チートを貰えなかった召喚聖女は帰りたい

積網彦

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第59話 報告

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 夜明けと共に出立した一行は、陽も高くならないうちに衛星都市フーリィパチに辿り着いた。

 椿はすぐに抜け出したが、ニジニ側は誰も気付かなかった。どうやら気にするヒトが居ないらしい。報告は眼鏡のイケメンことマーリンに任せておけば良い。勝手をさせてもらおう。

 カミラの工房は、ここ大門のすぐ側だ。そりゃあ、寄っていくでしょう?

 街の最外周の道を歩き、工房を訪ねる。通りに面するのはお勝手口で、裏通り側が玄関になっている。勝手知ったる他人カミラの家、ノックをするも返事を待たずにドアノブに手を掛けた。……むぅ、鍵が掛かっている。残念なことに、カミラは留守のようだ。時刻はお昼前、普通に仕事に向かってしまったのかもしれない。

 ほくそ笑む白侍女シェロブに舌打ちしながら、椿は仕方なしに大聖堂へ向かうのだった。



 大聖堂前の広場では、ニジニ軍が物資の補給を行っていた。茜が常に最前列で勇者の力を振るうため、武具の消耗が殆どない。流石に指揮官が切れ者のマーリンだけはある、兵糧が中心になるように積荷を入れ替えるようだ。

 ニジニ兵を余所目に、椿は関係者用の出入り口を使う。
 交官として正式に訪問の形を取るニジニ勢と違って、椿のはお爺ちゃんを訪ねる孫のノリだ。神殿侍女を3人も引き連れているので誰も止めない。特にシェロブは関係者に顔が広く、信頼も篤い。そんな彼女と一緒なので出来る訳なのだ。

 執務室のイオシキーお爺ちゃんは笑顔で椿を迎えた。

『首尾よく行ったようだな』

 忙しそうなお爺ちゃんにはまず、あのクッサイ集落での出来事を報告する。後でマーリンやシェロブが補足してくれるだろう、行程は適当に、大事なところだけで良い。椿からお爺ちゃんに話すのが重要なのだ。孫の役割的に。

『その石版が楔のように霊脈を縛っておったと。
 しかし、霊穴を癒やしたのも石版、か。

 なんの目的があるのやら……』

 お爺ちゃんは既に、椿を聖女と認知している。椿の魔力とその性質は、イオシキーお爺ちゃんが後世まで語り継ぐかもしれない。これまで、聖女の記録はほぼないとか言っていたし。絶対に記録を残すはずだ。まあ、数々の椿の奇行も、伝わって往くだろうけど。はぁ……

 そもそも、なんで聖女の記録はないのだろうか。
 ロムトスにないだけだったりして。



 大事な内容はあらかた話し、お爺ちゃんからの質問もなくなった。シェロブが入れてくれたお茶を飲みつつ、お爺ちゃんの仕事振りを眺めていると訪いがあった。眼鏡と茜だ、ずいぶんと時間が掛かったようだ。まあ、お爺ちゃんが椿と好きにお話しする時間を作るために、わざと待たせたのかもしれないけど。

『ツバキ殿は食事を済まされましたか?』

『「ステーキ」みたいなお肉が出ましたよ!』

 足止めに使われたのは、豪華な食事らしい。

 若い茜と違って、椿にそこまで旺盛な食欲はない。イオシキーお爺ちゃんも同様だ。まあ、無邪気な茜の気分を壊すまい。お爺ちゃんと先に頂いた、と適当に合わせておいた。

『さて、本来は椿の報告だけで十分なのだが……
 事情が変わってしまった。

 マーリン殿、アカネ殿、重複してもよいから
 それぞれ霊穴に関して所感を述べて欲しい』

 あら、お爺ちゃんがあっさりと仕事モードに戻ってしまった。

 何か聞いてる? と、視線を投げてみたが、シェロブも知らないようだ。



『……ふむ、霊穴はこの星の病巣、か。
 それすら癒せるツバキならではの感想だな』

 マーリンは青鬼との決戦の最中、椿の説明にすらなってないボヤキまで拾っていたようだ。

 茜に関しては、雷撃がかき消された件に関して詳しく分析していた。魔法が効かない相手が初めてだった事もあり、現場ではかなり動揺してしまったようだ。フーリィパチの帰途、冷静になって色々と状況を思い出すことができたようだ。
 件の雷撃の瞬間、青鬼は土俵の中央に居た。雷撃は、おおよそ10m手前で消えている。これはそのまま、石版を中心に半径10mが霊穴であると考えられる。それなら、土俵際で椿が追い詰められたあの辺りでは、実は魔法が効いていた可能性が高い。椿もだが、茜は青鬼自体に魔法が効かないと勘違いしていた。あの老獪な青鬼は、こちらの様子をちゃんと見ていたのだろう。



 ともあれ、霊穴の対処は判った訳だ。と前置きしてから、お爺ちゃんが続ける。

『スペンチアの北に、別の霊穴が見つかった』

 驚愕する眼鏡、新たな難問に闘志を燃やす茜、心底うんざりする椿、いやいや、この反応が普通でしょう?

『当然、協力させて頂きます』

 おっと、イケ眼鏡のマーリン氏は即答だ。

 当たり前だよなー、ニジニの霊穴もひとつじゃない可能性があるんだから。しかも、霊穴の対処に椿が必須となったもんだ。でも、間違ってるよイケメン、恩を売るならロムトスではなくて<椿、本人に>でないと。

『ツバキや、道筋は見えたのだ。
 希望を叶えるなら進むしかあるまい』

 ……ぐむむ、お爺ちゃんに腹の中を見透かされたか、やんわりと諭されてしまった。そんなに顔に出たかな。

『ツバキ殿のおかげで、移動がずいぶんと
 楽になりました。長くて十数日ほど、
 伸びるだけですよ』

『敵は私に任せてください!』

 やっぱり顔に出たらしい、みんなして椿を励ましてくる始末だ。でも、眼鏡のは励ましになってない。現実を正確に言い表しただけだよ。

 ため息を付きながらも、椿は協力を約束する。確かに、向かう先に魔王さんとやらの気配が濃くなっている。絵本通りに片が付いたら、送還が叶うかもしれない。今、最も確実な方法なのだから。



『お爺ちゃん、もうちょっと手練はいないの?

 ニジニ兵は移動の助けには十分だけど、
 格上が来たときに対処ができないよ』

 実際、あの青鬼はやばかった。

『ふむ……

 ひとり、心当たりがある。
 しかし、そやつが抜ける穴は大きくてな。
 霊穴が塞がった、その効果をもう少し
 見てからにしたかったが……』

 なんと、ロムトスの精鋭を加えてくれるようだ。

 教会の街スペンチアで待ち合わせる事になった。北の霊穴への案内人もくるようだ。案内人の方は、まだ先触れがあっただけで、イオシキーお爺ちゃんに詳細な話は回ってきていないらしい。ただ、北の霊穴の存在は、その神都からの先触れでもたらされたようだ。

 まあ、シェロブにマーリンが居る。ここで待つより、直接スペンチアで打ち合わせた方が良いかもしれない。お爺ちゃんへの報告は、シェロブが壁を超えて戻ってすればよい。

『そんな訳で、ツバキや。
 休暇は神都でとると良い』

 ええ、そうだよね、北の対処が先だよね……
 ああ、カミラ成分が減っていく……
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