麗紗ちゃんは最狂メンヘラ

吉野かぼす

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第二章 もう絶対に離しませんからね、先輩!

漢野力也

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 漢野力也は元々、特色者と認定されておらず普通の人間として幼少期を過ごしていた。

「おらあっ!」
「ぐっ……こいつ強ええ……オレの負けだぜ力也……」

「さっすが力也! やっぱ強いなあ!」
「当たりめえだ! へへっ……!」

 決闘が大好きで、喧嘩が異様に強いという事以外は。彼は幼稚園生の頃から両親がいくら止めても決闘をし続け、次々と強い相手に挑みかかっていた。

 ガキ大将はなんのその、ヤンキーに暴走族、果てはヤクザや警察官まで。

 勝つ事もそれなりにあったが、当然相手が強すぎて負ける事もあった。

 相手に体中ズタボロにされた事もある。
 それでも漢野は決闘を止めなかった。

 敗北した時の彼の中にあるのは“次は必ず勝つ!”という気持ちのみであった。

 そんな漢野はある時、とうとう特色者にまで挑みかかってしまった。

「いくら何でもムチャだって力也! やめなよ!」
「心配すんなって。俺は絶対に勝つ! 逆にコイツに勝てないんじゃ俺の強さの意味がねえ!」

「へっ、一般人のお前が特色者のオレ様に敵う訳ねーだろ」
「おーおー、言うじゃねえか! ならやってみな!」
「力也ーーーっ!」

 漢野はそう言ってその特色者に挑みかかった。
 結果は火を見るよりも明らかだった。

「がはぁっ!!」
「ほらみろ! おれの勝ちだぁ! ていうか当然の結果だぁ!」

 漢野は特色者の能力に成すすべもなく床に倒れた。
 だが……。

「へっ……まだ勝負は終わってねえ! 俺の本気はここからだ!」
「なんだぁ~? しぶとい野郎だなぁ~?」

 漢野には計り知れない程の根性があった。
 痣と骨折だらけの身体を起こし、拳を構える漢野。

 そんな漢野の闘争心に呼応するかのように、彼の筋肉が盛り上がり、服を破裂させた。

「えっ!?」
 漢野は突然の出来事にポカンと口を開けた。
 特色者は驚いて目を剥き、言った。

「な、何ぃ!? お前は特色者でも何でもない筈じゃ……!」
「いや俺にも分かんねえけどよ……とりあえず行くぜ!」
「ひ、ひいっ!?」

 そうして彼は“一般人”と“特色者”の壁を乗り越えて勝利を掴んだ。

 漢野の根性が、彼の奥深くに眠る彼自身も気付いていなかった才能を目覚めさせたのだ。

 漢野はこの戦いを経てまた勢いを付け、後に二人の弟分まで作ってしまうのであった。

 その勢いは少しも止まらなかった。
 本物の化け物に出会ったとしても。



「……一体何があったんですか!? 兄貴ィ!」
「あ、兄貴がここまで落ち込むなんて……」
「ううっ……それがな……」

 漢野が麗紗にあしらわれたあの日。
 さすがの彼も麗紗の凄まじい力に落ち込み部屋の隅で蹲っていた。

 彼は舎弟二人に麗紗の事をぽつりぽつりと話した。
 その内容を聞いた二人は唖然として言う。

「……そんな……兄貴がそんなあっさり負けるなんて……」
「あの金髪の女とも格が違いすぎる……」

「……まあ、気を付けな。そんじゃちょっと行ってくるわ」
「え? 今からどこに行くんですか? もう夜ですよ?」

 突然そう言って立ち上がる漢野を、舎弟はきょとんとした顔をしながら引き留める。
 漢野は舎弟二人にニヤリと笑って言った。

「お前らのおかげで思い出したぜ。俺に勝った奴が今日二人も居るってな! だったら、落ち込んでる場合じゃねえ! 今すぐ鍛え直さねえとな!」

「兄貴……! なら俺たちも付いていっていいですか!」
「俺たちも……鍛えたいです!」

「おうもちろんだ! ビシバシ行くぜっ!」
「「はいっ!」」

 そう決めた三人はすぐさま家を飛び出した。
 その日河原で、月明りの下夜通し鍛錬に励む三人の漢の影が見えたという……。



「百回以上巻き戻してこれが最善手か……クソ……」
 天衣は折れた右腕を抑えながらそう呟いた。
 床には力尽きた漢野が横たわっている。

「この男は本当に何者なんだ……! 今後要注意人物として徹底的にマークせねば……」

 何度、何回、どう避けてもどう足掻いても最凶の一撃を入れてくる漢野に、天衣はもはや骨の一本や二本は犠牲にする覚悟しなければならないと考えた。

 最初は左腕を犠牲にしようと考えていた天衣だったが、それでは漢野の攻撃を抑えきれなかった為、やむを得ず利き腕の右腕を犠牲とした。

 彼にとって唯一の救いは、漢野はあの一撃を入れた後力尽きて倒れてしまい、その後はもう起き上がらないという事だった。

