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南大陸統一編

第194部分 話し合い

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 「蛇人!?」

 その場にいた獣人たちは皆、一同に驚く。
 ライアンさんだけが落ち着いていた。

「初めまして、ライアン王。私はパトラティア五世よ」

「パトラティアだと?」

 それでも、さすがにパトラティアが名乗ると、ライアンさんが少しだけ驚いた。

「退位したと噂には聞いていたが……しかし、何故、西方連合の者や竜人と一緒にいるんだ?」

 ライアンさんがパトラティアに尋ねる。

「ハヤテに蛇人は恩が出来たわ。そして、ハヤテが戦争の終結を希望したの。私はそれを叶えるために協力しようとしている」

 パトラティアがそう言うと、ライアンさんの視線が俺に向かう。

「あなたはなぜ俺たちを救おうとするのか?」

「別に救おうとは思っていません。俺は戦乱より平和の方が良いと思っているだけです。ライアンさん、子供はいますか?」

 ライアンさんは「ああ」と答えた。

「だとしたら、子供が戦争に参加するのは避けたい、と思うのが親心じゃありませんか? 俺に子供はいませんけど、大切な人たちはいます。その人たちがまた戦争で危険な目に遭うのは嫌なんですよ」

 レイドア攻防戦のような戦いはもう二度とごめんだ。

 それを聞くとライアンさんの隣の女性が目を見開いた。

「お前に何が分かる!」

 女性は身を乗り出し、声を荒げた。

「えっと、あなたは?」

「ライアンの子、ライリーだ」

 娘だって?
 ライアンさんと親子ほどの歳が離れているようには思えなかった。
 ライリーさんの年齢は分からないが、今の言動を聞く限り、俺の想像より若いのだろう。

「止めないか、ライリー」

 ライアンさんが止めに入るが、ライリーさんは止まらない。

「いいえ、今、この男は私たちを馬鹿にしました! 私は死など恐れない! 逃げるよりも名誉の死を選ぶ!」

「名誉の死、ってどんなものですか?」

 俺の問いにライリーさんは少し戸惑い、
「そ、それは強敵と戦って死ぬことだ!」
と答えた。

「強敵と戦って死ぬことが名誉、ですか。俺から言わせてもらうとそれは馬鹿のやることです」

「なんだと!?」

「生きていれば、色々なことが出来ます。しかし、死んだら、何もかもが終わりです。もしかしたら、変な女神に会って、数奇な運命が待っているかもしれませんがね」

「何の話をしているんだ?」

「まぁ、要するに食べることも笑うことも、それに誰かと一緒にいることも生きていないと出来ない、ということです。生きる選択肢があるのに、それを投げ出すのはやっぱり馬鹿ですよ」

「貴様……本当に魔王を倒してのか?」

「俺だけの力じゃありません。ここにいる仲間とそして、今は遠くにいる仲間がいたから、勝つことが出来たんです」

 それを聞いたライリーさんは馬鹿にしたような笑いを浮かべる。

「なんだ、それでは複数人で魔王を袋叩きにしたのか。英雄が聞いて呆れるな」

 それはちょっと違うが、説明しづらいので否定しなかった。

「そんなんだから、戦争に負けるのよ」

 痛烈な言葉を使ったのはパトラティアだった。
 ライリーさんの敵意がパトラティアに向く。

「私は軍人じゃないけれど、戦争に勝つために必要なことは四つだと思っているわ。優秀な指揮官、相手より多い戦力、正確な情報、安定した補給。これがあれば、戦争には勝てるわ。個人の武勇を誇るなんて馬鹿げているわ」

「ふん、いかにも蛇人らしい意見だな。おい、最強種と言われる竜人族はそんなことを思わないだろ?」

 ライリーさんがアイラとフィールレイに視線を移した。

「儂もパトラティアの意見に賛成じゃよ。夢見がちな小娘じゃの。戦に変なロマンを持ち込むでない。そんなものは何の役にも立たん」

 アイラが一蹴する。

 言われたライリーさんは体を震わせる。

「噂に聞く竜人族も大したことないな」

「己と相手の力量差が分からない愚か者は戦場ですぐに死ぬぞ? そこには名誉なんぞありはせん」

「子供に何が分かる!」

 …………あ。

 それを聞いたアイラは馬鹿にしたように笑う。

「そうか、儂が子供に見えるか。……どれ、儂が少し教育してやろうかの?」

「望むところだ。お前のような子供に負けるわけがない」

「ほう、口だけは達者じゃの」

 アイラは席を立つ

 あー、ヤバいなぁ……
 ライリーさん、あなたが喧嘩を売ったのは竜人族最強クラスの化け物だよ。

「アイラ、手加減はしてやれよ」

 すると、アイラは俺の耳元で、
「安心せい。ちょっと猫とじゃれあって遊ぶだけじゃ」
と言い、笑った。
 
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