上 下
178 / 200
砂漠の国編

第178部分 秘宝の正体

しおりを挟む
 地震? いや違う。

 この部屋全体が崩れかけている。

「宝を取ったら、崩壊する。これもお決まりというやつかの?」

 アイラは笑っていた。

「呑気なことを言っている場合か! 早く脱出しないと…………」

 見るとすでに俺たちが入ってきた入り口は崩れていた。

 アイラが空けた穴も同じだ。

「アイラは波動砲で地上まで貫けるか?」

「さすがに難しいのぉ。前に『ジュラディーズ』へ潜入した時、穴を掘ったじゃろ。あのモンスターは召喚できんのか?」

 アイラが言っているのは巨大なミミズのようなモンスター『サンドワーム』のことだろう。

「出来るけど、サンドワームじゃ、掘っている間にここが崩れるよ」

 もっと上位のモンスターなら、どうにかなるけど…………
 ソウルポイントが足りない。

「ハヤテ、何を躊躇っているの?」
 ナターシャが言う

「こんな時まで気を使ってくれなくて大丈夫。リザちゃんたちから、カード化のことは聞いている。私を使っていいよ」

「いいんだね?」

「……うん、いいよ。でも、先に謝っておくね。ごめんなさい。ハヤテが望まない汚いものを見せることになるから…………」

「…………分かった。でも謝らないでくれ」

 俺は召喚盤を展開し、小剣をナターシャに手渡した。

 ナターシャはそれで小指を傷付けて、召喚盤に血を垂らす。
 俺はナターシャのカードを生成した。

「ナターシャをリンク…………」

 俺はそこで一回、動きを止めてしまった。

「大丈夫、ハヤテ? その……ごめんね……」

 ナターシャは申し訳なさそうに言った。
 
「君が謝ることじゃないよ…………さて、地底竜を召喚!」

 
 地底竜
 レベル⑦属性(土) 召喚コスト3500
 攻撃力2000 体力3500
『滅多に姿を現さない地面の中に潜っているドラゴン。移動する際は地震が起きる』

「こんなドラゴンがいるのか」

 フィールレイは呆気に取られていた。

「みんな、早く地底竜に乗るんだ!」

 俺が叫ぶと全員が地底竜の退化した翼付近に乗った。
 これなら地面の中を進んでいる時も翼が盾になってくれる。

「地底竜、地上を目指してくれ!」

 俺の頼みを聞いた地底竜は行動を開始する。

『ありがとうございます。あなたに我らの歴史を託します…………』

「えっ?」

 部屋を脱出する直前に声が聞こえた。
 振り返ると美しい蛇人の女性が立っていた。

 しかし、それは一瞬ですぐに消える。
 見間違いだろうか?

 しかし、確認する時間はない。

 俺たちは部屋を脱出する。
 地底竜が地面を掘り進めていく。
 とても息苦しい。

「み、みんな、大丈夫か!?」

 俺の問いかけに四人が反応した。

 直後、ナターシャが飛ばされそうになる

「おい、ナターシャ、頑張れ!」

 俺は飛ばされそうになったナターシャの腕を掴んだ。
 でも、俺だけの力じゃ…………

「しっかりしろ、ナターシャ」

 フィールレイがナターシャをグイッと手繰り寄せた。

「ありがとう、ハヤテ、フィールレイさん」

「お前がいなくなったら、美味しい物が食べられない……」

 フィールレイはそっぽを向いて言う。



 地底竜は暫くして、地上へと到達した。

 地下にいたせいで陽の光が眩しい。
 目に入ってきた陽の光は夕焼け色だった。

「随分と長い間、地下にいたみたいだな…………」

 地底竜を見た蛇人の兵士たちが驚いている。

「何があったのかしら?」

 女王陛下もさすがに驚いていた。

「何があったかじゃない。ゲームに勝ったら、危うく生き埋めにされかけた」

 リザが女王陛下に文句を言う。

「ゲームに勝った? それは本当なのかしら?」

 女王陛下は信じられないようだった。

「これが証明になるか分かりませんけど…………」

 俺は石像から出て来た本を女王陛下に渡した。
 女王陛下はそれの内容を確認し、泣き始める。

「ど、どうしたんですか!?」

「これには私たちが失った歴史が書かれているわ。魔王に屈服させられた時、私たちは自分たちの書物、石板……歴史を紡ぐ全てを破壊されたの。でも、そうだったのね。私の曽祖母様が隠し持っていたんだわ。そして、自分の命と引き換えに私たちの歴史を守った。曽祖母様はあの魔王から蛇人の誇りと歴史を守ったのよ! ハヤテ、いえ、ハヤテ様、この国を治める者として、感謝致します」

 女王陛下は深々と頭を下げた。
 その光景に兵士たちは驚く。

 なるほど秘宝というのは、蛇人族の歴史だったのか。
 黄金や宝石に比べれば、華やかさはないかもしれない。
 でも、その代わり浪漫がある秘宝だと思う。
 
「ハヤテ様、どうかこの本を譲って頂けませんか? もちろん、ハヤテ様には、功績にあった地位を用意致します」

「これは元々もあなたたちのものです。俺はゲームを楽しめたし、初めの約束、獣人族たちのとの講和を約束して頂ければ、満足です」

「それでは駄目です。それだけでは私たちの品格が疑われます。ハヤテ様にどうか王位に就いて頂きたく、思います」

「えっ?」

 今、なんて言いました。
 良く聞こえなかったんですけど。

「やった、これで私は国王夫人だ。毎日、肉が食えるぞ」
 などとリザは呑気なことを言う。

「いや、リザも女王陛下も待って! 俺は王様になる気なんてないですから!」

「心配せずとも私が妻としてハヤテ様を支えます」

 女王陛下は俺の手を取る。
 その手をひんやりと冷たくて、すべすべとしていた。

「おい、いきなりハヤテを取ろうとするな!」

 毎日、肉が食える、などと吞気なことを言っていたリザが、女王陛下へ敵意を向ける。

「心配せずともあなた方もハヤテ様の妾として迎えるわ」

「妾だと?」
「妾じゃと」

 リザとアイラが女王陛下を睨みつける。

「おい、儂が本気になれば、おぬしらをまとめて倒せるぞ」

「やってみる? 私たちは竜人族の弱点を知っているわよ」


「アイラ待て! 女王陛下も止まってください」

 俺が制止すると女王陛下は微笑み、

「あなた様が言うのでしたら」
と頭を下げた。

 なんだか、妙なことになってきた。
 でも、今はとりあえず、休みたい。
しおりを挟む

処理中です...