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第83話 灰色
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腰を抜かしてしまった覗き魔女ポーシャと、神官スターシャを抱えて進む。
無駄に写実的で不気味な石像に怯えていたスターシャが腰を抜かすのは、まあ分かる。普段はぬぼーっとしてるポーシャまで腰を抜かすあたり、血の滝の印象は強烈だったようだ。
なんせカザンの魔法で、階段はすべて平になってしまった。ツルツルの表面を伝って、血の滝はきっと下まで流れ着くだろう。あぁ、下の連中がビックリするんじゃあ? すわ仲間の危険とばかりに、慌てて追いかけてこなければ良いんだが……
そう心配する椿に、魔女グラディスが声をかける。
『心配要らないわ。
さっき使いをやったから』
声を伝えることができる人形を下に向かわせたらしい。さっき言っていた「石像に掛けて警護とする」魔法の応用だそうな。この魔女、もう何でもアリだよね。
『いやーねぇ、一般的よ』
深まるファンタジー具合に、喜ぶのは茜ばかり。対する椿は微妙について行けなくなってきた。まあ、便利なら何でもいいか……
北の大陸から南北を繋ぐ半島に至るため、我々はニジニ大陸の南端にある台地から、およそ1000mを下ったらしい。向かう南大陸の北端にも似たような高さの台地があった。流石の魔王も、階段を大陸の中心に向かって切り込むことはしなかったようだ。なんせ両側から迫る、高さ1000mの壁だ、崩れたらひとたまりもない。
そんな訳で階段は、この南大陸の縁に沿って進むように造られていた。縁こそ崩れれば海へ真っ逆さま、などが考えられる。そのために幾分か内側を掘り進み、外側の壁を海へ切り崩すようにしていた。そのちぐはぐな高さの壁の間から、時折り顔を覗かせる海と空が、疲れた一行の心を慰めてくれる。
なんせ、先程の血の滝で、肉体的にも精神的にもダメージを受けた。涼しい顔をしているのは、カザンと魔王、それに独りだけ空を飛んでいる魔女くらいだ。
階段と言うものは30度ほどの傾斜が、負荷の少ないものとなるそうだ。それを知ってか知らずか、魔王のおっさんが作ったこの階段も、そのような勾配で上がっていく。自身が使いながら仕事したのだ、作ってる内に自然とこの勾配になったのだろう。元は50cmほどあった1段の高さは、カザンの圧縮により程よい高さに変わっている。
小柄な白侍女シェロブなどは、膝をついて上がっていたのだ。それが、今は普通に歩いて登っていける。カザンは良い仕事をしたと言わざるを得ない。
一行は途中、何度か休憩を挟みつつ、おおよそ3時間で登り切った。
山道と違い、きれいに整形された階段を使えたおかげか、だいぶ早いと思う。なんせ、数十分置きにカザンに魔力を注いで整形してもらったからね。
また、ぐいっと抱き寄せてくれるかなと思ったので、両手を差し出す抱っこしてのポーズをとって近づいてみたが、アイアンクローのように顔を掴まれて遠ざけられてしまった。乙女心を弄びよって……
代わりにシェロブがギュッとしてくれたので良しとしよう。
そうやって辿り着いた台地の上には、何もなかった。
比喩でもなんでもない、草の一本すら生えていない。天然の岩肌ではあるが、ほとんど起伏もない石のような地面が延々と続いているのだ。空にも色彩がなく、その灰色が雲なのかどうかすら分からない。
おまけに風がない。海も近いし、その上で遮るものがないにも関わらず。
振り返る北側には、青い空が広がっている。つまり、この南大陸の上だけに、陽の光を遮る何かがあるのだろう。
『なんだか「ラストダンジョン」って感じがしますね』
『らすとだんじょん?』
茜の呟きに、オリガ嬢が反応した。椿が説明しあぐねていると、茜がニジニ語を使いだした。ああ、2人にしてみれば、そっちが母国語だものね。しかし、ゲーム文化から説明するのは大変じゃないかな?
