」とローランが言う。
「ローラン、くっ殺、は女騎士がやるものなんですよ!?」
「……? 何の話をしているんだ?」
 ローランは首を傾げる。
 
 まぁ、ローランは俺とリンクしてないから、わけが分からないよな。

「お前が、くっ殺、になるんだ。行くぞ」
 リザが香を引きずっていった。
 


「…………」

 ま、まぁ、みんな、加減は分かっているだろうから、大丈夫だろう。

 たぶん。
 きっと。
 あるいは。
 恐らく。

「なんか、面白いことになってるね」

 ナターシャが言う。

「君は怒ってないの?」
「別にそこまでは……どっちかって言うと感謝しているかな」
「感謝?」
「肌が十代の張りを取り戻したから」

 ナターシャは両手で、両頬を触る。

 なるほどね。

「これ、朝食を作ったから」

「なんか、量が多くないか? それになんてトレーに乗っているの?」
「三人分。二人はまだ寝ているから」

 ナターシャは天井を見た。

 そういうことか。

「二人に持って行ってくれる?」
「分かったよ。 それにしても随分、人使いが荒い使用人だね」

 俺は笑顔で言う。

「優しいご主人様に会えたから自由にやらせてもらってます」

 ナターシャはクスクスと笑った。


 俺はアイラの部屋に向かう。

 ノックをすると、

「入ってよいぞ」とアイラの声がした。

 もう、入浴剤の効き目は切れているよな?
 中に入ると二人はベッドで横になっていた。
 シャルはまだ寝ている。

「もう大丈夫かい?」

 俺はトレーをテーブルの上に置いて、椅子に腰掛けた。

「大丈夫でなかったら、もう襲っておるわ」

 アイラは苦笑する。

「…………すまんかったの。痛かったじゃろ?」

 アイラは俺の首筋に触れる。

 さっき確認したが、痕になっていた。

「儂が怖かろう?」

 アイラは悲しそうな表情をする。

「そんなことをないよ。アイラに殺気がないのは分かっていたからね」

「じゃが、儂が少しじゃれただけでこの有様じゃ」

 アイラはしゅんとした。
 悪いことをして落ち込む子供に見えてしまう。

「アイラ、本当に気にしないでくれ。俺が困る。アイラのことは仲間だと思っているし、こんなことで距離を置こうとは思わないよ」

 アイラはホッとしたように
「相変わらずお人好しで甘いのぉ」と言う。

「だけど、リスネさんには後で謝りなよ。副作用で体の感覚が敏感になっているみたいだから」

「うむ、じゃが、あのギルド娘も良い根性しておるの。儂を利用しようとするなど」

 アイラはケラケラ、笑う。

 
 香の悲鳴が聞こえた。
 何かが始まったらしい。


「あやつら、、何をしておる?」

「実はね……」

 俺はアイラに事情を説明した。

 それを聞いたアイラは呆れていた。

「まったく、あの東方人は。戦うこと以外、ポンコツなのかの?」

 それは否定できない気がする。
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