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好奇心で転移なんてあり得ない!
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コチコチコチコチ
カタカタカタカタ
時計の音とキーボードを打つ音だけが部屋に響く。外はすでに日も暮れて、月の光が柔らかく辺りを照らしている。私は、自分の周り以外は真っ暗なオフィスの一角で、ひたすらパソコンの画面と向き合い、新しいゲームに使う魔法陣を創っていた。本格的な魔法陣が売りのRPGなのだが、その魔法陣の数が尋常じゃなく多い。そして、それらの作成は、私に全て任されているという過労死寸前の状態。この3月程は、まともに自宅に帰っていない。寝袋と事務所の隣のビルにあるネカフェが頼りなんて哀しすぎる。
「やっと、終わったぁ・・ハァ」
最後のひとつを漸く完成させて、共有ホルダーに放り込んだ。画面に映し出された魔法陣に自然と笑みがこぼれる。やりきった充足感に満たされながら、それでも疲労感は否めない。
「ちょっと休憩」
独り言を呟くと、机に愛用の枕を乗せて、ぽふんと頭を預けた。油断するとそのまま寝入ってしまいそう。暫くその姿勢でうとうとしていると、突然、まばゆい光が瞼に飛び込んできた。
「何?!」
はっと顔を上げると、信じられないことにそのまま画面に放置していた魔法陣が光を放っている。
「えぇぇぇ。あり得ないんですけど?」
どんなにキーボードを叩こうとも画面をタップしようとも反応してくれない。それどころか、魔法陣から放たれる光は一層輝きを増して、目を開けているのも辛くなってくる。そして、何とかしようと奮闘する私を嘲笑うかのように一際強く輝いたかと思うと、私の視界を白く染め上げた。
ゆっくりと意識が浮上する。どうやら夢でも見ていたようだ。私の創った魔法陣がエフェクトも未加工なのに光を放つなんてあり得ない。幻覚を見るほど疲れていたなんて、社長にクレームメールでも飛ばしておこうか?
「よく寝た」
スッキリした頭でそんなことを考えながら、時計を確認しようとして、唖然とした。
「・・・・ここ、どこよ?」
明らかに室内ではない。光を反射してキラキラと輝く湖と柔らかな木漏れ日を漏らす大木、そして瑞々しい新緑に包まれた大地が私を取り囲む。使い古された机も固い椅子も魔法陣を創っていたパソコンも、ましてや電気をつけなければ鬱々とした薄暗い部屋すら消えている。唖然としてその場に座り込んだ。
「目覚めましたか?」
人の姿も見えないのに突然声が聞こえた。ビクッと身体が震える。
「・・・・」
誰?と問いたいのに、ハクハクと唇が動いただけで、声が喉に張り付いて出てこない。視線だけをキョロキョロと動かして辺りを探った。
「私はこの世界を創りし者。この度は、私の眷族が申し訳ないことをしてしまいました」
落ち着いた声に少しだけ身体の強張りがほぐれ、ぎこちない動きで声のした方へと顔を向けると、湖の上に人がいて、ゆっくりとこちらに歩んできた。湖の上を歩くこと自体あり得ないのだが、その姿は中性的ながら怪しい色香を纏っている。そのあからさまな様に、この世の者ではないと瞬時に理解させられた。
「創りし者って、神様?」
どういう状況?思わず、胸の前で自分の身体を抱き締めた。
「所謂、そういった類いの者という理解で間違っておりません」
「そう、ですか。何故私は神様と邂逅しているのでしょうか?え?死んだ?過労死、とか?」
あり得る。あの過酷な職場なら、ないとは言い切れない。
「その認識で間違いではありません。元いた世界でのあなたは、肉体から魂が離れてしまいました」
待って!
「っっっ!やっぱり過労死ってことですか?!それ、ダメ!!!絶対!!!」
そんなの困る。ゲームがお蔵入りになっちゃう!あんなに苦労したのに、水の泡だなんてそれだけはダメ!!!なんとかしなくちゃ!キョロキョロと瞳が忙しなく動くけれど、死んだ私に何が出来るというのか。
「ふふふ。それは困りましたね。既に肉体は地に還っていますし」
神様は、全く困ってなさげにおっとりと首を傾げた。
「・・・・ええっ!!!私はここにどれくらい居るのでしょうかあ????」
死んでそんなに経っていないよね?お願いします、そうであって。
「そうですね。あちらの概念で10年ほどでしょうか」
「10年?!」
予想外の長さに頭を抱えたくなった。この草原に10年・・・・。寝過ぎだし!生きてたらアラフォーだわ。ああああ、ゲームがぁ。私の魔法陣がぁ。儚く散っていく・・・・。
「ここは、神の領域ですし、誰も近づくことは出来ませんから、何処よりも安全です。この度は、私の眷族がまだ生きられるはずのあなたの魂をこちらに送ってしまい、大変申し訳ないことをしました」
そういうことではないんですけどね?神様の説明によると、この世の摂理を監視する神様の眷族が、私の創った魔法陣の洗練された美しさに見惚れ、私の元いた世界は、魔力を糧としていないことも忘れて、魔力を流してしまった。その結果、世界に歪みが発生してしまい、私は魂だけがここに弾き飛ばされたと。
「死因、過労死だけは勘弁してください。本当に」
泣きそう。あれだけ頑張ったのに。あのゲームの配信とか反応とか見られないなんて。その前にちゃんと配信されたかなぁ。ああ、でも、仕事を終わらせてたことは褒めていいかも。みんなビックリだよねぇ。朝来たら、私が死んでるんだもん。ごめんねぇ、社長。
「どういった死に方なら納得してもらえるのでしょう?死に様くらいなら変えられますよ。私、これでも神ですから」
私はばっと顔を上げて神様を凝視した。それならば、なるべく周りに迷惑のかからない死に方を・・・・。
「家で餅を、餅を、餅かぁ。ハァ。間抜けだなぁ。苦しそうだしねぇ。家で餅を喉に詰まらせて死ぬなら、自己責任ってことで。それでお願いします」
「分かりました。それで納得していただけるのでしたら、そのように致しましょう」
よかったぁ。これなら、私の頑張りも無駄にならないはず!
