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精霊の世界へ
自分のひとり島に帰ってから数日。ずっと畑仕事に精を出した。1月以上、放ったらかしたにしては、そこまで荒れることもなく元気に育っている。
「うーん」
ぐっと伸びをして身体を解す。本当なら27歳を過ぎているはずのこの身体は、まだ19歳を過ぎたところだ。若いって素晴らしい。と、桟橋に人が来たことを告げるベルが鳴った。
「なぁ。いい加減俺が入れるようにしてくれよ?」
訪ねてきたのはカイゼスだった。毎日毎日通ってくる。もちろん、門前払いだ。
「だめぇ。ここは私のひとり島だし。許可なんて出したら、ここに居座って自分のひとり島に帰らなくなるでしょ?」
絶対に許可しない。ずっと後ろをくっついて廻られるのは鬱陶しいし、ストレスが溜まる。それはカイゼスのひとり島で経験済みだ。
「用がないなら帰って」
私はいつものように踵を返した。
「待って。今日は用がある。明日、精霊の世界に行く。行くか?」
確認するようにカイゼスは数日前と同じ質問をしてきた。私の答えは決まっている。
「行く」
私がカイゼスの元ではなく、あの王宮の一角に飛ばされたのは何故か?あの彼女が一緒だったのは何故か?ちゃんと知りたい。
翌日、昨日と同じ時間にカイゼスは、私を迎えに来た。またも私を抱きかかえて、呪文を唱え始めた。今度はそれ程長くはなかったけど、今までとは違って全く聞き取れなかった。魔方陣が浮かぶこともない。私たちの廻りを竜巻のような風が覆い始め、カイゼスにしがみついていないと飛ばされそうだ。これには身に覚えがある。
「着いたぞ」
カイゼスの言葉と同時に竜巻が散霧する。そして、目に飛び込んできた光景は、この世のものとは思えない実に幻想的な風景だった。
「ここが精霊の世界・・・・。綺麗」
カイゼスは、嫌そうに顔を歪めた。
「確かに綺麗だがな。これを保つためには、相当の魔力が必要だ。それを供給するのが、龍族とその番だ。つまり、俺と神麻だ」
「へぇ」
そう言われても実感がわかない。
「おや、龍族のお方がこのような場所に来るなど珍しい」
忽然と現れたのは、優美な居で立ちをした性別不明の人物だった。カイゼスは、私の腰に手を回して自分の方へと引き寄せた。私もそれに逆らうことはしない。ここでは、カイゼスと離れてはいけない、そんな気がするのだ。ディータお婆さんの“魅入られる”と言う言葉が頭の中で響き渡る。まるで警報のように。
「白々しい。連絡しておいただろう」
眉間に皺を寄せたカイゼスの表情からするとあまり仲はよくないらしい。
「まあまあ。そう不機嫌になりますな」
フフフと優雅に微笑むその人とは合わないだろうなとは思う。
「さっさと案内しろ」
「せっかちですねぇ。慌てずとも案内致しますよ。そちらの聖女様もゆるりと寛いでくださいね?」
聖女様?私の称号は “巻き込まれ召喚になった元聖女” であって、聖女様ではない。私を見るその人の視線にぞわりと不気味なものを感じて、離れないようにカイゼスの服をしっかりと掴んだ。
「おや、聖女様はお気に召さないらしい。フフフフフ」
「ミーアは俺の番だ。手出しは許さん」
「ミーア様とおっしゃる。仲良く致しましょう」
カイゼスの鋭い視線を受け流して、私に微笑みかけてくる姿は、背筋が凍りそうなほどの嫌悪を感じる。綺麗な笑顔は作り物のようだ。
そんなピリピリとした会話の最中に突然景色が変わった。咄嗟にカイゼスにしがみつく。目の前には今まで話していた人と髪色は違えど似たような姿形の人が6人。カイゼスは、私を宥めるように抱き寄せると、6人を見据えた。
「今回の件、どういうつもりだ?」
「どう言うつもりとは?」
「俺の番召喚を邪魔しただろう?」
「お手助したまで。邪魔など致しておりませんよ?」
カイゼス以外は誰がしゃべっているのかすら分からない。全員が似たような声をしている。紛らわしい。カイゼスは、分かっているようだ。ちゃんと目が話している人に向いている。
「では、何故、俺の元へ来るはずの番をお前たちの召喚した聖女の元へ飛ばした?」
「さあ?着地点が狂っただけでは?魔方陣からズレていたのでしょう」