『ふーん、物語を盛り上げるため特異な雰囲気の場に、
敵の総大将が待ち構える演出がある、と言うことかしら』
伝わっちゃった。意外と説明上手な茜だった。
しかしこれは、盛り上がっているとは言えない。
なんせ、視界は灰、一色だ。遠くはもう、地面と空の境も分からない。このまま進んだら迷ってしまうだろう。太陽さえ見えないのだから、方向を判断するものがない。
呆然と立ち尽くす一行、魔王と魔女も同様だ。
『その様子だと、以前は違ったの?』
魔王のおっさんに、昔の雰囲気を尋ねてみる。
『ニジニの台地と変わらぬ風景であったが……』
『霊穴が広がっているのかもね』
魔女も、深刻な顔で呟く。
霊穴が原因で世界が滅びるとは聞いていたが、どう滅びるかは聞いていなかったな。魔物がワラワラ湧いて出てくる、くらいの単純な結末を想像していたが、違うようだ。
魔女は世界が死んでしまうのだと言う。たしかに、この大陸は死んでいると表現してもよい状態だ。少なくとも色彩は。
霊穴からは、ヒトの血液にあたる魔力がざぶざぶと溢れてしまう。確かに、惑星《ほし》が生き物であれば、弱って死んでしまうだろう。
なんとか落ち着きを取り戻した一行はまず、下で待機する兵たちを転移魔法で呼び寄せた。これでもう、降りるときも階段を使わなくてよくなる。瞬間移動の魔法、便利だね。
合流した兵たちも、この風景には絶句するのみだ。
精鋭ならシェロブのメンタルを見習ってもらいたいものだ、定刻通りに食事の準備を黙々と続ける彼女を。
キャンプを張って分かったが、殺風景なだけで特に体に悪い影響がでたりはしていない。さすがに動物などを、ここで暮らせと解き放っても生きていけないだろう。しかし我々ヒトは道具や食料を持ち込める。それら持ち込んだものが使えなくなるようなこともなかった。
いつも通りに、竈と焜炉の魔法道具は役目を果たしている。食材も、ロムトスの神都から運び込んだものが問題なく食べられた。……心持ち味気ないが、風景のせいだろう。
異常な風景なせいか、食事をすぐに済ませてしまう者が多い。落ち着かないものね。そんな中、お腹が満たされた3馬鹿が元気を取り戻してきた。空腹と幸福感は反比例すると言う。それを見事に証明してくれたようだ。
てっきり、血の滝がフラッシュバックして食欲をなくすものだと思ったが、おいしい食事が上回ったらしい。何よりだね。
さて、食事中も議論が尽きなかったが、まだ決まらない事がある。ここから、どのように進むかだ。なんせ、なんの目印もない。地上には木の一本すら見当たらない。空は灰一色で太陽も星も見えない。方位磁石なんかは、地面を向いてしまっている。
結論としては、やっぱり椿に白羽の矢が立った。
ほぼ無限の魔力を持つ聖女の才能を遺憾なく発揮してもらおうと、天才マーリンがすばらしい手段を考えてくれたのだ。
階段と同じ要領で、高さ数十mほどの柱を立てながら進む。
椿はアホかと思ったが、誰も反論しないのだ。仕方ないから従うことにした。大変疲れるであろうが、進みながら魔王やポーシャが後方を確認すれば、少なくとも進んでいる方向が分からなくなることはなさそうだ。
道路みたいに、石畳でも成型すればいいのに。また地面から、槍やら石像が湧いてくるかもしれないじゃないか。
『柱を建てるだけの方が簡単でいいじゃないか』
むう、カザンまで、そう言うなら仕方ないか。
でも皆は一番重要な事を忘れている。霊脈を探さないと。それが見つかれば、進む方向に迷うも糞もない。霊脈に沿って歩けばいいだけだ。椿が死なない限り、迷子にならない。
ああ、そう? むしろソレが一番ありそうって? はー、確かに心配だよね!