「あの。ちなみに、元の世界の私の身体を復元して戻すとかは?」
この流れから無理だろうなぁと思いつつも、一縷の望みを持って尋ねてみた。
「無理ですね。そこまでの自然の摂理に反することは神といえども出来はしません。それよりも、問題なのは、今のままでは、転生することも叶わないということです。少なくとも与えられた時間を消化しなくてはなりませんから」
あっさりと否定されたし!しかし、転生なんて、本当にあるんだ。あれ?つまり私、生まれ変われないの?
「え?このままずっとここに居るの?」
「それも許されません。いずれここに留まれなくなり、永遠に果ての狭間を流離うことになります」
ちょっと、止めてよ!殺された上に、考えるだけでも気が触れそうな現実が待ってるなんて!何でこんなことに・・・・。涙が。
「どうにかならないですか?!だって、ここに来ちゃったのはあなたの眷族のせいでしょう?!私の人生返してよぉ」
ううううぅぅ。そうだよ!私、悪くないよ!
「あなたが同意してくださるなら、私の管理する世界の中でも比較的干渉しやすい世界に転移させることは可能です。その世界で与えられた時間を消化することで輪廻に戻ることが可能となります」
「行きます。永遠に流離うんじゃなきゃ、何でもいいです。普通に戻りたい!」
「いいでしょう」
神様が、この上ない笑顔で頷きながら承諾してくれたことにほっと安堵した。
カタカタカタカタ
時計の音とキーボードを打つ音だけが部屋に響く。外はすでに日も暮れて、月の光が柔らかく辺りを照らしている。私は、自分の周り以外は真っ暗なオフィスの一角で、ひたすらパソコンの画面と向き合い、新しいゲームに使う魔法陣を創っていた。本格的な魔法陣が売りのRPGなのだが、その魔法陣の数が尋常じゃなく多い。そして、それらの作成は、私に全て任されているという過労死寸前の状態。この3月程は、まともに自宅に帰っていない。寝袋と事務所の隣のビルにあるネカフェが頼りなんて哀しすぎる。
「やっと、終わったぁ・・ハァ」
最後のひとつを漸く完成させて、共有ホルダーに放り込んだ。画面に映し出された魔法陣に自然と笑みがこぼれる。やりきった充足感に満たされながら、それでも疲労感は否めない。
「ちょっと休憩」
独り言を呟くと、机に愛用の枕を乗せて、ぽふんと頭を預けた。油断するとそのまま寝入ってしまいそう。暫くその姿勢でうとうとしていると、突然、まばゆい光が瞼に飛び込んできた。
「何?!」
はっと顔を上げると、信じられないことにそのまま画面に放置していた魔法陣が光を放っている。
「えぇぇぇ。あり得ないんですけど?」
どんなにキーボードを叩こうとも画面をタップしようとも反応してくれない。それどころか、魔法陣から放たれる光は一層輝きを増して、目を開けているのも辛くなってくる。そして、何とかしようと奮闘する私を嘲笑うかのように一際強く輝いたかと思うと、私の視界を白く染め上げた。
ゆっくりと意識が浮上する。どうやら夢でも見ていたようだ。私の創った魔法陣がエフェクトも未加工なのに光を放つなんてあり得ない。幻覚を見るほど疲れていたなんて、社長にクレームメールでも飛ばしておこうか?
