家族転生 ~母が勇者になりまして~

瀬田松 篤謙

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それは、異世界への

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「アブラカタブラ……異世界の門よ、開け」
 如月舞菜香は姿見の前で(本人は妖艶だと思っている踊りを)踊っていた。
 腰をくねくね、頭を前後に振りながら深夜に踊っている様は、傍から見ると恐怖以外の何物でもない。
 でも、本人はいたって真面目で、こうしていれば異世界の門も開くだろうと思っている。
 しかし、もう一時間踊っているのに異世界の門は開かない。
「駄目か……」
 舞菜香が諦めて踊りをやめようとした時、ドアをガンガン叩かれた。
「うっさいよ、舞菜香! 何時だと思ってんの!」
 思わず首が竦んでしまう。プロレスラーの姉の覇気は圧倒的な威圧感を持っている。
「ごめんなさい、お姉ちゃん。今すぐ寝るから」
 そう言ってそそくさとベッドに入ると、ドアの向こうから「フン」と鼻を鳴らす音がして、姉が去って行く気配がした。次いでドアを閉める大きな音。あんたの方がうるさいわ、と舞菜香は舌打ちした。
 それから数分して、玄関の開く音がする。
「ふんふ~ん、お父さんのお帰りだよん。ただいまぁ」
 誰からもお帰りなさいと言われない父の帰還である。
「母さん、風呂沸かしてくれたぁ?」
 父は居間の大型テレビでゲームをしている母に声をかけているらしい。
 母は恐らく風呂を沸かしていない。『ゲーム>父』だからだ。
 そしてそんな父の声に反応して、姉の部屋のドアが勇ましく開く。
「うっさいわ! 静かに帰ってこい!」
 姉の怒号である。そして家の中がシンと静まりかえった。
 ドアがドゴンと閉まる音がする。
 父が首を竦めている様子が手に取るように分かる。
 舞菜香は思う。ああ、異世界に行きたい、と。
 そして頬を涙が伝ったその瞬間、『ドゴォォォォォォン』と爆発音がして家が揺れた。
 何事? と思って一階に降りると、母、父、姉、猫が、勢揃いしていた。
 数年ぶりに家族全員が顔を合わせたような気がする。
「今の音、どう考えてもウチの庭から聞こえたよね」
 ガタイのいい姉は少し震えていた。
「とにかく、庭を見てみよう」
 父がいつになく頼りがいがあるように見えたが、飼い猫のニャオを抱く腕が小刻みに震えている。
 玄関を開け、父を先頭に庭に出ると、庭に大きな穴が開いていた。
「これは、一体……?」
 全員呆気にとられていたが、母が「消防に電話かしら」と言ってスマホを取り出した。さすが肝っ玉。
 しかし、父の様子が少しおかしかった。どこか精気が失われているように見える。
「お父さん、大丈夫?」
 そう声をかけた瞬間、父がニャオを抱いたまま、穴にダイブをした。
「あ、何してんの!」
 姉が父の腕を掴もうとしてバランスを崩し、穴に落ちていった。
 舞菜香は姉の腕を掴もうとして、バランスを崩し、穴に落ちた。
「あらあら大変」
 母は舞菜香の腕を掴もうとして、バランスを崩し、穴に落ちた。
 股間がヒュワッとする中、穴の深淵へと落ちていく。舞菜香は恐怖から意識を失った。
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