麗紗ちゃんは最狂メンヘラ

吉野かぼす

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第一章 ここから私達の全てが始まったんですよね先輩!

在りし日の千歳

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「人ってどうして死んじゃうんだろう……」
 千歳がまだ13歳の頃。

 偉大な科学者である彼の祖父が亡くなってしまった。
 死因は老衰。大往生である。

 だが千歳の近しい人間が亡くなるのは今回が初めてではなかった。幼い頃千歳は同じく科学者の両親を科学実験の事故で失くしてしまっている。

「人の命はなんて儚いんだろう……」
 そんな過去を持つ彼はそう思わずにはいられなかった。

「でも落ち込んでる場合じゃない……お爺さんの残した研究を僕が完成させないと……! そうすれば浮かばれる筈だ……お爺さんは根っからの科学者だったし……僕もだけど」

 彼の家系は代々科学者だ。
 もちろん千歳もその例に漏れない。

 彼は幼くして両親や祖父の下で様々な理論を自発的に学び、年が二桁になる頃にはもう既にそこらの科学者を遥かに凌駕する知識を手に入れていた。

 その知識量は世界一賢い大学に主席で受かる程だ。故に祖父の研究を引き継ぐのに何ら問題は無かった。

 そうして学校に通いながらも研究の結果を出し続けていると、ある日、祖父が営む桜月科学研究施設の職員がある事を千歳に依頼してきた。

 その職員は千歳の叔父で、彼もまた科学者だった。

「千歳君、実は君のお爺さん……僕の父が最後にやっていた研究があるんだけど……これは特に急を要する。他の研究よりも最優先でこれをやってくれないか」

「最優先……一体何の研究なんですか?」
「これだ」

 そう言って千歳の叔父が見せてきたのは、『桜月麗紗の“能力”について』と書かれたレポートだった。

「桜月麗紗って……! 桜月財閥の……!」
「そうだ。実は彼女は特色者でね。そこまではちょっと風変わりな程度で済んでいたんだが……そうも言っていられなくなった。これを見てくれ」

「えっ……!」

 叔父は薄型タブレットにある映像を映し出す。
 そこには、道端で可愛らしい小柄な幼女を取り囲む……大勢の黒服を着た大人が映し出されていた。

「馬鹿な大人もまだ居たものだ。大方この子……桜月のお嬢様を誘拐でもして身代金を奪おうと思ったんだろう。だが問題はここからだ」

 黒服の一人が幼女を捕まえようとする。
 通常なら、力のない子供が大人に勝てる訳が無かった。

 しかし、次の瞬間……場面が切り替わったかのように幼女の周囲の黒服が消え、辺り一帯が更地と化した。幼女が立っている箇所以外は全て津波にでも飲まれたかのようだ。

「……い、一体今何が起きたんですか!?」
「同じ特色者の君でも見えないか……今のが桜月麗紗の能力。君以外の能力者にも秘密裏にこの映像を見てもらったんだが……結果は同じ。ただ一つ言える事は……下手をすると彼女の能力が世界すらも滅ぼしかねないという事だけだ。この能力は能力レベルの域を超えている」

「……そんな……こんな小さい子が……」

「信じられないかもしれないが、全部本当の事なんだ。そしてこれがお爺さんの最後の研究内容だ。この子の能力を調べ、抑え付ける方法を発見する事」

「…………お爺さんはそんな研究をしていたのか……」
「君に伝えていなかったのはお爺さん自身で研究を進めたかったからだと思うよ。気にする事は無い」

「いえ、気にしてはいません。研究効率を考えての結果だと思います」
「そうかい、実に君らしい答えだ。さて……」

 千歳の叔父は、世界の命運を握っているとは思えないような軽い口調で、彼にこう言った。

「この研究は君が進めてくれ。直接実地でね。私が行くと……何というか……どうしても……犯罪臭がしてしまうだろう?」

「確かにそうですね。では僕がその研究を引き継ぎます」
「ありがとう……って確かにそうですねって君……ちょっとは否定してくれよ……」

「ははは、まあそんな事よりも早く研究の詳細について教えて下さいよ」
「おっと、すまないね。まず研究施設だけれども――」

 千歳は犯罪臭がするという理由だけでそんな世界が滅びるような化け物の実地研究を中学生の千歳にさせる叔父に半ば呆れていた。

 でもそれと同時に、この研究を譲ってくれた叔父への感謝と、絶大なまでの好奇心が千歳の中に湯水のように湧き上がっていた。



 その数日後――街外れに存在するとある広い屋敷に千歳は足を踏み入れた。

「ここが……あの子の住んでいる屋敷……」
「吉祥千歳様ですね。お嬢様の所へご案内致します」

「うおっ、びっくりした! 君はここの使用人なのかい?」
「その通りでございます。私の名前は識英凍牙。以後お見知りおきを」
「ああ。よろしく」

(礼儀作法が子供の域を超えてるんだけど……凄いなこの子)