「よく寝た」
スッキリした頭でそんなことを考えながら、時計を確認しようとして、唖然とした。
「・・・・ここ、どこよ?」
明らかに室内ではない。光を反射してキラキラと輝く湖と柔らかな木漏れ日を漏らす大木、そして瑞々しい新緑に包まれた大地が私を取り囲む。使い古された机も固い椅子も魔法陣を創っていたパソコンも、ましてや電気をつけなければ鬱々とした薄暗い部屋すら消えている。唖然としてその場に座り込んだ。
「目覚めましたか?」
人の姿も見えないのに突然声が聞こえた。ビクッと身体が震える。
「・・・・」
誰?と問いたいのに、ハクハクと唇が動いただけで、声が喉に張り付いて出てこない。視線だけをキョロキョロと動かして辺りを探った。
「私はこの世界を創りし者。この度は、私の眷族が申し訳ないことをしてしまいました」
落ち着いた声に少しだけ身体の強張りがほぐれ、ぎこちない動きで声のした方へと顔を向けると、湖の上に人がいて、ゆっくりとこちらに歩んできた。湖の上を歩くこと自体あり得ないのだが、その姿は中性的ながら怪しい色香を纏っている。そのあからさまな様に、この世の者ではないと瞬時に理解させられた。
「創りし者って、神様?」
どういう状況?思わず、胸の前で自分の身体を抱き締めた。
「所謂、そういった類いの者という理解で間違っておりません」
「そう、ですか。何故私は神様と邂逅しているのでしょうか?え?死んだ?過労死、とか?」
あり得る。あの過酷な職場なら、ないとは言い切れない。
「その認識で間違いではありません。元いた世界でのあなたは、肉体から魂が離れてしまいました」
待って!
「っっっ!やっぱり過労死ってことですか?!それ、ダメ!!!絶対!!!」
そんなの困る。ゲームがお蔵入りになっちゃう!あんなに苦労したのに、水の泡だなんてそれだけはダメ!!!なんとかしなくちゃ!キョロキョロと瞳が忙しなく動くけれど、死んだ私に何が出来るというのか。
「ふふふ。それは困りましたね。既に肉体は地に還っていますし」
神様は、全く困ってなさげにおっとりと首を傾げた。
「・・・・ええっ!!!私はここにどれくらい居るのでしょうかあ????」
死んでそんなに経っていないよね?お願いします、そうであって。
「そうですね。あちらの概念で10年ほどでしょうか」
「10年?!」
予想外の長さに頭を抱えたくなった。この草原に10年・・・・。寝過ぎだし!生きてたらアラフォーだわ。ああああ、ゲームがぁ。私の魔法陣がぁ。儚く散っていく・・・・。
「ここは、神の領域ですし、誰も近づくことは出来ませんから、何処よりも安全です。この度は、私の眷族がまだ生きられるはずのあなたの魂をこちらに送ってしまい、大変申し訳ないことをしました」
そういうことではないんですけどね?神様の説明によると、この世の摂理を監視する神様の眷族が、私の創った魔法陣の洗練された美しさに見惚れ、私の元いた世界は、魔力を糧としていないことも忘れて、魔力を流してしまった。その結果、世界に歪みが発生してしまい、私は魂だけがここに弾き飛ばされたと。
「死因、過労死だけは勘弁してください。本当に」
泣きそう。あれだけ頑張ったのに。あのゲームの配信とか反応とか見られないなんて。その前にちゃんと配信されたかなぁ。ああ、でも、仕事を終わらせてたことは褒めていいかも。みんなビックリだよねぇ。朝来たら、私が死んでるんだもん。ごめんねぇ、社長。
「どういった死に方なら納得してもらえるのでしょう?死に様くらいなら変えられますよ。私、これでも神ですから」
私はばっと顔を上げて神様を凝視した。それならば、なるべく周りに迷惑のかからない死に方を・・・・。
「家で餅を、餅を、餅かぁ。ハァ。間抜けだなぁ。苦しそうだしねぇ。家で餅を喉に詰まらせて死ぬなら、自己責任ってことで。それでお願いします」
「分かりました。それで納得していただけるのでしたら、そのように致しましょう」
よかったぁ。これなら、私の頑張りも無駄にならないはず!
「あの。ちなみに、元の世界の私の身体を復元して戻すとかは?」
この流れから無理だろうなぁと思いつつも、一縷の望みを持って尋ねてみた。
「無理ですね。そこまでの自然の摂理に反することは神といえども出来はしません。それよりも、問題なのは、今のままでは、転生することも叶わないということです。少なくとも与えられた時間を消化しなくてはなりませんから」
あっさりと否定されたし!しかし、転生なんて、本当にあるんだ。あれ?つまり私、生まれ変われないの?
「え?このままずっとここに居るの?」
「それも許されません。いずれここに留まれなくなり、永遠に果ての狭間を流離うことになります」
ちょっと、止めてよ!殺された上に、考えるだけでも気が触れそうな現実が待ってるなんて!何でこんなことに・・・・。涙が。
「どうにかならないですか?!だって、ここに来ちゃったのはあなたの眷族のせいでしょう?!私の人生返してよぉ」
ううううぅぅ。そうだよ!私、悪くないよ!
「あなたが同意してくださるなら、私の管理する世界の中でも比較的干渉しやすい世界に転移させることは可能です。その世界で与えられた時間を消化することで輪廻に戻ることが可能となります」
「行きます。永遠に流離うんじゃなきゃ、何でもいいです。普通に戻りたい!」
「いいでしょう」
神様が、この上ない笑顔で頷きながら承諾してくれたことにほっと安堵した。
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