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レイドア防衛編

第138部分 香の猛攻、凡人の覚悟

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※引き続き、ローランの視点となります。
 ご了承ください。



「次から次へと……! お前は空にいた奴だな? フィールレイはやられたのか?」

 ガンウォールは苛ついているようだった。
 アイラもそうだったが、竜人の状態は燃費が悪い。

 ガンウォールは早くこの戦いを終わらせたいのだ。

「香、助かった。空の方は終わったのか?」

「残念ながら、まだです。でも、こっちが危ないんで駆けつけました」

 それを聞いたガンウォールが笑った。

「お前は馬鹿だな! 結果、全員死ぬ。二人がかりなら、あるいはフィールレイを殺せたかもしれねぇぞ? お前が来たところでこっちは死人が一人増えるだけだ。それにあのエルフも死ぬ。お前は選択を間違えた!」

「リザちゃんを嘗めないでください。あの子は私たちの中で一番強いです。それに私だって、いつも負けていられない!」

「生意気な東方人だ。それに刀二本、ムカつく奴を思い出すな」

「それはどういうことですか?」

 香の眼の色が変わった。

「なんだ、興味があるのか? いつだったか、馬鹿な東方人が俺の領内で暴れ回ったんだよ。無謀にも俺に戦いを挑んできやがった。中々、強かったぜ。何しろ、俺に傷を負わせたんだからよ」

「で、その人はどうなったんですか?」

 香はガンウォールの話す人物に興味を示す。

「なんだ、知り合いなのか? 死んだよ。最後は瀕死の状態で川に叩き落としてやった。魚の餌になったんじゃねぇか?」

「そうですか。安心しました。なら、あの人は死んでいませんね」

「お前、俺の話を聞いていなかったのか。川に落ちて死んだ。現実を受け止めろ。思い人だったのかもしねぇが、奴は死んだんだよ」

「思い人? ふざけたことを言わないでください。私はあの人を殺すために西方まで来たんです。そして、あの人は簡単には死にません。その程度で死ぬなら、お爺様やお父様から逃げれるはずがありません」

 香は何か確信のようなものを持っているようだった。
 ガンウォールは香の態度が気に入らなかったようで、何かを言い返そうとするが、途中でやめる。

「お前と話しても時間の無駄みてぇだな。俺は早くこの街を滅茶苦茶にしねぇといけねぇんだよ」

 ガンウォールは大剣を構えた。

「そんなこと、絶対にさせません!」


 香は強い。
 しかし、ガンウォールは一人で戦って勝てるような相手ではない。

 全員の視線が香とガンウォールに向いている隙に、私は魔法空間を開いて、薬品を取り出した。

 こんなものを飲んだら、リスネは怒るだろうなぁ……
 でも、ここで引くわけにはいかないんだ。
 
 私は薬品を口に流し込んだ。

 痛みが緩和し、多少だが魔力が戻る。

「リスネ、ドラズさんとディアス君を治療してくれ」
 立ち上がり、魔法空間から新しい大盾を取り出す。

「待って、あなたも……」

「私は良い。リスネが思っているよりは軽傷だよ。少しでも勝てる可能性を上げてくれ」

 私は嘘をついた。
 でも、リスネにはすぐバレたと思う。
 
 リスネは何かを言いかけて、飲み込んだ。
 私の覚悟を尊重してくれたんだ。

「もう少しだけ粘って、すぐにドラズさんとディアスさんを治すから」

「任せたよ」

 リスネ、一度も言ったことはなかったが、君は最高の友達だったよ。
 そういえば、シャルロッテ様の奪還の時、色々な無茶を言ったこと、お礼も謝罪もしていなかったなぁ……

「香、私も一緒に戦うよ」
「でも、ローラン、その怪我……」

「構わないでくれ。勝つためだ」

 何か所、骨が折れているか分からない。
 それに多分、内臓も……

「……分かりました。みんなで勝ちましょう」

 私と香でガンウォールと対峙する。

 私が攻撃を受けて、香が攻めかかる。
 あと数発なら耐えられる。

「魔陰双流攻法ノ三『ドンリュウ』……!」

 香はガンウォールの足元に潜り込んだ。
 そして、ガンウォールの巨体を下から斬り上げる。

「こいつ……!」

 ガンウォールの巨体が浮く。
 香の連撃は止まらない。
 ガンウォールを私が見上げるところまで、斬りながら打ち上げる。

「なんて出鱈目な子だい。ガンウォールの巨体をあんなところまで持っていくなんて…………」

 連撃を終えた香が地面に着地する。

「下等種族が……!」

 同じく、地上に戻ってきたガンウォールの体を傷だらけだった。
 香の攻撃は有効だ。

「はぁ……はぁ……あれだけやって勝ち切れませんか……」

 しかし、香は明らかに疲労していた。
 空での激戦に続いて、ガンウォールとの戦いだ。
 香の体力だって無限じゃない。

「香ちゃん、前に会った時よりさらに強くなっているね」
「ドラズさん、大丈夫ですか!?」
「彼女のおかげで何とかなったよ」

 ドラズさんはリスネを見る。

 リスネは起き上がれないようだった。
 多分、魔力が尽きたんだ。

 もう回復は出来ない。
 ここで勝ち切らなかったら、終わりだ。

「力不足だとは思いますが、僕も戦います」
 ディアス君が言う。

「何度も立ち上がりやがって……面倒だな」

 ガンウォールの魔力がさらに上がった。

「香ちゃん、僅かな可能性でもいい。ガンウォールを倒す算段はあるかい?」

「あります」と香は即答した。

「そうかい。なら、香ちゃんに託すよ。ディアス、あたしたちで香の援護をするよ。ローランちゃんはもう下がりな。限界だろ?」

「いいえ、最後までやらせてください」

 こんな化け物たちの戦いで私に出来る事なんで、ほとんどない。
 それでも仲間が戦っているのに、自分だけ逃げるなんて絶対に許せない。

「……そうかい。なら、あんたの主張を尊重するよ。……それがどんな結末になってもね。……さて、この戦いを終わらせようかね!」
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