11 / 93
第10話 敵性生物
しおりを挟む
引き返そうとした矢先、視線の先に動くものを見つけた。
動物かな? と注視すると、違う。それは人のように見える。ただし、肌は黄色で、裸に兜を被った奇妙な出で立ちだが。
手には抜き身の剣をぶら下げている。
あれか?! ゴブリンか! 初ゴブか?!
我らが地球では妖精に分類されているんだっけ? 雑魚オブ雑魚として、ゲームやお話では序盤の荒事入門にしばしば利用される存在だ。小柄と言っても、中学生の子供ほどの背丈がある。ああやって、現実に肉体を持って現れたものを見ると、どうしようもない気持ち悪さを感じる。とんがった鼻に、耳。白目のない眼は、表情を分からなくしているし、より不気味さを醸し出している。滅茶苦茶にブサイクな犬から、可愛らしさを取り除いた感じだ。
幸いにも、周りに他のゴブリン(?)は見当たらない。とっとと逃げるか、それとも経験値にしてしまうか。レベルとかあるんだろ? 異世界だもの。
あ、目が合った。
すぐさまゴブさんがこちらに駆け出してきた! やばい! 割りと怖い!
でも、その恐怖はあっと言う間に引いていく。ゴブさんは剣を大上段に構えたまま、こちらに迫って来る。ただ、その進行は早くない。ダバダバって擬音が付きそうなほど無様な走りだ。おまけに、口から舌もはみ出している。
木刀を持ったうちの祖父の迫力に比べたら、大砲と水鉄砲くらい違う。爺さんの妖怪力と比べたら、ゴブさんのはまっくろくろすけ程度だろう。
振り下ろされた剣をすれ違うように避けた椿は、そのまま肘をとって肩を極める。地面にゴブさんの頭を押し付けると、あっさりと取り落とした剣を拾い上げた。少し躊躇したが、背中から心臓目掛けて剣を突き立てる。一度では死んでくれなかった、骨にあたって届かなかったようだ。何度か刺して、最後は足で押し込むように踏んづける。
ギャーギャーと喚くゴブさんが沈黙したところで、椿の側を何かが掠めて行った。
矢だ!
また来た!
今度は2匹だ、弓ゴブさんと、棍棒ゴブさんだ。弓か、やばいかな。
『矢は当たらない』
何か、確信的な感覚が椿の中に浮かんだ。
その感覚に従って、弓ゴブさんを放置する。
まずは棍棒ゴブさんだ。
剣ゴブさんとまったく同じ、ダバダバ走りで棍棒ゴブが突貫してきた。棍棒と言っても、そこらで拾ったような、ちょっと太いだけの木の枝だ。間抜けにも、弓ゴブさんの射線を塞いでくれている。剣ゴブさんの背中から引き抜いた剣で、棍棒ゴブさんの喉を掻き切った。錆びてるので、切れ味はほぼない。喉を抑えて血を吐く棍棒ゴブさんを背中から蹴り倒して剣を突き立てた。錆びていても刺す分には問題ないな。
続く弓ゴブさんは、まったく問題にならなかった。軽く走る程度に動いているだけで、矢は当たらないのだ。動くものを射るときは、矢が届くまでの時間で相手が動く先を狙わなくてはいけない。弓ゴブさんの狙いは、矢を放つ瞬間に獲物がいる場所だ。
道具を使う知能があるのに、そういった感覚がないのか。何だかチグハグな生物だ。小柄な身体を生かして近づく、そして掴みかかって噛み付く。こうした方が下手に武器を使うよりは、よっぽど脅威になりそうだが。なまじ人間のマネをするから、ただの劣化版に成り下がるのだ。
弓ゴブは回り込むように近づくだけで、あっさりと片がついた。
そう言えば生き物を殺したのに、なんの忌避感もなかったな。ゴブさんが存在する、その事自体に嫌悪感はあったが。そもそも城で召喚を担当しただろう男を刺している。あれから再び召喚されないあたり、死んでくれたのだろう。そして、そこになんの感傷もない。
剣ゴブさんの兜と錆びた剣、弓ゴブさんの弓と矢を頂いておく。木の枝は要らん。散らばった矢も使えそうなものは拾っておいた。弓は小型で割としっかりした作りをしている。剣や兜といい、このゴブさん達がこれらの道具を作れるようには見えない。拾ったのか、奪ったのか。奪われた人はどうなったのだろうか、ゲームよろしく復活できるのなら、大変にありがたいのだが。
剣はともかく、この兜、ひと目見て籠代わりに使いたいと思った。薬草摘みだ。
そろそろ血の匂いに獣が寄ってきそうなの気がしたので、この場を離れることにする。
レベル、上がったかな?
