異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子

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残酷な事実

まりあ様の侍従兼教育係に就いてから5月余り。私フレイアは今日ほどまりあ様の元を訪れたくないと思ったことはない。


コンコンコン

「失礼致します。おはようございます、まりあ様」

「おはよう、フレイア」

私は溜め息を吐きたくなるのを圧し殺し、朝の紅茶をまりあ様に用意した。

「ねえ。もうすぐ、旅行に行くんでしょ?アールとライは、もちろん、私の護衛に来てくれるんだよね?」

「・・・・そのことで、この後、神殿長がまりあ様にお会いしたいそうです。朝食後に準備いたしましょう?」

私はその話の内容を知っているだけに気が重くなる。元々、神殿長の補佐をする巫女の私は、神殿長の受けとる神託を、間違いがないように同時に受けとる役目を負っている。その神託が今朝方、あったのだ。

「珍しいね。いつもお見合いの合間に顔出すのに」

「・・・・そうですね」

本当に気が重い。私は何度目かの溜め息を飲み込んで、いつものようにまりあ様の支度を整えた。










そして・・・・



「嘘・・・・。何かの間違いでしょ?私が精霊の巫女じゃないなんて、そんな・・・・」

神殿長は憐れみの表情でまりあ様を見つめている。

「光の精霊王様も闇の精霊王様も既に巫女様と新な神殿に入られたと神託があったのじゃ。そして、まりあ様、あなたが召喚の最中に巫女様を押し退けてこちらにいらしたことも伺いましたのじゃよ?」

「押し退けてなんて、そんな!そんなことしてない。だって、公園が光っててその中に入っただけ・・ぁ・・・・ち、違う!そんなつもりじゃ・・・・。だって、あれは私のために・・・・」

どうやら、心当たりがあるらしい。まりあ様は両手で頭を抱えて蹲ってしまった。

「まりあ様、あなた様は元の世界に帰ることはできません。分かりますな?精霊王様方より、巫女様と同郷ゆえ、この事で無下に扱わず、他の女性と同じ扱いを、とお言葉を戴き申した。詳細は伏せますが、精霊の巫女でなかったことはつまびらかにせねばなりません。その上で、新たに求婚者を募り、伴侶を得ることもできます。もちろん、ここにいていただくことも可能じゃ。どうしたいか、身の振り方をよくよくお考えなされよ」

「・・・・私はここでも厄介者なんだ」

ぽそりと呟いた言葉は神殿長には届かなかったようだが、隣に控えていた私の耳にははっきりと聞こえてしまった。ここでも、ということは、元の世界で何かあったのかもしれない。まりあ様は、良くも悪くも素直でお優しい。そして、寂しがり屋の甘えん坊。アールとライに執着するのも二人の見た目もそうだが、恐らく守って甘やかしてくれる存在に見えるのだろう。あの二人にはそんな空気がある。実際、伴侶となった女性を溺愛しているともっぱらの噂だ。

拠り所を無くしたようにフラフラと部屋へ戻るまりあ様は迷子の子供のようで見ていられなかった。



「フレイアは知ってたの?」

「・・・・はい。神殿長と共に神託を受けとりましたから」

「そっか。・・・・きっともう誰も求婚なんてしてくれないよ」

「そんなことは」

「いいの。分かってるから。向こうでも誰も私を必要としてなかったもん。パパもママも・・・・。兄様と姉様は出来の、・・フッ・・・・悪い私を、嫌ってたしね。婚約者だって・・おも、思ってた人も、実際は姉様の・・フッ・・婚約者、だったし。妹だから、ご機嫌・・ヒッ・・とってただけ。私、だけが・・・・勘違い・・フゥ・・してたなんて、わら、笑っちゃうよね。ホント、頭、悪すぎ、フッ、フフフフ」

ポロポロと零れる涙を拭うこともなく、私に語るその言葉の端々からは愛されたいという想いが溢れている。この神殿で私はたくさんの女性を見てきた。どの女性も周りに愛され、自信があり、傲慢で我が儘だ。幼いうちに神殿に来る子も、ここで皆に愛され、かしずかれる。だから、まりあ様のように愛してほしいと言葉に出せず、無意識に男の機嫌を窺う者はいない。

何度目か分からない溜め息を飲み込むと、私はポロポロと涙を溢す迷子の子供のようなまりあ様をそっと抱き寄せた。この短い期間にほだされてしまったらしい。このいまだ幼さを残すまりあ様がこの世界で幸せになってくれることを神に祈った。









結局、神殿からの発表は、まりあ様は精霊王の巫女の召喚に巻き込まれた一般女性であり、精霊王の巫女は精霊王自身が既に保護していると、かなりぼかしたものとなった。お蔭で、以前ほどではないにしろ、多くの求婚者がまりあ様とお見合いをしたが、まりあ様は誰も選ぶことはなかった。



「フレイア!これ!これ、どうかな?」

「ですから、短いスカートは破廉恥だとお教えいたしましたでしょう?」

「ええ~・・・・。可愛いと思うんどけどなぁ」

「夜着ならともかく。ここをこうしたお衣装なら作って差し上げますよ」

「うん。これも可愛い。そっか、夜着かぁ。そっちを考えてみようかな」

あれから、まりあ様は女性の洋服のデザインを描くようになった。そして、私たち巫女や神官が作ったそれをまりあ様がお召しになって神殿にいる女性や神殿を訪れる男性に広めている。女性のお化粧などの身嗜みの指導も私たちにしてくださる。今や神殿は、女性だけでなく、男にとっても、美を発信する最先端の地となった。それが神殿の収入になり、まりあ様のここでの地位を確立しつつある。そして、まりあ様には、私を含めた少し年嵩の巫女や神官が伴侶をとなり、まりあ様を真綿でくるむようにお仕えしている。

「ねぇ、フレイア。私、自分から巻き込まれてここに来たこと、後悔してないよ。だって、スッゴク幸せだもん!」

憂いのない笑顔で私に抱きついてくるまりあ様が愛しくてならない。最近になって漸く顔色を窺うような笑みではなく、自然とこぼれ落ちる笑顔を見せるようになったまりあ様を抱き締めつつ、この笑顔が消えないように守っていくことを改めて誓った。

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