異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子

文字の大きさ
1 / 19

嘘でしょ?

しおりを挟む
その日は珍しく残業もなく、買い物をしても陽が落ちきる前に自宅に一番近い駅に着いた。駅から自宅までは徒歩5分。公園を突っ切れば3分程度でささやかな我が家に着く。見た目ボロアパートは私のアトリエでもある。私の一番寛げる場所だ。陽も落ちきった夜に外灯もない公園を通ることはないが、今日はまだ明るい。欲しかった服や靴や鞄がことごとく値下げされていて、布も画材も刺繍糸も格安で手に入り、ウキウキとした気持ちで公園に入った。夕方だからか人の気配はない。シーンと静まり返った公園はちょっと不気味だ。何となくソワソワと落ち着かない気持ちで早く通りすぎようと足を速めた、その時・・・・。一瞬にして眩しすぎるほどの光に包まれた。

!!!何?車のヘッドライト?眩しすぎる!

眩しくて目も開けられない光の中で、一際強い光が更に強くなり私の意識が暗転・・・・。

「邪魔よ!」

ドン!!!

その直前に誰か若い女の子の声と私を突き飛ばした衝撃を感じたが、意識を保てなかった私がそれに反応することはなかった。








「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」

えっ、何?!

耳をつんざくような大勢の人の声に叩き起こされるように私の意識が覚めた。薄暗い。何かに囲われているようで外は全く見えない。身体の下には硬い感触がある。きっと私の鞄だ。それをそっとなるべく身体を動かさないように抱き締めた。今声をあげてはいけない。気付かれてはいけない。私の中でアラームが鳴る。何が起きているのか分からない不安を圧しこめてじっと息を殺して身を潜めた。

「ようこそお越しくださいましたのぉ、精霊の巫女様」

しわがれた老齢の人とおぼしき声が聞こえる。

「あ、あの。わたしぃ・・・・」

それに答えたのは若い女の子?戸惑いは感じられるがなんとなく嬉しそう?にも聞こえる。割りと近い距離にいるようだ。

「精霊の巫女様、さあ、こちらへ」

また違う声がした。今度は若い男の人だ。

「あ、ありがとうございます」

何が起こってるの? 

私は薄暗く閉ざされた空間で声だけを聞いていた。私の近くから聞こえたカツカツというヒールの音が遠ざかり、ざわめきが私の耳に届く。

「改めて。ようこそ、精霊王に招かれし異世界の巫女様」

「え?異世界の巫女?ですか?」

異世界の巫女?異世界って何?あ、もしかして、あの公園で映画の撮影でもしてた?

「さよう。あなた様は精霊王様たちに招かれたですじゃ」

「あっ。あの眩しい光!」

ああ!あの光。演出だったの?!

「「「「おおお!!!!」」」」

再び耳をつんざくような雄叫びが響き渡った。

「でも、わたし。お役に立てることなんて何も・・・・」

「いやいや。ご心配召されるな。精霊の巫女様はただこの世界に居てくださればそれだけで恩恵がありますじゃ」

「居るだけ?本当にそれだけで?」

「ええ、ええ。どうですかな。この世界で精霊の巫女となり、我々に恩恵を授けてくれませんじゃろか?」

「それでいいなら・・・・」

え?信用しちゃうの?いくら映画でもちょっと安直すぎない?

「ええ、ええ、構いませんよ。儂は神殿長のマクシブと申しますじゃ」

「えっと、楠木まりあです。あっ、まりあが名前です」

名前教えちゃうんだ。しかもフルネーム。台本書いたの誰よ?異世界ものにしても雑すぎじゃない?

「まりあ様とおっしゃるか。どうぞ、この世界で恙無くお過ごしなさいませ。あなた様にはこちらの生活に慣れるまでは護衛をつけさせてもらいますでな。神殿所属の聖騎士団がその任にあたりますじゃ。今、目の前におられる方々はあなた様への求婚者じゃ。落ち着いた頃合いを見計らってお会いになるとよろしかろう。神殿に部屋を用意しておりますので、ゆっくりなされるとよろしい。これはダガートと申す者。巫女様の筆頭護衛騎士じゃ。ダガート、まりあ様をお部屋へ」

「はっ。まりあ様、ご案内致します」

「はい。よろしくお願いします。では、失礼します」

「さて、皆の者。聞いての通りじゃ。本日はこれまでと致す」

「「「「うおおおおおお!!!まりあ様!!!」」」」

三度特大ボリュームの野太い声がこだました。

何この展開・・・・・・・・。まだ人の気配がする。私、撮影の邪魔にならないように何処かに隠されてるの?でも、隠す必要がある?

事態を掴めない私は混乱しながらも、この馬鹿馬鹿しいやりとりが映画の撮影であってほしいと願っていた。本当は分かっている。映画の撮影なんかじゃないことくらい。でも、認めてしまったら・・・・。怖くて震えそうだ。涙が出そうになる。

「抱き上げるが、見つかりたくないなら声を出すなよ?」

突然、私の頭上から低い男の声でボソッと話しかけられると次の瞬間、身体が宙に浮いた。

「ッ!」

声が漏れそうになる。寸でのところで抱えた鞄を口に押し当てて声を殺す。声の主は軽々と周りの被いごと私を抱き上げるとスタスタと歩き出した。不思議なことにこの人を怖いとは思わなかった。安定感のある腕の中はゆりかごに揺られるような居心地のよさを感じる。涙も怖さもなくなり、心が緩んでいく。しばらくその状態が続き、私は日頃の疲れと先程までの緊張から解放されたことで不覚にも眠ってしまったのだった。私の危機管理能力は何処に行った?!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

処理中です...