動物かな? と注視すると、違う。それは人のように見える。ただし、肌は黄色で、裸に兜を被った奇妙な出で立ちだが。
手には抜き身の剣をぶら下げている。
あれか?! ゴブリンか! 初ゴブか?!
我らが地球では妖精に分類されているんだっけ? 雑魚オブ雑魚として、ゲームやお話では序盤の荒事入門にしばしば利用される存在だ。小柄と言っても、中学生の子供ほどの背丈がある。ああやって、現実に肉体を持って現れたものを見ると、どうしようもない気持ち悪さを感じる。とんがった鼻に、耳。白目のない眼は、表情を分からなくしているし、より不気味さを醸し出している。滅茶苦茶にブサイクな犬から、可愛らしさを取り除いた感じだ。
幸いにも、周りに他のゴブリン(?)は見当たらない。とっとと逃げるか、それとも経験値にしてしまうか。レベルとかあるんだろ? 異世界だもの。
あ、目が合った。
すぐさまゴブさんがこちらに駆け出してきた! やばい! 割りと怖い!
でも、その恐怖はあっと言う間に引いていく。ゴブさんは剣を大上段に構えたまま、こちらに迫って来る。ただ、その進行は早くない。ダバダバって擬音が付きそうなほど無様な走りだ。おまけに、口から舌もはみ出している。
木刀を持ったうちの祖父の迫力に比べたら、大砲と水鉄砲くらい違う。爺さんの妖怪力と比べたら、ゴブさんのはまっくろくろすけ程度だろう。
振り下ろされた剣をすれ違うように避けた椿は、そのまま肘をとって肩を極める。地面にゴブさんの頭を押し付けると、あっさりと取り落とした剣を拾い上げた。少し躊躇したが、背中から心臓目掛けて剣を突き立てる。一度では死んでくれなかった、骨にあたって届かなかったようだ。何度か刺して、最後は足で押し込むように踏んづける。
ギャーギャーと喚くゴブさんが沈黙したところで、椿の側を何かが掠めて行った。
矢だ!
また来た!
今度は2匹だ、弓ゴブさんと、棍棒ゴブさんだ。弓か、やばいかな。
『矢は当たらない』
何か、確信的な感覚が椿の中に浮かんだ。
その感覚に従って、弓ゴブさんを放置する。
まずは棍棒ゴブさんだ。
剣ゴブさんとまったく同じ、ダバダバ走りで棍棒ゴブが突貫してきた。棍棒と言っても、そこらで拾ったような、ちょっと太いだけの木の枝だ。間抜けにも、弓ゴブさんの射線を塞いでくれている。剣ゴブさんの背中から引き抜いた剣で、棍棒ゴブさんの喉を掻き切った。錆びてるので、切れ味はほぼない。喉を抑えて血を吐く棍棒ゴブさんを背中から蹴り倒して剣を突き立てた。錆びていても刺す分には問題ないな。
続く弓ゴブさんは、まったく問題にならなかった。軽く走る程度に動いているだけで、矢は当たらないのだ。動くものを射るときは、矢が届くまでの時間で相手が動く先を狙わなくてはいけない。弓ゴブさんの狙いは、矢を放つ瞬間に獲物がいる場所だ。
道具を使う知能があるのに、そういった感覚がないのか。何だかチグハグな生物だ。小柄な身体を生かして近づく、そして掴みかかって噛み付く。こうした方が下手に武器を使うよりは、よっぽど脅威になりそうだが。なまじ人間のマネをするから、ただの劣化版に成り下がるのだ。
弓ゴブは回り込むように近づくだけで、あっさりと片がついた。
そう言えば生き物を殺したのに、なんの忌避感もなかったな。ゴブさんが存在する、その事自体に嫌悪感はあったが。そもそも城で召喚を担当しただろう男を刺している。あれから再び召喚されないあたり、死んでくれたのだろう。そして、そこになんの感傷もない。
剣ゴブさんの兜と錆びた剣、弓ゴブさんの弓と矢を頂いておく。木の枝は要らん。散らばった矢も使えそうなものは拾っておいた。弓は小型で割としっかりした作りをしている。剣や兜といい、このゴブさん達がこれらの道具を作れるようには見えない。拾ったのか、奪ったのか。奪われた人はどうなったのだろうか、ゲームよろしく復活できるのなら、大変にありがたいのだが。
剣はともかく、この兜、ひと目見て籠代わりに使いたいと思った。薬草摘みだ。
そろそろ血の匂いに獣が寄ってきそうなの気がしたので、この場を離れることにする。
レベル、上がったかな?
7
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる