女たちは言う。イケメン、美男子、美青年と。

でぃくし

文字の大きさ
29 / 49

ルナとルクス

しおりを挟む
「なんだその情けない踏み込みは!犬の糞でも踏んだのか!真面目にやれ!」

たかしの怒鳴り声を聞いてあたけは思う。

(たかしって戦闘訓練の時はやたらスパルタなんだよな……)

たかしは戦いで手を抜いたりはしない。

しかし、今の彼にとってこの戦いは子供にサッカーを教えるようなもので相手のために本気であっても、勝つために全力だというわけではない。

それでもルクスはたかしの動きにまったくついて行くことが出来なかった。

「はあっ、はあっ……がっ!う、うおっ!!」

その体捌きだけでルクスは派手に転がされ、容赦なく蹴りを入れられ、顔面へと次々に拳を叩き込まれる。

「が、がはっ……ぐっ、くそおっ!!」

泥に塗れ、血を流し、涙を滲ませ、しかしそれでも剣を地面に突き立てるとルクスは歯を食いしばって立ち上がった。

「ううあああっ!!」

そんなルクスとたかしの様子を見ながらあたけは考える。

(……まあ、たかしがこんな風に相手をしてやるくらいだから、あいつのことを殺すつもりは毛頭ないんだろうけどさ)

やがて力なく崩れ落ちそうになるルクスの体を支えると、たかしは満足そうにうなずいた。

「ルクス、忘れないでくれ。最後の前蹴りだ。あれが一番よかった」
「……ごほっ……げほっ……」

たかしはぐったりとうなだれたルクスをパンダの遊具に乗せると、女を優しく抱き起こし、その首に絡まっていたワイヤーをまるで古びた輪ゴムのようにぶちりと引き千切る。

「さて、半吸血鬼のお嬢さん、色々と質問したいことがあるんだが」
「黙れ!死ね!」

たかしの腕の中で女はカッと目を見開くと、隠し持っていたナイフをたかしの胸に突き刺そうと体を捻る。

「やるな」

そう言うとたかしはふわりと手首を押さえて、ナイフをもぎ取ると彼女の肩をしっかり抱き寄せる。そして女の瞳を見つめながら子供をあやすようににこりと微笑んだ。

「くそっ!化け物!お前のような化け物に話すことなどない!」
「本当にいい根性をしているな。お前のことをガンドライドにスカウトしたいくらいだ」

「……ガンドライドだと?」
「ああ、お前たちが吸血鬼を殺したいように俺たちも裂け目の怪物を根絶したいんだ」
「……」

「な、なあ……なんで半吸血鬼なのに吸血鬼を殺そうとしてんだよ?」

少し大人しくなった女に対してあたけが恐る恐る問いかけるとたかしが口を開く。

「お前はヴァンパイアハンターなんだろ」

「違う!黙れ!」
「え、なんで半吸血鬼がヴァンパイアハンターになったりするわけ?」
「半吸血鬼と呼ぶな!私はダンピールだ!」

「ダンピールというのが名前なんだな」

「違う!ルナだ!馬鹿にするな!」
「それは本名か?ずいぶんかわいらしい名前だな」
「黙れ!間違って言ってしまっただけだ!やめろ馬鹿!離せ!」

「へえ、ルナさんって言うんだ。俺はあたけ、よろしく」
「んんがあっ、あぐガガッ!」

ルナはたかしの腕に牙を立て、必死に逃げ出そうともがいているが文字通り歯が立たないようだ。

「くっ、くうっ!どうして無力化の毒が効いていないのだ!この化け物め!」

「お前の正体はヴァンパイアハンターのダンピールってことでいいのか?」
「言わず!教えず!悟らせず!それが対吸血鬼の三つの原則!」

「あのな、ルナ、俺は別に怒ってない。どちらかというとお前のことが気に入ってるんだ、少しだけでいいから俺と話をしてくれないか?」

「貴様!馴れ馴れしく私の名を!よくも!殺してやる!」

ルナはたかしの腕に噛みついたまま牙が折れそうな程に力を込めるも、たかしは顔色一つ変えないままだ。

「おい、歯が折れるぞ。お前もワイヤーの毒に触れてたんだろう、脆くなってるんじゃないのか?」
「解毒剤を飲んでいるに決まってるだろう!この馬鹿!馬鹿者め!」
「そうか、なら好きにしろ」

「たかし、ダンピールってどういう連中なの?」

「ギャアーッ!」
「おい、ルナよ、静かにしてくれ。これじゃ話が出来ないじゃないか」
「アー!アー!アー!」

「……」

たかしが無言でルナの首に腕を回してその頬を押さえると彼女の顔は般若からひょっとこへと変わる。

「うグッ、ぶむぅうぅー、ブウアーッ!」
「……ダンピールというのは人間と吸血鬼の間に産まれた連中のことだ……つまり半吸血鬼ということだが、しかしそう呼ばないのはこいつらなりのこだわりでもあるんだろうが……」

「へえ……つーかすげえ根性だよな……」
「んグッ!うぐーッ!」

「……俺たちガンドライドもこの女の姿勢については見習うべきだろうな。変にかっこつけたり、吸血鬼らしさに固執し過ぎるのも良くない」
「な、なあたかし……そろそろ話させてやった方がいいんじゃないか?」

「うーん……だが素直に何か教えてくれる感じではなさそうだけどな」

ルナは落ち着くどころか、たかしの腕の中でひょっとこにされたままたかしの目に爪を立てようとしたり、みぞおちに肘を叩き込もうとしたりと必死にもがき続けていた。

たかしは少し不機嫌そうに眉を寄せながら鷲掴みにしたルナの頬を左右に振ってみせる。

「……すまない。俺から話してもいいか」
「ん?」

いつの間にか目を覚ました大柄な男、ルクスがパンダの遊具に乗ったまま恐る恐る口を開く。

「ああ、いいぞ」
「感謝する……俺たちはあんたの察しの通り、ヴァンパイアハンターだ」
「ンガッ!ンブガガガッ!」

ルナはたかしに頬を掴まれたまま怒りに燃えた目でルクスを睨みつける。

「そうか、だがお前も半吸血鬼のようだが」
「……ヴァンパイアハンターの構成員は俺たちダンピールのような吸血鬼の血を引く者が少なからず存在している、人間や他の種族も多いが」

そう言うとルクスは後ろに結わえた茶色い髪を撫でつけながら自嘲気味に笑った。

「まあこの有様じゃヴァンパイアハンターなんて到底名乗れそうにないけどな」
「んんんウバアーッ!!」
「何故、吸血鬼を狩ろうとする?お前の親は吸血鬼なんだろ?」

「そうだ。でも、だからといって皆が親に愛されたり、望まれて生まれて来るわけじゃない。そう言った連中は生まれた時から呪われているんだ」
「……」

たかしが手を離すとルナは転がるようにたかしの手を振り払い、ナイフを拾い直して身構えた。

「ルナ、やめてくれ」

たかしが声をかけるもナイフを構えたルナは彼を睨みつけたままだ。

「我々の魂の半分は吸血鬼の血により闇の中に閉じ込められたままなのだ!この呪いを打ち破る為には吸血鬼の心臓を太陽の元へ引きずり出して焼き焦がし、灰にしてしまわなければならない!我々はその為に生きているのだ!」

「ルクスが言っている呪いというのはそういう意味じゃないんじゃないか?」
「やかましい!黙れ!知った風な口を利くな!この化け物め!」

「すまない。ルクス、話を続けてくれ」
「ああ……」

ルクスはルナの冷たい刃の行方を見つめたまま、少しためらいがちに話を続ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...