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レイドア防衛編

第115部分 騒動

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「ちょっといいかな?」とヒルデさんに話しかけられた。

「多分、全員を紹介しても覚えてもらえないだろうから、『勇獅子』の副リーダーだけ紹介しておくよ」

 ヒルデさんの隣には真っ赤な髪の女性が立っていた。

「シークです。よろしくお願いします」
 穏やかそうな人だった。

「昨日、ヒルデがあなたと食事をしたみたいでしたけど、迷惑をかけませんでしたか?」

「おい、いつまでも私が子供だと思っているだろ。私はもう22だぞ」

「私は24です。私にとってはいつまで経っても手のかかる妹みたいなものですよ」
 シークさんは少しからかうように笑う。

「まったくハヤテさんの前なのに、パーティリーダーとしての示しが付かないだろう」
 ヒルデさんはムスッとする。

「仲が良いみたいだね。今回の件が落ち着いたら、お酒でも飲みながら、ゆっくり話をしたいな」

「喜んで」とシークさんは返した。




 エドワーズさんとは、目的の村へ行く途中で合流する。
 まだ、村には到着していなかった。

「ゆっくりし過ぎじゃないか?」とヒルデさんが指摘する。

「私たちは高速の移動手段を持っていないんだよ。それにしても凄いものに乗っているね」

『天空の理想郷』を見たエドワーズさんは、ヒルデさんほど驚いてくれなかった。
 多分、そういう性格なのだろう。

「どうぞ、乗ってください」

「ありがとう。この歳でこんなにワクワクするとは思わなかったよ」

 俺たちはエドワーズさんたちを乗せて、目的の村に向かった。



 村に到着した俺たちは、すぐ避難するように指示を出した。

 老人や子供たち『天空の理想郷』の階段を上るのが辛い人たちの移動をリザや香、『勇獅子』や『赤の魔術師』のメンバーが手助けをする。



「ふざけるな!」


 突然、怒声が聞こえた。

 何事かと、俺たちは駆けつける。

 騒ぎの中心にはリザードマンと杖を持った男がいた。

「ご主人様、お願いします。私も連れて行ってください…………」

 リザードマンが男に縋る。
 首には奴隷の首輪が見えた。

 すぐにリザードマンと男の関係が分かった。

「黙れ! 今からお前のお仲間が来るんだろ!? 殺さないだけ感謝しろ!」

「私は子供の頃から奴隷で、同族にあったことがありません。それに竜人は同族でも奴隷になった者たちは冷遇すると聞きます。お願いですから、連れて行ってください!」

 リザードマンは男の足を掴んだ。

「ええい、離せ!」

 男は持っていた杖でリザードマンを叩く。

「おい、やめ……」

 俺が止めようとした時、別の奴が俺よりも早く男の腕を掴んだ。

 香ではない。
 香は今、乗員の手助けをしているのでこっちには気付いていないだろう。

「この者が何をしたというんじゃ?」

 アイラだった。
 珍しく怒っているようだった。

 アイラに腕を掴まれた男は振り払おうとしたが、腕はピクリとも動かなかった。

「だ、誰だ、この奴隷の飼い主は!?」

 男が叫んだ。

「この子は俺の仲間です。首輪はしていますけど、奴隷じゃありません。アイラ、離してあげてくれるかい」

 アイラは男の腕を離す。

「奴隷じゃないのに首輪をしている? 何を馬鹿なことを言っている! 情でも移ったか!?」

 男の敵意が俺に向かった。

「人型だから愛着が沸いたか? こんなことなら、俺も高い金を払って人型の魔人を買えばよかった。人型ならそこまで目立たなかったのに」

「随分な言い方じゃな。おぬしがそこのリザードマンを奴隷として雇ったんじゃろ?」

「竜の魔人は労働力としては優秀だから、買っただけだ。農地を手放さないといけなくなった。だから、もういらない」

「分かりました。俺はあなたとあまり話したくありませんので、手短に話しますね。こちらのリザードマンさんは俺の意思で連れて行きます。もちろん、この方がそれを望めばですが」

 俺はリザードマンに視線を移した。

「お願いします」

 リザードマンは頭を下げた。
 怯えているようだった。

「心配せずとも良い。この青年は信頼できるぞ」
 アイラがリザードマンの肩を叩く。

 同族に会えたことで安心したのだろう。
 リザードマンは「ありがとうございます」と言い、泣き出した。
 人間より強靭な身体を持つリザードマンのこんな姿を見て、俺は複雑な気持ちになった。

 周囲がざわつく。
 恐らく、リザードマンを乗せることに対して快く思っていない人は多くいるのだろう。

「不満があるなら、歩いてレイドアに行くといい」

 ヒルデさんが言った。

「あなた方がこれから乗ろうとしている生き物…………で良いのか、あれは? とにかく、あの巨大なモノはそこにいるハヤテさんの所有物だ。ハヤテさんに文句があるなら言えばいい。その代わり、乗れるとは思うなよ」

 ヒルデさんの言い方はかなり高圧的だった。
 村人たちには不満があっただろう。
 しかし、あのように言い切られてしまったら、文句は言えない。

「お前はどうするんだ?」

 ヒルデさんはリザードマンの主に詰め寄った。

「乗せてくれ。けど、魔人は……」

「分かった、もういい」
 俺は『解呪師』を召喚し、リザードマンの奴隷の首輪を外した。

「おい、奴隷の首輪を外すな。いきなり襲ってきたらどうするんだ!?」

 男は怒鳴った。

「あなたは理由もなく、人を襲うのか?」
 イライラする気持ちを押さえながら言う。
 アイラが耐えているのに俺が爆発するわけにはいかない。

「そ、そんなことするはずないだろ!」

「じゃあ、この人も大丈夫でしょ。それとも復讐されるような。扱いをしていたのか?」

「…………」

「もうあなたとは話したくない。早く乗ってくれ」
 俺が『天空の理想郷』を指差すと男は逃げるように走っていった。

「アイラ、その人のことを任せてもいいか?」
 俺はリザードマンに視線を向けた。

「当然じゃ。青年、すまんかったの」

 アイラは申し訳なさそうに言う。

「アイラが気にすることじゃないよ。俺だって気分は良くなかったし、香だったら、あの男を殴り飛ばしていたよ」

「じゃな」とアイラは笑った。

 騒動は終わったと思った。

 しかし、終わっていなかった。
 俺たちがいない間にレイドアで騒動が起きていた。
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