19 / 93
第18話 脱出
しおりを挟む
門には兵士達が集まっている。慌ただしくあるが、殺気立っている雰囲気はない。そろそろ夕方に近付いているため、街に入ってくる人が多い。
いつでも走り出せるように、歩いて門に近づく。この時間に外に出る人は居ない、門に近づく椿はさぞや目立ったろう。すぐに兵士達の視線が集まった。その様子に、商人の護衛で街に入った冒険者達も、何事かと興味の視線を投げてくる。
「※※※、※※※※※※※?」
周りより少し身なりの良い兵士が声を掛けてきた。
生活用品の単語くらいしか覚えていないので、やっぱり何を言っているのか分からない。
バリケードもないし、兵士達が門を出る動線を塞いでも居ない。もう、このまま突破してしまおうか? たたっと駆け出した椿は、あっさりと門を突破する事ができた。
捕まえに来たのではないのだろうか? 兵士達にはどうも緊迫感がなかった。むしろ、門を飛び出した今になって初めて、焦ったような色の声が飛び交っている。
追いかけてくるかな? 夜の野外行動は命取りに成りかねないが、幸いまだ夕方も早い。まずは走り続けることにする。宿場町とか、馬の休憩場所があるのでは、と踏んでいるのだ。
椿はフルマラソンを5時間で完走できる。薙刀をやっていた体育会系の習慣は、社会人になっても維持できた。祖父に叱られると言うのもあるが、祖母の応援があるのが大きい。祖母が見せてくれる薙刀の形は綺麗で、歳による衰えを感じさせない。円熟のそれは、まさに心中が現れる様子で、憧れなのだ。
話が逸れたが、椿の皮算用はこうだ。
古代においては海外でも、日本でも、主要な街道には約15km間隔で駅が置かれていたと言う。急ぎの連絡で馬を走らせる場合は、潰さないように駅毎で乗り換えるのだ。替えの馬を管理する役人や、一般の人が休憩に使ったりもする。宿屋だってあるかもしれない。
……魔法がある世界なので、連絡手段に馬が使われていない可能性もある。これが皮算用と表現した理由だ。
まあ、あるとしよう。でないと救われない。
で、5時間で42km走れるとすると、馬の休憩場所が2~3箇所は見込める。この世界の馬がやたら健脚でなければ、同じように駅があるのでは、という目論見なのだ。日が落ちる2時間後には、1つ目の休憩所に着くんじゃないかな。
・・・・・
走り続けるも、ここのところの忙しかった3ヶ月間と言うブランクが重く伸し掛かる。ペースが上がらない。確認しようと思ったが、腕時計がなくなっている事に気付く。糞女神に没収されたか、獣の腹の中か……
それでも久々に全力で体を使う走行に、段々と清々しい気持ちになってきた。
走る街道の右手に林が遠ざかっていく。そして左手には丘が迫ってきており、道は迂回するようにその丘の向こうへと消えていく。木々が街道の側に点々と生えており、まるで木々に沿って街道を作ったような、ジグザグの進路に歴史を伺える。
1時間ほど経っただろうか、疲労が濃くなってきた。そう言えば、スカートで走るなんて馬鹿なことをしている。椿の背丈では、踝まであるはずの裾は、僅かに膝下となっていた。足の運びをそれほど邪魔するものではないが、風をはらんで大層な抵抗を生んでいる。外套は縛って肩掛けカバンと一緒に背中に垂らしているため、走りにくい以外の悪影響はない。
このままでは道中で日が落ちると考えた椿は、予てよりの試みを実践することにした。
魔法だ。
魔力という出鱈目なチカラを上手く使えるようになっておきたい。なぜならこの異世界は、椿を歓迎していないように思う。この先、敵は幾らでも湧いてくるだろう。獣も、ゴブさん達も、人間も。ひょっとして、人間が敵とみなす魔族(?)とやらでさえ、椿に襲いかかるかもしれない。
魔法といっても手から火が出るとか、そう言うものは考えていない。身体強化だ! ヨモギの煮汁を薬に変質させられるくらいだ。さぞや身体に良いに違いない。実際にポーションを作っていると、魔力を込める際に全身を巡らす様が、まるで気功のようだと思っていたのだ。
漫画的にもあるだろ? 爺さんの健康なんか絶対に気功だ、でなければ妖怪か何かだ。今なら気功を信じられる。爺さんが長い研鑽の果てに辿り着いただろう境地に、異世界パワーで追いついてしまえ!
ポーションづくりの際は上半身しか循環させなかった魔力を、全身を巡るように意識してみる。消えろ乳酸! そして筋肉を助け給え!
「おぉ……?」
魔力が全身を巡っていることを認知できるようになった頃、疲れが消えた?!
ような気がする。いや、消えた。やはり効果はあるのだ!