柱を建てる合間に、なんどか霊脈の気配を探ってみた。馬鹿にされたままでは悔しいからね、独りでもやるさ。
しかし、建てた柱が3桁に迫りそうになっても見つからない。
……でも、すぐ近くにあると思う。なんだろうか、探すのを邪魔をされている気がする。聖女として同じ能力を持っているはずの魔女と協力して、方方に魔力のアンテナを伸ばすも成果はない。魔法オタクの魔女グラディスを上回る手腕を持っているのだろうか。
もう建てた柱を数えなくなった頃、妨害に指向性があることに気づいた。音源から顔を逸らすと、少し音量が小さくなる。それくらいの変化ではあるが、椿の意識を逸らそうとする力《ちから》にも偏りを感じられる。
カザンを強化するために、立ったり歩いたり、シェロブから世話をされたりする椿だから気付けたようなものかな。ダルそうに杖に腰掛けている魔女では気付くまい。
では、姿を見せない何者かはどうやって邪魔をする? それはやっぱり魔法でしょう。この妨害も、魔法に違いない。魔法には魔力の輻射がある。感じる妨害の痕跡は、その輻射に他ならない。
よし、まずはそれを探ろうか。
魔力の輻射は放射状に広がる、これは絶対的な性質だ。光や電波と同じだ。必ず中心がある。つまり、事の犯人と椿を結ぶ直線の後ろに立てば、妨害の効果が緩むはず。敵の魔力の輻射は、椿の白い魔力を通り抜けることはできない。消えてしまうからだ。
『なるほど、いいわね』
魔女へ妨害について伝えると、やっと退屈から解放されるとばかりに乗ってくれた。
さっそく取り掛かろう。
全力で白い魔力の純度を高め、己の周囲に留める。これで、あらゆる魔法が椿の周りを通過できなくなるはず。ぐるぐると椿の周りを歩く魔女は、すぐに方角を特定したようだ。流石は300年も聖女をやっている魔女だ、感覚は椿より鋭いのかもしれない。
うむ、南大陸にきてからの眼鏡はまったく役に立っていない。自分でやった方がマシと見切りをつけたのは成功のようだ。むしろ、魔王と魔女が有能過ぎる。
さあ、見つけた下手人は、南東に居るぞ。
無駄に写実的で不気味な石像に怯えていたスターシャが腰を抜かすのは、まあ分かる。普段はぬぼーっとしてるポーシャまで腰を抜かすあたり、血の滝の印象は強烈だったようだ。
なんせカザンの魔法で、階段はすべて平になってしまった。ツルツルの表面を伝って、血の滝はきっと下まで流れ着くだろう。あぁ、下の連中がビックリするんじゃあ? すわ仲間の危険とばかりに、慌てて追いかけてこなければ良いんだが……
そう心配する椿に、魔女グラディスが声をかける。
『心配要らないわ。
さっき使いをやったから』
声を伝えることができる人形を下に向かわせたらしい。さっき言っていた「石像に掛けて警護とする」魔法の応用だそうな。この魔女、もう何でもアリだよね。
『いやーねぇ、一般的よ』
深まるファンタジー具合に、喜ぶのは茜ばかり。対する椿は微妙について行けなくなってきた。まあ、便利なら何でもいいか……
北の大陸から南北を繋ぐ半島に至るため、我々はニジニ大陸の南端にある台地から、およそ1000mを下ったらしい。向かう南大陸の北端にも似たような高さの台地があった。流石の魔王も、階段を大陸の中心に向かって切り込むことはしなかったようだ。なんせ両側から迫る、高さ1000mの壁だ、崩れたらひとたまりもない。
そんな訳で階段は、この南大陸の縁に沿って進むように造られていた。縁こそ崩れれば海へ真っ逆さま、などが考えられる。そのために幾分か内側を掘り進み、外側の壁を海へ切り崩すようにしていた。そのちぐはぐな高さの壁の間から、時折り顔を覗かせる海と空が、疲れた一行の心を慰めてくれる。
なんせ、先程の血の滝で、肉体的にも精神的にもダメージを受けた。涼しい顔をしているのは、カザンと魔王、それに独りだけ空を飛んでいる魔女くらいだ。