「そうですね。私たちのせいにするのは如何なものかと思いますよ?」
「実際、残念ながら我らが召喚に使った風の術の中には居ませんでしたし」
あれか。あの竜巻は、この人たちの術だったのか。渦の中心にいたら、私もあの“殿下”と呼ばれた人たちの視線に晒されて、どうなっていたか分からない。
「チッ。お前たちの術に巻き込まれていたら、俺の番も連れ去るつもりだったのか」
「何のことやら」
「とぼけても無駄だ。あそこに居る奴らはお前たちが連れてきた祠巡りをした連中だろう」
カイゼスの視線の先には、精霊と戯れる沢山の青年と1人の女性がいた。あの女性には見覚えがある。聖女だ。何故、こんなところに?全員がまるで子供のように無邪気に遊んでいるように見えるが、その目は虚ろで何も映していないと分かる。ほのぼのとした光景なのにこんなにも気持ちが悪いとは。こんなところに長く居たいとは思えない。
「あの方たちは、望んでここに居るのですよ。何でしたら尋ねてもらってもかまいませんよ?」
「フン。既に正気でなくなった者に何を尋ねても無駄だ」
「お分かり頂けたようで、嬉しい限りですね」
「・・・・。今日をもって女神様との盟約は解消だ。新たな盟約は女神様から伝えられるだろう」
「そうですか。残念です」
全然残念には聞こえない。
「私たちは魔力さえ手に入れば、どんな盟約でも受け入れますよ」
カイゼスは不機嫌極まりないという顔を隠さず、挨拶をすることもなく、私を連れて精霊の世界をあとにした。
「あの人たちは何だったの?」
帰ってきた私たちは、カイゼスのひとり島で一息吐くことにした。
「あれらは、精霊王だ。神麻をあの簒奪の聖女と同じ空間に連れて行ったのは、あわよくば、神麻もあいつらのように精霊の世界に引き込みたかったんだろう。神麻は俺に匹敵するほど魔力が高いからな。だが、幸運にも神麻はそれを逃れた」
幸運・・・・。身に覚えがある。幸運値100。
「あの人たちはあそこから出られないの?」
「いや。自分の意思を取り戻せばあるいは。あの様子では無理だろうな」
「「ハァ」」
溜め息が重なる。疲れた。あれらが、精霊王というなら、もう2度と会いたくない。ディータお婆さんの占いを私は生涯忘れないだろう。
「うーん」
ぐっと伸びをして身体を解す。本当なら27歳を過ぎているはずのこの身体は、まだ19歳を過ぎたところだ。若いって素晴らしい。と、桟橋に人が来たことを告げるベルが鳴った。
「なぁ。いい加減俺が入れるようにしてくれよ?」
訪ねてきたのはカイゼスだった。毎日毎日通ってくる。もちろん、門前払いだ。
「だめぇ。ここは私のひとり島だし。許可なんて出したら、ここに居座って自分のひとり島に帰らなくなるでしょ?」
絶対に許可しない。ずっと後ろをくっついて廻られるのは鬱陶しいし、ストレスが溜まる。それはカイゼスのひとり島で経験済みだ。
「用がないなら帰って」
私はいつものように踵を返した。
「待って。今日は用がある。明日、精霊の世界に行く。行くか?」
確認するようにカイゼスは数日前と同じ質問をしてきた。私の答えは決まっている。
「行く」
私がカイゼスの元ではなく、あの王宮の一角に飛ばされたのは何故か?あの彼女が一緒だったのは何故か?ちゃんと知りたい。
翌日、昨日と同じ時間にカイゼスは、私を迎えに来た。またも私を抱きかかえて、呪文を唱え始めた。今度はそれ程長くはなかったけど、今までとは違って全く聞き取れなかった。魔方陣が浮かぶこともない。私たちの廻りを竜巻のような風が覆い始め、カイゼスにしがみついていないと飛ばされそうだ。これには身に覚えがある。
「着いたぞ」
カイゼスの言葉と同時に竜巻が散霧する。そして、目に飛び込んできた光景は、この世のものとは思えない実に幻想的な風景だった。
「ここが精霊の世界・・・・。綺麗」
カイゼスは、嫌そうに顔を歪めた。
「確かに綺麗だがな。これを保つためには、相当の魔力が必要だ。それを供給するのが、龍族とその番だ。つまり、俺と神麻だ」
「へぇ」
そう言われても実感がわかない。
「おや、龍族のお方がこのような場所に来るなど珍しい」