その後も夢中になって魔力の循環の仕方を替えて、効果の程を検証した。具体的に脚に魔力を集めてみると、ストライド(足幅)が広くなった。脚力の向上を体感できる程の効果だ。胸に、つまり肺に魔力を集めて呼吸を深くすれば、酸素と共に魔力が全身を巡る。力が漲ると言う奴だ。血液に絡めると、魔力を身体に行き渡らせるイメージがしやすい。魔力を身体に巡らすと、筋力が向上したり、体の老廃物を消し去って疲れを癒やす効果が見込めるようだ。
時計が欲しい、どれだけペースが上がったのか測りたいな。
そのまま、体感で2時間ほど走り続けると、果たして目論見通りに駅らしきものが見えてきた。
いつでも走り出せるように、歩いて門に近づく。この時間に外に出る人は居ない、門に近づく椿はさぞや目立ったろう。すぐに兵士達の視線が集まった。その様子に、商人の護衛で街に入った冒険者達も、何事かと興味の視線を投げてくる。
「※※※、※※※※※※※?」
周りより少し身なりの良い兵士が声を掛けてきた。
生活用品の単語くらいしか覚えていないので、やっぱり何を言っているのか分からない。
バリケードもないし、兵士達が門を出る動線を塞いでも居ない。もう、このまま突破してしまおうか? たたっと駆け出した椿は、あっさりと門を突破する事ができた。
捕まえに来たのではないのだろうか? 兵士達にはどうも緊迫感がなかった。むしろ、門を飛び出した今になって初めて、焦ったような色の声が飛び交っている。
追いかけてくるかな? 夜の野外行動は命取りに成りかねないが、幸いまだ夕方も早い。まずは走り続けることにする。宿場町とか、馬の休憩場所があるのでは、と踏んでいるのだ。
椿はフルマラソンを5時間で完走できる。薙刀をやっていた体育会系の習慣は、社会人になっても維持できた。祖父に叱られると言うのもあるが、祖母の応援があるのが大きい。祖母が見せてくれる薙刀の形は綺麗で、歳による衰えを感じさせない。円熟のそれは、まさに心中が現れる様子で、憧れなのだ。
話が逸れたが、椿の皮算用はこうだ。
古代においては海外でも、日本でも、主要な街道には約15km間隔で駅が置かれていたと言う。急ぎの連絡で馬を走らせる場合は、潰さないように駅毎で乗り換えるのだ。替えの馬を管理する役人や、一般の人が休憩に使ったりもする。宿屋だってあるかもしれない。
……魔法がある世界なので、連絡手段に馬が使われていない可能性もある。これが皮算用と表現した理由だ。
まあ、あるとしよう。でないと救われない。
で、5時間で42km走れるとすると、馬の休憩場所が2~3箇所は見込める。この世界の馬がやたら健脚でなければ、同じように駅があるのでは、という目論見なのだ。日が落ちる2時間後には、1つ目の休憩所に着くんじゃないかな。
・・・・・
走り続けるも、ここのところの忙しかった3ヶ月間と言うブランクが重く伸し掛かる。ペースが上がらない。確認しようと思ったが、腕時計がなくなっている事に気付く。糞女神に没収されたか、獣の腹の中か……
それでも久々に全力で体を使う走行に、段々と清々しい気持ちになってきた。
走る街道の右手に林が遠ざかっていく。そして左手には丘が迫ってきており、道は迂回するようにその丘の向こうへと消えていく。木々が街道の側に点々と生えており、まるで木々に沿って街道を作ったような、ジグザグの進路に歴史を伺える。
1時間ほど経っただろうか、疲労が濃くなってきた。そう言えば、スカートで走るなんて馬鹿なことをしている。椿の背丈では、踝まであるはずの裾は、僅かに膝下となっていた。足の運びをそれほど邪魔するものではないが、風をはらんで大層な抵抗を生んでいる。外套は縛って肩掛けカバンと一緒に背中に垂らしているため、走りにくい以外の悪影響はない。
このままでは道中で日が落ちると考えた椿は、予てよりの試みを実践することにした。
魔法だ。
魔力という出鱈目なチカラを上手く使えるようになっておきたい。なぜならこの異世界は、椿を歓迎していないように思う。この先、敵は幾らでも湧いてくるだろう。獣も、ゴブさん達も、人間も。ひょっとして、人間が敵とみなす魔族(?)とやらでさえ、椿に襲いかかるかもしれない。
魔法といっても手から火が出るとか、そう言うものは考えていない。身体強化だ! ヨモギの煮汁を薬に変質させられるくらいだ。さぞや身体に良いに違いない。実際にポーションを作っていると、魔力を込める際に全身を巡らす様が、まるで気功のようだと思っていたのだ。
漫画的にもあるだろ? 爺さんの健康なんか絶対に気功だ、でなければ妖怪か何かだ。今なら気功を信じられる。爺さんが長い研鑽の果てに辿り着いただろう境地に、異世界パワーで追いついてしまえ!
ポーションづくりの際は上半身しか循環させなかった魔力を、全身を巡るように意識してみる。消えろ乳酸! そして筋肉を助け給え!
「おぉ……?」
魔力が全身を巡っていることを認知できるようになった頃、疲れが消えた?!
ような気がする。いや、消えた。やはり効果はあるのだ!
その後も夢中になって魔力の循環の仕方を替えて、効果の程を検証した。具体的に脚に魔力を集めてみると、ストライド(足幅)が広くなった。脚力の向上を体感できる程の効果だ。胸に、つまり肺に魔力を集めて呼吸を深くすれば、酸素と共に魔力が全身を巡る。力が漲ると言う奴だ。血液に絡めると、魔力を身体に行き渡らせるイメージがしやすい。魔力を身体に巡らすと、筋力が向上したり、体の老廃物を消し去って疲れを癒やす効果が見込めるようだ。
時計が欲しい、どれだけペースが上がったのか測りたいな。
そのまま、体感で2時間ほど走り続けると、果たして目論見通りに駅らしきものが見えてきた。
7
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる