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アンチ・リアル 14
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「アンチ・リアル」 14
「で、どうだったの?」
翌日、スタジオのショールームのカウンターで、ほとんど来ない来客のために待機しながら、薫はCADでプラン図を起こしながら日出郎に聞いてきた。
藤田邸の仕事でスタジオを抜けることは、まだ薫にしか言ってない。
彼女なりに、日出郎の去就が気になっている様子がうかがえ、それは、日出郎に、ちょっと嬉しい気持ちをもたらした。
しかし、喜んでいる場合ではない。
守秘義務があるため、薫には物件名も概要も話してはいない。
守秘義務?
つまり藤田明人は、自分の行為が正常ではないことを理解しているのではないか?
人に知られたら困ると。
だとしたら、正常ではないが、精神を病んではいない、理性のある状態だということなのだろうか?
しかし、何の目的で、あんな狂った建築を、
しかも、引退した自分の、終いの棲家に…
詐欺ではない。
入金は、日出郎も山盛の通帳のコピーで確認した。
藤田は、何を、どうしたいのか?
「ねぇ、どうして黙ってるの?」
日出郎は、薫の声に我に還った。
「ああぁ…う、うん、ちょっと、今まで経験したことがない、困難な仕事になりそうなんだ。
悩んでる。
輸入住宅の件もあるし、今回の物件を一つの機会に、こことの契約を終わりにすべきなのか。
ただ、君が残るつもりなら、僕は必ずここに戻る」
薫は、少し驚いたような眼差しで日出郎を見返した。
「私のことは関係ないよ。日出さんが思ったように決めないと」
「まだ、君の力になりたいんだよ。
君だって、一人で悩んで頭打ちになってるじゃん。
そのあがきが、僕には、なんていうか…支えたいって気持ちになるんだ。
上手く言えないんだけどさ」
日出郎は、思っている通りのことを、薫に言った。
その時、別のスタッフが、社長が呼んでますと日出郎に伝えに来た。
「どうするの?」
「さあ、どうするんでしょうね」
日出郎は薫の肩をポンと叩くと、社長室に向かった。
…ドアをノックして入ると、いつものように応接セットのソファーに腰掛けた。
社長は、40ぐらいの、背が低く丸っこい男だ。
スタッフはみんな「パタリロ」と呼んでいた。
パタリロはいつも饒舌で、稀代の人たらしだ。
そして、日出郎も、そんな口八丁手八丁で騙されたクチだ。
今日は、そんな訳にはいかない。
「井上君、先日の話だが、どうだね。やる気になったかい?」
この男は「考えてくれたかい」なんて聞いてはこない。
「ええ。よくよく考えさせていただきました。
僕の方から一つ条件があるのですが、それを受け入れていただけたら、輸入住宅の話をお請けします」
日出郎は、はったりをきかしたり、駆け引きをするのは苦手なのだが、ここは踏ん張りどころと思って、先攻で切り出した。
「実は、昔の仕事仲間から、かなり難しい案件の相談を受けてます。
僕としては義理もあるので、なんとかやりたいのですが、おそらく半年以上は専任でここを抜けなくてはいけません。
今のリモデリングの引渡しが終わったら、その案件のために抜けさせてもらうことと引き換えに、輸入住宅の話をお請けします。」
「よし、わかった!
その代わり半年以上は待てんぞ。もう契約の話が進んでいるから、帰ってきたらすぐ担当してもらうからな」
パタリロは満顔の笑みで日出郎と握手した。
金の話じゃなくて、得をしたとでも思っているのだろう。
残念だったな。
一度離れてしまえば、請求の残金を人質に契約を強いられることもなく、口約束など破ってここをやめてしまえばいい。。
薫がスタジオに残るのなら、約束した通り戻ってくればいい。
どちらにしても、自分の望み通りだ。
日出郎にしては、上出来の駆け引きで終わり、社長室のドアを締めると、思わず小さなガッツポーズを決めてしまった。
「今晩はおごるよ」
日出郎はカウンターに戻ると、薫に言ってはみたものの、藤田邸の図面を思い出してしまい、なんとも苦い気持ちになった。
「で、どうだったの?」
翌日、スタジオのショールームのカウンターで、ほとんど来ない来客のために待機しながら、薫はCADでプラン図を起こしながら日出郎に聞いてきた。
藤田邸の仕事でスタジオを抜けることは、まだ薫にしか言ってない。
彼女なりに、日出郎の去就が気になっている様子がうかがえ、それは、日出郎に、ちょっと嬉しい気持ちをもたらした。
しかし、喜んでいる場合ではない。
守秘義務があるため、薫には物件名も概要も話してはいない。
守秘義務?