 科学者顔負けの頭脳を持つ子供がそんな凍牙に驚いた。凍牙からすればよほど千歳の方が凄いのだが。
 ともかく、千歳は凍牙に麗紗の部屋へと案内された。

「こちらがお嬢様のお部屋でございます」
「……ちょっと待ってくれ。部屋に入る前に一つ聞きたい。その……お嬢様とはどう接すればいいかな?」

 千歳は凍牙に一番重要な事を聞いた。
 もし挨拶に失敗してしまったら、研究に確実に支障が出る。

 だから、千歳は念には念を入れておきたいと考えた。
 そう問われた凍牙は少し考えてからこう返す。

「……お嬢様は至って普通の女の子です。ただはじめましてと挨拶をして話すだけでいいんです」
「……なるほど。普通の女の子ね。分かった、ありがとう」

「いえいえ何の事もありませんよ。それではお嬢様に……」
「ああ、よろしくね」

 凍牙は千歳の謝辞を受け取ってから麗紗の部屋のドアをノックする。
「お嬢様~新しい使用人の方が来ましたよ~」
「は~い。はいっていいわよ~」

 千歳は凍牙の言葉でそういえば表向きは使用人として屋敷に来るんだったなと思い出す。ドア越しにまだ幼く高い幼女の声が聞こえてきた。

「失礼しま~す……」
「どうぞ~」

 千歳はそう言って麗紗の部屋に入った。その中に居たのは桃色の髪の可愛らしい女の子だった。とても人類を滅亡させるような存在には見えない。

「は、初めまして……今日からここで働かせて頂く事になった吉祥千歳と申します」
「え~と、こちらこそはじめまして! さくらづきれいしゃです! よろしくねっ!」
「は、はい! よろしくお願いします……」

 千歳は若干たじろぎながらも麗紗と挨拶を交わした。
 そしてそれと同時に千歳は凍牙の言う通りこの子は普通の女の子だなと認識した。今の今までは。

「なかよくしてね、ちとせちゃん! わたし、あなたみたいなかわいいおんなのこのともだちになるのがゆめだったの~! きゃ~っ!」
「えっ……」

「ちょ、お嬢様! 千歳様は男性ですよ!」
「ええ~! おとこなの~? ぜったいうそだ~! だってちとせこんなにかわいいじゃん!」
「えっ……」

 千歳は麗紗の言う事に衝撃を受けていた。
 彼は女顔で体の線が細く髪も長かったので、この年になってもまだしょっちゅう女子に間違えられる事はあった。また男子なのに可愛いとよく言われる。

 だが、子供とはいえそもそも男だと信じられないのは初めてだった。

「お嬢様……その……」
「とーがのうそつき! ちとせはおんなのこだもん! ね!」
「えっと……その……」

「え、ちがうの? ……はあ……またわたしだけがまちがってたんだ。いいもん、わたしばかだから。どうっしようもないあたまおはなばたけなんだから。まちがっちゃってごめんなさい。いやだったよね? むしずがはしったよね? ごめんなさい、わたしだけまいあがっちゃって。もうほんといや! いや! いや!」

「お、お嬢様! おやめ下さい! 千歳様は怒っていませんよ! ほら!」
「ええ……」

 突然自分を責めながら近くのに置かれている人形の腕をめちゃくちゃに引きちぎる麗紗に困惑する千歳。どう止めたらいいのかさっぱり分からない中、千歳は一つだけこの状況を何とかする方法を思い付く。

(もうこれしかない……っ! でもこれをやったら男としての僕は……! いやもうやるしかないっ!)

 千歳はこの幼女を宥めたいという思いと男として生きたいという相反する思いに葛藤しつつも、覚悟を決める。
 そして、大きく深呼吸をして、言った。

「れ、麗紗ちゃん……わ、私……お、女の子だから……その……仲良く、しよ?」
「え!? ほんと!? わぁい! わたしまちがってなかった~! きゃ~っ! なかよくしようね! ちとせちゃん!」

「え、ええっ! よ、よろしくね……」
「(ごめんなさい千歳様……僕が至らないばっかりに……)」



「こうして、私が女の子に生まれ変わったってわけ」
「待って脳が追い付かない」

 私は千歳の話を聞きながら脳みそを破裂させていた。
 そんな理由で女の子になっちゃったのか……。

 ていうか麗紗ちゃん……小1でもう既にあんな感じだったんだな……語彙もやたら豊富だし……。

「あの後は大変だったわ~。凍牙が麗紗ちゃんに嘘ついてすみませんでしたって必死で謝って、私も頑張って女言葉使って……」

「千歳も凍牙も大変だったんだね……」
「それで女の子になってる内にだんだんこっちの方が本当の自分かなって……」
「うわあ……あの子小1で前途ある一人の天才少年の人生を狂わせちゃったよ……」

「客観的に見ればそうなのかもしれないわ……でもね琥珀ちゃん、私、今の自分をすごく気に入ってるの。色んな所ですっごく可愛いって言われるし。私は、そんな可愛い自分が好きで、今の私に変えてくれた麗紗ちゃんが大好きなの」

「そっか……」
 千歳は誇らしげにそう語った。
 その表情はとても清々しそうで、綺麗だった。
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