女たちは言う。イケメン、美男子、美青年と。

でぃくし

文字の大きさ
26 / 49

メサ・レドンダにて

しおりを挟む
「いや~ほんと、お前の顔って反則だよな~」

「反則?」
「だってさお前、めっちゃ見られてんじゃん。みんなお前を見て『カッコいい~♡』とか言ってんだよ?ほら、あそこの女の子たちとかもうお前のこと見て泣き崩れちゃってるじゃん?」

「俺はなまはげじゃない」

たかしは相変わらず平然としている。

たかしも別に好きでそうなっているわけではないのだし、自分が注目されようとされまいと彼にとってはどうでもいいことなのだろう。
そもそもどこへ行こうと注目の的になるのがたかしの日常なのだ。

だが、あたけは考える。

(一緒にいる俺はどう思われているんだろう?)

たかしと一緒に歩いている自分も同じような目で見られているのだろうか。
まさか、そんなことはあり得ない。

たかしの付き人程度に思われているか、あるいは ”無” のような扱いだろう。

「お前といるとさ、自分がどう見られてるのか不安になるんだよなー」

あたけのそんな言葉に少し考えるようにしてからたかしは応える。

「俺がいない時は?」
「え、そりゃあ……んなこと考えないよ。俺なんて空気じゃん」
「俺がいる時は?」
「そりゃー……あれだ、俺ってもしかして空気なんじゃないかなーって」

「一緒だろ」

そんな他愛もないやりとりをしながら人混みの中を歩いていると、いつの間にか目的地の美容室があるテナントビルに到着してしまっていた。

「えっと……ここだ、このビルの2階」

あたけが顔を上げると絶滅したはずのリョコウバトが飛び去っていくのが見えた。

(気にしたら負けだ)

もう付き合ってられないので、あたけは無視を決め込む。

「お前の顔を見たらさ店のみんな、すげーびっくりするだろうな!」

あたけはしっしっと手を振りながら足元をうろついていたたぬきを追い払い、入口の近くの階段を昇っていく。

「たぬきがうろついてる方がびっくりするだろ」
「ま、まあな……でもお前はそんじょそこらのイケメンじゃないからな」
「そうか、じゃ入るか」

たかしを引き連れたあたけはドアを開け、店内に入るなり店長と挨拶を交わす。

「どうも、あたけです」
「いらっしゃいませ。あたけ様、お待ちしておりました」

店長はにこやかに微笑みながら、ぴしりとした完璧な所作でお辞儀をする。
三十代の肝っ玉の据わった快活そうな女性だ。店内の洒落た様子からも彼女のセンスの良さがうかがえた。

だが、再び顔を上げた店長は目を見開いたまま、言葉を失ってしまう。

「…………」

「え、えーと、店長?こいつは俺の同僚の……」
「志方多加志(しかたたかし)です」

「し、失礼致しました。お、お初にお目に掛かります。わたくし、当店の店長を務めさせて頂いております」

たかしの美貌に圧倒され、朦朧としながらもなんとか職務を全うする店長。

(ええ?あれ?なんかこの人、すごくない?すごいよね?)

流石というべきだろうが……しかし、もはや店長は目の前の青年の美貌に完全に心をかき乱されてしまっていた。

「で、では志方様、こちらの席に……きゃっ」

たかしの美貌に圧倒された精神の影響は肉体にまで波及、極度の緊張から手元が震え、カルテのボールペンを取り落としてしまう店長。

「ご、ごめんなさ……きゃっ!」

慌てて床に落ちたボールペンを拾い上げようとする彼女。
しかし、バランスを崩してしまい倒れ込んでしまう。

「ちょっ、店長!!何やってんのさっきから!?」

倒れ込む彼女を受け止めようと差し出されたのはあたけの手。

しかし、店長は受け止められる寸前であたけの手を飛び込み前転で回避すると、素早くたかしの胸元へと飛び込んでしまった。

(え……今、めっちゃ避けられたよね?)

たかしに抱きついたまま離れない店長に絶句するあたけ。
一方でたかしはもはや慣れ切ったことだとばかりににこりと笑みを浮かべる。

「大丈夫ですか?」

「す、すみません、私ったら……失礼なことばかり……」
「いや、俺の方こそ驚かせてしまってすみません。お怪我はありませんか?」

(店長が一方的に悪いんじゃねえの……?)

あたけはそう思うものの、店長にばかり非があるとは言えないかもしれない。
何故なら今、店長がここぞとばかりに胸を埋めている青年は確かにイケメンではあったが、それはただのイケメンではないからだ。

たかしは人知を超えた力を持つ半吸血鬼だ。

そのたかしの美貌には吸血鬼であるあたけやたかしの従姉妹ですらしばしば圧倒されるのだから、普通の人間からすればもはや破壊的と言ってもよいものなのかもしれない。

「いいえ、とんでもありません!私って……昔からちょっとおっちょこちょいなところがあって……」
「意外ですね」

「そんなことないです……大人っぽいとか完璧主義者とかよく言われるんですけど……本当は今みたいにドジで寂しがり屋だし……」

「でもそれ以上に、あなたは人一倍の努力家で、それでいて他人のことを気遣える優しい方のようですね」
「え?」

「このお店の様子を見れば分かりますよ。みなさん楽しそうに働かれてますし、お客さんも笑顔が絶えない。これもあなたの情熱と人柄によるものでしょう」
「あ……」

優しい笑みを浮かべたまま何も考えずに口を開くたかし。
そんなたかしの言葉に感極まったような声をあげる店長。
いたたまれない気分になるあたけ。

(大丈夫かこいつら!?)

店長の目は熱を帯びたように潤み、今にも泣き出しそうな表情を浮かべていたが、そこはプロだ。
少し名残惜しそうにたかしから離れると、彼女は深々と頭を下げる。

「……ごめんなさい!こんなこといきなり言われても困りますよね……」
「とんでもない。楽しかったです」
「あ……」

耳までほんのりと赤く染め、店長は今にも泣き出しそうな表情でたかしを見上げている。口元を押さえ恥じらうその仕草はまるで、彼女が十数年前に涙と共に捨て去ったはずの乙女のそれであった。

しかし、そんな彼女を笑う者は誰もいない。

何故なら店内にいた他の客もスタッフたちも店長を尊敬していたし、そもそもすでにどいつもこいつも似たような有様だったからだ。
誰がこの場の支配者なのか、それは誰の目にも明らかだった。

「では……こちらへ……」

店長はたかしの肩に寄り添うようにその身を預け、彼を席へと案内する。

ただそこに存在するだけでその場の空気を支配してしまう。
それはまさに人知を超えた力と言ってよかったろう。
だが、これはたかしの美貌が持つその力の一端に過ぎない。

「……」

たかしの『美』は人々の目を釘付けにしたり、足を止めたり、その心をかき乱したり、時には意識さえ刈り取ってしまうほどの力がある。
しかし、たかしの『美』は決してそんな単純なものに留まらないのだ。

余談ではあるが、店長はたかしとの出会いで感じた『美』の再現に情熱を燃やし続け、その後の美容の世界に大きな革新をもたらしたのだという。

それに触れた者たちにひらめきを与え、
あるいは人生の道を示し、あるいは高みへと導いてしまう。

これは他の夜の住人たちには絶対に到達できない、たかしだけが持つ神話的な『美』の境地だった。

「えっと……あのー……俺の予約は……」

カウンターに取り残されたあたけは途方に暮れながら二人の背中を見送るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...