アンチ・リアル

岡田泰紀

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アンチ・リアル 2

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「アンチ・リアル」 2

重い頭のまま、仕事に取りかかるのは不満だが、そもそも自分の仕業なのだから、不満も何もないではないか。

日出郎は、実家から直接、契約先のスタジオに顔を出した。

住宅のリモデリングを手掛ける会社と、フリーで契約している。
フリーなので、就業規則は全くなく、普段は監理する施工現場にいたり、自宅の仕事部屋で図面を起こしたりもするが、日出郎のために机が一つ用意されているし、誰でも使えるドラフター(製図機)が打ち合わせ室にもあるので、デスクワークはスタジオに赴いてすることが多い。

それは過酷な仕事である。
与えられた物件、もしくは自分が担当として契約できた物件につき、スタジオに25%の粗利を出して、契約金額の5%を報酬として手にできる。

25%を出せない場合、報酬は削られる。

もし月収50万が欲しいなら、1,000万分の物件を手掛け、250万の利益を上げなくてはならない。

住宅の改装で、常に高額の契約がある訳でもないし、高額になれば、月をまたぐ。
施工図を起こし、全てを価格交渉の上発注し、現場を監理し、最後に外注先の精算の検収を済ます。
言ってみれば、リモデリングの業務全般の、アウトソーシングである。

騙されるのは、いつも仕事をもらう立場だなと、日出郎は思った。
そもそも、そのような契約の第1号が自分なのだ。
スタジオの社長の口八丁手八丁で、条件を呑んでしまったのは自分だ。

それでも、後悔はなかった。
もう、人の下で働くのはうんざりだった。
きつくても、一人の事業者でいる方がマシだと思ったのだ。

一つ、リスクヘッジできるのは、外注はスタジオの協力業者で、支払いと、それに伴う資金繰りは一切しなくて済むことだ。
そう考えると、自分で請負するより、儲けはなくても持ち出しすることはない。

建築の世界は、儲けの金額の桁が違う。

それを知って自分で請負を始める者も少なくないが、どんな商売でも、資金繰りが一番難しいことを後から実感するのだ。

騙されるのも、場合によっては悪くない訳だ。

スタジオのスタッフは、自分と年代が近い、20代後半の女性が多かった。
社長の方針で、住宅に携わるのは、女性がいいということだったが、日出郎が契約するまでは担当者が全てをやらくてはいけなかったので、きつくて辞めていくスタッフが多かった。

ミレニアムの馬鹿げた喧騒が終わった頃、手書きの図面は、世の中から徐々に駆逐されていきつつある。

スタジオのスタッフも、半数がパソコンを使いCADで図面を起こしている。
とりわけ仲のいい、深田薫がCADを始めたのが、日出郎にはショックだった。

「日出さん、会社に、辞めていった人が置いてった、ちょっと旧いiMacがあるから、よかったら使ってみたら?」

薫から言われたものの、日出郎は何ともやりきれない気持ちになるのだ。

薫をはじめ、CADに移行しようとするスタッフを見てきたが、自分のように一切パソコンができない訳でもないのに、その習得の大変さに苦労する姿は恐怖に値した。

つまり、ただでさえオーバーワークの日常の業務が、習得できるまでほとんど止まってしまうようなものなのだ。

今日も、際限のない残業(日出郎は残業もくそもないのだが)に、いつものように二人が残り、薫は社長室のソファーで仮眠を取ろうとする。

日出郎は帰れと言うのだが、薫は聞き入れず、短い仮眠に入る。

ずり落ちた毛布をかけ直し、この女を好きになった自分は、今夜は家に帰らなくてはならないと思う。

夜中の街は、生ぬるい風の中にあり、自分の人生は、何だかクソだなと、日出郎は思った。
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