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砂漠の国編

第164部分 フィールレイ暴走

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 俺は何とか召喚盤からカードを引こうとしたが、

「何をしている?」

 それはフィールレイに腕を掴まれ、阻止された。
 そもそもレベル③以下でフィールレイを止めららるモンスターなんていない。

 もう駄目だ、おしまいだ。

 そう思った時だった。

「おい、二人仲良く燃えるか?」

 救世主の声がした。
 リザはフィールレイの腕を掴む。

「くっ……!」

 フィールレイは危険を感じ、距離を取った。
 俺は解放される。

「リザ助けて!」

 俺は情けない声を出し、リザの背中に隠れる。

「大丈夫、ハ・ヤ・テ?」

 安心したのも束の間、今度は後ろから抱きつかれた。
 ナターシャに耳元で囁かれる。
 体がゾワッとした。

「おい、ナターシャ、ハヤテは私のものだ」

「えっ、私たちの共有財産じゃないの?」

 二人とも勝手なことを…………
 だけど、今はそれどころじゃない。

「アイラ、こんな男に惚れたのか? どこが良いんだ?」

 フィールレイは俺の情けに姿を見て、呆れ、正気に戻っていた。

「おぬしも一緒にいれば、分かるぞ。……のう、フィールレイ、強さだけが全てじゃないんじゃ」

「分からない。この世界は力だ」

「おぬしはまだまだじゃの」

 アイラは微笑む。

「で、お前たちは何をしていた。二人でゴソゴソしていたのは気にしなかったけど、ハヤテに危害を加えるなら話は別だ」

 リザとフィールレイが対峙する。

「エルフ風情が生意気な。ここで決着を付けてやる。私はその男の足を一時間くらい舐めるだけだ」

 寒気がした。

「エルフじゃない、私、ハーフエルフ。頭のおかしい奴だ。もう一回燃やしてやる」

 リザは弓を構えた。

「おい、お前たち真夜中に喧嘩を始めるな! アイラも止めろ。部屋が壊れる」

「大丈夫じゃ、儂は気にせん。それにリザとフィールレイが仲良くなりそうで良かったわい」

 アイラ、お前の眼は大丈夫か!?
 二人とも喧嘩を始める気だぞ!



 結局、二人は場所を変えて、野外で戦闘を始めてしまった。
 リザードマンたちが駆けつけるが、二人の戦いには手を出せない。

「案ずるでない。二人とも本気ではないようじゃ」

 困惑するリザードマンたちにアイラが説明する。

 そして、アイラは俺に近づき、

「じゃから、言ったじゃろ。フィールレイは危険じゃとな」

 危険の意味が違う…………!


 次の日。

 俺は寝不足だった。
 リザとフィールレイは明け方まで戦っていた。

 駆けつけたゼルにフィールレイが連行されていったので、やっと戦いが終わった。

「レイちゃんが申し訳ないっす。回復してすぐにアイラを襲うなんて思ってなかったんで…………」

 ゼルは本当に申し訳なさそうだった。

「ゼルが謝ることじゃないけどさ。フィールレイって…………その……同性が好きなの?」

 ゼルは首を横に振る。

「レイちゃんはただひたすらにアイラが好きなだけっすよ。昔、レイちゃんが瀕死の重傷を負った時、アイラが血肉を与えたっす。どうもその時に口にしたアイラの味が病み付きになったみたいで……」

 聞かなければ良かった。
 俺の中でフィールレイがどんどんヤバい奴になっていく。

「ハヤテ、今度、香とフィールレイを戦わせよう。ヤベー奴決定戦だ」

 リザはそんなことを言う。
 いや、香だって、さすがにここまでヤバくない。

「アイラ、お前、物理的に食われる心配とかしないのかよ」

 ゼルの話を聞くとその可能性を考えてしまう。

「今の所は甘噛みまでじゃの。まぁ、儂なら食われても再生できる。心配ないの」

 いや、心配しかないけど?

「レイちゃんがアイラを大切に思っているのは間違いないっすよ。アイラが攫われたことを知った時は怒り狂って、ガンフィールさんでも引いてたっす」

 あの狂戦士が引くほどの怒りって…………
 でも、初対面の野戦の時、敵意を剥き出しだった理由が分かった。

 フィールレイからしたら、俺は大切な人を攫った宿敵ってことか…………
 俺はフィールレイを元気にしてしまったことを少し後悔した。

「ハヤテさん、どうっすか? あと一カ月くらいゆっくりしていきませんか?」

「冗談じゃない! こんな危険生物がいるところにいつまでもいられるか! 俺たちは砂漠の国へ行く!」

「それは残念っすね」

 ゼルは苦笑した。

「実際、早く行動したいんだよ。まだ戦争が続いているなら、早く終わらせたい」

「そうっすか。俺たちに出来ることはあんまりないっすけど、物資ぐらいは提供するっすよ」

「それは助かるよ」



 俺たちは馬車に必要物資を積み込んで、その日の午後『ジュラディーズ』を出発した。

「おい、アイラ、あの頭のおかしい竜人の為に『ジュラディーズ』へ残った方が良かったんじゃないのか?」

 リザが言う。

「抜かせ。儂がいなくなったら、食欲と性欲が制御できんハーフエルフとサキュバスもどきに囲まれて、ハヤテの貞操が危ないじゃろ?」

「アイラさん、サキュバスもどきって誰のこと?」

 馬車の外から声がした。
 いつも通り、ナターシャが馬を操作している。

「むっ、地獄耳じゃな…………ところでハヤテ、ゼルから貰った木箱じゃが、何が入っているんじゃ?」

「保存の効く食料と酒かな」

 それにしてもなんだか木箱が増えている気がする。

「こっちの木箱はなんだ?」

「それは儂が持ち込んだものじゃ」

 アイラは木箱の中を開いた。
 中には宝石や黄金が入っていた。

「お、おい、まさか、『ジュラディーズ』から盗んで来たのか?」

「失礼な奴じゃ。これは元々、儂の財産じゃ。隠し部屋に貯蔵していた物を少しばかり持ってきたんじゃよ。蛇人族に会うのに手ぶらでは、儂らの格を下げる」

 そんなことを考えていなかった。
 確かに国や種族間でのやり取りなら、贈り物は必要かもしれない。

「じゃあ、そっちの木箱にも財宝が入っているのかい?」

 もう一つ、見覚えのない大きな木箱があった。

「んっ? そっちは知らん。 ゼルが追加で何かをくれたんじゃないかの」

 アイラは徐に木箱を開ける。
 そして、すぐに閉じた。

「ハヤテ、この木箱は縄で縛って捨てるぞ」

「はっ、なんで…………」

 その理由を聞く前に木箱が弾けた。

「アイラ、酷い! そんなこと言わないで!」

 木箱から飛び出たフィールレイがアイラに抱きつく。

「おい、竜人族の族長の一人が勝手に抜け出すとはどういうことじゃ?」

 アイラは呆れていた。
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