忽然と現れたのは、優美な居で立ちをした性別不明の人物だった。カイゼスは、私の腰に手を回して自分の方へと引き寄せた。私もそれに逆らうことはしない。ここでは、カイゼスと離れてはいけない、そんな気がするのだ。ディータお婆さんの“魅入られる”と言う言葉が頭の中で響き渡る。まるで警報のように。
「白々しい。連絡しておいただろう」
眉間に皺を寄せたカイゼスの表情からするとあまり仲はよくないらしい。
「まあまあ。そう不機嫌になりますな」
フフフと優雅に微笑むその人とは合わないだろうなとは思う。
「さっさと案内しろ」
「せっかちですねぇ。慌てずとも案内致しますよ。そちらの聖女様もゆるりと寛いでくださいね?」
聖女様?私の称号は “巻き込まれ召喚になった元聖女” であって、聖女様ではない。私を見るその人の視線にぞわりと不気味なものを感じて、離れないようにカイゼスの服をしっかりと掴んだ。
「おや、聖女様はお気に召さないらしい。フフフフフ」
「ミーアは俺の番だ。手出しは許さん」
「ミーア様とおっしゃる。仲良く致しましょう」
カイゼスの鋭い視線を受け流して、私に微笑みかけてくる姿は、背筋が凍りそうなほどの嫌悪を感じる。綺麗な笑顔は作り物のようだ。
そんなピリピリとした会話の最中に突然景色が変わった。咄嗟にカイゼスにしがみつく。目の前には今まで話していた人と髪色は違えど似たような姿形の人が6人。カイゼスは、私を宥めるように抱き寄せると、6人を見据えた。
「今回の件、どういうつもりだ?」
「どう言うつもりとは?」
「俺の番召喚を邪魔しただろう?」
「お手助したまで。邪魔など致しておりませんよ?」
カイゼス以外は誰がしゃべっているのかすら分からない。全員が似たような声をしている。紛らわしい。カイゼスは、分かっているようだ。ちゃんと目が話している人に向いている。
「では、何故、俺の元へ来るはずの番をお前たちの召喚した聖女の元へ飛ばした?」
「さあ?着地点が狂っただけでは?魔方陣からズレていたのでしょう」
「そうですね。私たちのせいにするのは如何なものかと思いますよ?」
「実際、残念ながら我らが召喚に使った風の術の中には居ませんでしたし」
あれか。あの竜巻は、この人たちの術だったのか。渦の中心にいたら、私もあの“殿下”と呼ばれた人たちの視線に晒されて、どうなっていたか分からない。
「チッ。お前たちの術に巻き込まれていたら、俺の番も連れ去るつもりだったのか」
「何のことやら」
「とぼけても無駄だ。あそこに居る奴らはお前たちが連れてきた祠巡りをした連中だろう」
カイゼスの視線の先には、精霊と戯れる沢山の青年と1人の女性がいた。あの女性には見覚えがある。聖女だ。何故、こんなところに?全員がまるで子供のように無邪気に遊んでいるように見えるが、その目は虚ろで何も映していないと分かる。ほのぼのとした光景なのにこんなにも気持ちが悪いとは。こんなところに長く居たいとは思えない。
「あの方たちは、望んでここに居るのですよ。何でしたら尋ねてもらってもかまいませんよ?」
「フン。既に正気でなくなった者に何を尋ねても無駄だ」
「お分かり頂けたようで、嬉しい限りですね」
「・・・・。今日をもって女神様との盟約は解消だ。新たな盟約は女神様から伝えられるだろう」
「そうですか。残念です」
全然残念には聞こえない。
「私たちは魔力さえ手に入れば、どんな盟約でも受け入れますよ」
カイゼスは不機嫌極まりないという顔を隠さず、挨拶をすることもなく、私を連れて精霊の世界をあとにした。
「あの人たちは何だったの?」
帰ってきた私たちは、カイゼスのひとり島で一息吐くことにした。
「あれらは、精霊王だ。神麻をあの簒奪の聖女と同じ空間に連れて行ったのは、あわよくば、神麻もあいつらのように精霊の世界に引き込みたかったんだろう。神麻は俺に匹敵するほど魔力が高いからな。だが、幸運にも神麻はそれを逃れた」
幸運・・・・。身に覚えがある。幸運値100。
「あの人たちはあそこから出られないの?」
「いや。自分の意思を取り戻せばあるいは。あの様子では無理だろうな」
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