階段と言うものは30度ほどの傾斜が、負荷の少ないものとなるそうだ。それを知ってか知らずか、魔王のおっさんが作ったこの階段も、そのような勾配で上がっていく。自身が使いながら仕事したのだ、作ってる内に自然とこの勾配になったのだろう。元は50cmほどあった1段の高さは、カザンの圧縮により程よい高さに変わっている。
小柄な白侍女シェロブなどは、膝をついて上がっていたのだ。それが、今は普通に歩いて登っていける。カザンは良い仕事をしたと言わざるを得ない。
一行は途中、何度か休憩を挟みつつ、おおよそ3時間で登り切った。
山道と違い、きれいに整形された階段を使えたおかげか、だいぶ早いと思う。なんせ、数十分置きにカザンに魔力を注いで整形してもらったからね。
また、ぐいっと抱き寄せてくれるかなと思ったので、両手を差し出す抱っこしてのポーズをとって近づいてみたが、アイアンクローのように顔を掴まれて遠ざけられてしまった。乙女心を弄びよって……
代わりにシェロブがギュッとしてくれたので良しとしよう。
そうやって辿り着いた台地の上には、何もなかった。
比喩でもなんでもない、草の一本すら生えていない。天然の岩肌ではあるが、ほとんど起伏もない石のような地面が延々と続いているのだ。空にも色彩がなく、その灰色が雲なのかどうかすら分からない。
おまけに風がない。海も近いし、その上で遮るものがないにも関わらず。
振り返る北側には、青い空が広がっている。つまり、この南大陸の上だけに、陽の光を遮る何かがあるのだろう。
『なんだか「ラストダンジョン」って感じがしますね』
『らすとだんじょん?』
茜の呟きに、オリガ嬢が反応した。椿が説明しあぐねていると、茜がニジニ語を使いだした。ああ、2人にしてみれば、そっちが母国語だものね。しかし、ゲーム文化から説明するのは大変じゃないかな?
『ふーん、物語を盛り上げるため特異な雰囲気の場に、
敵の総大将が待ち構える演出がある、と言うことかしら』
伝わっちゃった。意外と説明上手な茜だった。
しかしこれは、盛り上がっているとは言えない。
なんせ、視界は灰、一色だ。遠くはもう、地面と空の境も分からない。このまま進んだら迷ってしまうだろう。太陽さえ見えないのだから、方向を判断するものがない。
呆然と立ち尽くす一行、魔王と魔女も同様だ。
『その様子だと、以前は違ったの?』
魔王のおっさんに、昔の雰囲気を尋ねてみる。
『ニジニの台地と変わらぬ風景であったが……』
『霊穴が広がっているのかもね』
魔女も、深刻な顔で呟く。
霊穴が原因で世界が滅びるとは聞いていたが、どう滅びるかは聞いていなかったな。魔物がワラワラ湧いて出てくる、くらいの単純な結末を想像していたが、違うようだ。
魔女は世界が死んでしまうのだと言う。たしかに、この大陸は死んでいると表現してもよい状態だ。少なくとも色彩は。
霊穴からは、ヒトの血液にあたる魔力がざぶざぶと溢れてしまう。確かに、惑星《ほし》が生き物であれば、弱って死んでしまうだろう。
なんとか落ち着きを取り戻した一行はまず、下で待機する兵たちを転移魔法で呼び寄せた。これでもう、降りるときも階段を使わなくてよくなる。瞬間移動の魔法、便利だね。
合流した兵たちも、この風景には絶句するのみだ。
精鋭ならシェロブのメンタルを見習ってもらいたいものだ、定刻通りに食事の準備を黙々と続ける彼女を。
キャンプを張って分かったが、殺風景なだけで特に体に悪い影響がでたりはしていない。さすがに動物などを、ここで暮らせと解き放っても生きていけないだろう。しかし我々ヒトは道具や食料を持ち込める。それら持ち込んだものが使えなくなるようなこともなかった。
いつも通りに、竈と焜炉の魔法道具は役目を果たしている。食材も、ロムトスの神都から運び込んだものが問題なく食べられた。……心持ち味気ないが、風景のせいだろう。