「それが無ければ……奴を倒すのは絶望的だっただろう……こんな危険が私の身に降りかかるとはな……最悪だ……」

 天衣は自分と漢野を引き合わせた神を呪った。
 その時だった。

「……もう少し優秀な部下を揃えておくべきなんじゃないか?」
「何っ!?」

 天衣の耳に、突然聞き覚えのある声が聞こえて来たのは。

 驚いて背後を振り向くと、そこには凍牙が怒りを露わにした表情で立っていた。

「お、お前が何故ここに……吉良君はどうした!?」
「倒した。それだけだ」
「何だと……」

「そんな事はどうでもいい……よくも琥珀さんの仲間をここまで酷い目に遭わせてくれたな……私はお前を絶対に許さない! “フリーズバレット”ッ!」

 凍牙はそう言い放って氷弾を撃った。

「おっと、それは筋違いというものだ凍牙。彼は私の右腕を折った。だから仕方なく倒しただけなんだよ」

 天衣は凍牙をなだめるように言い迫り来る氷弾を
 ――全て手でキャッチした。

「なっ!?」
「一度やってみたかったんだ。息子とキャッチボール♪」
「……ふざけるなぁ!」

 凍牙は湯水のように沸き立つ怒りを抑えながら、透明な氷壁を展開する。
 そして天衣に向けて氷弾の弾幕を放った。

「ほほう……」
「あああああああああああああ!!!」

 無数の氷弾が天衣に牙を剥き、着弾して白い爆発を引き起こした。

「これでどうだ……」

 凍牙は煙の中の天衣の様子を見ようとする。
 しかし、突然煙が消えた為その必要は無くなった。

 そこに立っていたのは、塵一つ付いていない天衣だった。

 突きを放って氷を全て粉砕したのだ。
 煙も突きの余波で吹き飛んでしまった。

「嘘だ……そんな……全力で撃った筈なのに……!」
「はっはっは。もっと変化球を混ぜないといかんよ凍牙」
「黙れぇっ!!」

 凍牙は自分の攻撃がまるで通じていない天衣に動揺しつつも靴に氷の刃を出現させ、凍らせておいた地面を凄まじい速さで滑り出した。

「あああああああああああああああああ!!!」
「スケートのやり方は知らないんだ。別の遊びにしてくれないか?」
「がああっ!?」

 凍牙は天衣の前蹴りによって吹き飛ばされた。
 彼の能力で出せるトップスピードの技であるそれを。

 天衣はいとも簡単に追い付き、破ってしまった。

「羽田君の話が本当なら……もう君の切り札は無い筈だ。王手飛車取り、という所かな。遊びは終わりだよ」
「はあっ……はあっ……」

 そう諭すように言う天衣。
 手札を完全に出し尽くした状態。

 だがそれでも凍牙は立ち上がる。
 天衣はそれを見て呆れたような顔をして言った。

「ふん……お前も大概諦めが悪いな……床のコレはその所為でこうなったんだぞ……まあそれは置いておいて……ずっと気になっていたんだが、その眼帯は何なんだ? 怪我でもしたのかね?」

「……これは……私の傷だ。それと同時に、貴様への本当の切り札でもある……」
「何だと……?」

 凍牙はおもむろに顔の眼帯へと手を伸ばす。

「この眼帯に隠された目には、私の“別人格”が眠っている。貴様に捨てられた時、堅く閉ざされた人格……そして、貴様が最も嫌いな、不安定なモノだ」

「……それがどうして私への切り札になるのかな? え?」
「見れば分かる」

 凍牙はそう言って眼帯を取った。
 すると、水色に輝く瞳が露わになる。
 凍牙は頭を抱えて叫び声を上げた。

「う、う、うああああああああああああああああっ!!!」
「な、何だ!?」
 その次の瞬間、辺り一帯の空気が揺れ、周囲の気温が真冬のように冷たくなり、鳥が一斉に羽ばたいた。

 凍牙のコック帽が外れ、水色の髪の毛が逆立つ。

「ああああああ――イヤッハアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「な……」

 天衣はけたたましい猛獣の叫びにただただ絶句した。元々凍牙だった“それ”は、同じ顔であるはずなのに誰がどう見てもまるで別人であった。

 “それ”はニタニタと笑いながら周囲を見回してブツブツと呟いた。

「やっと出てこられたぜ……開けんのが遅えんだよ凍牙の野郎……さて、解放されて最初に見るのがクソオヤジの顔とはついてねーけどよ……クソ塗れの便所とどっちがマシだろうなぁ? ヒヒヒ……」
「だ、誰なんだお前は!?」

 天衣の問いかけに対し、“それ”はこう答えた。

「オレか? オレは……“識英峠しきえいとうげ”だ。あと言っておくぜ。一回しか言わないからよく聞けよ? このオレ様に出遭っちまったお前は……今夜が峠だろうなぁ! ヒャハハハハハハハハハハハッ!!!」

 “それ”改め“識英峠”はそう言い放って天衣に中指を突き立てた。






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