つまり藤田明人は、自分の行為が正常ではないことを理解しているのではないか?
人に知られたら困ると。
だとしたら、正常ではないが、精神を病んではいない、理性のある状態だということなのだろうか?
しかし、何の目的で、あんな狂った建築を、
しかも、引退した自分の、終いの棲家に…
詐欺ではない。
入金は、日出郎も山盛の通帳のコピーで確認した。
藤田は、何を、どうしたいのか?
「ねぇ、どうして黙ってるの?」
日出郎は、薫の声に我に還った。
「ああぁ…う、うん、ちょっと、今まで経験したことがない、困難な仕事になりそうなんだ。
悩んでる。
輸入住宅の件もあるし、今回の物件を一つの機会に、こことの契約を終わりにすべきなのか。
ただ、君が残るつもりなら、僕は必ずここに戻る」
薫は、少し驚いたような眼差しで日出郎を見返した。
「私のことは関係ないよ。日出さんが思ったように決めないと」
「まだ、君の力になりたいんだよ。
君だって、一人で悩んで頭打ちになってるじゃん。
そのあがきが、僕には、なんていうか…支えたいって気持ちになるんだ。
上手く言えないんだけどさ」
日出郎は、思っている通りのことを、薫に言った。
その時、別のスタッフが、社長が呼んでますと日出郎に伝えに来た。
「どうするの?」
「さあ、どうするんでしょうね」
日出郎は薫の肩をポンと叩くと、社長室に向かった。
…ドアをノックして入ると、いつものように応接セットのソファーに腰掛けた。
社長は、40ぐらいの、背が低く丸っこい男だ。
スタッフはみんな「パタリロ」と呼んでいた。
パタリロはいつも饒舌で、稀代の人たらしだ。
そして、日出郎も、そんな口八丁手八丁で騙されたクチだ。
今日は、そんな訳にはいかない。
「井上君、先日の話だが、どうだね。やる気になったかい?」
この男は「考えてくれたかい」なんて聞いてはこない。
「ええ。よくよく考えさせていただきました。
僕の方から一つ条件があるのですが、それを受け入れていただけたら、輸入住宅の話をお請けします」
日出郎は、はったりをきかしたり、駆け引きをするのは苦手なのだが、ここは踏ん張りどころと思って、先攻で切り出した。
「実は、昔の仕事仲間から、かなり難しい案件の相談を受けてます。
僕としては義理もあるので、なんとかやりたいのですが、おそらく半年以上は専任でここを抜けなくてはいけません。
今のリモデリングの引渡しが終わったら、その案件のために抜けさせてもらうことと引き換えに、輸入住宅の話をお請けします。」
「よし、わかった!
その代わり半年以上は待てんぞ。もう契約の話が進んでいるから、帰ってきたらすぐ担当してもらうからな」
パタリロは満顔の笑みで日出郎と握手した。
金の話じゃなくて、得をしたとでも思っているのだろう。
残念だったな。
一度離れてしまえば、請求の残金を人質に契約を強いられることもなく、口約束など破ってここをやめてしまえばいい。。
薫がスタジオに残るのなら、約束した通り戻ってくればいい。
どちらにしても、自分の望み通りだ。
日出郎にしては、上出来の駆け引きで終わり、社長室のドアを締めると、思わず小さなガッツポーズを決めてしまった。
「今晩はおごるよ」
日出郎はカウンターに戻ると、薫に言ってはみたものの、藤田邸の図面を思い出してしまい、なんとも苦い気持ちになった。
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