亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される

コムギ

文字の大きさ
11 / 32

11【騎士の煩悩】

しおりを挟む
 気絶したルカーシュを池から担ぎ上げ、なりふり構わずに邸宅に戻ったとき、もはやシモンの心は誤魔化しようがなかった。

 儚く消えてしまうのが恐ろしくて、咄嗟に呼び捨てしたことも。触らないでと言われて、胸が張り裂けそうに痛かったことも、気のせいではない。

 かつては、人の頭の中に居座るルカーシュの顔を、呪いだと忌々しく思っていた。現実でも見ないように顔をそらして、不機嫌を保っていた。

 だが、今は違う。

 一緒にいるなら楽しむほうが断然いいし、機嫌よく話すと、ルカーシュも笑ってくれる場面が増えてきた。

 なぜこんなにもと、疑問に思っていたことが、これを機会に腑に落ちた。

 ――俺はルカーシュ様を慕っているらしい。

 ルカーシュの身体に張り付いた衣服を肌に触れずに脱がせるのは、たいへん困難をきわめた。

 上着を脱がせるのは、まだ楽だった。中のシャツは薄手で肌に張り付いて、皮膚が透けて見える。

 この肌に触れると怪我をすることは、身を持って知っている。念のため、手袋をし、手早く服を脱がした。

 急に喉に詰まらせたような声を出したのは、裸を見てしまったためだ。

 ルカーシュの危機的状況だというのに、眩しい肌に視線を持っていかれる。屋内で過ごしていたルカーシュの肌は白く、傷一つない。騎士の自分にしてみれば、未熟な身体だ。

 シモンの好む、柔らかそうな膨らみもない。腰も骨ばっていて、筋肉も薄い。そそるものなど何もないはずなのに、むき出しの鎖骨や薄い乳首の色を見て、喉が乾く。

 邪な気持ちを振り切るように、シモンは素早く替えの服を着せた。

 ルカーシュの看病は三日三晩続いた。いつ、いかなる時も側にいた。空腹と睡眠不足で限界まで来ていたが、世話をし続けた。

 使用人に何度も「寝てください」と言われたが、「眠くない」と頑なに断った。

 もし突然、目が覚めてシモンがいなかったら、可哀想だろう。約束を反故にはしたくない。その一心だった。

 献身的な世話のおかげか、ルカーシュの身体の熱は冷めた。落ち着いた頃に、大事な話をされた。おそらく騎士団長のラデクも知らないだろう、ルカーシュの出生から、これまでの話だった。

 ようやく心の奥深くに触れたようで嬉しかった。手に届かないように見えた存在が、悩み苦しんでいることに親近感を覚えた。

 同時に、頬や唇に触れたいと思った。簡単には触れられない今の状態を思うと、胸の内側から苦しかった。

 三日も寝ていないのに、自室に戻ったシモンは寝台の上で仰向けになっていた。腕を枕代わりにして、ルカーシュの顔を浮かべる。

 ――貴族、ましてや元王族なんか、好きになる資格すら、ないのにな。

 元々は平民育ちのせいか、貴族に対しての印象は悪い。

 あいつらはいつだって身分で差別し、貧しいものには施しを与えなければと言う。すべてにおいて、上から目線だ。

 ただ、事実として、その寄付金や力添えによって、シモンのような孤児は生かされてきた。

 偽善も役に立っているのなら、いいことだ。シモンはそう考えて、なるべく貴族や身分のことは深く考えないようにしてきた。

 上司で騎士団長のバルトルトもそういう人だったから、シモンも自由に生きてきた。

 初めは、ルカーシュも同じで、生け好かないやつだと思っていた。

 しかし、ルカーシュは自由を奪われ、愛情すら知らなかった。母親が亡くなってからは、ただ一人で牢獄の中にいた。

 感情を押し殺し、生きてきたのだろう。

 今のシモンはルカーシュを笑顔にしたい。そのためなら、何だってする。

 何日も前から釣り道具を用意して、釣りに詳しい村人から学んだ。

 柄にもなく、ルカーシュに贈りたい花を調べるために図鑑まで買った。面白いと薦められた本をちょこちょこ読んで、いずれは感想を伝えたいと思っている。

 シモンは自分の変わりように呆れて息を吐く。どんな女(親しい友人)にだって、ここまでの下調べや趣味を合わせたりなんかしなかった。

 しかもそんな自分が嫌ではない。呆れて、ため息が出るくらいだ。

 思考だけでなく、行動も変わってきている。

 今日だけで何度、おのれの手を握っただろう。

 時折、白い肌に触れたくなって、隠れて拳を握った。そのことはきっと、シモン以外は知らないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。 満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。 よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。 愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。 だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。 それなのに転生先にはまんまと彼が。 でも、どっち? 判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。 今世は幸せになりに来ました。

ヒールオメガは敵騎士の腕の中~平民上がりの癒し手は、王の器に密かに溺愛される

七角@書籍化進行中!
BL
君とどうにかなるつもりはない。わたしはソコロフ家の、君はアナトリエ家の近衛騎士なのだから。 ここは二大貴族が百年にわたり王位争いを繰り広げる国。 平民のオメガにして近衛騎士に登用されたスフェンは、敬愛するアルファの公子レクスに忠誠を誓っている。 しかしレクスから賜った密令により、敵方の騎士でアルファのエリセイと行動を共にする破目になってしまう。 エリセイは腹が立つほど呑気でのらくら。だが密令を果たすため仕方なく一緒に過ごすうち、彼への印象が変わっていく。 さらに、蔑まれるオメガが実は、この百年の戦いに終止符を打てる存在だと判明するも――やはり、剣を向け合う運命だった。 特別な「ヒールオメガ」が鍵を握る、ロミジュリオメガバース。

【本編完結】おもてなしに性接待はアリですか?

チョロケロ
BL
旅人など滅多に来ない超ド田舎な村にモンスターが現れた。慌てふためいた村民たちはギルドに依頼し冒険者を手配した。数日後、村にやって来た冒険者があまりにも男前なので度肝を抜かれる村民たち。 モンスターを討伐するには数日かかるらしい。それまで冒険者はこの村に滞在してくれる。 こんなド田舎な村にわざわざ来てくれた冒険者に感謝し、おもてなしがしたいと思った村民たち。 ワシらに出来ることはなにかないだろうか? と考えた。そこで村民たちは、性接待を思い付いたのだ!性接待を行うのは、村で唯一の若者、ネリル。本当は若いおなごの方がよいのかもしれんが、まあ仕方ないな。などと思いながらすぐに実行に移す。はたして冒険者は村民渾身の性接待を喜んでくれるのだろうか? ※不定期更新です。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。 ※よろしくお願いします。

歳上公爵さまは、子供っぽい僕には興味がないようです

チョロケロ
BL
《公爵×男爵令息》 歳上の公爵様に求婚されたセルビット。最初はおじさんだから嫌だと思っていたのだが、公爵の優しさに段々心を開いてゆく。無事結婚をして、初夜を迎えることになった。だが、そこで公爵は驚くべき行動にでたのだった。   ほのぼのです。よろしくお願いします。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

処理中です...