異常な風景なせいか、食事をすぐに済ませてしまう者が多い。落ち着かないものね。そんな中、お腹が満たされた3馬鹿が元気を取り戻してきた。空腹と幸福感は反比例すると言う。それを見事に証明してくれたようだ。
てっきり、血の滝がフラッシュバックして食欲をなくすものだと思ったが、おいしい食事が上回ったらしい。何よりだね。
さて、食事中も議論が尽きなかったが、まだ決まらない事がある。ここから、どのように進むかだ。なんせ、なんの目印もない。地上には木の一本すら見当たらない。空は灰一色で太陽も星も見えない。方位磁石なんかは、地面を向いてしまっている。
結論としては、やっぱり椿に白羽の矢が立った。
ほぼ無限の魔力を持つ聖女の才能を遺憾なく発揮してもらおうと、天才マーリンがすばらしい手段を考えてくれたのだ。
階段と同じ要領で、高さ数十mほどの柱を立てながら進む。
椿はアホかと思ったが、誰も反論しないのだ。仕方ないから従うことにした。大変疲れるであろうが、進みながら魔王やポーシャが後方を確認すれば、少なくとも進んでいる方向が分からなくなることはなさそうだ。
道路みたいに、石畳でも成型すればいいのに。また地面から、槍やら石像が湧いてくるかもしれないじゃないか。
『柱を建てるだけの方が簡単でいいじゃないか』
むう、カザンまで、そう言うなら仕方ないか。
でも皆は一番重要な事を忘れている。霊脈を探さないと。それが見つかれば、進む方向に迷うも糞もない。霊脈に沿って歩けばいいだけだ。椿が死なない限り、迷子にならない。
ああ、そう? むしろソレが一番ありそうって? はー、確かに心配だよね!
柱を建てる合間に、なんどか霊脈の気配を探ってみた。馬鹿にされたままでは悔しいからね、独りでもやるさ。
しかし、建てた柱が3桁に迫りそうになっても見つからない。
……でも、すぐ近くにあると思う。なんだろうか、探すのを邪魔をされている気がする。聖女として同じ能力を持っているはずの魔女と協力して、方方に魔力のアンテナを伸ばすも成果はない。魔法オタクの魔女グラディスを上回る手腕を持っているのだろうか。
もう建てた柱を数えなくなった頃、妨害に指向性があることに気づいた。音源から顔を逸らすと、少し音量が小さくなる。それくらいの変化ではあるが、椿の意識を逸らそうとする力《ちから》にも偏りを感じられる。
カザンを強化するために、立ったり歩いたり、シェロブから世話をされたりする椿だから気付けたようなものかな。ダルそうに杖に腰掛けている魔女では気付くまい。
では、姿を見せない何者かはどうやって邪魔をする? それはやっぱり魔法でしょう。この妨害も、魔法に違いない。魔法には魔力の輻射がある。感じる妨害の痕跡は、その輻射に他ならない。
よし、まずはそれを探ろうか。
魔力の輻射は放射状に広がる、これは絶対的な性質だ。光や電波と同じだ。必ず中心がある。つまり、事の犯人と椿を結ぶ直線の後ろに立てば、妨害の効果が緩むはず。敵の魔力の輻射は、椿の白い魔力を通り抜けることはできない。消えてしまうからだ。
『なるほど、いいわね』
魔女へ妨害について伝えると、やっと退屈から解放されるとばかりに乗ってくれた。
さっそく取り掛かろう。
全力で白い魔力の純度を高め、己の周囲に留める。これで、あらゆる魔法が椿の周りを通過できなくなるはず。ぐるぐると椿の周りを歩く魔女は、すぐに方角を特定したようだ。流石は300年も聖女をやっている魔女だ、感覚は椿より鋭いのかもしれない。
うむ、南大陸にきてからの眼鏡はまったく役に立っていない。自分でやった方がマシと見切りをつけたのは成功のようだ。むしろ、魔王と魔女が有能過ぎる。
さあ、見つけた下手人は、南東に居るぞ。
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