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砂漠の国編

第173部分 ボードゲーム①

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 チェスの盤上の片面には高台、その対面には蛇人の巨大な石像が鎮座する。

 あれが俺の対戦相手なのか?

 何が起きるか分からないが、ここまで来て罠ということもないだろう。

 フィールレイを降ろして、俺は高台に上る。

「結構高いね」

 そして、なぜかナターシャも登ってきた。
 まぁ、いいけどさ……

「ねぇ、見て、ここに駒の動かし方が書いてある。私には読めないけど、ハヤテは読める?」

「えっと……大丈夫だ。読めるみたい」

 これに関しては女神様に感謝しておこうか。

「さてと……」

 駒の動かし方とルールを確認する。
 これはやはり駒取りゲームだ。
 しかも、将棋ではなく、チェスに近い。
 
 取った駒を再び使うことは出来ない。
 盤上の駒は減っていく一方だ。

 ルールを確認して、俺は内心でまずい、と思った。

 女王陛下たちが勝てない理由が分かった。
 チェスは世界チャンピオンでも、コンピュータに負けてしまうことがある。。

 取った駒を使わない分、パターンが限られるからだ。
 俺は並んでいる駒の数を数える。

 その数はチェスと同じだった。

 もし、全ての手筋が分かっていて、最善手を打ち続けられたら、必ず負ける。
 そもそも、初めて行う駒取りゲームでいきなり勝つなんて都合の良いことが出来るだろうか?

 こんなことを考えていると

『汝、我に挑むか?』

「えっ?」

 正面を見ると石像が光り、色が変わっていく。

「巨大な蛇人?」

 本当に生きているような肌の色、質感、雰囲気だ。
 しかし、表情には感情がない。

 それにこの顔は……

「女王陛下? いや、ちょっと違うな。でも、似ている……」

『我、歴史の守護者にして、遊戯の支配者なり。我に勝てば、秘宝を汝に与えよう』

 巨大な蛇人が盤上に手を翳す。
 すると、盤上は光り出した。

 蛇人の駒が白くなり、俺たちの方が黒になる。

 ルールが書いてあった石板も光った。
 そして、とても薄い紙、いや、カードのようなモノが出現する。
 同時に石板に新たなルールが記される。

『六十枚の札から三十枚を選択せよ。札は以下の時に引くことが出来る。自分が相手の駒を取った時、または相手に自分の駒が取られた時。札を使える場面は三種類に区分される。一つ目は相手の手番の時のみに発動可能な《緊急札》。二つ目は条件を満たした時のみ発動可能な《誘発札》。三つめは自分の手番にのみ発動可能な《自発札》』

 なんだこれ?
 チェスにカードゲーム要素が加わっているのか。

 でも、正直、こっちの方がありがたい。
 運要素の無い盤上ゲームじゃ、勝ち目は絶望的だった。

 運要素があれば、勝ち筋は出来るかもしれない。
 あとは六十枚のカードから選ぶ三十枚をどうするかだ。

 俺は初めに『立ち位置変更』というカードに目を止めた。
《自発札》で効果は『自軍の二つの駒の場所を変える』という単純なものだ。
 カードゲームの鉄則にテキストが短いカードは強カードというものがある。

『カードを二枚引く』とか、『モンスターを全て破壊する』とか、『ドローをスキップする』とか…………

 逆にテキストが長いカードは弱いことが多い。
 テキストが長い理由が条件を指定していることが多いからだ。

 カードゲームで、~たら、~れば、のカードは基本的に使いにくい。

 しかし、条件が揃った時に強いというか、勝ちまで確定してしまう強力なカードもある。

 正直、今回はそういうカードをデッキに入れたい。
 自力では相手の方が有利だろう。
 だから、十回に一回、成功するようなカードに頼ることになるかもしれない。

「俺がギャンブルデッキか…………」

 俺はミストローンで確実なカードパワーを持つカードばかり使っていた。
 運要素は嫌った。

 だって、運命力に愛されたカードゲーマーがすぐそばにいたから…………
 俺はミストローンで最大のライバルだったあの子のことを思い出す。
 あの子はデッキはピンキーな構成だった。
 劇的に勝ち、派手に負ける。

 だから、ミストローンのプレイヤーで最も人気があったのだろう。

「さて、俺はあの子の十分の一の運命力でも持っているかな?」

 そう呟きながら、俺は扱いが難しそうなカードを三十枚目に入れた。

 そして、入れなかったカードも効果を確認する。
 うっかり即死コンボに嵌ったら敵わない。

 だから、全てのカードを記憶した。

『決まったならば、札を右下の指定されている場所に置け』

 デッキを置くと光る。
 シャッフルが行われたようだった。

『それでは遊戯を開始する』

 巨大な蛇人は前衛の『歩兵隊』の駒を手に取り、一マス進めた。

「おい、俺のターンって言ったもんが勝ちかよ! あんたの方が有利なんだから、先行は譲れよな!」

 いきなり戦局は、さらに不利になった。
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